#5
お読みいただきありがとうございます。
本作は不定期更新です。ご注意下さい。
あの後、ヴェルン様は帰ってこられましたが商談はイマイチだった様です。
どうも本隊へ帰り着いた兵士が幾らか出た様でこちらの兵力がバレている模様です。
のらりくらりと交渉を引き伸ばされその間に本隊はかなり速度を上げてこちらへ向かっているらしいです。
おそらく騎兵が先行しているのでしょう。
流石に真っ向相手出来る兵力差ではありません。
ユウ様の指示で、王国旗を木杭に掲げてそれを抜いたらマンドレイクが〜なトラップと 資材が入ってると見せかけた箱を動かすとマンドレイクが〜なトラップ、帝国から接収した天幕の入り口を捲るとマンドレイクが〜なトラップ、で育てたマンドレイク40株を消費します。
何というか、あの手この手の嫌がらせが とても勇者の所業とは思えません。
そこまでした上で、今回は自らは戦わず 王国軍に敵の情報を流すだけ流して 撤収します。
因みに敵の規模の情報がかなり少なめになっているのは泥沼化を狙ってるそうで。
捕虜達に関してはやんわり買い取り拒否されたので王国で男娼として売っ払うそうです。
下級とはいえ帝国の爵位家のご子息様達。人気が出ることでしょう。
帝国と違いこの王国には奴隷制は有りませんが 年季奉公と言う形で売られるのです。
帝国も王国も所詮は同じ人間のやる事ですから大した違いは有りません。
まあ、十年も掘られれば自由になれるさ、とユウ様も仰ってます。
◆
捕虜の皆さんのお陰で団員に特別給与と交代での休暇が出ました。
捕虜の皆さんには生きて故郷に帰るまで元気で頑張って欲しいものです。
売り上げは当初の予定より少ないのですが これに文句を言うのは捕虜の方々に悪いので禁止されてます。
今晩は久し振りに ユウ様とヴェルン様、新規のメンバーのルチカちゃん、の四人で酒場に繰り出します。
「とりあえずエール四杯。あと食い物は各自適当にー。」
「サファは何にする? 俺は肉だな。」
また無視した。
なんというか、ヴェルン様はルチカちゃんが苦手なのかも知れません。
さりげなく無視するし余り近づかないのです。
仕方ないので話題を振ります。
「そういえば捕虜の皆さん娼館に売られるっていうのに大人しかったですねえ。」
ヴェルン様は沈黙を守ってます。
「まあ、アレだよ。 一度派手なの経験しておいたら抵抗無くなるってヤツ?」
「きっと ぐるんぐるん だったんですねえ ……うふふ……ふふふ。」
「3対1の攻守持ち回り交代制でね。頑張れない子はお尻に軽くレイピア刺したりとか。」
なんか今ユウ様が聞き捨てならない事を言った気がします。
酔いの所為か酒の席では 良く変な聞き間違いをしますから きっとそれでしょう。
「じゃあ乾杯しよう! カンパーイ!」
ユウ様の音頭で乾杯です。最初の一口はホントに最高です。
「あ、あれ………。」
エール二度目のお替りが来た時に嫌な物が目に入りました。
うちの団員が酔って女給に私の魔導の話を大きな声で自慢げに話してます。
漏らしたのはユウ様の話では無いのですが私も一応副長扱いになっているのです。
所謂軍事機密という奴です。
少し考えたら分かりそうな物ですが…………。
ヴェルン様は溜め息を吐くと酒場の亭主に会いに行きました。
次の瞬間にはユウ様の手元にあったナイフが件の団員の喉元と片目に深々と刺さり 静かになりました。
一緒に飲んでいたのも団員だったので 必死で叫びそうな女給の口を押さえ宥めてから カウンターの奥に連れて行ってました。
もし叫んでたら女給にも投げるつもりだったのでしょうナイフが二本、ユウ様の手にあります。
「これはアレだね。新人教育の台詞、もう少し考えなきゃダメっぽいねー。」
「そうみたいですね……。」
ヴェルン様が戻って来ました。
「女給も亭主も大丈夫だ。まだ死にたくは無いとよ。一応、名前と住まいは押さえた。」
「お疲れ〜。じゃ、あとはあの周りか……。」
「団長ってすごいですねえ〜、導師様〜。」
「そうですね…………。」
それ以外言えません。
一気にエールを仰って忘れてしまいましょう。
「おー!サファちゃんいい飲みっぷり!」
「おい、サファそんな飲み方すると悪酔いするぞ。」
んごんごんご………ぷふう。
「導師様もすご〜い。酔っちゃったらどうしよう〜……導師様だけに?うふふふふふふふ。」
「そういえば、ルチカちゃんって本当はお幾つなんですか?お若く見えますよね。」
「うふふふふ。幾つに見えます〜?」
ヴェルン様が目を逸らします。
ひょっとして結構歳食ってるのでしょうか?
「まあ、女性の年齢なんて水モノだからねー。」
ユウ様の言う通りかも知れません。
前に聞いた時は12歳だと言ってましたが、こうして酒場に来てる時点で、私より下 と言うことはないでしょうし。
「お頭。準備出来ました。」
さっきの女給を抑えた団員達が声を掛けて来ました。
「そうか。ルチカ、頼む。」
「おまかせ〜。」
ルチカちゃんはそう言うとナイフが生えた男の方にふらふら近づいて行きます。
で、男からナイフを引き抜くと手のひらを額に当て歌い始めました。
距離があるのと早口なのと………あとどう聞いても三人分の歌声が聞こえます。
なんなんですかね。これ?
「あの〜ユウ様?」
「ああ、これが瀕死からの蘇生って奴。まあ見てもよく分からないよね。」
三分ほどで咳き込んでのたうち始めました。
「じゃ、アレ持って帰って。小屋の準備しといて?」
「お頭は?」
「うん。俺はもう少し飲んでから帰るよ。尋問は明朝九時からね。」
「は。」
団員達は『アレ』を回収して帰って行きました。
ふらふらとルチカちゃんが戻って来ました。
「団長〜ご褒美くださ〜い。」
「ああ、そうだね。ヴェルン頼むよ。」
「……………ああ。」
ヴェルン様はこちらをちらりと見てから そのままルチカちゃんと腕を組んでどこかに行ってしまいました。
「ヴェルンの奥さんとサファって似てるらしいからねー。他の女に一晩 宛行われるのは見られたく無いんだよ、きっと。」
ユウ様はエールを飲みながらそんな事を仰ってました。
ヴェルン様もお仕事だと割り切って楽しむくらいなら楽でしょうに。
そうまでして惚れられる奥様は幸せですね。
うちの夫も実家に連れ戻されてるなら どこぞの令嬢に宛行われているのでしょうか。
もしそうなら私の事は気にせず頑張って欲しいものです。
取り戻すまでは仕方のない事ですから。
また会う日まで元気で居てくれるなら十分です。