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正義の権能  作者: 小豆餅
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希乃綿貫という男

儂の名は希乃綿貫。悪の天才マッドサイエンティストだ。年齢は(七八)。もう死にかけの老いぼれ…などではない!

この鍛え抜かれた肉体。今なお衰えを知らない心肺機能。丈夫な歯。若々しい肌…はないか。まあとにかく元気な爺だと思ってくれればいい。

さて、儂の自己紹介はこのくらいにして。儂の夢、野望について語ろう。少し長くなるかもしれん。老害の戯言だと思って聞き流してくれてもいい。


儂は外科医だった。それもかなり腕のいい。その界隈での知り合いも多く、何度か難しい手術を担当したこともあった。命を救うことも、患者に感謝されることも、助けた命が明るい未来を歩むのも。全てが嬉しく輝いて見えた。

そんな儂にも転機というのは訪れる。

海外のボランティア活動に参加した時にある一人の少女と出会った。快活に笑う笑顔が素敵な明るい女の子じゃった。

名はミレイ。名に恥じぬ容姿の持ち主で、同年代からの人気も高かった。二週間ほどの滞在じゃったが儂はミレイと仲良くなった。娘ほどの年頃の少女に恋心などを抱いていたわけではない。純粋にもう一人の娘のように接していた。

じゃが、ミレイの異変に気が付いたのは日本に帰る前夜。ミレイが儂の部屋を訪れた時に聞かされたのじゃ。ミレイは不治の病にかかってしまい寿命は短いと。病名を聞けばステージ3の癌だという。

じゃが、儂なら、日本なら手術をして助けることができる。絶対とは言えないが高い確率で命を救える。それをミレイは拒否した。

「迷惑かかっちゃうよ。それに私のためじゃなくて、弟たちの為にお金を残しておきたいの」

「それじゃあ、ミレイが…」

儂は説得しようとした。じゃが、ミレイの決意は固く簡単に揺らぐものではなかった。それだけミレイの覚悟は重かった。

儂はこの時初めて自分が無力な存在なのだと絶望した。目の前の前途が有望な少女一人救えないゴミ屑なのだと。

それから日本に帰ってきてからの儂は抜け殻のように死んでいた。何をするにも気力が沸かず、妻は娘を連れて家を出て行った。だが、それで良かったのかもしれん。昔も今も儂は正常ではない。こんな者が親戚では世間から白い目で見られるに決まっている。

そして無気力な儂の前に二度目の転機が訪れた。

「お爺ちゃん、大丈夫?」

「君は?」

ホームレスになりかけていた儂に声をかけてきたのはミレイ…ではない。当然だ。ミレイは儂が日本に帰ってきてから一度も連絡を取っていない。既にこの世にはいないかもしれない。

「私は堀部朱音。困ってる人がいたら助けるって、魔法少女のお姉ちゃんが言ってた」

「そうか。だけど、俺みたいな知らない人に声かけちゃダメだよ」

「朱音、お爺ちゃんのこと知ってるよ?」

「え??」

この時衝撃を受けた。朱音をよくよく見てみれば幼い頃の娘にそっくりなのだ。

この時はまさかとは思った。妻の前の姓はたしかに堀部だった。だが儂の写真を未だにとっているとは思わなかったから。そして孫の顔が見られるとは思っていなかったから。

それから朱音はよく遊びに来るようになった。流石に公園で待ち合わせるわけにはいかないので自分の家を教えた。ボロい安アパートでの生活だったが、無気力な儂は何も気にすることなく生活を送れていた。

「朱音ねー、大きくなったら魔法少女になって世界の平和を守るの!」

「そうか。なれるといいな」

幼い朱音は無邪気だった。大人になるにつれて諦めていく夢を、躊躇うことなく口にした。暗く重かった生活に、徐々に華々しさが戻り、気付いた時には俺の中に不思議なやる気が満ちていた。

