退屈な日常?
ぼちぼち…ぼちぼち、頑張ります。
俺はとうとう高校生になった。いきなり話が飛んで申し訳ない。だがなってしまったものは仕方がない。
砂浜での戦いから数日。俺の元に能力者たちが現れることはなかった。初めは、力を蓄えているとか、戦力の増強を図っているとか、色々な考えが浮かんだ。
だが、待てど暮らせど一向に姿を現さない。もしや諦めた?戦意喪失した?いやいや、世界征服を目論む奴らがたった二回の戦闘で夢を諦めるわけがない。買い被りすぎかもしれないが、俺としては諦めてもらっては困るのだ。
ガヤガヤ…ガヤガヤ…
教室の中は騒がしい。まだ入学したばかりの彼らは友達作りというイベントを大いに楽しんでいる。中学の頃とは違い知らない人がほとんどの教室は、はっきり言って別世界。そもそも中学の知り合いなんか俺にはいないが。
「聖君、ライン交換しよう!」
こいつは隣の席の東雲優姫。俺の隣の席であり良き隣人…ではない!
俺にとっての良き隣人とは干渉してこない人間のこと。だがこいつは入学最初のクソみたいな授業で強制的に喋らされてからかなりの頻度で絡んでくる。
「あー、携帯、持ってない」
「え⁉︎持ってない⁉︎今時そんな人いるの⁉︎」
声でかい反応大きすぎそれと偏見で喋りすぎ。俺は家のパソコンがあるからいいの。それと持ってないわけねえだろ。嘘に決まってんだろ察しろ。
「じゃあ連絡とか、どうしよっか」
お前から受け取るような連絡などない。台風で学校が休みの時は一回学校来るからいい。念力があれば傘いらないしね。
「大丈夫」
「大丈夫?え、何が?」
「中学の頃の知り合い、いるから」
「あーー、そっか…。うんそうだよね、ごめんね」
そう言って他のグループの輪に混じっていく。なんか俺が悪いみたいな空気出しやがって。これがお前らのやり方かー!
この空気に耐えられない奴はただの敗者だ。だが俺にとっては好都合。現在進行形で優姫が慰められている。その原因は俺。教室の中に俺が悪者の空気ができている。そしてこっから俺がハブられる流れができる。
計画通りっ!
まあ、冗談は置いといて。俺が孤立する理由作りはこれで完了。後はいじめに発展しないように注意するだけ。いじめってのは被害者側だけでなく加害者側の人生も狂わせる。俺はそれをよく知っている。SNSの相談でもよくあるしね。それに自殺の原因ってのはけっこう単純なものだったりするし。
「神楽君、そのーよかったらライン交換しない?」
次は誰だ。さっきの会話を見ていなかったのか?しばき倒すぞ。
「これはこれは、吉弥君じゃないか!」
こいつの名前は我妻吉弥(あがつmよしや)。俺が唯一、一緒にいることを認めた人間だ。上から目線で申し訳ないが、正直選ぶ権利は俺にだってある。
「ここじゃ目立つ。今日は一緒に帰ろうじゃないか」
「うん、いいの?」
「もちろんだとも」
小声で吉弥君を説得し追い払う。先程断った手前簡単に携帯を出すわけにはいかない。
ちなみに何故、吉弥君だけはいいのか。これは高校進学を機にこの生活からおさらばしようと考えたからだ。所謂高校デビューだ。
日頃のパトロールなどに支障が出ない程度で、さらに超能力のことは伏せて。長い間隠してきたが意外とバレないってことが分かった。今までは保険で人との関わりを絶ってきた。だが、その心配がないなら友達を作っても問題ない、という結論に至った。
じゃあ優姫はって?おいおい、今までぼっちだった俺がいきなりあんなリア充相手にできるわけないだろう?舐めてもらっちゃ困るね。その点吉弥君は同じぼっち属性で、なによりも可愛い!これは俺がホモとかじゃなくて、純粋に吉弥君が可愛い。女装させたらそこら辺の女子より絶対可愛い。でも普通にしててもイケメンなんだよ。中性的って言うのかな。俺の物語のヒロインにはぴったりだと思いませんか⁉︎思いませんね。そもそも吉弥君は男だ。そこが残念。女子だったら能力とか関係なしに告ってる自信あるもん。
とまあ、吉弥君の素晴らしさはこんなところかな。俺が吉弥君を好きってだけなんだけど、実は一度超能力を見られてるんだよね。吉弥君にはマジックってことで騙してるけど、それもいつまで持つか。だからなるべく監視したいってのもある。
「聖君、一緒にお昼ご飯食べよ?」
「いいぞ」
