新人類
うーん…ナンカオモッテタントチガウ…
「先生!」
「帰ってきたか。それで奴は?」
「すいません。返り討ちに遭いました」
「ほう、お前たち三人を退けるとは。予想以上だな」
先生。自称悪の天才マッドサイエンティスト。本名、希乃綿貫。天才科学者であり、世界征服を目論む男。
「先生。キラの焔もおそらく防がれました。為すすべもなく拘束され敗北しました」
「そうか。だが落胆することはない。こうして生きて帰ってきたのだから。それにカイトの瞬間移動は貴重な能力だ」
「ありがとうございます」
カイトは報告を終えると部屋を出て行く。
「我ら新人類の野望のためにはあの小僧は邪魔でしかない。味方にしようなどとは思わん。手綱などつけれるはずがない」
希乃は目の前のモニターに映った映像を見てそう呟く。そこにはキラの焔を無傷で受け切った聖の姿が。
偵察用小型ドローン。蝿ほどの大きさの最新式偵察機。これも希乃が作り出したものだ。天才と自称するだけの技術と知能を集めて作った傑作。
「だが儂の最高傑作はこんなものではないが」
モニターを切り替えるとそこには多くの子供が映し出される。ここに映し出されている者たちは全て能力者である。
希乃は人工的に超能力を再現することに成功した。手術の成功率は100%。能力は個人差があるがどれも一般人と比べると圧倒的なものであった。
「儂の超能力軍団が完成した時、世界は儂の物となる」
「カイト、すまん」
「気にするな。あれは化け物だ。俺も何もできなかったからな」
「そうだぞキラ。俺なんか能力すら使ってないからな」
「クジ…」
カイト、キラ、クジは同じチームであり、希乃の超能力部隊の中では上位に位置する。単体ではそこまで強くないがこの三人は連携で最も力を発揮する。
「次は負けねえ」
「そうだな」
反省だと、次回に意気込む三人の前に少女が現れる。
「ふん、貴方達に次はないわ。私たちがあいつを捕まえてくるもの」
「サーラ…」
「行くぞカイト!」
サーラは嫌味を言うためだけに来たのかそれ以上は何も言わずに通り過ぎて行く。
クジはサーラを心の底から嫌っているようだが、カイトはどうしてもサーラが悪い人間のように思えなかった。
「カイト…」
「分かってる。大丈夫だよ」
心配そうに見上げるキラにそう答えクジについて行く。カイトは一度だけ後ろを振り返った。
三人組の襲撃を受けた日の翌日。SNSでは一部の人間が昨日の焔について呟いていた。
「人気がないと言ってもなあ、こうなるか」
まだニュースになっていないから良いものの、ニュースになれば俺だけでなく彼らの身も危ない。最近はすぐに炎上するしすぐに住所特定される。俺と同じか少し下の子供が背負うには大きすぎる問題だ。
「あいつらの意思なのか、後ろに誰かいるのか。捕まえて話を聞く必要があるな」
平日の昼間に仕掛けてくるほど大胆ではないと思うが警戒は怠らない。昨日のように不意を突かれる可能性があるからだ。というより昨日がおかしい。たしかにあそこには誰もいなかった。逃げられた時といい瞬間移動の能力だろう。本当に瞬間移動の能力だった場合警戒しても意味ないだろうが。
「聖、受験が終わったからって授業中にぼーっとして良いわけじゃないぞ。ここの問題解いてみろ」
「はぁ…」
考え事をしていただけなのにこの扱いだ。だいたいこの授業に何の意味があるんだ。たしかに俺は私立の推薦枠で早く決まったよ。だからってこんな仕打ちはないだろ!
