第三十二話 鎖縛の姫と白き帝ー9
お待たせしました。
各員の事を書くので少しずつ情報を公開していこうと、設定資料を見たらディフィとクレアの設定資料が見当たらず、再構築…。お陰様で4000文字に3日も…。
☆ sideーout
第三者から見てディフィニションという男はどう映るか。
答えは簡単、変な人である。
人間の筋肉は大小含めて600を超える筋肉から形成されているが、ディフィはその全てに名前を付けている。
上耳介筋の『徒花ノ命』のように和名もあれば、胸腸肋筋の『スペス』のような羅名まで名前の種類は多岐に渡る。
控えめに言って変な人である。
そんなディフィの職業は『狂戦士』。文字通り、ステータスを削り、MPを削り、HPを削って自らを強化する。
力こそ正義と言わんばかりにバフの全てがSTRへの強力なバフ。
ステータスもSTR極振り。装備も他のステータスを犠牲にSTRを一点強化。
ひたすらに筋力だけを敷き詰めた数をねじ伏せる個を極めたスタイル。
「フッ…!!知性な拳」
正面から突撃をしてくるサクスタイガーに対してディフィはそれに対して正面から拳を撃ち込む。
ボキッ!グチャッ…ダンッ!!
サクスタイガーの顔面に突き刺さった拳はサクスタイガーの顔を歪め、頭蓋を砕く。
だが、ディフィの拳は止まらない。そこで既に瀕死のサクスタイガーをそこまま地面に叩きつける。
液体が弾けるような音と共に、一拍置いて地面に小さなクレーターが出来る。
ただの拳。だが、ディフィにとって拳が、己の肉体こそが最強の武器。
「物足りませんね」
血で汚れた拳をポケットから取り出したハンカチで拭い、クイッと掛けていないメガネをかけ直すディフィ。
(見た目だけなら)クールなディフィ。冷徹な仕事人というイメージが他のプレイヤーには強く、その力と相まってディフィは『ジェノサイド』の中でオーカに続いて二番目の人気を誇る。
どんな剣士も、魔法使いも、強靭なタンクも、奇策も、絡め手も正面から力のみで叩き潰す。そのやり方に多くのプレイヤーが魅了されている。
「さて、獣畜生の知性はいかほどですかね」
ディフィは数百メートル離れてるにも関わらず、肌にビリビリと感じるほどの《白帝》の威圧感にディフィは頬を緩める。
ディフィの《IPO》における目的は体一つでどこまで人は戦えるのか。銃、戦車、戦闘機、ドラゴン、そして《白帝》。
ディフィは見てみたいのだ。人とはどれほどに可能性を秘めているのかを。
未だかつて無い強敵にディフィは心を踊らせる。
☆
「ふんっ!」
左右から挟み込むように連携を取ってバルクに襲いかかるサクスタイガー。
バルクはそれをものともせず、人の顔よりも大きな手でサクスタイガーの顔を掴むと、2体のサクスタイガーの顔同士をぶつける。
『『ぎゃうんっ!』』
バルクによって顔同士をぶつけられたサクスタイガーは情けない声を出して、その身をよじる。だが、首から上が一切動かない。
バルクはサクスタイガーのHPが半分ほどになっているのを確認すると、そのまま2体のサクスタイガーを地面に叩き付ける。
バルクと言えばまず目につくのはその大きな巨体だろう。
どこかのアメコミヒーローを彷彿とさせる人離れした巨体は優に2メートルを越え、隆起した筋肉は見るものに威圧感を与える。
バルクは掲示板などではディフィと共に名前が出ることが多く、『筋肉1号』、『筋肉2号』などと呼ばれて親しまれている。
『ジェノサイド』の中でも一番の年上で、人生経験も濃く、人当たりもそれなりにいい。身内内でも頼りにされている存在だ。
バルクは、『ジェノサイド』の中では割と常識人だ。
だが、ただ一点、欠点をあげるとするなら手加減が出来ないほど不器用ということだ。
「むっ…」
バルクは自分の傷だらけの腕を見て眉をひそめる。
バルクは現実世界でも生まれつき見た目以上に力が強かった。
小学校の頃は小さな喧嘩で力加減がまともに出来ず、相手に大怪我を負わせたこともあった。歳を重ねる度に多少の制御は出来ても、その分、鍛えてもいないのに力が増していく。
そしてその結果、バルクはまともに運動が出来ず、勉学へと逃げた形になった。結果、世界的にも一流の大学を卒業し、現在は誰しもが名前を聞いたことのある大手企業の社長になったのだから結果的に見れば成功はしている。
だが、バルクの力加減の問題は解決していなかった。先日も、気を抜いて社内のスイッチを一つダメにしてしまったばっかりだった。
そんなバルクが《IPO》を初め、思い切り力を振るった時、キャラクターを動かしているのはバルクの脳だ。
