超能力
二話です。というかこっから本編みたいな感じです。
見飽きた帰り道。重そうな荷物。お気に入りのシュークリーム。
学校からの帰り道、俺は不良というものに絡まれていた。
「どこ見て歩いてんだよ。俺の肩折れたぞああん?」
今時聞かないようなセリフにヤンキー風の服装。髪は金色に染められ耳にはピアスが空いている。
「やれやれ、ここが人気のない場所でよかった。気にせずに正義が執行できる」
「何言ってんだお前」
不良は俺の発言を聞いて笑う。馬鹿にしたような笑い方はもう聞き飽きた。俺に裁かれる者たちはいつも同じように笑う。
「君たちはまだ何もしていない。やめるなら今のうちだよ?」
「ああ?」
俺の忠告に聞く耳を持たない不良は肩慣らしだと言わんばかりに拳を振り抜く。
「ああ、なんて愚かな」
その拳は俺の顔スレスレで止まる。
「何してんだ、殴んねえのか?」
「あ、ああ」
不良の仲間が訝しんだ様子で聞くが、一番驚いているのは殴ろうとした本人だろう。こいつはたしかに本気で殴った。寸止めする気など更々なかった。しかし実際は寸止めしている。
「おらっ!」
気を取直してもう一発。今度は顔の横を通り抜ける。
「はぁ⁇どうなって…」
何度も何度も繰り返し空振りのパンチを放つ。
それを見ていた仲間の一人が痺れを切らし加わる。
「何してんだよ」
「知らねえよ、当たんねえんだ」
「そんなわけあるかよ」
そうして二人がかりの攻撃が始まるが結果は変わらない。
「もういいよ。寝てな」
シュークリームの最後の一口を食べ終えた俺はそう言って不良を締め落とす。もちろん念能力で。素手でやると指紋が残るからね。
ちなみに今まで動かなかったのはシュークリームを堪能していたから。読書以外の俺の大好物。その時間を邪魔したこいつらの罪は大きい。といっても犯罪を犯した訳ではないから警察に突き出したりはしないけど。
「今日も正義は健在だ」
家に帰りパソコンを立ち上げる。俺はSNSで情報を集めている。表では相談アカウントと称し悩み相談をし、裏では悪を裁く。相談事には小さいものから大きいものまで千差万別。悩み相談で解決するようなことならいいけど、そうじゃないものは直接手を加えることもある。
「ニュースにならないような悪を見つけるのは大変だからなー」
アンパンマ◯が一人でパトロールしているのは敵と呼べるものがバイキン◯ンだけだからだ。現実はそう甘くない。俺一人では救いきれない命がたくさんある。俺はまだまだ無力だ。
自殺のニュースを聞くたびに俺は心が痛む。俺がその場にいれば助けられるのに、と。自殺を止めたからといって感謝されるわけじゃない。むしろ憎まれることもある。でも生きていればいいことが…いや、それは俺の意見の押し付けだ。自殺しようという人たちは、この世界に、自分の未来に希望を抱けなくなったから自ら死を選んだのだ。だから俺にできるのは世界を変えること。自分で自分を殺す必要のない世界をつくること。
「クソ。何で犯罪は減らない。何で悪はいなくならない?俺は無力だ!」
いつもこの結論にいたり部屋で一人泣く。春からは高校生だというのに情けない。なんて不甲斐ない……
ピコンッ!