「全問正解だな…」
悔しそうに呟く担任を無視して自分の席に座る。これに懲りたらもう僕には話しかけないことだ。
俺は世界の平和のために忙しいんだ。こんなことで頭を使わせないで欲しいね。
学校が終わればすぐに帰宅する。俺は帰宅部だが、既に三年は引退している時期のため俺以外にも下校する生徒はいる。
「俺も瞬間移動とか使えたら楽なのにな」
「俺は火炎がいいなー」
「それ昨日の花火騒ぎの奴だろ?」
「いやいや、あれは…」
近くからはそんな会話が聞こえてくる。中学生という多感な時期にカリシウスのような都市伝説が出れば影響は受けるのだろう。ネットではカリシウス超能力説や宇宙人説、果ては異世界人説まである。
「まさか、三年も続けて敵らしい敵が現れるとはな。燃えてきたぜ」
内なる願望。秘めた願い。俺は少し強かった。一般人では相手にならない。俺が安全に街を守れるのはいいことだが、やはりお張り合いがないとつまらない。
「今夜は初めから人気のないところで待ち伏せるか」
世間が家で就寝までの時間を潰す頃。寄せては返す波を眺めながら俺は砂浜に座っている。
ザザー…ザザー…
最初は立って待っていた。いつ現れてもいいように常に警戒状態で。だが、待っても待っても一向に姿を見せる気配がない。もしや昨日の一件で俺へのアプローチを諦めたとかじゃないよな。だとしたらがっかりだ。
俺がそろそろ帰ろうかと考えた時、背後から足音が聞こえてくる。果たして俺の敵か、ただの人か。ただの一般人だった場合俺は明らかにやばい奴。確実に通報案件です。
「なるほど。ここであれば人目もきにならない。何より足音で察知できるというわけね」
背後から聞こえてきたのは女の声。昨日の少年たちではないようだ。だが、口ぶりから似たようなものではあるが。
「今日は、俺もお前たちに用があるからな」
現れたのは四人組。今度は急に現れたわけではない。浜にしっかりと足跡が付いている。
「そう。でもあなたの用事に付き合う気はないの。大人しく捕まってもらうわ」
四人のうち二人が近接攻撃を仕掛けてくる。昨日の戦闘を参考にしての作戦か、それとも単純に残りの二人が遠距離攻撃の手段しか持っていないのか。
「愚策」
まずはこっちの二人。正面から突撃してくるなど芸がない。それともよほど自信があるのか。どちらにせよ関係ない。
「捕らえ…⁉︎」
少女を捕まえようと力を込めたが、一人はそれを物ともせずに突っ込んでくる。
「なるほど、無策ではないということか」
だが、俺とて何も警戒していないわけじゃない。昨日の反省を生かす時だ。幸い片方は捕らえたため実質一対一。後衛は攻撃の隙を伺っているが射線に気をつけていれば攻撃は来ない。
「その力の秘密。解明してやろう」
もう一度同じように力を込める。今度は先程よりも強く。下手をすれば受けた方の骨が折れかねないがその時は…自業自得って事で。
「ふむ、通り抜けるような感触。鰻を掴んでいるみたいだな」
少女の攻撃を躱しながら考察する。
まず攻撃手段。目の前の少女は警棒のような武器で攻撃を放つ。武器を使うということは本人にそこまで攻撃力はないのか。試しに受けてみるの手だが、俺の念力を回避したタネが分からない以上まだ早い。
次に回避。先程二回の俺の攻撃は完全に無視。意にも返さず気にする素振りもない。ということは既に能力を発動している。俺の防御念力のように体自体に作用しているものか。
「なら、これはどうだ?」
「くっ…」
ここは砂浜。使える物は色々とある。その中で俺が選んだのは砂だ。大量の砂を下から巻き上げ浮かした砂で上から攻撃する。
「なるほど。さしずめ反重力結界、と言ったところか」
砂埃に囲まれる少女。落としたはずの砂は少女の周りで浮遊している。俺の念力もあの結界により受け流されたわけだ。
「タネが分かれば結構。眠っていろ」
一点集中。力は範囲が狭ければ狭いほどどの一点に圧が加わる。鉛筆の芯よりも細い点に念力を集中して放つ。殺しきれない力が少女の体を吹き飛ばした。
「さあ、あと二人…」
「二人とも、逃げろ!」
「瞬間移動でもなければ俺からは逃げられない」
残りは遠距離二人。近接二人がやられた時点で勝負はついたようなものだが、念には念を。念力で二人を拘束する。
「逃げれないよ…お姉ちゃんを置いてなんて…」
「いいから逃げなさい!」
どうやら姉妹らしい。とても感動的な場面だが、よく考えて欲しい。俺は正義の味方だ。別に誰も殺したりはしない。
「勘違いしているところ悪いが、俺の用事は話を聞くことだ。別に殺したりはしない。暴れられと面倒だから拘束してはいるが」
「耳を貸しちゃダメ!洗脳されるわよ!」
えー。俺ってそんな悪役だったっけ?
