病室にて ーポストカードループー
♠️
「元気か?」
「といってもお前は入院中やから、あんまり元気ちゃうか」
「いやね、昨日妹と映画を観に行ったらポストカードを配っとってな」
「使い道あらへんから、お前にでも送っとくわ」
「P.S. 最近、膝の裏が痒い」
・サングラスをかけたスーツ姿の黒人が銃を構えている絵のポストカード
――本条より
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「先日は、何の感動もないポストカードをありがとう」
「なんだ、”膝の裏が痒い”って。知らん」
「そうだ、一つお前に忠告がある」
「お前が好きな看護師の佐々木さんが、これを見て”変なハガキ”って言ってたぞ」
「書くなら、ちゃんと書いた方がいい」
「P.S. 佐々木さん、この前彼氏と別れたらしいよ」
・富士山が描かれたポストカード
――柚木 素直
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「平素は並々ならぬお引き立てを心より感謝申し上げます」
「この度は、先週購入致しましたビデオゲームの付録で絵葉書をいただいたものですから、気の置けない友人に普段は言い難い感謝の意を込めて、お手紙をしたためました」
「いつも私のような若輩者と、談笑をしていただき誠に感謝をしております」
「それと看護師の佐々木様、いつも友人がお世話になっております」
「友人は”素直”という名前でありながら、全然素直でないところがありますから、さぞご迷惑をおかけしていることと存じます」
「しかし、彼はとても良い奴なのです(私には到底及びませんが)」
「今後とも彼のことを何卒宜しくお願いします」
「P.S.佐々木様は年下の男性についてどう思われるでしょうか。彼氏が年下でも問題ないですか?高校生でも大丈夫でしょうか?お教えいただけると幸いです」
・猫耳をつけた幼女が可愛らしいポーズを決めたポストカード
--愛の使者、本条より
♣️
「おい、なんだこの前のポストカードは」
「直接文句も言ったが、書面でも言わせてもらおう」
「まず、ポストカードと書体が全然合ってない」
「確かにちゃんと書けと言ったが、そういうことではないぞ」
「あと、このファンシーが過ぎるポストカード。恥ずかしいからやめてくれ」
「看護師さん達に僕が笑われるんだからな」
「それに、大半が佐々木さんへのメッセージじゃないか」
「これを利用して、佐々木さんにアプローチをかけるんじゃないよ」
「……まあ、佐々木さんにはウケてたからよかったんじゃないか?」
「P.S.佐々木さん、新しい彼氏が出来たそうです」
・阿蘇山の描かれたポストカード
--柚木 素直
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「ちくしょぉ」
「P.S.ちくしょぉ」
・ゾンビ映画のおどろおどろしいポストカードに赤々しい字で
--恨めしい友人、本条より
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「ゾンビ苦手らしいので、佐々木さんが引いてました」
「P.S. すごく引いてました」
・比叡山の描かれたポストカード
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「お前から来るポストカード、山ばっかりやないか」
「かくいう俺の方はもう手持ちのポストカードが無くなってしもた」
「ポストカードを求めて家中を探し回ったのは、人生で初めて」
「結局見つからんかったし、普通の葉書をポストカード風にしてみた」
「世界にたったひとつしかないポストカードやから大事にしてくれよ」
「ほなな」
・本条の満面の笑みの写真が載ったポストカード
--お前の親友、本条より
「とっても良い笑顔ね」
佐々木さんが本条から届いたポストカードを僕の元に持ってきてくれた。
「欲しいならあげますよ」
「それは、別に大丈夫」
佐々木さんは即答すると、僕にポストカードを手渡した。
「せっかくだから、飾っておいたら?写真立て貸してあげようか?」
「冗談よしてくださいよ」
そう言って、 僕はポストカードをベッド脇のタンス棚の引き出しに入れようとした。
引き出しを開けると、先日ネット注文した【日本の美麗山50選絵葉書】が大量に残っていた。
(折角買ったけど、本条がもうポストカード持ってないんじゃしょうがないな)
僕は本条の能天気な笑顔に顔をしかめつつ、引き出しを閉じた。
病室にて ーポストカードループー 終