第三十一話 鎖縛の姫と白き帝ー8
気に入らなくて何度か書き直しをしていました。すみません。
☆ sideーオーキペンデレエーク
「うぇ!?エミリアさん!!?」
《白帝》の脳天に開幕の一撃をお見舞いした俺は落下する中、運営から届いたインフォメーションに目を疑っていた。
《全プレイヤーに通告:ゲーム内時間で第七神歴760年8月15日17:59:58に《暴食の罪》のスキルの発動を確認致しました。スキル所有者は以下のプレイヤーです。
▽
オーキ=ペンデレエーク》
「今それどころじゃないんだけどぉぉぉ!!?」
追加で届いたインフォメーションよりも、今はエミリアさんだ。
頭の中は何で?いつの間に?とクエスチョンマークでいっぱいだ。
「オーキ兄、後で事情聞かせてもらうからね!」
落下する俺を拾うために、人離れしたステータスによる跳躍で俺の元へ駆けつけたオーカ。俺の軍服の首根っこを掴み、《白帝》とのすれ違いざまに片手に持った大鎌で足に一撃加える。
「俺のせいなの!?いや、俺も事情飲み込めてないんだけど!」
「開始一秒で予定外の事が起きるとは私も思ってなかったけど、これはいい方の予想外。お陰でフルスロットで戦えるよ!」
「うべっ…!」
「あ、ごめん」
くるぶしにも届かない雑草が生え揃う地面へ着地したオーカ。
対して俺は着地したオーカとは違い、首根っこを掴まれた状態。オーカの着地と共に地面に叩きつけられる。
『お二人共!ヘイト集まってるでござるから!!早く離れて!逃げて!ノーダメなのに回復薬ガン飲みでござるよぉぉぉぉ!!!』
グループ通話で全蔵の焦った声が聞こえる。
まさかエミリアさんが…とは思うが、そこら辺の予想外を考えるのはオーカやヲタキングに任せよう。俺のやることは変わらない。
今はエミリアさんのことは放置しよう。
『オーキさん、オーカちゃん!予定通り後方へ回って尻尾への攻撃を開始してください!』
全蔵に続いてグループ通話からヲタキングの指示が飛んでくる。
事が事なので何時ものロールプレイは封印中だ。
「オーカ!」
「うん!」
俺とオーカは今、《白帝》の足元にいる。少しでも《白帝》がたたらを踏めば、俺たち二人はまとめてHP全損だ。
一度距離を取るために大きく旋回しながら、《白帝》の後方へと走っていく。
『予備動作確認。雄叫び来ます。全員、遅効性の対麻痺使用』
ヲタキングからの報告が入り、俺とオーカは走りながら《白帝》へと視線だけを送る。
《白帝》の三つ首が上を向く。車一つ飲み込んでしまいそうな程大きな口を開き、息を吸い込んでいく。
それと同時にアイテムボックスの中から使用してから30秒後に麻痺を解除する状態回復薬を取り出して口に含む。
ゴォォォォォォォ!!!
ただ息を深く吸うだけで耳を防ぎたくなるような大きな音が耳に届く。
あれは、俺達が息を吸うのは違う。もはや息を吸うというよりも、周囲の空気を食らっていると言った方が正しい。
『来ます。3、2、1…』
『『『グォォォォォォォォオオオ!!!』』』
三つ首から放たれた咆哮。
空気がビリビリと震え、全方位から圧迫されるような衝撃が体を襲う。
体が動かない…これが硬直か…。
自分のステータスに視線を向けると状態異常を知らせる項目に《硬直ー0:0:01》が出たり、消えたりを繰り返している。
雄叫びが続く限り判定が続く強制硬直は厄介だな…。
そして俺の体内時計で12秒。《白帝》の雄叫びが終わる。
『ヲタキングさんが麻痺に入ったので私が変わります~。無事なのはオーカさん、ママさん、バルクさん、クレアさんです。作戦に変更はありません~』
雄叫びが終わったのにも関わらず、俺の体は動かない。先程までのビリビリとした圧迫されるものではなく、ピリピリとした全身が痺れた感覚が全身を伝う。
《麻痺ー0:04:30》
状態異常表示されたのは麻痺。雄叫びを受けたプレイヤーが確率で受けると思われる状態異常。
その長さから初見で雄叫びを受ければ対処が難しいとしか言えない。
だが、それを見越して全員が遅効性の対麻痺薬を飲んでいる。
『麻痺が解除され次第、引き続き作戦に移ってください~。あと三十秒ほどで《サクスタイガー》が召喚されると思うのでバルクさん達は待機をお願いします~』
花宮さんの報告後。体の自由が戻る。
「オーキ兄!」
「違和感はあるけど、問題無い!」
俺の回復を待っていたオーカに無事を伝え、再び《白帝》の後方へと向かう。
「やっぱり見られてるな」
「見逃されてる…ってわけじゃなさそうだね」
今、《白帝》を引き付けているのは全蔵とマーちゃんの2人。
最初の一撃も含めて俺に少なからずヘイトは残っている。はず!ゲーム初心者なのでそこら辺はよく分からないが、一度思い切りぶん殴られた相手は現実世界でもそうそう忘れないだろう。
オーカが一度、走りながら振り返るので俺も合わせて振り返ると、《白帝》の一番端の目がこちらをじっと見つめている。
取り敢えず手を振っておこう。防犯カメラを見ると手を振りたくなるのと一緒だ。
「オーキ兄、前方。尻尾が2本、こっちに伸びてきてる」
既に俺とオーカは《白帝》と距離は少しあるものの、あの巨体の後ろ足部分までは周り込めている。
