第十五話 乾杯の音頭はちょいスベリくらいが丁度ええねん
感想や評価等頂けると作者のモチベがぐーんと上がります。特にこのシーンが面白い、このキャラが好きだなど言っていただけるとぐんぐんぐーんとモチベが上がります。
至らぬ点などあるとは思いますが、優しい目で見守って頂き、もし指摘する時はオブラートに三重くらい包んでから頂けると大変嬉しいです。はい…。
「えー、この度は足元の悪い中、晴天に恵まれ、『オーキ殿歓迎会』にお集まり頂き感謝感激ゲリラ豪雨でござる」
「さっさと晴れさせろや。殺すぞ」
「短期の子かよ」
「うぉぉぉぉ!歓迎会!歓迎会!」
「元気の子かよ」
「あれ、ほら、大きな背鰭が特徴的で上顎が発達した3メートルを越える釣りで人気の魚」
「カジキの子かよ。いや、カジキだわ。そんな苦しいボケすんなら、初めからすんなや」
「あ、あの!ツッコミお疲れ様です!凄い格好よかったです!」
「て、天使かよ…」
「お前も最後までツッコめアホ。うちの姫にガチデレしてんじゃねーよ」
場所は移って商会内の食堂。いつもは等間隔で置かれているテーブル机が端に固められ、厨房の逆側に簡易ステージと垂れ幕で『オーキ!ようそこアヴストュ二ール商会へ』と掲げられている。
他にも造花や、輪飾りが飾られ、デカデカと真ん中に置かれた机の上に豪勢な料理が並べられている。
そんな中、流石に全員ではないものの、百五十人以上の人が食堂に集まっており、目を凝らすとプレイヤーネームが視界いっぱいに埋め尽くされる。
「では、各々方、グラスは持ったでござるか?」
コップって…あれ、いつの間にか空のグラスを握ってる。
「オーキ様、何を飲まれますか?」
「え、いや、はっ?様?」
「大抵の物は用意しています。言いつけて頂ければすぐにお持ちしますよ」
俺の隣に気配も無く現れたママさん、ちゃん?年下ぽいし、ママちゃんで良さそうだけど、なんか違和感が…。
「では、マーちゃんと呼んでください」
「あ、それなら呼びやすいや。それと、リンゴジュースがあったらお願い」
「はい、直ぐに……どうぞ」
「ありがとう」
いやぁ、忍者って凄いなぁ。いつの間にかコップを握らされてるし、気配を殺して近づいてくるし、平然と心読んでくるし、分身使ってリンゴジュース取ってくるし…。
忍者ってなんだっけな。
「うぉっほん!早速、乾杯の音頭をオーキ殿の親友である拙者が務めさせていただくでござる」
「オーキ兄とは昨日あったばっかでしょ」
「厚かましい」
「筋肉が足らない」
「S気が無い…」
「忍べよ」
「酷いでござる!?」
凄い集中砲火だなぁ…。全蔵も若干、涙目になっている。いや、目しか見えないから表情の情報が目元しか無いんだけどね。
「いいの?お兄さん、あんだけ言われてるけど」
「はて…?私に兄などおりませんが…?」
俺の質問にきょとんと首を傾げてこちらを見るマーちゃん。
派手目の見た目に合わない可愛らしい仕草と、純粋な瞳に騙されそうになるが、この子の兄は壇上の上に立っている。あ、あまりの集中砲火に膝から崩れ落ちた。
この子、絶縁宣言していたけど、あれ本気だ。本気と書いてガチって読むやつだ。
「気を取り直して…えー…スピーチとスカートは短い方がいいと良く言われますが、拙者的に長いスカートも捨て難いと思うんでござるよ」
冒頭にスピーチの常套句が入り、ベタだなぁと思っていたら全くベタじゃない。
「いやね、ミニはチラリズムもあるでござるが、ロングスカートの清楚、奥ゆかしさ、見えないからこそのエロス。素晴らしいと思わないでござるか?」
なんか急に語りだしたぞ…。ミサキさんが先程、何やら取引相手ぽいNPCに呼ばれて会議室に行っているからと言って、こんなスピーチを聞く人はいないだろう。
「ほう…中々興味深いじゃねぇか。おい!コーラとキャラメルポップコーンもってこい!あとコンソメポテチ!」
聞くどころか語る気だ!?絶対、二時間くらい腰落ち着かせてじっくり語る準備だよあれ!