「ん?」
パソコンからの通知オン。ダイレクトメッセージでのやり取りをしていた少女からの返信だ。
『カリシウスさん、ありがとうございました。お陰でお父さんと仲直りできました』
「そうか…それは良かった」
一人で戦い続けることの難しさ、辛さ、過酷さ。俺はこの身をもって体験した。そんな俺が今も続けていられるの理由がこれだ。感謝されるのは素直に嬉しい。これが俺の原動力であり力の源と言っていい。
「ありがとう。俺はまだ頑張れる」
今やカリシウスの名前は全国に知れ渡っている。こんおネットワークの中にも数多くのカリシウスがいる。その中でも俺のアカウントが一番の支持率を誇っている。
まあ、本人なんですけどね。
俺のことを本人だと思っている人もいればそうでない人もいる。顔が見えないのだからカリシウスの名前を借りている。
「よし、定時パトロールの時間だ」
夕食前の一時間。これが俺がカリシウスでいられる時間だ。短すぎるが夜中にもパトロールは行なっている。漆黒のマントに身を包み、目元以外を完全に隠した姿で窓から飛び立つ。
五時から六時。秋も終わるとこの時間帯はもう夜と言っていい。夏だとまだ明るいためこの時間帯のパトロールは徒歩になってしまい捜索範囲が限られてしまう。こんな格好、夜でもなければ目立って仕方がない。
自分の体に念能力を使い動きに補助をつける。こうすることで空を飛ぶことも屋根の上を飛び回ることもできる。超万能。
「今日も異常なし」
電波塔の上、街が一望できるところに着地する。ちなみに俺の視力は2。つまりここからでは人の姿を確認できない。ただ、気分的にパトロールが終了した時はここから夜景を眺めることにしている。
「お母さんが夜ご飯だって呼びに来るな。早く戻ろ」
俺は家までの最短を駆け抜ける。帰るついでに折れたカーブミラーを直していく。こういった細かいところも気を使わなければ街の平和など手にできない。例えばあのカーブミラーを直さなかったことで事故が起きるかもしれない。
「よし、時間ぴったり。そして…」
「聖―。ご飯!」
「うぇーい」
夜ご飯の匂いに釣られように下に降りる。腹が減っては戦はできぬ。一日三食は欠かせない。
「夜のパトロールはどこまで行こうか」
東京方面は夜になっても人の足が絶えない。必然的に色々な問題が発生するが迂闊に能力を使えなくなるという制約が付いてくる。それに東京は夜でも明るい。こんな格好での行動は怪しすぎる。
「今日は反対方向に行くか」
夜の光から離れるように夜空に飛び立つ。
「止まれ!」
「……?」
突然声をかけられ慌てて木の枝に身を隠す。声の主を探そうと下を見るが警察官たしき人影はない。
「こっちだ」
屋根の上、三人の人影が俺を見下ろしている。
「カリシウスだな?」
「…⁉︎」
まさか俺の正体を捉えるどころか見破るとは、警戒心が足りなかったか?それに人の家の屋根に降り立つなんて、常識のない奴らだ。
「そうだ、と言ったら?」
「貴様の力は危険過ぎる。よって我らの支配下に置くこととする」
「俺を捕らえると?」
三人の内一人は木刀を腰に下げている。他の二人の武器は見えないが丸腰ということはないだろう。
「我らは新人類。抵抗するならば容赦はしない」
そう言って三人は一斉に襲いかかってくる。
「ちっ」
この場所では思ったように力が出せない。一旦撤退だ。
「逃すか!」
俺は地面に降り立ち人気のない工場跡へと移動する。俺が本気を出せば巻けると思うが、こんな危険な奴らを放置しておくつもりはない。というかこいつらマジでなんなの。屋根走る時うるさすぎ。絶対家の人びっくりしてるよ。
俺がここに移動してきた理由は一つ。戦闘音で一般人に気付かれるのを防ぐため。俺自身は音を出さずに対処できるが、先程からの様子を見ていればこいつらは音に注意を払っていない。俺だけ静かでも意味がない。
「こんなところまで逃げて。だがここまでだ。大人しく捕まってもらおうか」
そんなセリフを最後に三人は連携攻撃を仕掛けてくる。
「三人がかりとは、些か慎重すぎやしないか?」
「なっ⁈」
三人など俺にとってはいないに等しい。完全に動きを封じられた三人組は驚愕の声を漏らす。顔を見るために装備を剥ぐ。
「なんだ、子供じゃないか」
「キラ、やれ!」
「でも…」
「いいからやれ!」
俺のことなど無視して会話をする少年。
「くらえ灼熱!」
「なっ⁉︎」
今度は俺が驚愕する番だった。キラと呼ばれた少年は火炎を放ったのだ。どこから、と聞かれると一瞬のことで把握できず答えられないが、たしかに焔が俺を襲った。視界を埋め尽くすほどの火炎は俺の体を包み込んだ。
「逃げられたか」
念力の制御が乱れた隙に三人組はいなくなっていた。
「まさか、俺以外にも能力者がいたのか」
今まで考えては消してきた可能性。俺に能力があるように、俺以外にも能力者がいると考えたこともある。探したことも。だが見つからなかった。
「しかも二人も」
焔を使ったキラ。そして一瞬で俺の前から消えた能力。そして木刀の少年。あの木刀の少年かリーダー格の少年。どちらかが能力者である可能性が高い。
「奴らの狙いは何なのか。これからは注意する必要があるな」
アスファルトに残る焔の残滓を踏み消し闇に紛れた。
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