当然、適切な力加減を知らない。モンスターや対人戦において力加減のいらない攻撃は効果的だった。だが、問題もあった。
通常、人は自分の肉体の限界を考えて動きに制限をかけている。
バルクは力加減を極端に知らない。その制限を超えて力を振るってしまう。
結果、限りなく現実世界に近い《IPO》で制限を超えた力を振るうバルクの攻撃は、バルク自身の体を傷つけた。
自損攻撃とでも言うべきか、バルクは攻撃をする度に自らのHPを削っていく。
前線を維持し、仲間を守る盾役としては欠陥品とも言える。
だが、ここはゲーム。それを活かす方法はいくらでもあった。
バルクの職業は『忠騎士』。忠誠を捧げ、自らの命を顧みず、主君の為に最後の一瞬まで戦い続ける。
つまり、この職業は自分のHPを削る度に自身を強化する。それがこの『忠騎士』の特徴だ。
当然、この職業はHP管理がシビアだ。だがバルクは、持ち前の頭の回転の速さと、人生の中で培った情報処理能力で完璧に管理をこなしていた。
現実世界では障害も多く、一時期は周囲に怯えられながら孤独な生活をしていたバルク。
だが、ゲームの世界だけは持ち前の不利益を、個性の1つとして利益に変えることが出来る。
その事実はバルクにとって大きなものだった。
だからこそバルクはゲームを始めたばかりのオーキにゲームの良さを知ってもらいたかった。それがどんなベクトルでもいい。楽しいという感情を抱いて欲しかった。
「《白帝》を倒し、少女を救う英雄に…。それはとても、楽しいだろうな」
そう言ってバルクは静かに笑みを浮かべる。
☆
「……これ、私いる…?」
クレアは仲間たちの戦いを遠目から見ていた。
《白帝》の鼻先をチョロチョロと動き回って注意を引く全蔵とママ。
迫り来る尻尾を見事な連携で捌き、着実にダメージを蓄積させるオーキとオーカ。
現れた11体のサクスタイガーに対して圧倒的な力を見せるマーサ、ディフィ、バルク。
現状、自分が入る込む必要性を感じられない戦場に、クレアの小さな呟きが掻き消される。
「エーちゃんはどう思う?」
クレアは真横で控える《歩行型イソギンチャク》の『走れエロス』こと通称、エーちゃんに問いかける。
エーちゃんはうねうねと触手を動かして、何十本という触手で『ガンバロウ』と文字を作り上げる。実はこのイソギンチャク、会話が可能。
クレアの職業は『調教師』。なんともクレアらしい職業だ。
その特徴はモンスターを使役して戦う。それだけだ。
クレアは現在、ピンクスライムの『ピンキー』、歩行型イソギンチャクの『走れエロス』、アイアン・メイデンに取り付いた付喪神の『つくちゃん』の3体だ。
「こっち来ちゃったな……じゃあ、エーちゃん…お願い」
自分に向かって駆けるサクスタイガーに、クレアは気だるそうにエーちゃんに指示を出す。
エーちゃんは迫るくるサクスタイガーを触手で絡めとると、触手を介してHPを吸い取っていく。
「ナイス触手」
『アタリマエダゼ、ゴシュジン』
親指を立ててエーちゃんにバッチグーを送るクレアり
それに対して少し照れくさそうに、そして見事に句点まで触手で表現するエーちゃん。
以前から見た目が卑猥とミサキに目の敵にされていたエーちゃんだが、ミサキの作るバイクを見て『イカスジャネェカ』と呟いた(?)ところ、ミサキの態度が軟化。
クラマス公認もあり、クレアの指示なく商会を闊歩するエーちゃんの姿が度々見ることが出来る。
先日もクランメンバーの一人から恋愛相談を受けたエーちゃん。『キメロテミセロヨ、オトコダロ』と背中を押されていた姿が確認されたとかなんとか。
「みんなすぐ突っ込むから駄目。一番美味しいのは最後…熟れた時…って熟女好きが言ってた」
『ゴシュジンハクサッテルケドナ』
「熟女もいけるけど…私的には散り際が一番おいしそうだと思うの…」
口元に小さな笑みを浮かべるクレア。
少し乾いた唇を真っ赤な小さな舌でチロリと舐める。
クレアはただの性癖が歪んだ女の子ではない。クレアもまた、『ジェノサイド』の一員。
根っからの戦闘狂いだ。
後々、オーキも知るだろう。
オーカはPvP。
全蔵はDPS。
ヲタキングは支援。
マーサは殲滅力。
ディフィはPvE。
バルクはタフネス。
そしてその全員が口を揃えて一番相手をしたくない相手、それこそがクレア。
厄介さで彼女の右に出るプレイヤーは誰もいない。
クレアが『ジェノサイド』において一番ヤバいと表現されてるのは、 ただ性癖が歪んでいるだけではない。
八割くらいはそれが所以だが、その厄介な戦闘スタイルこそ彼女の真骨頂である。




