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《 Infinity Pioneer Online 》~一般人の兄が妹にオタクに染められる話~  作者: いちにょん
第一章 鎖縛の姫に月下のメリークリスマス
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第十一話 【急募】ネ友の妹に身バレした時の対処法

ジャンル別ランキング日刊で57位、週間で80位を頂きました。ありがとうございます。

いずれ、総合に名前が載れるように頑張ります…。

「オーキ殿の食事は見事に肉ばっかりでござるなぁ」

「まあ、向こうだと食事制限とかあったから、思いっきり食べられるなら肉とか、ジャンクとか、ラーメンとか食いたいな。好きだし」


 今日は全蔵と二人。オーカも撮影で来れず、他のメンバーも私用でお休みだ。

 今は商会の中にある食堂で食事を取っている。


 《IPO》は現実世界に近いということもあり、時間経過と共に空腹感を覚える。取り敢えず飲食可能アイテムを数個食べれば満腹感は獲られるのだが、味覚も存在するのでなるべく美味しいものを食べたい。


 なんでもこの商会には『ジェノサイド』のように色々な部隊が存在し、食育部隊というものがあるらしい。生産した野菜や小麦、家畜を始め、この世界特有の食材を使って究極の料理を作ろうとしているらしい。

 部隊名は『うまいもん食い隊』。十二人のプレイヤーがいるらしい。

 主婦から、料理専門学校の学生、パティシエ、板前、ネットなどで新レシピを投稿する人気料理人など色んな人がいるらしく、サブリーダーの人はフランスの三ツ星レストランで修行していた人で、リーダーは日本老舗旅館の板前長をしている人らしい。


 つくづくこの商会にいる人は現実で手に職付けている人が多い。


「あー、オーキ殿は元々スポーツマンだったんでござるよね?」

「うん、野球部でピッチャーやってた」

「その体格は現実のまま持ってきたんでござろ?かなりいい体でござるなぁ…肩幅も広くて、胸板も厚いでござるし、タッパもあって、フィジカル半端ないでござるな」

「自慢の体だ」

「それにしても……よく食べるでござるなぁ」

「ふぇ?」


 そんなに食べているだろうか。確かに周りよりも食べはするが、今はそんなに食べていない。

 精々、腹二分目といったところなんだが…。


 体が小さかった中学時代に、体を大きくする為、一日六食、無理やり食べていた頃が抜けずに高校でも一回の食事でかなり食べるようになっている。

 まあ、食べ盛りだからな。周りも似たようなものだったし。


「気持ちのいい食べっぷりだな」

「おや、ササキ殿。オーキ殿、こちらササキ殿といって、『うまいもん食い隊』のリーダーでござる。老舗旅館の板前長をやっていたのでござるが、二年前に息子に板前長を譲って隠居してこちらのゲームに来たのでござる。ササキ殿、こちらオーカ殿の兄君でオーキ殿でござる。拙者と同い年で、オーカ殿に誘われてこっちに来たでござる」

「ササキだ、本名そのまんまだがキャラネームだから気にせず呼んでくれ。あ、敬語が苦手だったら崩して構わんぞ?俺もネットには理解がある。気にせず崩してくれ」


 二カッと歯を見せて笑うササキさん。


 元板前長ということから年齢を察するに俺と同じくネット慣れしていなかったのだろう。多分見た目は少し弄ってあるだけでそのままだ。

 貫禄のある少し厳つい彫りの深い皺の入った顔立ち。

 服装は回らない寿司屋の人が着ている白色の調理衣。

 額にはねじり鉢巻が巻かれており、オールバックに決められた白髪によく似合っている。


 ザ・江戸っ子って感じだな。


「オーキです、敬語は普段から使うので大丈夫ですが、勉強不足なので可笑しい所もあると思いますがよろしくお願いします」

「おい、ござる…こいつ本当にお嬢の血縁か?」

「カカッ、そう言いたくなるのも仕方ないでござるが、オーキ殿はネット慣れしていないのと、ずっと野球に身を置いてきたので上下関係がしっかりしてるんでござろうな」

「普通は忍者のおめーが一番ネットに慣れてちゃいけないんだけどな」

「これは一本取られたでござるなー!」

「「ハッハッハッハー!」」


 孫とおじいちゃんくらい年齢が離れてそうなのに仲良いなぁ。

 全蔵って世渡り上手ぽいし、老若男女問わず知り合いが多そうだ。


「おっと、すまねぇな。若様」

「若様?」

「お、掲示板見てないのか。噂になってんぞ、【首狩り姫】の兄貴がゲーム初めて『ジェノサイド』に新メンバーが入ったってな」

「ちなみにでござるが、掲示板っていうのはこのゲームに関する情報などを交換したり、雑談したりする場所なのでござるが…リアルだと井戸端会議…?」

「ようするに暇人の集まりだ。俺は暇な時に読むくらいだし、情報云々はここにいれば自然と集まるから気にすんな」

「全員が全員、善人ってわけでもござらんし、『ジェノサイド』は目立つ分、ビギナーからは憧れの対象でござるが、トッププレイヤーからは反感を買いやすいでござるからなぁ…」


