第二十六話 鎖縛の姫と白き帝ー3
投稿したと思ったら、投稿ボタン押さずに寝てました…。
「緊急クエスト…マーサさん、取り敢えずオーカ達に相談しましょう」
「そうですね…けど、この子は…」
「連れていきます。オーカにメッセージ飛ばしておいてください」
「いやっ…」
俺は目の前で小さく蹲るカグヤという名前の少女を抱き上げる。
カグヤは抵抗を見せるが、こちらは成人男性の中でも大柄。痩せ細った子供を一人、腕の中で暴れても問題ない。レベル差もあるだろうが…。
「離して…」
「……」
未だ腕の中で暴れるカグヤ。俺はそれに構わず、マップを見ながら路地裏を抜けて、急いで合流地である大門へと向かう。
周りからの視線が痛いが、今は気にしてられない。
「ぃや…」
「大丈夫、安全な場所で匿うだけだから」
「お、オーキさん、鎖が…!!」
人混みを駆け抜け、大門がようやく見えてきた頃、マーサさんが頭の上から叫び声を上げる。
「っぅ…」
鎖。その言葉から結び付けられるのは俺が抱えている少女一人。
腕の中で小さく漏れた苦悶の声に俺はハッと立ち止まってカグヤを慌てて見る。
「だ、大丈夫か!?」
カグヤの肌にうっすらと浮かび上がっていたはずの黒い鎖が肌を押し上げて肌に喰い込むように浮かび上がっている。
浮かび上がっているのに、カグヤは縛られたように苦しそうに喉を鳴らす。
「こ…の鎖…は…ゎ、私の命だけを…縛ってるんじゃ…なぃ…ぃきる場…所も……縛られてる…」
「スラムに戻れば緩まるか!?」
俺の問いかけにコクリと小さく頷いたカグヤ。
俺は慌てて踵を返してスラムへと向かう。
なりふり構っていられない。積み上げられていた木箱を足場に、屋根へと飛び乗り、スラム街へ一直線。最短距離で向かっていく。
「もぅ…だ…ぃ…丈夫」
「本当か!?どっか痛くないか!?そ、そうだ!きゅ、救急車!!マーサさん!救急車!!この中に誰かお医者さんは!へい、いらっしゃい!!」
「お、オーキさん…取り敢えず落ち着いてください。ここバーチャルです。ファンタジーです。救急車はありません。…最後なんてお医者さんを出迎える居酒屋の大将みたいになってましたよ」
そ、そうだった。ここは現実じゃなくてゲームの世界。救急車は無い。そもそもスマホが無い。
一回落ち着いて…。
…。
よし、落ち着いた。
「もう大丈夫です。お騒がせました」
「切り替え早いですね…取り敢えず回復薬と思ったんですが…外傷は無さそうですね」
「オーカに軽い事情と一緒にメッセージ送っておきます。マーサさんは、俺達が声をかけた子供達の案内をお願いします。この子には俺が着いています」
「…本当に切り替えが早いですね」
「高校入試の時も長所でアピールしました」
「では、行ってきますね」
「お願いします」
「あの…下ろして…」
「あぁ、ごめん」
先程の行き止まり通路は血がべっとりなので今回は子供達に声をかけていた時に見つけた別の行き止まりの通路に来ている。
取り敢えずマーサさんに他の子供達の事を頼み、俺は抱えていたカグヤを下ろす。
「知らなかったとはいえ、無理に連れ出そうとしてごめん。体は本当に大丈夫か?」
「問題無い…」
「……何か食べるか?」
「……なんで急に」
「お腹減らないか?」
「……別に…」
会話が続かないので取り敢えず食事の話題を出す。食べ物の話題は個人的に天気の次に無難な話題だと思ってる。
俺の問いかけにこれまで通りの素っ気ない感じで返すカグヤだが、これまでとは違ってなんとなく言葉に温かさが感じられた。
これまでは機械と喋っているような冷たい声音だったが、年相応とまではいかないものの、可愛らしい声だ。
そう思っていると、小さく『ぐぅ』と腹の音が鳴る。
子供達に携帯食を渡すと同時に自分も食べていた俺のお腹はそこそこ満たされている。当然、俺では無いということは目の前の少女の腹の虫が鳴いたと分かる。
カグヤは羞恥半分、苛立ち半分と言った風にこちらに背を向け、行き止まりである壁に背を預けて最初あった時のように体操座りで丸まる。
「やっぱ空いてるんだな。何食べたい?大体のものは用意できるぞ」
「…いらない」
「個人的にはササキさんって言う、でら料理上手い人が作った親子丼が大好きなんだが…食事は久しぶりか?なら、お粥とかの方がいいかな?ゼリーとかプリンもあるけどどうする?」
