第二十八話 鎖縛の姫と白き帝ー5
ここから視点が変わるのでsideを追加しました。
三人称の時はsideーoutと表記します。
☆ sideーオーキ=ペンデレエーク
「はぁ…はぁ……」
「オーキ兄、反応遅い!もっと詰めて!」
「おうっ!」
作戦会議と情報交換を終え、現在、俺達は裏庭でオーカの呼んだトッププレイヤー相手に作戦と連携の確認を行っている。
「オーキ、対戦相手は人ですが、今回の相手は大型のモンスターです。コンパクトに考えず、大振りを使っていきましょう。ダメージを少しでも稼ぐことが優先です」
「分かった、気をつける!」
「オーカ殿、オーキ殿との距離が近いでござる!もっと距離を取って置かないと未確認の攻撃を受けた際に二落ちはフォローが間に合わないでござる!」
「ごめん!」
「オーキ氏、手が空いたら全蔵氏かママ氏にポーション!それじゃヘイトがオーキ氏に集まってしまいますぞ!」
「すまん!」
既に確認を初めて三時間程。頭をフル回転させてひたすら攻撃を続ける。
「五分休憩!状況整理しよう」
「オーキ殿、相手の癖を先読みするのはいいでござるが、今は必要無い故、もっと抽象的に相手を見るべきでござるな」
「そうだな。気をつける。あと俺からも、マーちゃん、俺を心配してくれるのは有難いんだが、こちらへ視線を送りすぎだ。何かのコンタクトと勘違いしそう」
「すみません…格好良すぎて…」
「お、おう…」
「バルクさん、もう少しヘイトを落として頂いて構いませんよ。そのペースじゃ、本番HPが持ちません」
「ああ、そうする」
「クレアちゃんはもっとMPを使ってもいいと思う。自動回復を含めてもまだ余裕があるから」
「逆に全蔵は使いすぎですね。DPSも大事ですが、AGIバフのせいでいつもよりMPの消費が早いことを頭に入れてください」
「分かったでござる」
それぞれがアイテムボックスから飲み物と携帯食を取り出してそれを無理矢理胃の中に流し込みながら互いの悪い所を指摘し合う。
「あ、多忙よ。実際に外から相手して何か気づいたことある?」
「そうだね…やっぱり対人の癖が出てるから皆、フェイントが多い。大型モンスター…《白帝》の規模となるとフェイントは無意味どころかデメリットしか無いと思う」
「ついつい視線や動きに入れちゃうんだよねぇ~」
「後は若様の火力不足…かな。正直、動きは悪くないし、多分サシでやったら私もキツいと思うけど、レベル差が出てる。装備で穴埋めしてるとは思うんだけど、やっぱり周りに比べると見劣りするかな」
まあ、当然そこは突っ込まれるよな…。
とは言っても、俺はまだ《暴食の罪》を使っていない。
実はオーカ達には《暴食の罪》については作戦会議の時に話してある。しかし、ここで使わないのには理由がある。
オーカ達に話して初めて知ったことなのだが、この手のユニーク系はプレイヤーが初使用するとプレイヤー全体にインフォメーションが飛ぶようになっているらしい。それが何の為かは分からないが、この連携の確認を含めた時に使えば確実に面倒事が増えると言うことで本番まで取っておいてある。
実際、ゼノ・モンスターとの戦闘は勝敗に関わらず、戦闘開始から終了までの動画がリアルタイムで公式ページを通してネット放送される。
本番で使うのは確定しているので、どうせバレるならコソコソとせずに、こうして人の目が多い場所の方が反感が少ないだろうというオーカの提案だ。
良かった。気まぐれでそこら辺の雑魚モンスター相手にお試ししなくて本当に良かった。
結局、試すかどうかがなあなあになっていたことに心底感謝する。
「まあ、オーキ兄の火力不足については案があるから大丈夫」
初心者の俺は気づかなかったというか、全く持って思いつかなかったのだが、《暴食の罪》は俺が思っていたよりも万能である事がオーカ達に相談して分かった。
例えば、Lv20で解放される傭兵のJS、『悪戦苦闘』は自身のHP、STR、VITを20%引き上げる自己バフだ。
消費MPは100。継続時間は5分。
これに《暴食の罪》の三つあるスキルの一つ、『変食』を使えば消費MPは200になるものの、15分の間、HP、STR、VITを60%引き上げる事が出来る。これは現在の攻略組の一級バフスキルに並ぶくらいの効果量。『アヴストュニール商会』の装備も合わせればステータスだけならば、Lv20の俺でも一時的に攻略組に並ぶことが出来る。
他にも《不倒》の通常スキルの一つに『戦闘継続』というスキルがある。
これは100秒間、10秒ごとに総体力の1%を回復する継続回復効果を持ったスキルだ。
つまり、1分強で体力の一割を回復させるスキルなのだが、これに『変食』を合わせると300秒間、10秒ごとに総体力の3%を回復できる。俺の場合、MPを倍消費するだけで体力の9割を緩やかに回復することが出来る。
オーカ曰く、数値を3倍ではなく、効果を3倍と言う所が肝らしく、『公式チート』の称号をめでたく頂いた。
正直、知識も何も無い俺が運だけで周りよりも依怙贔屓されている現状を歯がゆく思う一方、この力があれば俺も十分戦えるし、カグヤを助けられる可能性も高くなる。
今はこのスキルを手に入れられたことをプラスに捉えよう。
☆ sideーあ、多忙よ
「オーキ兄、今の踏み込み、足逆の方がいいんじゃない?」
「うーん…次の攻撃への繋がりを考えるとこっちの方が動きやすんだよなぁ…」
「なるほどね…そこで右下からの斬り上げに繋がるわけか」