「馬鹿野郎ッッ!!ふざけんなよッッ!!」
ほら、あんまりふさげるから誰か怒っちゃったよ…。
恰幅のいいおじさんが壇上に上がっていく。
「ロングスカートだとニーソが履いてるか分からねぇだろうが!!」
うん、プレイヤーネーム見なくても誰か分かった。あれ絶対、俺の«幻馬の革ブーツ»を作ったローファーおじさんだよ。
「ちっちっち、ローファー殿、甘いでござるよ」
ローファー殿って呼ばれてるのかあの人。もはや侮辱なような…。
「めくってみるまで分からない。もしかしたらニーソを履いているかもしれない。そのドキドキとワクワクをロングスカートは与えてくれるでござる」
「…ばかな……シュレディンガーのニーソだと言うのか………」
シュレディンガーのニーソってなんだ…。
エルヴィン・シュレディンガーさんも、ロングスカートからニーソを履いているかどうかにドキドキワクワクする為にに発表した訳じゃないよ絶対。
この後、ミサキさんが来るまで議論は続いた。
☆
「あ、あ、改めまして…乾杯……」
『『『かんぱーい!!』』』
ボロボロの全蔵がようやく乾杯の合図を出す。
何があったのかは察して欲しい。
ミサキサンコワイ。
「オーキ様、乾杯を」
「うん、乾杯」
取り敢えず俺も隣にいたマーちゃんと乾杯を交わす。グラスをぶつかる瞬間、一応このゲームの先輩であるマーちゃんよりもグラスの位置を下げたのだが、目にも止まらぬ速さで俺よりも下にグラスを下げられた。忍者半端ない。そして並々ならぬ何かを感じる。
「おー!お前がオーキか、これからよろしくな!」
「よろしくお願いします」
「あのあの、ハクノといいます。オーカちゃんのお兄さんって本当ですか!?もしよろしかったら今度ゆっくりお話できると嬉しいです!」
「オーキです、よろしくお願いします」
「ニーソの色は何がお好みで?」
「無色透明」
「私のズボンはどうかしら?今度ちゃんと採寸取らせてね」
「最高です。是非お願いします」
「若様!食べてるか!?お代わりいるか!?」
「美味しく頂いてます。お願いします」
「ではローファーの色(ry」
「無(ry」
色々な人と挨拶をしながら、食堂の中を歩き回る。マーちゃんが完璧なタイミングで口に出しても無いのに欲しい料理をお皿に盛って届けてくれるのだが、本人はピタリと俺の横から動いていない。分身の術凄い。
「オーキ殿!楽しんでいるでござるか!?ママが迷惑かけて無ければ良いのでござるが」
「うん、楽しいよ。料理も美味しいし、変な人が多いけど。マーちゃんも良くしてくれて、楽させて貰ってる」
「オーキ様、こちらの殿方はお知り合いですか?」
この子、絶縁どころか記憶を抹消している!?
「そう言えば先程トイレ休憩に部屋を出たら部屋の荷物が纏められていたのでござるが、拙者追い出されないでござるよね!?」
「全蔵、強く生きてくれ。俺は応援してるぞ」
「酷い!!?」
「ほら、ござる!一発芸大会やるから強制参加!」
「えー、拙者この前新ネタの『幽体離脱の一発芸をしたらそのまま天に召されたが、神様に異世界転生させられ魔王を倒すも、真の敵は王国の国王だった』やったでござるよ~」
それ一発なのか?長編のように感じるのだが。
「オーキ様、少し席を外せていただきます」
「あ、うん、マーちゃんもゆっくり楽しんでね」
全蔵がオーカに首根っこを引っ張られて壇上で『ある日突然、未来の自分を名乗る青年が目の前に現れ、その日から徐々に日常が壊れていき、全ての鍵を握っているのが自分の父親だと知った瞬間、最愛の恋人が殺される』一発芸をしている。壮絶すぎる。
半眼で全蔵を見ていると、ふとマーちゃんが俺から離れてどこかへ向かう。
さっきまでずっと隣にいたので、急にいなくなると何かあったのではと思ってしまう。
「少しいい?」
そんなことを思っていると、肩をとんとんと叩かれる。
振り返ると、最初に会った時と同じツナギを着込んだミサキさんがいた。
「はい、大丈夫ですけど」
「ちょっと、外に出ましょうか」
ミサキさんに連れられて三階のバルコニーに連れられる。
心地のいい風が吹いており、空には青白く光る欠けた月が浮かんでいる。
「ごめんなさいね、連れ出して」
「いえ…」
「まずはありがとう。このゲームを続けてくれる気になってくれて」
「はい…俺が決めたんで、お礼を言われるような事はないと思いますけど」