近接お姉ちゃんの方は無視して遠距離二人組に話しかける。
「もう知っているがお前たちの目的と背後にいる人物のことを教えてもらおう」
「わ、私たちは新人類。目的は世界を手に入れること。だからあなたを排除しにきた。あなたのその力は危険すぎる」
「それはお前たちも同じではないのか?同じ能力者なのだろう?新人類と名乗っていたがまっさかその力に溺れているわけではあるまい?」
俺の尋問に少女は答える。それは物凄い喋ってくれる。嘘の可能性もあるがその時はその時だ。
この少女たちから聞き出せたのは、新人類という組織があるということ。目的は世界制服と俺の捕獲、もしくは討伐。討伐って、俺はモンスターじゃないっての。
そして現在確認できただけで七人の能力者。どうやら新人類の構成員は全て能力者と考えて良さそうだ。
「そうか。お前たちはどうしようか。このまま海に沈めるというのもアリだな」
「ひっ…」
俺の発言に見てわかるほど怯える少女。ごめんなさい、冗談です。
「冗談だ。俺の目的は正義の執行。お前たちが一般人に手を出さなければ粛清したりはしない」
俺がそう言うと見るからに安心した表情をする妹ちゃん。いや、君たちもっと危機感持った方がいいよ。相手が俺だからいいけど893とかだったら容赦しないんじゃないか。
「サーラ!」
そろそろ帰ろうかと考えた時、吹き飛ばした少女の方から声が聞こえた。昨日の少年のものだ。
「これは予想外…」
まさか増援が来るとは。少年は俺を睨むと少女を抱えたままいなくなった。
あの少年が瞬間移動か。
と、考えているとまたやってくる。今度はしっかりと三人で。
「人質のつもりか?言っとくが俺たちはそいつらの仲間じゃねえ!」
木刀の少年は切っ先を向けながら言う。こいつの能力はまだ把握できていない。
「いくぞ」
昨日のように正面から突っ込んでくるのか。それともしっかりと作戦を立てたのか。
「焼き払え!」
火焔攻撃。目眩しか。しかもこの規模、後ろの少女のことは考慮してないな。俺が避ける選択肢だったらどうするつもりだよ。
「きゃー!」
叫ばないで。海だけどこんな焔と悲鳴があれば人が集まるから。
「全く、これだから餓鬼は」
俺もだけどな。
焔を念力で防ぐ。この焔使いには海水でも浴びせてやるか。この時期の水は冷たいぞ。
海水を持ち上げ食らわせる。悲鳴が水に掻き消される。だが彼らの作戦はまだ終わっていない。
「後ろか」
「クソ、クジ!」
背後から瞬間移動の少年が現れる。もちろん拘束させてもらったがすぐに逃げられる。
「裏の裏は表だ」
焔に紛れての正面からの攻撃。悪くないが残念俺には届かない。木刀が振り下ろされるのを腕を交差し防ぐ。俺の全身には念力防御が張り巡らされている。たとえトラックに引かれても無傷で生還できる強度。木刀など脅威でも何でもな…
「回避一択だな」
「くっそがぁ!」
木刀が腕に当たる寸前、この少年は笑った。惜しかったな何の仕掛けかは分からないが表情から読み取られては意味がない。
「今日は顔隠してないんだな。急いで来たのか?」
俺の問いに、そもそも答える気がないのか口を噤む。後ろの少女とは随分と違うな。これは性格的な問題だろうか。
「触ってみるか」
捕まえた木刀に試しに触れようとし、代わりに少女に当てる。
「ああああ」
「お前っ⁉︎」
電気が流れた。木刀から電気が…怖っ!というか「お前っ⁉︎」って電気流したの君でしょう。そんな逆ギレしないでよ…
「この木刀に仕掛けがあるのか?」
「……」
黙りか。
少年の手から木刀を奪い取る。当然念力で。木刀に仕掛けがあるのかと探ってみるが特に可笑しな点はない。強いて言えば少し重い。木の重さではないな。金属か。
「お前の能力は電気だな」
「……」
目を合わせようとしないあたり、当たりだろう。…ダジャレじゃないぞ。
「もうじき警察が来る頃か。おそらく通報されているからな」
全員の拘束は解かないまま一定の距離をとる。
「では、さらばだ。また会えるのを楽しみにしているぞ!」
そう言い残し闇に溶ける。溶けると言っても瞬間移動が使えるわけじゃないが。
「奴らの狙いは俺。ああ、あいつらが一般人に悪さしませんように!」
俺の目標は世界平和だ。だが、あいつらはまだ他人に手を出していない。俺に迷惑をかける分には問題ないが、あの力を使って悪さをした時は、俺が手を下す。だからこそ、あいつらの標的が変わらないことを願う。
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