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第37話 決意のダンジョン

広場にはアイスマジックドラゴンの遺体が横たえられていた。


「くそっ……。また……」


俺は奥歯をかみしめる。

グラオンは悲しそうな瞳でアイスマジックドラゴンの遺体を見つめていた。


今日一日でたくさんの仲間が逝った。

【ゴブリンキング】に【ゴブリンクイーン】。

【ゴッドスライム】、【クレイジープラント】、【ジェネラルアント】達。

そして【アイスマジックドラゴン】。


総力戦の前に集まったときに比べて広場はやけにだだっぴろく感じられた。


「相棒」


ギガがグラオンの隣に立つ。


「破壊ト混沌ノ狭間ニ誕生シタ強者ハ、絶望ノ向コウ側ヲ垣間見ル」

「…………」

「失望ト懐古。賛美ト衰退。蹂躙と瓦解ハ常ニ表裏一体ダ。空想ガ必ズシモ崩壊ヲ招ク事を夢想スルノハ杞憂ニスギズ、同胞ノ悲鳴ハ深淵ヲ木霊スル」

「…………」

「煩雑的ナ昌範ハ無血ノ沈着ニ結ビ、狂気ト頓挫ノ秒針ヲ停止スル。マシテ、劣悪ナ和平ハ偽善ノ傀儡ニスギズ、盲目的ナ慢心ハ自己犠牲スラ彷彿トサセル。錯綜ト内乱ノ矛盾ハ皮肉ナ混沌ヲ完成サセ、武双ト不義ハ必ズ破壊ヲ……」

「相棒」


グラオンが口を開いた。


「すまん、何が言いたいのかさっぱりわからん」

「同意。俺モ言ッイテテ分ケワカランクナッテイタ」


ギガはギシリと音を立てて肩をすくめた。


「相棒、心配する必要はねえ。俺は絶望も後悔もしちゃいねえ」

「……ソウカ」

「俺様の心にあるのは、アイスへの誓いだけだ」


グラオンはアイスマジックドラゴンを見下ろした。


「アイス。お前のことは忘れねえ。必ず世界の管理者の首とってきてやるからよ。少し待ってろ」


そう言うとグラオンは空に向かって吠えた。

まるで遠く離れた場所にいるアイスマジックドラゴンに聞かせるかのように。


〇●


戦闘からしばらく時がたち、夜空に満天の星空が広がったころ。

町の中心部にある教会にダンジョンモンスターたちは集まっていた。


教会の中心では火が起こされ、各人の顔をぼんやりと照らしている。


「さて、これからの話をしようか。俺たちはこれからどうすればいいか……。何か意見はないか?」


付近の家の中から拾ってきた古ぼけた椅子に腰かけて俺は言った。


「一番に優先すべきは戦力の増強ではないでしょうか。敵は世界の管理者一人とはいえ、あんな化け物相手にはこちらの手駒も多すぎるに越したことはありません」


教会備え付けの横長のベンチに座り足を組んでいるのは【バンパイアロード】のシャーロック。

シャーロックの言うことは正しかった。


「ああ、そうしたいところなんだが……」


俺は背後にあるダンジョンコアをちらりと見る。


「残念ながらダンジョンモンスターの召喚やダンジョンの作成はできなくなっちまったみたいだ」

「なんと! 世界の管理者の干渉でしょうか?」

「だろうな」


シャーロックは深いため息をついた。


「じゃあさ」


声を上げたのはベンチに寝そべる【サキュバスクイーン】のリンダ。反動をつけてベンチから起き上がる。


「【深紅の樹海】の生き残りとか【毒の湖】のポイズンゴーレムとか連れてくればいいんじゃね? あ、あと【暗黒山脈】のスノーゴーレムとかさ」


確かに、リンダの挙げたモンスターたちはA級以上だ。世界の管理者に一矢報いることができるかもしれない。

だが、


「不可能」


俺の代わりにリンダの問いに答えたのは【オリハルコンゴーレム】のギガ。教会の壁際で直立しているギガは赤い瞳を光らせる。


「は? なんでよ」

「……移動時間ガ問題。基本的ニゴーレムは足ガ遅イ。トテモデハナイガ次ノ戦イニハ間ニ合ワナイ」

「それにだ」


ギガの言葉の先を続けるのは【ファイアーマジックドラゴン】のグラオン。

燃え盛る炎をぼんやりと見つめながら言う。


「【深紅の樹海】は先の戦いでかなりの被害を出しちまった。いくら弱肉強食の世界とは言えさすがの奴らにも戦う気力も余力もねえ」


それだけ言うとグラオンはまるで教会の装飾品の一つかのようにしゃべらなくなった。


「万事休す……か」


俺がぼそりとつぶやく。


「じゃあ、ジュリアたちにできることは一つしかないってことだね」


椅子に腰かけ、足をプラプラとさせているジュリア。

ジュリアは燃え盛る炎をその大きな瞳に映した。


ジュリアはゆっくりと俺たちの顔を見回すとにやりと笑った。鋭い歯がちらりと見える。


「力を合わせるんだよ。そうすれば世界の管理者にも勝てる。なぜなら」


ジュリアは椅子から飛び降りた。


「協力は足し算じゃないから。掛け算、いやそれ以上のものを生み出せる! そのことは死んだみんなが教えてくれた」


2万の人間を倒したウルスとステンノー。

世界の管理者の左手を奪い取ったゴブリンキングとジャイアントアント。

世界の管理者を最後まで追い詰めたゴッドスライムとクレイジープラント。


「だよね!」


ジュリアは満面の笑みで俺の顔を覗き込んだ。


「ああ、そうだな!」


俺も立ち上がりジュリアの頭を少し荒っぽく撫でた。

ジュリアは少し恥ずかしそうに顔をほころばせる。

シャーロックとリンダが椅子から立ち上がった。

ギガが教会の隅からガシャガシャと音を立てて歩いてくる。

グラオンがゆっくりと首をもちあげた。


「みんな、ここまでついてきてくれてありがとう」


目をつむると死んだ仲間たちの顔が瞼の裏側に浮かぶ。


「俺たちは何人もの仲間を失った。だからこそ、俺たちは負けるわけにはいかない」


俺は改めて周りを見渡す。


【ファイアーマジックドラゴン】グラオン

【オリハルコンゴーレム】ギガ

【サキュバスクイーン】リンダ

【ヴァンパイアロード】シャーロック

【魔王】ジュリア


「ダンジョンマスターとして、ダンジョンモンスターに最後の命令だ」


【アイスマジックドラゴン】

【ゴッドスライム】

【クレイジープラント】

【ジェネラルアント】

【ジャイアントアント】

【ゴブリンキング】

【ゴブリンクイーン】

【ホワイトフェンリル】シロ

【ミノタウルス】ウルス

【ゴルゴーン】ステンノ―

【エルフ】リリー


「世界の管理者を倒してくれ!」

「かしこまりました」

「りょ!」

「御意」

「任せとけ!」

「うん!」


【ダンジョンマスター】カケル


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