#2 嵐の前の静けさ
校内に入り指定のクラスへ向かう最中、後ろから誰かに肩を叩かれた。
振り返ると中学校でよく見知った顔があった。
相澤理沙と言う名の少女は、腰近くまで伸びている髪をヘアゴムでまとめてポニーテールにしており、ちょっと吊り目気味だが、美少女には変わりがない。
そんな容姿は個人的には好みどストライクだ。
同じ中学では女子からも男子からも慕われていた。
それもあり、慕われていたため生徒会にも所属していた気がする。
ここだけの話だが、彼女は訳ありで髪を染めている。
もともとは黒だったのだが、ある日を境に黒っぽい茶髪、ダークブラウンに染めてきた。
ぱっと見は違和感があったが生徒も先生も特に触れることはなかった。
その訳も俺だけが知っている。
彼女は俺と似たような境遇いるため、同盟みたいな雰囲気がある。
「樹、マサ、おはよー。3人同じクラスになれてラッキーだね。これで中学から続いている同じクラス記録が4年まで延びたねー」
「理沙か、おはよう」
「相澤さん、おはよう」
ちなみに中学からずっと三人でいたのだが、マサは理沙のことを名前ではなく苗字で呼んでいる。
本人曰く、
「女性の下の名前を呼ぶときは、俺の彼女、妻になった人だけだ」
とのことらしい。
理沙は俺達に挨拶すると、肩を叩いた手をそのまま肩におき、顔を近づけてきた。
そして小声でマサには聞こえないように話しかけてきた。
「樹、あの噂聞いた?」
「……ああ、噂が本当ならあいつらだろうな。さっきクラス分けが貼ってある掲示板のところには金髪はいなかったら何とも言えないが。だけど、なんでここの高校に来るのかはよくわからん」
「いや、樹がいるからでしょ」
可能性的には多少はあるかもしれない。
他の可能性としてはただ単純に家から近いという事もある。
だがあいつらは片方は成績優秀、もう片方はスポーツ万能という話である。
運動が出来て勉強が出来る奴はそんな多くはいないと思う。
ここの高校は学力的には中盤位になっているため合格するかはわからない。
「まあ、入学式が始まればわかるだろう」
「樹、クラス分けの掲示板見てないの? 新入生の名前が全員書いてあるじゃん」
「……あの人だかりの中に行きたくなくてマサに頼んだ」
理沙はため息をつく。
そのため息がちょっとむかついたため、ため息を吸い込んでやろうかと考えたが、マサ以上に変人になってしまうため辞めた……本当にする気は全くなかったからな。
「ウチが見たときは、名前はなかったよ。でも噂になるのはおかしいから何かあると思うよ。一応気を付けてね」
「おう、わかったがお互いに、な」
理沙の場合は片方としか関係がないからそれ程注意する事ではないと思うが、念には念を入れておいてもいいだろう。
「お二人さん、朝っぱらからイチャイチャしないでくれよ。一応、俺もいるんだから忘れないでくれよ」
「イチャイチャしてねーからなマサ。な、理沙」
「そうだよ。ちょっと樹と確認することがあっただけだから」
一旦話をやめて教室まで向かうことにした。
ちなみに教室は上に行くほど学年が上がっていく。
学年が上がるにつれて上の階まで行くのはどの学校もそうなのだろうか。
中学校もそうだったので違和感はないが若い奴が上まで上ればいいのにとか思ったりするのは俺だけなのか?
「樹、なんかどうでもいいこと考えてなかった? なんか心ここに在らずって感じがしたんだけど」
「樹も噂の美少女について考えていたんだろうよ。男なんてみんなそうさ」
「いや、俺はそんなこと考えちゃいないぞ。どうせ噂だろうからさ」
これ以上あいつらのことを考えるのは正直嫌になってきたため、この話をこれで終わらせることにした。
マサはまだ話したいような顔をしていたが無視して教室に向かった。
俺達の教室は1年1組となっており、中に入ると既にグループを作っているようだったので、俺達もとりあえず固まっておくことにした。
大体同じ中学校だった奴らが固まっているだけだと思うが、話すとしたら入学式の後ぐらいだろう。
だって友達いっぱい欲しいんだもん……ごめん、気持ち悪かったな。
ちなみに、中学校の時からずっと理沙とは名簿番号が前後だった。
相澤と一ノ瀬だから前後するのはするのだが、ちょうど安藤とか間に入る苗字の生徒がいなかった。
「またこの席だね」
「だろうとは思っていたけどな。大体苗字順で座ると廊下側の前になるのは勘弁して欲しいな」
そのうち席替えするからいいだろうと思っている教師の皆様方、最初くらいは自由席にさせてくださいって感じだな。
少し理沙と話していると真面目な顔をしてきた。
「噂を確かめるのに一番いいのは、入学式がある体育館しかないね。新入生が全員集まるところで金髪を探すのが一番効率がいいはず」
「だな。ここの座席表にも名前はなかったしな」
そして噂の真相がわかるまで後30分弱。
「いっちゃん驚くかな、驚いてくれるかな?」
「大丈夫、絶対驚くよ。じゃあ……行こっか」
体育館に集まる新入生。
これからどのようなことが起こるのか、起こらないのか。
……集合時間の9時を過ぎた。
新入生全員は拍手が鳴り響く体育館の中へゆっくりと進んで行くのだった。
ブックマークしていただいた方々ありがとうございます。
引き続き皆様の暇つぶしになればと思いながら、書き進めます。