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マーロウと街へ

 イリスとマーロウは廃村を抜け街までの道を歩いていた。

 本当は急ぎたかったがマーロウの歩幅とペースを考えるとそう早くは進めない。


 折角誘ったのだから配慮は必要だ。

 だが、困ったことにマーロウは周囲の暗さに怯えるかのようにイリスのローブをギュッと掴んで離さない。


「離して」


「やだ」


「離しなさい」


「むり!」


「この……ッ」



 グイグイ引っ張られるせいで身体が傾く。

 なにより歩きづらい。


 これでは余計にペースが遅くなってしまう。

 街についても宿が取れるかどうか。


 この時期は宿泊客が多い。

 そのほとんどが自分と同じ傭兵だったり冒険者だったりする。


「あーもうッ! 引っ張らないでよ!」


「やだぁ! 怖いもん!」


「なんかあったらまたあの力使えばいいでしょうがッ!」


 そうは言ってはみたが死んでもはなすかと言わんばかりに強くなっていく。

 不思議な力を持つとはいえやはりまだ幼い子供、自分の感情に正直だ。


 自分も小さい頃はこんなだった、気がする……。


「うー……」


「うー、じゃない。……ホラ、街が見えてきたわ」


 指し示す所に様々な明かりのついたそれが見える。

 賑わいの声が風に乗って少しばかり聞こえてきた。


 マーロウはすぐに表情を明るくし街を見る。

 さっきまでの恐怖心はどこへいったのか、青い瞳を目一杯輝かせていた。


「まずは宿を取る、それから夕食ね」


「ごはん?」


「そ。まずは休める所を探しましょ」


「うん! 早く行こう!!」


 今度は意気揚々と進行方向にローブを引っ張ってくる。


「……叩くよ?」


「ごめんなさい」


「よし」


 ふたり並んで歩き、徐々に光の強さが増していく。

 街まですでに目前まで来ていたそのとき。




『イリス……その子を拾ってどうするつもりだ?』


 周囲の景色が一瞬揺らめき、ヴィルヘルム神父が現れる。

 厳格そうな表情でイリスを睨みながらこちらに歩み寄ってきた。


(子供の目の前で幻覚とか……)


『イリス聞いているのか!? 君は自分の勝手都合でこの子を連れ回している。そうそうに寺院にでも預け、ついでに君も心と魂を清めるのだ』


 ちゃっかり改心させようとするヴィルヘルム神父。

 しかし幻覚と話しているところをマーロウに見られるわけにはいかない。





「ねぇイリスお姉ちゃん。このヒトだれ?」


 無視して進もうかとしたそのとき。

 マーロウが唐突に神父を指差し聞いてくる。


 マーロウはじっとヴィルヘルム神父を見つめその存在を知覚している。

 これには神父もイリスも驚いた。


「……アンタ、コイツが見えるの?」


「うん、いきなり現れたよね? 知り合いなの?」


 マーロウはイリスのローブの中に隠れるように神父から遠のいた。

 やはり幼子にはこの顔は怖かったらしい。


『し、信じられん……まさか、そんな……』


 神父も口を手で覆うようにして驚く。

 幻覚を共有して見ているという異常事態にイリスも言葉を失くしていた。 


『イリス……この子は何者だ?』


「それがわかりゃ苦労しない。……ただ、オバケの謎には迫れるかも」


『もう一度言う。……この子をどこかに預けてこい。きっとこの子は呪われている浄化しなければ』


「嫌よ、勝手に決めないで。あと子供にそんな話すんな」


『────ッ、後悔することになるぞッ!!』


 神父はまたしても消えた。

 元の現実に戻ったようで安心感から溜め息が漏れる。


 イリスはなぜこんな風に幻覚を見るようになったのかわからなかった。

 ある日突然なのだ、こういうことは。


 落ち着いたとき左手を包むように小さな感触が伝わる。

 マーロウがイリスの左手を包んでいた。


 不思議な光が宿って、イリスの心が安らぎへと変わっていく。


「……ぼくには、これくらいしか出来ないけど」


「うん、ありがとね」


「……ぼく、呪われてるのかな?」


「そんなことない」


 軽くマーロウの頭を撫でてやった。

 街の光がふたりを迎えるように人々の賑わいも添えて温かく包み込んだ。


 

 こうしてふたりは街へと入り宿を取る。

 丁度一部屋空いていたので、疲れた身体を癒すことが出来そうだ。


 マーロウは相変わらず元気で夕食を待ち望んでいた。

 

 これからのことでも大事な話があるが、まずは夕食を食べさせよう。


 さて、夕食はなにを食べさせればよいやら。

 小さいときから周りは大人ばかりの環境で育ったイリスは悩む。


 子供はおろか他人にそういったものを奢ったことなど一切ない。

 バクとの賭けに勝って何度も奢ってもらったことはあるが。


「なに食べたい?」


「なんでもいいよ」


「それが一番困るんだけど……」

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