私は夜中の一時にオーカちゃんに呼び出され、急遽《白帝》の討伐をするから、その為の動き確認に付き合えと呼び出されて『アヴストュニール商会』に顔を出しました。
私、こう見えて芸能関係のスカウトマンをしているのでオーカちゃんとは個人的な付き合いがあります。そのせいで振り回されまくりですが…。
既に私が『アヴストュニール商会』に来てから三時間以上。
既知である『ジェノサイド』のメンバーの凄さは分かっています。闘技大会で毎回のようにボコボコにされますから。あれズルいですよね、全員の火力が高すぎて盾役が瞬殺されるんですから。
それよりも、新メンバーだというオーカちゃんのお兄さん。私の好みとは違いますが、画面映えするイケメンです。キャラメイク特有の不自然さが無いので恐らく現実世界の顔をベースに作っているのでしょう。快男児という感じが凄いします。
見た目だけで結構注目を引く彼ですが、ござる曰くゲーム初心者。味方との連携や、スキルのタイミング、MPの管理などが雑でネトゲを複数やってきた人間なら初心者と聞かなくても初心者と分かります。
ただ、彼の動きというか、体の動かし方はとても自然体が故に驚愕を隠しきれません。
このVRという新しい要素を取り入れたゲームでほぼ全員が躓く要因としてリアルとの『差』が上げられます。
キャラメイクの際に身長や性別を変えた人はまず、その体に慣れることに時間がかかります。
それも当然、十何年、人によってはな何十年と付き添った自分の肉体や骨格に合わせた動きが出来なくなるのですから。
ただ、これに関しては時間を掛ければ慣れます。
では、何で『差』が出るのか。それはステータスです。
現実世界の自分と、ゲームの中の自分では筋力値から移動速度まで全て違ってきます。特にAGIはその差を特に感じます。
現実世界の自分だと30cmほど動いたつもりでも、ゲーム内で同じ感覚で動くと倍ほど動いてしまう。
完結から言ってしまえば、そう、ロボットを操縦する感じです。人と同じ大きさのエヴァン〇リオンを操縦するみたいな。
いや、あれは人造人間ですし、ロボットではないのですが、感覚的な?
使っている脳は同じなのに使う体が違う。それはもう大変です。装備一つ、レベル一つでステータスが変動し、感覚がズレるので慣れを早くしないとどんどん置いていかれるんですよね…。実際、リリース組にも関わらず、レベル15を越えて装備が充実したあたりでモンスターとの戦闘が上手くいかずに燻る人もいます。
話を聞けばお兄さんはこのゲームを初めて一週間。加えて攻略組ですら大金積んでも手に入らないアヴストュニール商会の装備。トッププレイヤーによるパワーレベリング。
リアルとの差が一気に開いたことになります。私だったら転びまくりの、オブジェクトに激突しまくりですね。今でもちょくちょくありますし。
そんなお兄さんは、動きだけを見るならトッププレイヤーの中でも更に上。初心者なのにぎこちなさが無い故の違和感が半端じゃないです。
むむむ…これは現実世界で体をどれだけ動かしているかも関係しますが、天性の感覚的なものがあるのでお兄さんが才能有りと言えばそれで終わるのですが…何よりその才能に周りが気づいていないのが駄目ですね。
オーカちゃん達も例に漏れず天才の部類なのであれなのですが、1と10のズレを10回、平然と繰り返してきた天才と1と100のズレを1回で平然と受け入れた天才。その差は歴然ですよ。
この才能に気づけていないのは勿体無い。後で教えておきましょう。
「あ、多忙よ。次いくよ次」
「う~、はーい」
☆ sideーオーカ=ペンデレエーク
オーキ兄がとんでもクエストを発生させてからゲーム内時間で早くも半日。残り6時間…。
クラマスと作戦を立てて、現在進行形であ、多忙よ。を含めたトッププレイヤー相手に動きの確認…。正直、悪くない。
悪くないどころか、むしろいい。ディフィとバルクの元々の愛称の良さもあるけど、私とオーキ兄の連携が予想以上にハマってる。
これが闘技大会なら自信満々に勝ちを宣言できた。
確かにプラス方向に予想外の事はあった。オーキ兄がユニークスキルって言われている『七つの大罪』の一つ、《暴食の罪》を入手していること。能力も破格も破格。使い勝手が良すぎる。
デバフ要員をしっかり集めれば今のLvでもゲーム内の最高火力保持者の称号を塗り替えることも可能だと思う。
けど、これでようやく0だった可能性の遥か向こうに1がチラついただけ。
私の予想じゃ《白帝》はただHPを削るにしても、最低2回は倒さないといけない。
オーキ兄がカグラちゃんから聞いた話では、帝は現実世界の竹取物語同様に、不死身の霊薬を貰っている。
流石にゲーム内で不死身のモンスターを討伐せよなんかアイツ連れてこないと行けないし、あの強さで不死身は多分ない。
精々、蘇生1回と言ったところか、最悪複数回だろう。
それでも、当時、蘇生アイテムや瞬間回復アイテムを含めた装備が無かったとは言え、ゲーム慣れした攻略組がたったの五分で壊滅させられたあのモンスターを最低2回倒さないといけないのは…正直、考えたくもない。
あと1ピース、何か強力なピースがあれば、チラつくだけの可能性が0の彼方にはっきりと見える。
そうすれば私を含め、あの戦闘狂達は自分のブレーキ引っこ抜いてそれを鈍器にアクセル全開で満面の笑みで《白帝》殴れる。
はぁ……運営のお助けキャラとか乱入して来ないかな。
あと2話くらいで《白帝》との戦闘に入ります。多分。