俺はアイテムボックスから瓶詰めされたプリンとスプーンを取り出すとカグヤに近づいて、目の前に差し出す。
現実世界でも中々食べられないほど美味しいササキさん特製プリン。見た目も良ければ、匂いもいい。カグヤのハイライトの少ない黒色の瞳もプリンに釘付けだ。
「だから…いらない……」
いらないといいつつ、俺が視線の先で右へ左へプリンを動かすと、それに反応してカグヤの目線も首と共にプリンを追って動く。
「じゃあ、さっきのお詫びとして受け取ってくれないか?」
「いや…」
「そこをなんとか」
「いや…」
「あー、お詫び受け取って貰えないと俺死にそうだなー!」
「勝手に死んでればいい…」
「あーあー!プリンと一緒に死のうかなー!最後の晩餐がプリンなら俺も喜んで死ねるからなぁー!!早く受け取って貰えないと、俺死んじゃうから食べて欲しいなー!」
「……厚かましい人…子供みたい。見た目と全然違う…」
「いいから、いいから。ほい。俺まだ死にたくないから食ってくれ」
カグヤの手に無理矢理プリンとスプーンを預けると、俺はカグヤの隣に腰を下ろす。
そんな俺にジトーっと目を向けてくるカグヤ。
「食べ方分からないなら食べさせようか?」
「いい……自分で出来る」
「あ、食べるんだ」
「………どうしても言って言うから食べてあげるだけ」
「そっか、ありがとう」
そう言って瓶詰めのプリンをスプーンですくって頬張るカグヤ。心做しか頬が緩んでいるように感じる。
「お代わりあるからな。ゼリーもあるぞ。あ、飲み物飲むか?お茶とか水とか色々あるけど」
俺はアイテムボックスから次々と食べ物と飲み物を取り出して地面に並べていく。
「…なんでこんなに…」
「俺、食べる事が大好きだならアイテムボックスの中の半分以上、食べ物が入ってるんだよ」
「……貪食はどの時代でも最も重い罪だよ」
「ちゃんと感謝して食べてるから問題無い」
「変なの……」
そう言ってプリンを最後の最後まで食べ尽くすカグヤ。自然と次のプリンへと手を伸ばすのを見て自然と頬が緩む。
「ち、ちがっ……さっきのお詫び…!プリン一個じゃ足らないから…!全然釣り合ってないから…!」
「…そうだな。あと百個くらいでいいか?」
「ひゃっ…!?」
「冗談だ。あと十個くらいしか無い」
途中で俺の雰囲気が変わったことに気がついたのか、慌てて手を引っ込めて顔を真っ赤にさせるカグヤ。
続けて冗談を言うと次は怒ったように顔を顰める。
うん、これくらい感情に素直な方が年相応って感じでいいな。
「鎖、聞いてもいいか?」
「……………」
二個目のプリンを頬張るカグヤに問う。
「……………………昔、私は竹から生まれたの」
☆
>>鎖縛の姫と白き帝ー2 追憶へ
☆
「それで何度も殺されて…何度も…何度も……」
「うぅ…ぐすっ……ぐすっ…ぐへっ、うぅ……ごほっ…ごほっ、ごほっ、ぅっ…ごッ…おえっ…」
「…なんで泣いてるの…それより…大丈夫?」
「かなジずぎるダろ……」
「は、ハンカチ持ってる…?鼻水凄い、ひどい顔になってるから…」
「ごハッ…ごほっ…だ、大丈夫…ずびっ…ありがどう…」
俺は胸ポケットに入れてあったハンカチを取り出して鼻を啜り、ぐちゃぐちゃになった顔を拭く。
「なにこれ…」
「オ゛ーカ゛ァ゛ァ゛ァ゛」
「緊急事態だって聞いて駆けつけてみたら実の兄が顔面グチャグチャにしながら爆泣きして、美少女に慰められている光景、まじ|思考が追いつかない《Not インテリジェンス》」
☆
オーカと合流してから一時間程、カグヤを一度、スラム街のボスへと預け、『イサムマジカルポーネ』に乗ってアヴストュニール商会へと帰ってきていた。
「そう…そんなことが」
「白き帝ねぇ…」
「心当たりしかないでござるな」
場所は会議室。ジェノサイドのメンバーとミサキさんを含めた十五人程でカグヤの事情と緊急クエストについて説明していた。
「確実にゼノ・モンスター…『白帝』の討伐クエストだよね」
「まさかここで結び付きがあるとは…」
「一応伏線はあったぽいね。ママちゃんが図書館で同じような話を記した本を見つけたぽい」
「ただの移動型のモンスターだと思っていましたが…ふむ…なかなかにインテリジェンス」
『鎖縛の姫と白き帝』。
鎖縛の姫は竹取物語でも有名なかぐや姫であり、スラム街で出会ったカグヤ。