昼休み。吉弥君は当たり前のように俺の元に来る。なんか小型犬みたいだよなー。マジで可愛い。
「おー、色とりどりな弁当だねー」
「でしょ?今日はちょっと頑張ったんだ。今度聖君の分も作ってきてあげる!」
「いいのか⁉︎」
と、このように吉弥君は嫁属性まで完備している。もう結婚したいね、うん!どんなに女子が束になっても吉弥君には敵わないよ。
俺の隣で手作り弁当を美味しそうに食べる吉弥君。ちなみに俺の弁当はお母さんの手作りである。俺は料理ができない。というか学校の調理実習ですらやってない。毎回皿洗いを率先してやらせてもらってる。料理に対して苦手意識がある。そもそも刃物を扱うのは危ないからね。自分の念力操作を疑ってるわけじゃないけど危険はない方がいいい。
「聖君、今度一緒に遊びに行こう?」
「いいよ」
こうして吉弥君の好感度パラメーターがどんどん上がっていく。だが、それを快く思ってない人間もいた。
「吉弥君たちってこっちの方だったの?」
「東雲さん。そうだ、ね」
「へー、ご一緒してもよろしい?」
「え。えと…」
吉弥君は戸惑いがちにこっちを見つめる。どう返していいか、判断を俺に委ねるようだ。吉弥君は俺と同類でぼっち族。イケイケリア充な優姫を苦手にしているのは分かる。吉弥君を困らせるような奴はいらん!
「お断りだ。吉弥君を困らせるな」
決まった…!
優姫を置いて颯爽と去る。俺と吉弥君は二人で帰り道を…
「私は吉弥君に聞いたの。聖君には聞いてない」
さいですか。っていうか空気読めよ。今完全に決まってただろ。お前は俺たちの後ろ姿を見て「何よあいつ…」って悔しそうに見てればいいんだよ。何食いついてきてんの?しかも俺のことさりげなく蚊帳の外にしやがって。
「ごめんね東雲さん。今日は聖君と帰る約束だから…」
よく言った吉弥君。それでこそ友達、いや同士よ!
「そ、じゃあまた今度」
優姫はそう言って去っていく。
「何だあいつ…」
ああっ!これじゃあ立場が逆だ!だが、言ってしまったものは仕方がない。
「聖君、僕こっちだから」
「ああ、じゃあまた」
ここからは一人だ。吉弥君という仲間をゲットしたことにより、俺のつまらない日常に華が加わった。最近はめっきり悪が少なくなった。というよりも俺の今の捜索範囲じゃ限界があるってとこかな。どうしても他県の犯罪までは手が出せない。地震とかは滅多に起こるものじゃないし、火事なんかの通報は俺のところにはこない。消防士の仕事だから。それ以外の小さな犯罪は見つけるのが難しい。
そもそもカリシウスが解決した事件だって偶然見つけれたからいいけど、もし見落としていたら大惨事や大事件になっていたかもしれない。逆に、こうしている今もどこかで犯罪が起こっているかもしれないってこと。
「何だあれ…?」
視線の先、黒いコートを着た人物が猛ダッシュで向かってくる。
「まさか…」
俺は久しぶりの敵に歓喜した。あの体格は大人のものではない。ということは新人類を名乗る組織の新手。もし一般人だった場合は申し訳ないが、俺を待ち構えていたってことは十中八九奴らだ。
…て待てよ。今の俺は高校の制服を着ている。つまりカリシウスではない……身バレ⁉︎
「これは逃げた方が良さそうだ」
万が一身バレだった場合は手遅れだが、おそらく住所まではバレてないだろう。それに今の格好で念力を使えば俺が超能力者だと確定されてしまう。
「悪いが、即時撤退だ」
なるべく細く死角の多い路地を選び逃走する。相手は迷わずに俺を追ってくる。なかなかの速さだが、念力補助を使った俺には及ばない。
「巻いたか…」
少し息が上がったがなんとか追っ手を振り払うことに成功した。家の場所がバレるのは嫌なので真反対に逃げたがどうだったろうか。といかここから徒歩で帰るのは面倒くさいな。
手持ちの金を確認して駅に向かう。家の最寄り駅までは電車を使おうと、改札を抜ける。
「神楽聖⁉︎」
「ん?」
駅のホーム。そこそこ人数がいる中から俺の名が呼ばれる。声の発生源を辿れば優姫が驚きの表情でこっちを指差している。
「なんであんたがここに…?」
「いや、なんでだろうね。それよりも優姫はなんでここに?」
「あ、私は塾で…」
なんだか歯切れの悪い優姫。だが俺がこいつに構ってやる道理はない。今は疲れている。それに優姫が大声出したおかげで変に目立ってるし。