 人が集まればトラブルが起きるのは当たり前か。ゲームは、明日ヶ丘(うち)みたいに一つの目標を掲げて全員で同じ場所を目指している訳じゃ無いから、足並みも乱れるし、色々と衝突が絶えないだろう。


「オーキ殿みたいに気持ちのいい人ならばいいでござるが、ネットには闇と病みを抱えた人がいっぱいいる。こう言ってはなんでござるが、コンプレックスと、自己顕示欲と、承認欲求の塊みたいな人がうようよいる故、すーーーぐマウント取ろうとしてくるでござる。何が時代遅れの似非忍者だこらぁ!お前ら空蝉(うつせみ)の術できるもんならやってみろでござるぅーー!!」

「悪いな若様、こいつもこいつで過去に色々とネット関係で悩まされて来たみたいでな。若様、お代わりいるかい?」

「はぁ…お願いします」


 全蔵の過去の詮索は止すとして、俺の呼び方、若様で固定なのか…?

 そもそもなんで若様なんだろうか、名前から若なんて連想できないし…。

 余談だが、オーカは昔、桜樹(おうき)の桜を使って、おうお兄ちゃんだったのだが、それがおーお兄ちゃんに変わって、どうしても言い辛かったのか、(おう)(さくら)読みに変えて、さく兄に落ち着いた。


 オーカのさく兄も原型を留めていないし、何か色々な誤解と曲解があったんだろうと自分に言い聞かせておく。


「あ、そうそう。今月はカレーやるから当日は手伝えよ」

「ほほう、カレーとはまた…いいでござるなぁ」

「美味しそうですけど、今月はってどういうことですか?」

「あぁ、ただ単純に料理作るのもいいけど、NPCの好感度稼ぎの為にこっちで三ヶ月に一回、向こうだと一ヶ月に一回、大規模な料理イベントをやるんだよ。クラマスの命令でな」

「提案はオーカ殿でござるな」

「この前は二メートル越えのお好み焼き作ったな。それようのヘラを作れって鍛冶場に頼みに行ったら大ブーイングでよ、ハハッ…お、若様お代わりいるかい?」

「楽しそうですね。あ、お願いします」


 スタミナ定食をお代わりしつつ、二人の話を聞いていく。

 それにしても料理イベントかぁ、バーベキューとかは合宿終わりの定番だったが、二メートルを越えるお好み焼き…楽しそうだ。

 みんなでワイワイ騒ぐのは好きだ。ここのメンツは濃い性格してるからなぁ…。ある意味疲れそう。


「そう言えば、オーカは失礼な事してませんか?」

「あー…まぁ、強烈な性格はしてるが、懐いてくれてるし、うちの商会のマスコットみたいな感じだよ」

「商会の年配層からは孫みたいに扱われてるでござるな」

「どれだけ仲良いって言っても、やっぱりそこには壁がある。他人と家族の壁がな。そこは無意識の領域だ、別に他人でいることが悪いわけじゃねぇ。けどよ、俺たちも俺たちで一人の人間だ、年寄りだからってずーっと気遣われちゃたまったもんじゃねぇ…だが、時より寂しくなんだわ。息子も立派になって、孫も出来た。目に入れても痛くねぇ、なんなら腹ん中に入れても問題ねぇくらいには愛してる」

「現実で赤ずきんちゃんをやるのは、衝撃映像なので勘弁して欲しいでござる」

「上手い、座布団一枚だござる。後で賄いで作ったお稲荷さんやるよ……ま、こんな会話も悪くねぇんだが、 やっぱり孫とは違う。これ買ってあれ買って、あそこ連れてって、ここに行きたい。我儘言ってほしーんだよ。だから、オーカちゃんや、クラマス…ミサキちゃんみたいな年寄りにも遠慮が無い子は周りから見たらあれだが、こっちも口で文句言いながら嬉しーんだよ、遠慮無くこき使ってくれるのが」


 そう言ってササキさんは少し照れたように、先程と同じく二カッと笑う。


「まあ、ササキ殿は江戸っ子型のツンデレでござるからなぁ」

「あの子、無茶ぶり言う割には、絶対にじぃじ、ばぁば呼びだからな。あ、若様お代わりいるかい?」

「じぃじ、ばぁば呼びは昔からの癖ですからね。近所のおじいちゃん、おばあちゃんにもそう呼んでました。あ、お願いします」


 迷惑はかけているみたいだが、本人が満足そうなので良いのかな?