白き帝は竹取物語においての帝であり、カグヤの話してくれた俺の知ってる竹取物語とは違う白き獣となった帝、そしてこのゲーム内でゼノ・モンスターという再出現しない特別なモンスターとしての位置づけをされているモンスター。
「なぁ、オーカ。モンスターって街の中に入ってくるのか?」
「あー…そっか、説明して無かったね。街の中でのプレイヤーの戦闘行為はシステム的に禁止。街中でのNPCの戦闘行為はゲーム内の法律的に禁止。けど、例外がモンスターとの戦闘。極たまにだけどモンスターが街の中に入り込むことはあるよ」
「オーキ殿も気づているでござろうが、このゲームの街は例外なく城郭都市でござる。ゲーム的に言えば大規模なものは格好いいでござるが、このような小都市に大規模は壁を設けるのははっきり言って見栄えが悪いでござる。なのに何故存在するのか、それがモンスターの侵入でござる」
「極たまに街の外に出る時に衛兵が門に近づいたモンスターと戦ってるのを私は見たことがあります」
「我輩達の予想が正しければゼノ・モンスターも例外では無いですぞ」
「ちなみにだが、『白帝』の団地のアパートそのものと考えてもらって差し支えない」
今でた話を纏めると、凶暴な団地のアパートが鎖で縛られた少女を狙って後一日と少しでやってくる。ということだな。
駄目だな、多分どころか絶対混乱してる。
「街の中の人は…」
「NPCはプレイヤーと違って生き返らない。『白帝』のレベルは特殊だけど、ゲーム的に見て確実に都市が滅ぶね。しかも、これは『白帝』が倒されるまで続く。カグヤって女の子を救うか、このゲームが終わるまでずっと」
「っ……」
オーカから告げられた真実に、俺は最初にカグヤに出会った時の事を思い出す。
血に汚れ、全身に傷を作り、生を感じさせない瞳、冷たい声音。
そして、カグヤの照れた顔、怒った顔、出会って三十分だが、その女の子が…
───────死ぬ。
現実世界とは違う。
寿命でも、病気でも、事故でもない。
殺される。
悪意を持って。
明確な殺意を持って。
あの子が…殺される。
「避難は…出来ないんだよね」
「多分外に出ると強制的に鎖が縛り上げられて、死ぬのかもしれません。大門まで二百メートル近くあったのにも関わらず、相当苦しそうでした」
「オーキ兄、私の結論を話すよ。今、私たちが戦っても『白帝』には勝てない。私が勝つなら、勝率は70%は欲しい。その為の戦力として攻撃職1パーティーに加えて支援2の10人。平均レベルは60。今戦っても勝率は…0。可能性の欠片も無い…。それでも、やる?」
以前読んだ掲示板の記事に書いてあった事を思い出す。
平均レベル32のゲーム慣れした攻略組48人が5分で壊滅…。
オーカ達のレベルは40に届かないくらい。現在の最高レベルが43だから、トッププレイヤーで間違いは無い。
対して俺のレベルは20。半分だ。経験も知識も何もかもが足りない状況。
その上でオーカが勝つためには平均レベル60は欲しいと言った。
簡単な算数だ。俺でも分かる。勝てない…。
「オーキ。俺から一つ、ある言葉をプレゼントしよう」
「バルク…」
「これはゲームだ。ゲームの世界で母想いの少年が病気で死のうが、世界平和に貢献した男が殺されようが、絶世の美女が死んだとしても、それはただのゲームデータの一つに過ぎない。俺達の現実世界には何にも影響は無い。誰も悔やまず、誰も悲しまず、誰も見向きもしない。例えそれが自分のせいで死んだとしても誰もソイツを咎めたりはしない。だから、オーキ。『ゲームの世界は何をしようとも自由だ』。自分の思うがまま、自分のやりたいことを、自分が最後、このゲームをやってて良かったと思える選択肢を選べ。例えそれがどれだけ悪逆非道の選択肢だろうと、誰も何も言わない」
「…」
「助けないか、助けないか、自分の楽しめる方を選べ。ここはゲームだ。楽しんだもん勝ちだぜ?」
……。
ここまで後押しされるほど俺は、悩んでたのかな。
人生の中で触れてこなかったゲームで。野球の代用品で、ただの暇潰しで、こんなに悩んでたのか俺は…。
悩む必要なんて無い。ここはあくまでゲーム。娯楽の世界だ。
簡単に、簡潔に、単純に、自分のやりたいことを選べばいいんだ。
なら俺は…
あの子を…
「助けたい」
これが俺のゲームを楽しめる選択肢。
