第36話 真っ赤なドラゴン
世界の管理者の前に立ちふさがるのは二体のドラゴン。
ドラゴン達は眼光鋭く世界の管理者を睨みつけていた。
世界の管理者はゴブリンキングやゴッドスライムの命をかけた抵抗のせいで相当なダメージを体に負っていた。
「くっ……後から後からと……ここはまるでサーカスですわね」
セカイの管理者は自嘲するかのようにそんな冗談を飛ばす。
「あら、そちらの赤いドラゴンは【真紅の樹海】で戦った……生きていましたのね」
セカイの管理者は赤いドラゴンを見上げる。
「【破滅の炎】!!」
グラオンが大きく口を開け炎を噴射する。
「くっ!」
世界の管理者は転がるように逃げ出した。普通の生物ならすぐさま丸焼けだろうが、高い防御力を持つ世界の管理者なら一定時間だが、猛烈な炎に耐えられる。
すぐさま数十メートルの距離を取る。
しかし、ドラゴン達も世界の管理者を追った。
「逃がさないわ! 【氷河の息吹】」
上空からアイスマジックドラゴンが冷気を噴射する。
炎と違って冷気は氷漬けにされてしまう。そうなればいくら世界の管理者と言えども動けない。
「【ビーム】!」
世界の管理者はアイスマジックドラゴンめがけてビームを放つ。
アイスマジックドラゴンはビームを回避した。
時間を稼いだ世界の管理者は翼を広げ空に飛んだ。
残りMPが底をつきかけている。これ以上戦闘を長引かせるわけにはいかない。
世界の管理者は太陽の光の中に入り、姿をくらます。
「逃すか! 【破壊の火炎】!!」
巨大な火の玉が世界の管理者を追ってくる。
「くそっ!」
世界の管理者は大きく軌道をずらした。
そこから嵐のような猛攻が始まる。
二匹のドラゴンから放たれるブレスが世界の管理者の体力を削っていく。
世界の管理者は鷹に遊ばれるスズメのようにふらふらと空中を飛んでいた。
天空の支配者であるドラゴンに空中戦を挑んだのが間違いか。
そう考えた世界の管理者は地面に降り立った。
「【破滅の炎】!!」
「【氷河の息吹】!!」
自然界では対立関係にある炎と氷がごちゃまぜになりながら世界の管理者の体を覆い尽くした。
凄まじい水蒸気があたり一帯を覆う。
「やったわ!」
アイスマジックドラゴンが牙をむき出して笑う。
一方、ファイアーマジックドラゴンのグラオンの表情は固かった。
グラオンの脳裏に焼きつく記憶。それは真紅の樹海での戦い。
今と同じように上空からブレスを吐き、油断したところを【ビーム】で撃ち落とされた。
油断はできなかった。
グラオンは腹の底に力を込め、第二波が打てるように準備を整える。
蒸気が空気に溶け込み視界が晴れる。
世界の管理者はそこに横たわっていた。
「やった!」
アイスマジックドラゴンの歓喜。
グラオンも思わず口角を釣り上げる。
それと同時にグラオンは自分の胸の底にある奇妙な感情を感じた。
この感情は……不安?
「アイス!逃げ……」
「【ビームⅢ】」
世界は再び光に包まれた。
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「ちょっ!あれって……」
「まずいですな」
世界の管理者の元へと向かうリンダとシャーロックが地平の奥をまぶしそうに見ていた。
「二度目の強力な攻撃……まだそんな余力があったとは。奇想天外とはこの事ですな」
「ゆーちょーなこと言ってる暇ねぇって!2人が危なくね!?」
「ですな。急ぎま……」
シャーロックが言葉を途中でやめ、空に浮かぶ小さな点を見つけた。
小さな点は徐々に大きくなる。シャーロックは目を細める。
「あれは……グラオンですな」
「アイスマジックドラゴンは? 飛んでなくね?」
確かに空には一つの影しかない。
徐々にその影は大きくなる。
「……あれは……」
シャーロックは舌打ちしたい衝動にかられる。
大空を舞うグラオンの背中にはアイスマジックドラゴンが乗っていた。
白い鱗は真っ赤な血で濡れ、生きているのか死んでいるのかすらわからない。
「ちょっ、あれってマジやばくね!?」
リンダにもアイスマジックドラゴンが見えたのかひたいに汗を浮かべ慌て出す。
その間にグラオンはシャーロック達の頭上を越えて行った。
「我々も撤退しましょう。世界の管理者もすでに逃げ出したはずです」
「お、おけ」
リンダとシャーロックは元来た道を戻って行った。
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世界の管理者が放った【ビームⅢ】。
その渾身の一撃は警戒していたグラオンですら吹き飛ばした。何ヶ所か傷を負ったがいづれも致命傷には至っていない。
だが、油断していたアイスマジックドラゴンは違った。
右翼は根元から引きちぎれ、右足からも大量の出血。
胴体には二ヶ所の風穴が開き、アイスマジックドラゴンは飛ぶこともできず地面に叩きつけられた。
「アイス!」
グラオンは血まみれのアイスマジックドラゴンのもとに駆け寄る。
「………」
アイスマジックドラゴンはかろうじて息をしていた。
「今ジュリアのもとに連れて行ってやる! 頑張れ!」
「…………」
アイスマジックドラゴンのは何も答えなかったがグラオンは彼女を背中に背負った。
あたりを見ると世界の管理者は消えていた。逃げ出したのか隠れているのかわからないが世界の管理者を探し出す時間的余裕はどこにもなかった。
グラオンは翼をはためかせ空中へと飛んだ。
そして猛スピードでジュリアのもとへと向かう。ジュリアの【かんぜんかいふく】ならどんな傷でも治る。
しかし、死んでしまったらもう手の施しようはない。
1人なら3分とかからぬ距離も、流石にドラゴン一匹背負った状態となると5分以上かかってしまう。それまでアイスマジックドラゴンがもつかグラオンには確信が持てなかった。
「ダー……リン」
グラオンの頭の上で声がした。
「喋るな!」
「私は……孤独……だった……」
グラオンの制止を聞かずアイスマジックドラゴンのは声を絞り出す。
「人……間に……仲間がやられて……独りぼっちだった……」
アイスマジックドラゴンの瞳から涙が溢れでて来た。
「貴方と……ドラゴンと……一緒に……空を……飛んだのは……数百年ぶりよ……」
グラオンはもはや喋るのをやめさせることはしなかった。アイスマジックドラゴンの体温が下がっているのを背中で感じていた。
「生きてて……良かった……。愛してるわ……ダー……リン」
「俺もだ。俺もお前が好きだぜ。アイス」
グラオンはそう告げた。
だがグラオンの答えにアイスマジックドラゴンのは返事をしなかった。
グラオンはズシリとした重みを感じた。
背中に背負ったものが『生物』から『物体』へと変わった重みだった。
それでもグラオンはスピードを緩めることなく飛び続けていた。
無駄な事だと知りながらも。