当然、ここまで来ると長い10本の尻尾の範囲内であり、攻撃をしかけられる。
だが、それでいい。オーカ曰く、この手のボスは終盤になればなるほど強くなる。ならば尻尾を先に潰して終盤に備えて死角を作っておく。本体を直接殴るダメージに比べたら微々たるものだが、後々の布石になるだろう。
「オーキ兄、私が弾くから追撃よろしく!」
「違うッ!伏せろ!!」
まるで個別に脳が備え付けているのではと思えるほど正確に俺とオーカを狙って大人3人ほどの横幅分程の太い尻尾が振るわれる。
大きな弧を描いて迫る尻尾。オーカが一度こちらを向いて次の動きを俺に伝えるが、視覚で捉えているよりも尻尾の動きが早い。
俺はオーカの小さな体を押し倒すように、オーカの頭を抑えてタックルをぶつける。
「ちょっ…」
戸惑うオーカだが、すぐ様頭上をグオンッという鈍い音が2回、通り過ぎていったことで直ぐに状況を飲み込む。
『ディフィです。想像以上に尻尾の密度が高く、見た目以上に重量があるで加速が早いのと、ゴムのような伸縮性があるので攻撃が伸びてきていました。尻尾というよりも、鞭をイメージしてください』
俺とオーカが体勢を建て直していると、待機中のディフィから通信が入る。
「オーキ兄、ありがとう。よく分かったね」
「ほぼ直感的インテリジェンスだな」
「思考したら直感じゃないよ…」
軽口を叩きながら次の動きへ移す俺とオーカ。
戦闘が始まってからまだ五分も経っていない。
先はまだまだ長そうだ…。
☆ sideーout
『バルクさん。来ます』
戦闘開始から四分が過ぎた頃、《白帝》に新たな動きがあった。
それをいち早く察知してバルク達待機組に伝えるのは後方支援であり、総指揮官であるヲタキング。
「了解」
「ようやく出番ですか」
「と言っても、私の魔法で一網打尽ですけどね~」
「…過剰戦力。私見てていい?」
それぞれがやる気を見せている(?)中、《白帝》の周りに小さな青白い光が高速で飛び回る。
『前回と同じモーションです。従間召喚まで5、4、3、2、1…』
ヲタキングのカウントダウンに合わせてバルク達は自身にバフを掛け、備える。
そして、《白帝》の周りに11体の《サクスタイガー》が呼び出される。
「行きます!」
一番最初に動いたのはマーサ。軍服の背面に開いた穴から飛び出したトンボのような透けた羽根を動かし、誰よりも早く目標に向かって飛び出す。
そして同時にタメが始まる。魔法攻撃はオーキや全蔵が使う近接攻撃のスキルと違い、タメが長い。威力や射程、対象人数によってピンキリではあるが、マーサは超広範囲高火力を好む。当然、威力が上がる攻撃はタメが長い。
今、マーサが発動しようとしている魔法は自分を中心に広範囲に細い雷を飛ばす『サンダー』。
狙いが難しいことを除けば高速の雷は一定のAGIが無いと避けられない為、多くの魔法職に好まれる。
だが、ここで思い出して欲しいのは『ジェノサイド』は支援職のヲタキングを除いた全員が前衛であること。
通常、タメが短く、射程が短い魔法を使う『魔法戦士』や『奇術師』、『魔工技師』などを除いた魔法職は後衛職に分類される。
その例に漏れず、マーサの職業は『魔精術師』と呼ばれるステータスのMP以外にもう1つMPの供給路を持つ妖精族限定の職業。
大規模な魔法を連発することで他の職業よりも圧倒的な制圧力を誇る後衛職だ。
「まずは2体…頂きます!!」
後衛職にも関わらず、前衛で戦う。普通ならば様々な弊害により、多くの人が挫折する。
もしくは、トッププレイヤーと呼ばれる層の手前で限界を迎える。
しかし、マーサは違う。小柄な体躯で縦横無尽に相手の死角へ常に移動し、張り付き、至近距離から魔法を撃ち込む。
それを可能にするのは妖精族という30センチにも満たない体を持っていることと、通常、人には生えていない羽根を使いこなすことの出来るマーサのPSが故だろう。
これがいかに厄介か。
PvPではその小ささから大柄な種族や獲物を選んだ時点で詰み。数十秒の間、マーサを捉えられなかった時点で即死級の魔法が広範囲によって広がるので回避は不可。
闘技大会などの複数vs複数でも下手にマーサを狙えば味方撃ちの危険も存在する。
PvEでも同じだ。敵の死角に潜り込み、複数戦では同士撃ちを誘発。無視をしようものなら死角から毛を毟られるオプション付きだ。
そもそも、闘技大会、レイドボスとの連戦、多くのプレイヤーから尊敬され、トッププレイヤーから疎まれる、PSがずば抜けて高いプレイヤーだけを集めた集団。そんなジェノサイドの1人であるマーサが弱いはずもないのだが…。
「お次は……あの子ですね」
焼き焦げたサクスタイガーの上でくるりと旋回し、ポリゴン化が始まるのを確認すると、マーサは次の獲物へと向かって飛んで行く。
「うふふ…」
清楚な微笑みは普段見れば白く、純粋無垢に見えるが、戦場では黒く塗りつぶされる。
敵の死への恐怖を煽り、その笑みを死ぬ度に思い出すプレイヤーは多い。
そのギャップから妖精の可愛さと戦場の黒い笑みから《黒妖精》と呼ばれるマーサ。
リアルでは理想が高くていい人が見つからない性格が少し黒いOLである。
これから深く触れられていなかったジェノサイドの仲間達について触れていきます。