「まさか…ストーカー?」
「なんでそうなる」
「だって吉弥君と一緒に帰ったんじゃ?」
「帰ったな。そのあとこっちに来たんだ。別にお前をつけてきたわけじゃない。自意識過剰ですかって」
「なっ⁉︎私は別にそんなんじゃ…」
顔を赤くして怒る優姫。そうかそうか。もう俺には関わらないでくれ。というよりも今日は不運だな。まさかこんなところで出くわすなんて。
「神楽聖」
「まだ何か?」
「あんたの連絡先教えなさいよ」
「またか」
「嘘ついてるのは知ってるのよ。吉弥君には教えたんでしょ?」
なんで知ってる。まあ、吉弥君に教えてなくてもいずれはバレただろうが。
「何で俺の連絡先が必要なんだ?」
「そ、それは…」
口籠る優姫に俺は黙って待つ。これで答えがでないようであればその時は放置だ。急に連絡先よこせとか怪しすぎるし。
「あんたと話したいって子がいるの。でもその子引っ込み思案だから私が代わりに」
「それなら本人が直接来るべきだな。俺は基本的には来るもの拒まずだって伝えとけ」
俺がそう返すと電車がちょうどよくやってきた。優姫の元から離脱し違う号車に乗り込む。ちなみに来るもの拒まず、と言ったがあれは嘘でも何でもない。俺は吉弥君のおかげで学んだのだ。友の大切さを。そして共に食を囲む素晴らしさを。あとは不意に念力を使うことがないって分かったのも大きい。
今の現状からクラス内から友達を作るのは難しい。だが他クラスならどうだろう。クラス内よりもハードルが上がるがそれでも今よりはいいだろう。それに優姫の言っていたこともある。俺は決めたんだ。いつまでもぼっちじゃダメだと。でも程よく、静かに暮らしていきたいという方針は変えずに。
「うん?ニュースだ」
電車の中やバスでの移動中、俺は基本的にニュースを見ている。普段はながら歩きになってしまうから見ないが、移動時に情報を得るのも大事なことだ。
「野生の熊が住人を襲う、ねー。俺の出番はないかな。猟友会の人がなんとかするでしょ。それに最近は動物愛護がなんとかって厳しいらしいから」
いくら人助けと言っても生き物の命を奪うのはちょっと。
多くの悪を成敗してきた俺だが、実のところまだ人を殺したことがない。これからも殺すつもりはないが。犯罪者は気絶させて警察に届けるし、こういった自然の脅威に関しては判断が難しい。
例えば目の前で熊に襲われていれば問答無用で助ける。だがその時に熊を殺すかと言えば、俺は殺さない。たとえその熊が別の日に山から降りてこようとも。
真実を言ってしまえば俺はまだ怖いのだ。命を狩ることの意味を分かっていない。それに銃なんかと違って念力には感覚がある。骨を折ればその感覚が脳にしっかりと届く。肉を裂けばその感触がしっかりと記憶に残る。俺はまだ、命の重さを知りたくない。
「神楽聖。何見てるの?」
「うおっ⁉︎…なんだよびっくりさせんなよ」
それにわざわざこっちまで来るなよ。俺がわざと別の車両に乗った意味がなくなるだろ。お前に常識はないのか?って、吉弥君と二人で帰った時も空気読まなかったな、こいつ。
「ニュースなんか見るんだ」
「悪いかよ」
「いや、ただ意外だなって思っただけ」
こいつの中での俺のイメージがどんなもんかは知らないが、こいつが俺のことを馬鹿にしてるのは分かった。
「私は全然見ないなー、つまんないし」
「そうか?中三の時、面接練習で最近の気になるニュースとか聞かれなかったか?」
「あー、聞かれた。それで本番聞かれなかった」
「そうそ…」
やばい、ついこいつの話に乗せられてる。恐るべしリア充の対話能力。まさかこの俺がここまで乗せられるとは…。(今までそんなに人と話したことがないだけ)
「じゃあ、俺次の駅だから」
「そう、私は次の次だから」
その情報はいらないです。
「じゃあ、またね」
「ああ」
軽く手を振る優姫に返事だけを返す。仲良くなるつもりはないが、最低限の礼儀は必要だろう。この歳にもなってまともに挨拶ができないのは恥ずかしいしな。
優姫を乗せた電車を振り返ることなく改札を抜ける。今日は寄り道をしたせいで余計な時間をとった。パトロールに影響がでなければいいが。
夜の気配が近付く道を俺は全力で駆け抜けた。
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