クロとバレンタイン
節分から二週間もしない内にバレンタインデーだ。
私は今、悩んでいた。
場所はスーパーのペットコーナー。ブロガーさん達が悩んでいたのが分かる。
専門店でもないのに何この商品数。
世間では猫派が優勢のようで、売り場も猫関連の商品が多い。
しかし、それはそれとして犬の人気も根強い。
犬のおやつやおもちゃだけで、目移りする。
しかし、こうやってクロが何を喜ぶかを考えているだけで、彼氏がいた時よりも楽しいのは何故だ。いや、そもそも仮にも彼氏だった人の事をよく思い出せない。
かなり迷った末、今日はオーソドックスなものを試してみようと、一番定番そうな牛肉系のジャーキーを手に取った。
食事の後、くつろぎスペースのラグに寝転がるクロを呼んだ。
「クーロ」
ぴくりと耳を立てて、こちらを見るクロ。
喜ぶだろうか。この子は何を喜ぶだろう。食べ物を欲する様子がないクロに食べ物で良かっただろうか。おもちゃとかの方が良かっただろうか。
どきどきしながら、ジャーキーの袋を背に隠しながら開けた。
一つ取り出して軽く振ってみる。
顔の前に差し出すと、クロがふんふんと匂いを嗅ぐ。小首を傾げた。
「食べていいよ」
ぱくり。
食べた!
ぱあっと自分の表情が笑みに変わる。
犬の表情は分かりにくい。と言うより、人間と同じではない。
でも、ジャーキーを一つ食べ終えて、目を細めて、口の端をちょっと上げたクロの顔は、確かに笑顔に見えた。
この笑顔のために一袋全部まとめて一気にあげたい誘惑に駆られた。しかし、今まで何も食べなかったクロがどうにかなっても困るので我慢する。
見えないように背中側でジャーキーをもう二つ三つ握り込みながら、安心と喜びが混ざった幸福感にゆっくりと浸る。
喜んでくれたみたいで、良かった。