「何言ってるの、これからブラック企業もビックリな暗黒さを見せてあげるから覚悟してなさい」
そう言ってイタズラっぽく微笑むミサキさん。
「この商会は個性的…って言い切るには難しいくらい頭の可笑しい人がいるわ。うん、我ながら人選ミスが凄まじいと思うんだけど、ここにいる人は皆、オーキが知った事実を知った上でこのゲームを続けているわ。そして、この商会の目標に賛同してくれた人なの」
「目標…」
「この国は日本よりも貧富の差が激しくてね、虐げられている人が各地にいるわ。宗教戦争から、領土問題、貴族制度、まぁ、今昔の世界に沿ったような原因で色々な人が苦しんでるの。確かにここにいる人達はただのNPCで0と1の集合体で、ただ単に管理されているだけのデータに過ぎないわ。けど、助けてあげたいじゃない?だから、私、この世界を変えたいの。ここはもう一つの世界で、私達は何にでもなれる。なら、私はこの世界を纏める王様になりたいの…。馬鹿げてるでしょ?でも、ゲームだからこそ夢みたいなことを本当にしたい。そう思って作ったのがこの『アヴストゥニール商会』なのよ」
オーカから聞いた。この商会の名前の意味を。
アヴニールはロシア語で未来。ストュ二ールは支えるという意味があるらしい。未来を支える。そんな意味を込めてアヴストュニール商会と名前を付けたと聞いていた。
最初は生産クランということで、プレイヤーを支えることだと思っていた。
けど、ミサキさんはプレイヤーよりもNPCと商売をした方が儲かると話していた。
莫大な資金を儲ける必要があるのはなんとなく昨日の時点で察していた。
何かおかしいなと思いながらも、特に何も考えずに流していた。
けど…ようやく分かった。
ミサキさんが支えたい未来はプレイヤーのじゃなくて、NPCのだったんだ。
まさか世界統一とは…俺では想像も出来ない規模の話だ。
「掲示板で堂々と『世界を変えたい!』って叫んだら自己満足だって笑われたわ。たかだかゲームで何をそんなにムキになっているんだって…オーキはどう思う?」
「自己満足だとしても、何もせずに笑っている奴よりも、実際に行動に起こしているミサキさんは凄いと思います。話が大きすぎてあんまり飲み込めてませんが、是非お手伝いさせてください」
不安そうにこちらを見つめるミサキさんに、俺は笑顔で答える。
「ありがとう、期待しているわよ」
「はい、頑張ります」
その後、俺とミサキさんは歓迎会に戻って会を存分に楽しんだ。
《IPO》がまだ野球の代わりに俺のやりたい事になるかは分からない。
だけど、目標は出来た。夢を共有した。友人が出来た。楽しいと思えた。
願わくば、未来の俺がこのゲームが好きになれますように。
その日、ログアウトした俺の胸にぽっかり空いた穴は少しだけ小さくなっていた。
《後書きのコーナー》
[今話の感想]
オーカ「オーキ兄、改めてようこそ!!」
オーキ「いやぁ、まだまだよく分からない事だらけだからよろしく頼むよ」
オーカ「ふっふーん!このジェノサイドに任せておけば万事オールオッケーですよ」
オーキ「(メンバーを思い出して)…お、おう。頼りにしてるぞ」
オーカ「本当は何人か伏線的な人を出したかったんだけど、あんまり出しすぎるとパンクしそうだから極々一部に絞ったんだよねー」
オーキ「ローファーおじさんのインパクトが強すぎる」
オーカ「(あんなのネットだとザラだよと教えたいけど、教えたら面倒事になりそうなので言わない時の顔)」
[感謝]
オーキ「うわぁ!5000pv突破だぁ!と思っていたら、10000pv目前に」
オーカ「誰が予想できたでしょうか。主人公が全く戦闘せずにバカ騒ぎしてるだけで伸びるなんて」
作者「本当にありがとうございます。これから精一杯、オーキ達と共に笑いあり、涙あり、コメディあり、笑顔溢れる、抱腹絶倒な作品をお送りしたいと思います」
オーカ「五分の四がギャグ成分」
[次回予告]
オーカ「ついに…ついに…ついに…ヒロイン候補が…!」
オーキ「おぉ、おぉ…?」
オーカ「と、思ったけどそろそろ本当にPvPしないと、後々の戦闘に影響が出そうなので戦いましょう。次回『三度目の正直、オーキのPvP初挑戦~二度あることは三度ある』」
オーキ「副題に嫌な予感を隠せない!!」