「あの子の苦しみを終わらせたい。俺、あの子の笑った顔、まだ見てないんだ」
見てみたい。あの子が心の底から笑った顔を。
「美少女の笑顔が見れるのは助けるだけの充分な理由だよな?」
「にししっ!流石オーキ兄、オタクに染まってきたね!」
「もちろんでござるよ、美少女の笑顔はプライスレス!命を張る理由には充分どころか、上乗せしないといけないくらでござるよ!」
「でゅふふ…美少女の笑顔の為に立ち向かうヒーロー…我輩、憧れておりましたぞ」
助けよう。絶対に。
さっき会ったばかりの女の子に同情して、助ける自分に酔って、格好つけよう。
臭くてもいい。掲示板で後ろ指さされてもいい。大いに笑ってくれ。
どれだけ滑稽でも、どれだけ醜くても…。
あの子の笑顔を見れるのは俺達だけだから。外野から見てるだけの奴らなんかに渡さない。
「よし、決まり!《白帝》が動くのは夜。クエスト期限は明日の零時丁度。今からだいたい24時間後。現実世界で朝8時がリミットだね。作戦開始はゲーム内時間で18時ジャスト…朝6時から戦うから寝て欲しいところだけど、作戦や連携、出来る限りのことを敷き詰めるから今日は寝れないと思って!」
「クロカワ、緊急連絡網で爺婆を含めて全員叩き起してログインさせて」
「ですが…」
「明日は日曜日!気にしない!とっとと行ってきて!」
寝ているところを夜中に起こして申し訳無いが、準備も多い。今度全員にお礼と共にマッサージでもしてあげよう。
「皆も色々準備があると思うから現実世界で1時にまたログインしてきて。間違っても寝ないでね?」
「よし、久々の大イベント!腕がなるってもんよ!」
「このゲームに『ジェノサイド』の名前を刻むとしましょうか」
「違うわよ。刻むのは『ジェノサイド』じゃなくて『アヴストュニール商会』。ちゃんと売名してちょうだい」
「クラマスは抜け目ないですなぁ」
「俄然燃えてきた」
「妥当、《白帝》!明日は祝勝会だ!!えい、えい、おー!」
誰一人文句を言わず、夜中だと言うのに笑顔で溢れている。
アヴストュニール商会は変な人多いし、人間性を疑う人いっぱいるけど……いい所だな。
『『『おー!』』』
現在、このような日程で物語が進んでおります。
・《IPO》における時間感覚
現実世界:0時~8時→0時~0時(※1)
9時~17時→〃(※2)
17時~0時→〃(※3)
・主要登場人物の状況
オーキ→夏休み(高校生二年生)
オーカ→夏休み(高校生一年生)
全蔵→夏休み(高校生二年生)
ヲタキング→夏休み(中学生三年生)
マーサ→通常勤務[17:15定時](OL)
ディフィ→夏休み(大学生三年生)
クレア→夏休み(大学一年生)
バルク→不定期勤務[出張など](社会人:社長)
ミサキ→不定期勤務[父親の自営業の手伝い。ログインも手が空いたらしてる](給与はあるので社会人)
服部ママ→夏休み(高校生一年生)
ササキさん→隠居
各話の進行状況
8月22日(火曜日)
第一話 現実:夕方
第二話 現実:夕方
第三話 現実:夕方 《IPO》:※3
第四話 現実:夜 《IPO》:※3
第五話 現実:夜 《IPO》:※3
第六話 現実:夜 《IPO》:※3
8月23日(水曜日)
第七話 現実:深夜 《IPO》:※1
第八話 現実:朝 《IPO》:※2
第九話 現実:朝 《IPO》:※2
第十話 現実:昼 《IPO》:※2
第十一話 現実:夜 《IPO》:※3
第十二話 番外
第十三話 現実:夜 《IPO》:※3
第十四話 現実:夜 《IPO》:※3
第十五話 現実:夜 《IPO》:※3
8月24日(木曜日)
第十六話 現実:朝 《IPO》:※2
第十七話 現実:昼
第十八話 現実:夕方 《IPO》:※3
8月25日(金曜日)
第十九話 現実:昼 《IPO》:※2
8月26日(土曜日)
第二十話 現実:朝 《IPO》:※1
第二十一話 現実:朝 《IPO》:※1
第二十二話 現実:夜 《IPO》:※3
第二十三話 現実:夜 《IPO》:※3
第二十四話 現実:夜 《IPO》:※3
(緊急クエスト発生時 現実:22時 《IPO》:※3ー20:23:46時)
(緊急クエスト期限:20:23:46時+27:36:14時=48時間)
第二十五話 番外
8月27日(日曜日)
緊急クエスト期限 現実:朝八時 《IPO》:※1ー0時




