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エリーシャ・チャフグレネードとの談合

 思えば彼女との出会いは2年前に遡る。

 とある戦場で、傭兵として部隊に配属されたのがきっかけだ。


 そのとき部隊を指揮していたのがこのエリーシャだ。

 出会った当初から彼女とは反りが合わず、よく言い争いをしていた。

 作戦のことは勿論、お互いの性格のこと。

 顔を合わすたびに小さなことでもぶつかり合っていた。


 正直そんな状態でよく任務に当たれたのが不思議なくらいだが、それでも彼女との付き合いは続いた。

 そんなある日、ある戦場で銃弾と魔術が降り注ぐ中、最前線で斬り込んでいっているときに異変が起きる。


 味方陣地に何者かの奇襲を受けた。

 そのとき、陣地にいる兵は少なく、エリーシャの護衛は女性兵士2名のみ。


 作戦上人員を裂かねばならならず、陣地が手薄になっていた所を狙われた。

 イリスは急いで戻るが、すでに焼き払われた後で、兵士の多くが殺されていたのだ。


 エリーシャと女性兵士の行方がわからなくなっていた。


 その後、軍部が彼女達を監禁している敵の居場所を突き止め、イリスに単独で救出任務に当たらせた。


 突き止めたときには数日が経過しており、迅速な行動が必要である。

 並大抵の任務ではないが、イリスは慣れた動きで、居場所である古い遺跡へと足を運んだ。


 障壁となる敵を一人、また一人との凶刃にて暗殺していく。

 敵はどうやら過激的なその国の武装勢力であり、主に剣と旧式の銃を使っていた。


 中には小さな少年の姿もあった。

 彼等も武装している。


 なにかを自慢げに、かつ満足げに話していたのを、耳をそばだて情報を掴んだ。

 エリーシャと女性兵士は遺跡の地下の部屋にいる。


 すぐにその場所へと向かったが、そこには凄惨な光景が広がっていた。

 

 薄暗く冷え切った空間、冷たい石畳に横たわる3人の見覚えある女性ターゲット

 軍服は剥ぎ取られ、下着姿で大の字のようになっていた。


 兵士としての、女性としての尊厳を失わせるほどの恥辱と暴行を受けたのだろう。

 女性兵士2人はすで息絶えていた。

 

 イリスはあまりの光景に口を手で覆った。

 同時になんとも言えないやるせなさが湧いてくる。


(人質のはずなのにまるで戦利品かなにかね……)


 そう思いかけた直後、ピクリとエリーシャの身体が動く。

 かつて純白と白銀に彩られ輝いていたオシャレな上下の下着とガーターベルトは、土や水等で薄汚れ、小麦色の肌には著しいまでの暴行の痕があった。


 だが、彼女は生きている。

 イリスが近くでしゃがみ、耳元で声を掛けると、僅かながらも反応があった。

 

「あの娘、達は……? 2人は、無事、なの……?」


 エリーシャの弱弱しい声にイリスは首を横に振り、すぐさま彼女を大きめの布で包み、その場を後にする。

 脱出時は遺跡内は大騒ぎであったが、幸い敵にも見つからずに逃げ切ることが出来た。


 この出来事以降、彼女とは戦場で逢うことはなかった。

 てっきり軍人を辞めたとばかり思っていたが……。


◇◆◇◆



「……懐かしいわね」


「もう、2年も前よ」


「違うわ。アナタのその仏頂面。もうちょっと女の子らしくしたら? モトはいいんだし」


「うっさい。ひったぱたくよ?」


「昔のアナタならすでにひっぱたいてた」


「……フン」


 マーロウとミシマは2人の様子を見て、ただならぬ関係であることを察した。

 互いに反りは合わないようだが、イリスは多少彼女を気に掛けてるような感じはする。


(過去になにがあったんやこの2人)


(お友達、なのかな?)


(どっちかっていうと、腐れ縁?)


 黙ったままマーロウは出された紅茶を飲みながら、ミシマを抱きしめている。

 そんなとき、エリーシャがマーロウの方に視線を向けた。


「ねぇ、イリス。この子達はどうしたの? アナタが子連れなんて珍しい意外に言葉がないわ」


「旅の途中で拾ったの。あ、このスライムもね」


「俺はついでかいな」


「ふぅ~ん。一匹狼気取ってたアナタがねぇ」


「……姉さんの行方を探すカギよ」


 姉という言葉を聞いて、エリーシャは口を閉ざす。

 彼女自身イリスの事情は知っていた。


 虚怪ゴーストにさらわれた姉を探すなど、本当の意味で雲を掴むような途方もない話だ。

 イリスは今でも姉が生きていると信じている。


 肉親を失う痛みをイリスは虚怪から、エリーシャはすでに戦争で味わっていた。


「……話は変わるけど、どうしてアナタはここへ?」


「大橋が壊されていたの。恐らく虚怪ゴーストの仕業よ。んでまぁ、近くにアンタがいるってこのスライムから聞いたから顔だけ見に来たってわけ」


「そりゃどうもお疲れ様。私達は今、現地調査で虚怪や魔物の実態を調べてるの。この国はもうすぐ帝国のものとなる。でも、領地が増えるということはその分奴等も増えるわ。早急に退治したいけど……」


「魔物は兎も角、虚怪に銃火器や剣は通用しないわ。アイツ等は基本死なない。せいぜい追っ払えるだけ」


「そこがネックなのよねぇ。皇帝陛下は早くやれって急かして軍部を余計に忙しくさせるし……。大佐は大佐で嫌な顔ひとつしないで任務を請け負って、すぐに部隊編成しちゃうし。お陰で休める間がありゃしない」


 エリーシャが愚痴を漏らすと、テント内に誰かが不躾に入ってくる。

 まるで地の底の暗闇から来るような不気味にして下卑た声は、イリスにとっては聞き覚えのあるものだった。


「中尉さんよぉ。偵察と指定の場所の魔物退治終わったぜ」


「御苦労様、()()


 それは盲目の忍びのバクだった。

 首吊り街道で見かけた彼の雇い主は、どうやらグルーフィン帝国だったらしい。


「なんだぁ? 人斬りのお姫様がなぁんでこんな所にいるんだよ」


「立ち寄っただけよ。……というか、アンタどうやって偵察とかすんの? 目ぇ見えないのに」


「カカカ、盲目の忍びってぇ奴には、特殊な"目"があるんだよ」

 

「……どうだか」  


「信じる信じないは勝手さね。……さて、報告をしたい所だが、すぐに大佐が戻る。それからでもいいか?」


「大佐が? エラい早いご帰還ですこと」


 エリーシャは立ち上がり、軍帽を被ったり等、出迎えの準備を始める。

 ここの虚怪や魔物の話をもっと聞きたかったが、無駄話をし過ぎたようだ。


 だが、情報を聞く機会はすぐに訪れる。

 マーロウ達を連れて出ようとしたとき、その大佐と言われる人物が現れたのだ。


 


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