 まあ、それはそれとして、後でオーカにはそれとなく注意おこう。ご褒美も添えて。


「最初会った時とか凄かったぞ『ササキのじぃじ、料理得意なんでしょ?オムライスと、唐揚げと、ハヤシライス作って。ハヤシライスはご飯の上にトロトロの卵乗せてお願い』なんて言うんだぜ?出来なくはねぇが、こちとら三世紀前から続く老舗旅館の板前長だぜ?それこそ俺に包丁握らせるなんざ業界人でも難しいくれぇだ。その相手にいきなり洋食頼みやがる、これは本当に笑ったぜ」

「あーー…昔からの好物なんですよその三つ」

「へー、そうなんでござるか?オーカ殿はお兄ちゃんの好物で、昔から両親がいないとこればっか作ってたって言ってたでござる」

「逆も逆だよ。ナイター終わって家帰ったらオーカが暗いリビングで毛布にくるまって泣きながら待っててさ、母さんも夕食簡単に作ってくれてるのに『オムライスが食べたい。オムライスじゃなきゃやだっ』って泣き止まなくて、でも俺、料理作ったどころか、家庭科でしか包丁握ったこと無かったからパソコンでレシピ調べて焦がしながら作ったんだよ。その後も定期的に泣いてて、食べたい料理作るまでずーっと泣き止まなくて…大変だったなぁ」

「その中でオーカ殿が好きだったのがオムライスと、唐揚げとハヤシライスってことでござるな?」

「うん、お陰で自炊が得意になったよ。メニューに偏りが凄いけどな」


 オムライス、唐揚げ、ハヤシライス、ハンバーグに、肉じゃが、ポテトサラダ…ナイターでクタクタになりながら作ったのが懐かしい。

 途中で半分寝ながら野菜切ってたら、丁度帰ってきた母さんに怒鳴られたなぁ…。


 あれ、オーカに料理作ったの最後いつだっけ…。


「お嬢にとって、オムライスとかはお袋の味ならぬお兄ちゃんの味ってわけだな…あ、お代わりいるか?」

「胸張れるほど美味しく無いですけどね。頂きます」

「ねぇ、オーキ殿、さっきから何回お代わりしてるんでござるか?」

「んー、いっぱい」

「いいじゃねーか、これだけ気持ちよく食べてくれるのは料理人として嬉しい限りだぜ。そういや、若様は野球少年だったんだろ?」

「はい」

「俺の孫の一人…長男も野球やっててな、最近甲子園優勝した明日ヶ丘の一年生なんだわ、昔から野球が得意でな、来年にはスタメンかもしれねぇから今から楽しみだ!」

「一年生…佐々木……紀人(のりひと)?」

「あれ、若様うちの孫と知り合いか?」

「いや、その…なんて言うか……俺も明日ヶ丘の選手だったんで」

「それは本当ですか!!!?」


 思わず名前を言ってしまった俺の落ち度だな。まあ、この二人なら安心…かな?

 と思った矢先、天井からガタンッと音がすると一人の少女が俺の隣にスタッと降り立った。


「明日ヶ丘で、元野球部の、オーキ……まさか本当に…!!」

「ママ…いつの間に潜んでいたでござるか」

「くノ一なので」

「なら仕方ないでござるな」


 それですませちゃいけないだろ…。

 天井から降り立った少女は服部ママ、全蔵の妹だった。天井から降り立ったって字面が凄いな。


「おいおい、若様…それ本当か?」

「えーーっと、はい…」

「拙者は何となく知っていたでござる」

「まさか、本当に!!会えるなんて!」


 ササキさんは口をあんぐりと開けて驚いている。

 全蔵は…前にオーカから向こう(現実)で知り合いぽいことを言っていたので予想はついていたのだろう。


 それより問題は隣で目をキラキラと輝かせているくノ一…いや、くノ一というより少し派手目の女の子だ。

 くノ一というより、普通に女子高生だな。

 全蔵の素顔をあまり見た事がないので似ているかどうかは分からないが、少しウェーブのかかったセミロングの茶髪に、くりりとした黒目。薄目の化粧をしており、艶やかに光る唇が魅力的な女の子で、体も女性的なんだが…くノ一ですよね?


