#3 入学式と噂の真相
先導されて体育館内に入り、指定されている席に腰を下ろす。
座る順番はクラス順、名簿順となっているため、必然的に一番前の席になる。
そして隣に座っている理沙と小声で話す。
「ここじゃ探せないだろ」
「……そうだね、ごめんね」
「いや、退場の時なら探せるだろう。その時にしよう」
これ以上一番前で話していると何か言われそうなため、この後は話をせずに入学式を過ごした。
ここで新入生全員の名前を呼べば一番手っ取り早いと思ったのだが、そのようなことが一切なかった。
さすがに何かがおかしい、怪しい感じがし始めたが入学式は何もなく順調に進んでいった。
残るは新入生代表の言葉、新入生退場のみとなった。
『次に新入生の言葉。新入生代表、1年1組、にーー』
「はい」
司会進行の先生が明らかに新入生代表の名前を呼ぼうとしていた。
それを遮るように返事をしてきた新入生代表の女生徒。
これはわざとしたのか、それとも緊張からのミスなのか。
その女生徒は静かにステージへと歩を進める。
黒髪ロングで姿勢が良く、ただ歩いているだけなのに目を惹く。
周りからは今の返事のことなのか、彼女の容姿をみてかわからないが、少しざわめきはじめた。
「樹、なんかあの子おかしい気がするんだけど」
理沙が不意に小声で話しかけてくる。
確かに何か違和感がある。
だけど何に対しての違和感なのかがはっきりわからない。
「ああ、理沙も感じたか。俺も感じたんだが、なんでなのか、何に対してなのかがわからん」
「さっき一瞬だけど、ちらってこっちを見てたよ、あの子。しかも樹のところをピンポイント。後はあの目が気になるね」
「マジか。てかよくそんなところまで見てたな」
意外に観察能力が特化している相方がいてくれてよかった。
俺にはそんな能力は備わっていなかったようだ。
足手まといですね、はい。
「まあ、ウチは部活とかで大会とかで注目されることがあったし、他に見られることも結構あったから結構視線に敏感なんだよね」
「そういえば陸上の大会の時とかすごいもんな」
ちなみに理沙は陸上で有名らしい。
練習風景を見たことが何度もあるが本当に凄かったのは覚えている。
「陸上もそうだけど、樹がらみも多かったんだからね……」
「なんか言ったか、最後?」
「何にもないよ。ただの独り言だから気にしないで」
この歳で耳がおかしくなってきたのか……視力はまだまだ両方1.0あるから大丈夫だからいいだろう。
「また、どうでもいいこと考えてる顔してる……はぁ」
「理沙、俺たちが話している間に、ステージの上にいるぞ」
体育館内はいつの間にか静まり返っていた。
ステージ上で顔を伏せ、新入生代表の挨拶の準備を行っている女生徒は、マイクの電源を確認し、息を吸い込む。
『暖かな春の光に誘われて桜のつぼみも膨らみ始めた今日の良き日ーー』
お決まりのセリフから始まった。
体育館全体に響く女生徒の声、綺麗で澄んだ声。
会ったことがない人から何故か聞き覚えのある声、双子の美少女の噂、奇妙な入学式の流れ。
(あぁ、やっぱり噂は本当だったんだな。今度は俺に何をするつもりなんだよ)
俺は悟った、悟ってしまった。
ステージ上の女生徒を見ると何故か目が合ってしまう。
そして、静かに微笑んだ。
『先輩方、先生方にご迷惑をおかけすることがあると思いますが、これから私たち新入生をよろしくお願い致します。新入生代表ーー』
挨拶はラストというところで、確信した俺は、理沙に伝えた。
「……理沙、残念だが噂は本当らしい。あいつらはいるぞ、同じ学校、そして同じクラスに。覚悟決めろよ」
「えっ」
やってくれたなあいつら。
これから何してくれるのか、最悪な高校生活になりそうだな。
何故だかわからないがわくわくしてきた。
俺はこの高校生活であいつらとの関係を断つ、断ってやる。
それがお互いのためなのだから。
『……二ヶ崎亜美』
ステージ上の女生徒、二ヶ崎亜美は名前を言った直後、右手を頭に乗せ髪をとった。
黒い長髪のかつらをゆっくりと全校生徒、教師に見せるように。
そして出てくる彼女の髪は腰まで延びているであろう金髪。
「天使だ……」
体育館の誰かがそうつぶやいた。
他の人から見ればそうなのかもしれない。
だけど、俺にとっては脅威、悪魔。
この一件で学校中に二ヶ崎亜美という人物を知らしめた。
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今後もより良い作品になるように頑張っていきますので、よろしくお願い致します。
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