#3
お読みいただきありがとうございます。
陽も落ち森の傍までほぼ全部隊が撤収して来ました。
本営まで距離にして[200リィ]《400m》程あってなんだか良く見えません。
見える位置まで移動すべきか思案しているうちに 副長ヴェルン様が団の半数を率いて 森に入って行ってしまいました。
残ったのは 衛生士隊、輜重隊、重機隊、これらの護衛を務める伝令士隊ですね。
今は重機隊が連弩三門の設置に大忙し、その周りでは輜重隊が空荷車で防御陣の構築にてんやわんや。
衛生士達や伝令士達も手伝ってます。
仕方ないので本営の状況が見える位置まで移動することにしました。
それにしても、屍体の散らばる闇夜の戦場の女性の独り歩きはぞっとしません。
本営まで[30リィ]くらいでしょうか? 本営前に床几を置いて腰掛けるユウ様が見えます…。
それ以外の人影ないや。おかしいな?
あ!見つけました。後列篝火の手前に棒立ちです。11人…あ、解放した帝国兵を回収したっぽいですね。
どうやら皆さん、拘束の魔術で雁字搦めの様です。この光景には見覚えがあります。
前に見た時は足元にマンドレイクを植えていて拘束が解けて逃げ出したらマンドレイクが抜ける様に細工がされてましたが今回はどうでしょう?
夜はまだ始まったばかりなので蛸壺を掘って仮眠を取ることにします。
事が起きればマンドレイクが起こしてくれる筈ですから安心です。
◆
「ふぁああ〜。」
よく寝ました。 本営に動きはまだ無いようですね。
あ!ユウ様が立ち上がりました。よく見ると前列篝火が同時にいくつか消えました。
どうやら、あちらさんがいらした様です。
馬の鳴き声がしない所を見ると歩卒のみの様ですね。あるいは騎馬隊は遠駆けの奇襲を狙っているのでしょうか?
そんな事を考えていると、あちこちでマンドレイクの悲鳴が上がり始めました。
囮部隊の皆さんもまさか味方からマンドレイク括り付けられて、それが原因で発狂死するとは夢にも思わなかったでしょうね。お可哀想に……。
その代わり 彼らの献身により、恐らくは敵歩兵夜襲部隊も既に壊滅してる事でしょう。
せめてもの供養に勇者様と一緒に吹き飛んでもらう栄誉を受けて戴きましょう。
さて後は20連の爆裂です。 ファイアボール来た! 術式発動!!
『ズズズゥーーーーーーーーーーーーーン!!!!』
正しく土砂降りですね。ユウ様をちゃんと掘り起こせるでしょうか?
これは、明朝は落穂拾いが大変そうです。
遠く帝国の本営が在ると思しき辺りに火の手が上がりました。
ヴェルン様もがんばっている様です。
さて、私の仕事は無事終わりました。
私は森の傍の仮設陣地にとっとと帰って寝る事にします。
私ごときが不死身の勇者たるユウ様を心配するなど烏滸がましい限りです。
何より寝不足はお肌の大敵ですし 夫に再会した時の為にも これは最優先にされるべき事由です。
この空の下にいるはずの愛しいあなた、おやすみなさい。