#1 風のうわさ
入学式の前日まで、俺が通う高校、一二三高校の上級生の間でこんな噂が流れていたらしい。
『今年の新入生に金髪美少女の双子が入学する』
さらに一部の人の間では、さらに詳しい情報が流れていた。
『片方は勉強ができ、もう片方は運動ができる。しかも両方トップクラスらしいが、何故か、ここの高校に推薦で入学してくる』
その真意を、樹は当日まで知ることはなかった。
日付が変わりそうな夜遅くに樹の家の前に佇む、2つの影。
「待っててね、いっちゃん」
「明日になれば、ちゃんと会えるからね」
2つの影はそれだけ言うと、暗闇に歩いて消えていった。
チュンチュン、チュンチュン……
「……カーテン閉め忘れてたから朝日が眩しい」
入学式当日の朝。
漫画のように遅刻という事はなく、いつも以上に早く目覚めてしまった。
今日も空に光り輝く太陽がいい仕事してくれているため、快晴だ。
携帯の電源を入れて、時間を確認する。
「7時……集合時間まで2時間もあるのか」
当初の予定は8時20分に起きて、家から10分弱の場所にある一二三高校に歩いていく予定だった。
二度寝するにも微妙な時間になっているため、運動着に着替え、ランニングすることにした。
小学校の『あの日』を境に今までより一層運動、勉学に励むようになったため、意外と日常化されている。
とりあえずいつも通りのコースを走ろうかとも考えてが、今日から高校生になるので、いつもとは違うコースを走る事にした。
いつもなら絶対通らない、あの双子が住んでいる家の方向に体をほぐしながらランニングを開始した。
ちなみに双子の家は一二三高校とは反対方向に位置しており、俺の家、空き地、双子の家となっていて非常に困る。
この時間に出会う事はないであろうと思いながらも、2階の双子の部屋の窓に視線を移す。
小学校の頃遊びに行った時と変わっているかどうかはわからないけどな。
特に何もなかったため視線を戻し、本格的にランニングを始めた。
双子に会わないようにするため、極力こっち方面に行くことがなかったため、周りを見るだけでも何故かテンションが上がってしまう。
ここの本屋がなくなってる、新しくコンビニが出来ている、前とは違う店になっているといろいろな発見が出来た。
コンビニは今後活用させてもらいたいところだな、うん。
結局、いろいろ見て回っているといい時間になっていたため、急いで家に戻った。
その後、家に戻りシャワーを浴び、表面がカリカリに焼かれた食パンを食べ、一二三高校へ向かうのであった。
10分弱の道のりを一人で歩いて向かう。
……友達がいないわけじゃないからな、特に約束してなかったからだから。
友達だよな、心配になってきた。
周りを見回してみると、新入生だと思われる人たちが同じ方向に歩いているのだが、一人で歩いているのは俺一人だけであった。
「なんか泣けそうだ」
「泣け泣け。この人だかりの中心で泣き、喚き、叫べ。俺はその瞬間を携帯に残す」
正面にブレザーを着て携帯を構えている坊主の男子生徒、同じ中学の小倉正輝がいた。
この人ごみの中で携帯構えているのもなかなかな変人さだな。
しかもこの人ごみの進行方向と逆方向を向いているというのも、あれだな。
正直関わりたくないところではある。
ちなみに俺は正輝のまさをとり、マサと呼んでいて、マサは普通に下の名前で、樹と呼んでいる。
「マサ、高校まで無視していくわ」
「それは俺の心に来るものがあるな。動画止めるから一緒に行こうぜ」
「仕方ないな……とりあえず動画は消そうな、お互いのために」
正輝は携帯をいじり始めたが、消したかどうかはわからないため、後で確認させてもらおう。
その後たわいもない話をしながら登校時間を過ごしていった。
高校校門をくぐるとクラス分けの掲示板の前に多くの新入生が集まっていた。
「おいマサ、これ人多すぎだろ、これ。3クラスで百人ぐらいなのに、それ以上いるような感じがするんだが」
「これ、先輩達も後ろの方にいるみたいだな。野球部の先輩が何人か見えるから間違いないな」
「先輩がいるってことは部活の勧誘とかか? 普通そういうのは合格発表とかでやらないか、普通」
先輩方が混じっているとなると、この人数は納得はいくが、如何せんこんなにいる理由がよくわからない。
心なしか男の先輩が多い気もするが、何故だろうか。
「樹はわからないだろうけど、上級生の中である噂が流れてるんだってよ」
「へー……で、その噂ってのは?」
「なんでも、金髪美少女が二人入学してくるんだとよ。見た目が似てるから双子じゃないかって話だ」
金髪美少女で双子……こんな偶然あるはずがないよな。
十中八九あいつらだ。
「一目見てみたいものだな。あわよくば同じクラス希望で。……樹、聞いてるか?」
「ああ、一目見てみたいな、一目だけ」
この人だかりの中に金髪は見当たらない。
「噂だよな、いや、噂であってくれ」
あの双子がいるいないで今後の高校生活が懸かっている。
その後二人はクラスをなんとか確認し、学校内に入っていった。
「やっと、やっといっちゃんと会える」
「小学校6年生の夏休み以来だからね。きちんと会えるのは」
2つの影に一切気づくことなく。
なんかヤンデレになりそうな感じがバンバンしていますが、そんなことにはなりませんので、多分 笑
時々、気になった箇所は修正していきますのでよろしくお願いいたします。
随時更新していきます。