第二話 野球に人生を捧げた高校生のデジタル能力はおじいちゃんと変わらない
『さく兄、ゲームしよ!(^o^)/』
スマホのディスプレイに映し出されたメッセージの上の送り主の名前は『桜華携帯』。
実家にいるはずの一つ下の妹からだった。
桜樹が最初に抱いた感想は「なんで?」という疑問。
野球一筋で生きてきた桜樹と、五歳から子役として活動し、現在は有名雑誌の専属モデルをしている桜華の接点は驚く程無い。
兄妹仲が良いわけでも悪いわけでも無く、食卓を囲む時に軽く話す程度。
オフシーズン以外忙しい父と、大学の名誉教授の母、そして子役だった桜華と、普段全員が揃うことも珍しく、その話す機会も本当にある程度といったところ。
それに加えて桜樹はリトル時代にスカウトされた大阪の明日ヶ丘の野球部専用の寮に入寮。
現在は野球部を辞め、同じく地方から出てきた一人暮らしの友人のマンションの一室を間借りしている状況。
大阪に来てから野球漬けの日々を送り、スマホどころか、実家に帰省すらしてなかった桜樹にとって桜華とは一年半以上連絡をとっていない相手だった。
ディスプレイに映し出されたスマホの連絡帳に登録してある名前のままSNSに反映されているのがその確固たる証拠だろう。
「取り敢えず返信…」
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桜華携帯:さく兄、ゲームしよ!(^o^)/
☆桜樹☆:ゲーム?
桜華携帯:そそ、三ヶ月くらい前に発売された《 InfinityPioneer Online 》って知らない?
☆桜樹☆:いや、知らない。
桜華携帯:あちゃー(><)
桜華携帯:今話題のVRMMOSーRPGなんだけど
桜華携帯:(画像)←これこれ。凄くない?
☆桜樹☆:VRmmO…?なんだそれ
桜華携帯:バーチャル・リアリティ・マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・シミュレーション・ロール・プレイング・ゲームの略称だね
☆桜樹☆:良く分からない事が良くわかった。
桜華携帯:さく兄ってこれまでRPGとかやったことある?主人公育てながら冒険する感じの
☆桜樹☆:ドラ〇エ
桜華携帯:シリーズは?
☆桜樹☆:天〇の花嫁。ゲマとかいうのが倒せなくて途中で辞めたけど。
桜華携帯:負けイベェ…!!
桜華携帯:それはいいとしてさ、さく兄も私と一緒に《IPO》やろうよ
☆桜樹☆:IPOってなに?
桜華携帯:《インフィニティ・パイオニア・オンライン》!!!略して《IPO》!!!
☆桜樹☆:なるほどな。
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「悪いけど、気分じゃない…っと」
字面からは判断出来ないが、今の桜樹は虚無感に全身を支配されていた。
お盆に入って週一の通院を言い渡された事で病院から解放された桜樹。
現実逃避の為に没頭していた夏季休暇の課題も終わり、ここ数日は何をしようにもどうしてもやる気が起きず、せっかくの桜華からの誘いもどうしても乗り気がしなかった。
桜樹が送信ボタンを押そうとした一瞬、桜樹の指が止まる。
(何か没頭できる物があれば忘れられるかな…)
ふと、桜樹の頭にそんな考えが過ぎる。
桜樹は予測変換の欄を書き換え、送信する。
ーーーーー
☆桜樹☆:分かった。やるよ。
桜華携帯:まじ、る?
☆桜樹☆:何か必要なものはある?
桜華携帯:あー、あの、それ、ほら。あれが、その、そこで、あれが、あそこの
☆桜樹☆:一回落ち着け。
桜華携帯:ごめん。まさかオーケー貰えると思わなくて取り乱しちゃった
桜華携帯:ネット環境は今時無いところは無いからぁ…まあ、諸々こっちで用意するよ。今日の午後にはそっちに送るから
☆桜樹☆:いいのか?その方が助かるけど。
桜華携帯:あ、その代わりアバターの名前は私が決めるからね!
☆桜樹☆:何かあるのか?
桜華携帯:内緒ー(^x^)
桜華携帯:取り敢えず、これ読んで待ってて。基本的なこと全部書いてあるから。あ、あと住所教えて
桜華携帯:https://───────
☆桜樹☆:住所は母さんが知ってる。
☆桜樹☆:了解。
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「取り敢えず読んでみるか…」
桜樹は桜華から送られたリンクを踏み、《IPO》の公式サイトへと飛ぶ。
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────開拓者よ無限の可能性を切り開け。
《 Infinity Pioneer Online 》
>>>概要
人工AIによって管理される最先端フルダイブ技術を使ったVRMMOSーRPG。
空と地面があり、昼と夜があり、生と死がある。
リアリティを追求した技術。
ノンリアリティな刺激的な体験。
何をするのもプレイヤー次第。
我々はもう一つの世界を提供します。
>>>ストーリー
愚かな人類は一つな歯車を回した。
動き出した歯車は連鎖し、終焉へと向かう。
かつて『第七神祖計画』により、世界は終焉を迎えた。
そしてまた新たな『神祖計画』が動き出す。
神の血を引く者よ。その可能性を持って未来を切り開け。
全ての鍵は《アヴァロン》へと眠る。
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「駄目だ。全く分からない」
あまりに簡潔で説明不足な公式サイトのゲーム紹介に桜樹は五分も経たずに思考を投げ出す。
他にも職業紹介、スキル紹介、インフィニティブラッド、公式SNS、色々と下に纏められていたが、いささか桜樹には専門的な用語が多すぎて一目見るだけで終わってしまう。
「そもそもバーチャルってなんだよ…」
二三桜樹。
人生を野球に捧げた横文字にめっぽう弱い高校二年生。
《後書きのコーナー》
桜樹「桜樹です」
桜華「おーかでーす!」
桜樹「ゲーム主体の話なのにまだゲームしてないな」
桜華「ちなみに私は桜樹の一個下で高校一年生で、地元愛知県の芸能関係のお仕事おっけーの高校に通ってまーす」
桜樹「明日ヶ丘はそこまで偏差値の高くない私立だけど、部活動が盛んで色んな部活がインターハイに出てます」
桜華「特に野球が強いんだよね」
桜樹「まだ学園が出来て五年くらいだけど、全国から優秀な選手をスカウトしてるね」
桜華「ということで、今日の後書きはここまで!もし感想欄に質問とかあったら答えたいと思いますよー!」