第二十五話 鎖縛の姫と白き帝ー2 追憶
※1 爺の名前ですが、著書やサイトによって讃岐造と讃岐造麿の二つの記述があった為、今回は讃岐造に統一しております。
※2 讃岐造の妻の名前ですが、嫗とされていますが、これは『年老いた老婆』という意味で使われる漢字ですので正しい名前かは測りかねます。今回は名前とさせて頂いてます。
※3 迦具夜の漢字ですが、古事記に登場する『迦具夜比売命』から取りました。正確なものではありません。
※4 などなど上記の事を含め独自の解釈と物語に合わせた『竹取物語』となっております。思うところはあると思いますが、温かい目で見てください。
遥か昔の話だ。
ある所に野山に入って竹を取り、竹細工を朝廷に献上して生計を立てていた爺がいた。
その爺の名は讃岐造。
ある日の夕、讃岐造は竹やぶの中で根元が黄金に輝く竹を見つけた。
讃岐造はその竹を見ると、不思議に思い首を傾げた。
「この竹は…」
讃岐造は毎朝と毎夕に竹の伸び具合を確認していた。竹は目を離すとすぐに成長するからだ。
今朝見た時、この竹は光っていなかった。いつの間にと讃岐造は更に首を傾げた。
讃岐造は見覚えのある光る竹に近づき、目を凝らすと光っていたのは根元ではなく根元から近い筒の一つだった。
その光の中、讃岐造は三寸程のとても可愛らしい女の子がちょこんと座っているのを見つけた。
「これは運命だ」
讃岐造は女の子を傷つけないよう竹を切ると、女の子を抱き抱え、家に連れて帰った。
家に帰った讃岐造は妻の嫗に女の子の世話を任せることに。
二人はこの女の子を大変可愛がった。
その溺愛ぷりから女の子を籠に入れて野山に入る讃岐造の姿がしばしば見受けられた。
☆
讃岐造が竹筒に入った女の子を拾った日からここ数年変わらぬ日常に変化が見られた。
節を隔てて黄金が入った竹を見つけるようになったからだ。
最初見つけた時は嫗と共に「誰かが埋めた金の下に竹の種があったのかもしれない」と大笑いしたものだが、それが定期的に続いた。
あまりに金が見つかるもので、讃岐造は次第に金持ちになっていった。
そして讃岐造の財産と同じくして女の子はすくすくと大きくなった。
なんと三寸程しかなかった体が三ヶ月ばかりで成人女性と変わらない姿へと成長したのだった。
讃岐造は直ぐに成人の儀である髪上げを裳着と共に行った。
女の子は大層美しく、その美しさはまさに目にするだけでたちまち気分が良くなる。まさに万能薬とも呼べるほどの美しさだった。
☆
女の子の髪上げをしてから数年が経った。
讃岐造は黄金のお陰で有力者となった。
そして女の子も既に女の子と呼べず、女性と言うべき程に大きくなったので三室戸斎部秋田に女の子の名を付けてもらった。
三室戸斎部秋田は女の子を見て弱竹の如くしなやかで輝くような美しさに息を飲み、そこから女の子に『なよたけの迦具夜姫』と名付けた。
そしてこの命名から三日三晩、讃岐造は宴会を開いた。
誰彼構わず男を呼び、盛大に催したそうだ。
☆
世間の男達は迦具夜に恋焦がれた。
身分も、貧富も関係なく、迦具夜の噂を聞いて恋焦がれ、心を乱された。
仕事も手に付かず、一目みようと讃岐造の家へと皆がこぞって集まった。だが、迦具夜は部屋から出てくることも無く、多くの男は溜息をついた。
次第に讃岐造の家へと足を運ぶことを辞める男たちが増えたが、五人の男達だけは昼夜問わずに通い続けた。
その五人の男達の名は。
石作皇子。
庫持皇子。
阿倍御主人。
大伴御行。
石上麻呂足。
その五人は讃岐造を通して迦具夜に求婚を申し込んだが、迦具夜の反応はいいものでは無かった。
だが讃岐造も迦具夜には一人の女性として幸せになってもらいたい。
どうにか説得すると、迦具夜は…
「その五人がいかに立派な人だとしても、会ったことも無いお方。本当に私を容姿だけで判断せず、真の意味で愛してくれるかどうかは分かりません。なので私の見たいある物を持ってきてもらうことで私への愛を確かめたいと思います」
と言った。
その旨を讃岐造は五人に伝えると、五人とも「喜んで」と答えた。