知り合いの工場で働かせてもらい賃金を稼ぐ。決して高くはない月給だったが、それで朱音にプレゼントを買うのが楽しかった。そんな平和も長くは続かなかったが。いや、実際は長かったのかもしれない。だが一人でいる時間の方が長い儂にとってはあまりに短かった。

「朱音!何してるの!」

その声を聞いて振り返る。度々渡していたプレゼント。家では甘やかしすぎない為に買ってもらえなかったおもちゃ。それが家族にバレてしまい、俺の存在が明るみになった。最悪逮捕されても文句は言えない状況だった。

「朱音、お爺ちゃんはいつでもお爺ちゃんだ。でも、お母さんの言うことは聞かなきゃダメだ。だからもうここには来てはいけないよ?」

「ヤダ!」

そう言って離れようとしない朱音を無理に引き剥がす。今度は儂が置いていく番だ。この時置いていく側も辛いんだと知った。だが朱音は儂と違って若い。すぐに忘れて次に会った時には全て忘れて、また違った朱音になってるだろう。

俺は今まで住んでた部屋を出て、再び浮浪の旅に出る。浮浪者…そうだ、世界征服しよう。

なぜこんなことを思ったのか自分でも分からない。既に頭のネジがどこかに飛んでいったのかもしれない。というか正常時にkの発想が出たら頭がおかしい。

儂は遍く全てを憎んだ。こんな境遇になったのも、そんな風にできてる社会も、自分自身も。全てが嫌になった。なら力で支配してしまえばいいじゃないか。政治も何もかもを牛耳ってしまえばいいじゃないか。

それからの儂は頑張った。文字通り血反吐を吐いて。この体を手に入れなければ既に死んでいたかもしれない。

悪のマッドサイエンティストを名乗っているように、儂が始めたのは人体実験の類。それもオカルト方向にぶっ飛んだ。

最初は動物で。だが、普通の研究者や科学者が行う過程をすっ飛ばしての実験は、はっきり言えば賭けだった。じゃが儂は自分の脳を信じていた。培った手術の腕を信じていた。その末に手にした能力は細胞分裂の活性化。

難しい話は長くなるから割愛するとして、とにかく超能力の発現に関する発明をした。ノーベル賞が確定で貰えるほどの大発見だ。じゃが、それと同時に非人道的なものでもある。この実験過程は自身の体を犠牲にしているが、この技術が確定したとして、それはクローン技術と同じ扱いを受けることになるじゃろう。

それに公表してしまっては世界征服ができなくなってしまう。

儂はこの技術の開発の完成の後、世界を征服する為の基地及び兵器の開発に取り掛かった。最先端のテクノロジー、手術ロボットと手術自体の確立による、能力手術の成功率100%化。そして戦闘員の確保。これが一番難航した。人員の選定もそうだが、絶対に裏切らないだろうという人格の判断。なによりもこの能力手術の欠点の一つが、能力の不確定。

つまり手術を終えるまで何の能力かは分からないのだ。幸いにも手術の失敗はないため死人が出ることはなかったが、自分の望んだ能力を授けることができない。儂の作戦を実行するための人員が揃うかは運次第ということになる。

そして長い年月が過ぎ現在。望んだ能力は手に入らず、少しの焦りが出始めた頃に奴が現れた。望んでいた念力の能力者が。

奴はカリシウスという都市伝説だ。本当にいるかは分からない。世間一般では。じゃが儂らはその存在が確実にいるものだと掴んでいた。正体までは終えていないがそれでも確実にいるというのは分かっている。

そうと決まれば早速勧誘だ。天然の能力者など絶好の実験対象だ。その秘密が分かれば当然儂の軍隊の戦力増強も期待できる。

「カイト、何としてでも奴を引き込むぞ」

「はい、先生」

瞬間移動の使い手カイト。他にも沢山いるが、カイトが一番情報収集に向いている。どこに捕まろうとも脱出できるのだから、こちらの情報が漏れることはない。洗脳されてしまえば終わりだがそんな隙をカイトが作るわけがない。

「世界を掌握し、必ず…」

儂の野望は絶対に叶えてみせる。この命を賭けても。



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