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リヒャルドの闇、死合わせのピエロ

 それは夜中の0時を過ぎた頃。

 部屋でマーロウは布団に包まり深い眠りに。


 イリスはベッド上で胡座をかきながら目を閉じての浅い眠りに。


 街を覆う静かな闇は突如波打つように蠢き始めた。

 その中心にはリヒャルドが。


 すでに月光はなく、暗闇の中でピエロメイクの表情が不気味に歪んでいた。

 

 彼が今抱く感情は狂喜だ。

 これから最高傑作を書きあげんとする劇作家の情熱と魔物の邪悪さを兼ね備えた大きな笑み。


 彼は宿屋の向かい側にある建物の上で、これから起こる惨劇を妄想する。


「では、ではでは……。そろそろ参りましょうか」


 内側から込み上げる感情を圧し殺しながら指揮者のように両腕を上げる。

 

 狙いはあの宿屋。

 まずは喜劇のように飛び起きてもらう。

 

「さぁお前達、……踊りなさい」


 ドスの効いた低い声と共に振り下ろされる腕。

 直後、ただ街を包んでいただけの暗闇が触手のようにイリス達の部屋目掛け襲いかかる。


 リヒャルドによって操られた暗闇が、宿屋ごと潰しながら周りの物まで破壊した。


 街に轟音と大勢の悲鳴が響き渡る。

 所々に明かりがつくが覆われる暗闇に光の進路が阻まれた。


 中には魔術師もいてなんとかしようと試みるが、リヒャルドの力には到底及ばない。


「ヒーッヒッヒッヒッ! ワタクシの力を魔術と同格に考えないでいただきたいですぬぇ〜ッ!」


 蠢く暗闇に怯え逃げ惑う人々を嘲笑いながら全壊した宿屋を見やる。


 他の宿泊客が瓦礫に埋もれうめき声を上げる中、イリスやマーロウらしき姿は見られない。


「ぬっふっふ。どうやらキチンと飛び起きて回避したようですねぇ?」


 向かい側の建物から優雅に飛び降りる。

 自分の引き起こした惨劇と周囲から感じる絶望に酔いしれながらイリスとマーロウを探そうとしたとき。



 ――ズドンッ!!


 リヒャルドのこめかみに銃弾が当たる。

 ひとりの青年が怪我した身体にムチをうちながらも、マスケット銃で狙撃したのだ。


「くたばりやがれクソ野郎……!」


 青年は荒い呼吸の中叫ぶ。

 だがいつまで経っても倒れないリヒャルドに違和感を感じた。


 そればかりか血が流れていない。

 驚いたように横目で青年を見るだけだ。


「……なっ!?」


 青年が驚く中、リヒャルドは彼に顔を向けながらモゴモゴと口を動かす。

 なにかを口に含んでいるようだが……。



「ダメよォ〜、舞台公演中は静かにしなきゃ? マジドン引き行為」


 そう言って口の中のなにかを超高速ではき飛ばす。

 先ほど自分に撃ち込まれたマスケット銃の弾丸だ。


 それは容赦なく青年の頭を貫通した。

 血と脳漿をぶち撒け、この場に更なる阿鼻叫喚を生み出す。


弾丸(キャンディ)ありがとさんでございました。さて……ふむ、ふむ……あちらから感じますねぇ!?」


 イリスとマーロウは街の外側を目指している。

 ならば先回りだとリヒャルドはより狂気じみた笑みを浮かべながら、今度は暗闇の中へと自らの身体を沈ませていった。


 この果てのない暗闇で自分から逃げられる者などいない。

 リヒャルドは大笑いしながら闇の中へと消えていった。




 一方イリス達は暗闇に惑いながらもなんとか門の所まで辿り着いた。


「あわわ……街がッ!」


「魔力は感じなかった……あの気配は魔物の攻撃に近い。魔物がこの街に来たっていうのかしら」


「まさか……ぼくを?」


「わからない、アタシへの攻撃かもしれないし」


 そう、わからない。

 突然の攻撃だ。

 

 ともかく逃げようと門の外へ行こうとした直後、張本人たる存在が暗い地面から飛び出すように現れた。


「おやおやおや〜? どちらへ行かれるのです御二人さん。特にそこのボ・ウ・ヤ?」


 暗がりであまりよく見えないが男の顔はとにかく不気味だ。


「ぼ……ぼく?」


「そうですよ。……"精霊の子"よ!」


 目の前の男リヒャルドの言葉にイリスは驚きの色を隠せない。




「精霊? ……マーロウが?」

 

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