そして迦具夜は五人それぞれに見たい物を伝えた。
石作皇子には『仏の御石の鉢』を。
庫持皇子には『蓬莱の玉の枝』を。
阿倍御主人には『火鼠の皮衣』を。
大伴御行には『龍の首の玉』を。
石上麻呂足には『燕の子安貝』を。
どれも常人が手に入れられない難題ばかり。
その難題に五人はそれぞれ取り組んだ。
真面目に取り組んだもの。不正を働いたもの。様々なものがいたが、五人全員が失敗終わった。
☆
五人の男達が失敗に終わった後も、迦具夜の噂は各地へと広まっていた。
そしてその噂は帝にまで届き、帝は讃岐造に迦具夜を宮仕えを命じたが、迦具夜はそれを拒否した。
「我の申し出を断るとは面白い女だ…我直々に見定めてやろう」
帝は讃岐造の家へと赴き、迦具夜と顔を合わせた。
「っ……」
帝はその人離れした美貌に心を奪われ、他の男同様に恋に落ちた。帝も一人の男だった。
そして帝は迦具夜を無理矢理連れていこうとしたが、迦具夜は影となって消えた。
その瞬間、帝は悟った。
(ああ、この女は人ならざる者。人の上に立つ『人』でしか無い我にはどうしようもできない)
帝は迦具夜を連れていくことを諦め、その代わりに文通を行う約束をして帰った。
☆
帝との一件から暫くして迦具夜は月を見て神妙な面持ちをする事が増えた。
「迦具夜…何かあったのか?」
どうしたのかと讃岐造が迦具夜に尋ねると、迦具夜は泣きながらこう答えた。
「私は月の住人です。次の十五日、私は月に帰らないといけません」
と。
讃岐造は激怒した。
「迦具夜…お前はもう私たちの子だ。誰にも渡さない。せめて…せめて…私が死ぬまでは」
「なりません。私は月に帰らねばならないのです」
讃岐造は帝に警護を依頼し、帝はそれを快く引き受けた。
「迦具夜よ、我はまだ御前と話したい事が沢山ある。我の許可なく帰ることは許さん」
そう言った帝はその月の十五日、二千の兵を連れて讃岐造の家を警護した。
「迦具夜…」
「お爺様、お祖母様、そして帝様…これを…」
その日の晩、部屋の奥で讃岐造と嫗は迦具夜を抱きしめ、どこにも連れて行かれないようにした。
それでも迦具夜は帰ることを曲げず、讃岐造と帝に不死の薬を渡した。
「こんなものはいらない!迦具夜、私にはお前だけいれば…!!」
讃岐造がそう叫んだ瞬間、讃岐造の屋敷が光に包まれた。
そして月からその光と共に使者が表れた。
「今までありがとうございました」
浮世離れした光景に誰もが見守るしか無かった。
その中で迦具夜はただ一人、外へと歩みを進めると、最後に天女の如く可憐な微笑みを讃岐造達にに向けると迦具夜は天の羽衣を羽織、月の使者と共に月へと帰って行った。
讃岐造と嫗が肩を抱き合って泣く中、帝の瞳は濁っていく。
「我が『人』だから…『人』故に届かぬ。ならば我は『人』を辞めよう」
迦具夜が月へと昇る中、帝は黒い光に包まれる。
『逃がさぬ。決して逃がさぬぞ迦具夜よ』
帝は白き獣へと姿を変える。
迦具夜と同じく人ならざる者へと。
そして帝は月へと昇る迦具夜を鎖で縛った。
だがその鎖を持っても迦具夜は影へとなり、迦具夜を留めることは出来なかった。
『手に入らぬのなら殺すまで』
そして帝は月へと昇る迦具夜を殺した。
『来世でまた会おう。御前の心を掴むまで我は何度でも…』
そう言い残して、地へ落ちる迦具夜を見守る帝。
迦具夜は縛られた。
例え死んだとしてもまた『カグヤ』として生まれ変わり、地上へと縛り付けられる。
そして帝は生まれ変わった『カグヤ』を地の果てまで追い掛け、こう問う。
『我の物になる心は決まったか?』
そして帝は『カグヤ』が拒絶する度にカグヤを殺した。
☆
その鎖は何人たりとも取ること叶わず。
その鎖は帝の獲物である証。帝が殺さぬ限り何人たりとも殺すこと叶わず。
どれだけ世が移り変わろうとも、『カグヤ』は帝を拒み、帝は『カグヤ』に問う。
やがて『カグヤ』の名は禁忌とされ、誰も口にする事が無くなった。
そして…
白き獣へと姿を変えた帝は人々から畏敬の念を込めてこう呼ばれるようになった。
───────『白帝』と。
次回『鎖縛の姫と白き帝ー3』