「あ、あ、改めまして…服部ママです…ママって気軽に呼んでください…えっと、い…オーキさん!」

「あ、はい、オーキ=ペンデレエークです。よろしくお願いします」


 ここまで素直に好意を向けられると困ったな…。

 今も、頬を赤らめながら、「下の名前で呼んじゃった…」と小声で口元を緩めながら嬉しそうに呟いている。

 こういう時は無難に、ファンとして応援してくれていたことを感謝しつつ、同じクランのメンバーとして…


「同じくクラン…同じ屋根の下……同棲」

「ママー、それだと拙者もササキ殿とオーキ殿と同棲していることに……ダメだ聞いてないでござる」

「あ、あの!握手してもらっていいですか!」

「いいですよ…?」


 アイドルならまだしも、一、高校生に過ぎない俺と握手してもそこまで希少性は無いと思うんだが…。まぁ、こういう風に応援してもらえるのは悪い気分どころか、とても嬉しい。素直に握手に応じよう。


「私、一生手を洗いません…」

「洗ってください」

「え、でも…せっかくの…」

「握手くらいいつでもしますから…」

「握手をいつでも……毎日握手…毎日俺と握手してくれ…プロポーズ……!」

「いや、あの…」


 凄い曲解を見たな。自分の世界に入っているのか、こちらの声が聞こえていない。


「オーキさん!うちの兄者のこと、お義兄(にい)さんって呼んでやってください」

「全蔵が兄貴…それだけで結婚したくない理由になるな…」

「オーキ殿!?」

「兄者、今すぐ縁を切りましょう」

「ママ!!?」

「若様、お代わりいるか?」

「お願いします」

「まだ食うでござるか!?」


 それよりどうしようか。ゲーム二日目で身バレしてしまった。オーカに迷惑がかからないといいけど…


「全蔵、こういう時、どうするのが正解なんだ?」

「こういう時こそ掲示板でござるよオーキ殿」


 小声で全蔵に相談すると、全蔵が親指を立ててサムズアップしながらドヤ顔で任せろと訴えてくる。

 流石、こういう時に頼りにる。


「『今、ネ友の妹に身バレしたんだけど質問あるやついる?www←ちな、俺有名人ww』これで大丈夫でござる」

「よく意味が分からないけど、ありがとう。恩に着るよ」


 後日…というよりも数時間後、ログインしたオーカに事情を説明した所、少し小言を貰ったが許してくれた。バレた相手が良かったのか、「あの三人でまだ良かったよ」とオーカが言っていた。


 余談だが、何故か全蔵がオーカに二時間ほど怒られていた。気の毒に思えたので「全蔵は色々と俺の為に対処してくれたから許してくれ」とオーカに頼むと、全蔵が泣きながら許しを乞うてきた。


 何故だ。

《後書きのコーナー》


[今話の感想]


オーカ「オーキ兄…」


オーキ「申し訳ない…」


オーカ「それはいいんだけど、今回も戦ってないね。傭兵やめたら?」


オーキ「いや、それは俺のせいじゃ…」


オーカ「いつになったら初戦闘出来るんだろうね」


オーキ「次こそは、次こそは!!」


[オタク化計画・アニメを見よう]


オーキ「オーカ…二期はいつ放送するんだ…?」


オーカ「伏線残した終わり方してるんだけど…正直時間が開きすぎてるし、原作も最近完結しちゃったからなぁ。でもでも、長期間時間が開いたり、完結してからアニメやるやつもあるから安心して…!」


オーキ「この喪失感は…野球と同じ…どうしたらいい?」


オーカ「人生賭けた野球と、アニメ一本を同列に扱わないで……取り敢えず原作を読むのも一つだけど、やっぱり次のアニメを開拓するのが一番だよね!」


オーキ「でもそれが終わったらまた喪失感が…はっ…!」


オーカ「そう、そのループこそオタクの沼だよ…にししっ、ようこそオーキ兄、オタクの世界へ。次のアニメはAn〇el Be〇ts!だよ」


オーキ「今すぐ見てくる…!」


[次回予告]


オーキ「次回こそは初戦闘!次回、オーキの初戦闘!苦戦の中に光る才能…!」


オーカ「…次回『掲示板を見よう。その1』……」


オーキ「なんでだよぉぉぉ!!」

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