第34話 戦士の意地
「シャーロック、リンダ! すぐに西部防衛ラインに向かってくれ!」
「承知いたしましたぞ!」
「あいあいさーっ!」
ゴブリンキングとの連絡が途切れた瞬間、俺はリンダとシャーロックに指示を出した。世界の管理者が現れた以上こちらに戦力を固める必要性はない。
「グラオン、アイスマジックドラゴン。聞こえるか?」
続けざまに俺は空を飛ぶ2匹のドラゴンと連絡を取る。
「……どうした?」
グラオンの低い声が聞こえた。
「西部防衛ラインに世界の管理者が現れた。現在ゴブリンキングが交戦中だ。応援に向かってくれ」
「了解よ」
アイスマジックドラゴンが承諾する。
「グラオン、大丈夫か?」
「……ああ、問題ねぇ……」
本来ならグラオンのためにはここは戦わせるべきではない。だが、戦力を出し惜しみする余裕も時間も俺たちにはなかった。
グラオン達が西部防衛ラインに到達するまで3分。シャーロックとリンダではどんなに急いでも10分かかる。
「間に合ってくれ……頼む……」
これ以上仲間を失いたくはない。
俺は祈るように言った。
●○
「刺し違えてでもお前を殺す!!」
ゴブリンキングの両目は怒りの炎に包まれていた。守るはずだったゴブリンクイーンが自分を庇って死んだ。
その事実と自分に対する失望が今のゴブリンキングの原動力となっていた。
「雑魚は引っ込んでてくださいませ」
世界の管理者は笑顔で返す。
「ガアッッ!」
ゴブリンキングはひたいに青筋を浮かべるとその巨体ににつかわないスピードで世界の管理者との距離を詰めた。
世界の管理者の倍近い身長を持つゴブリンキングは力任せに世界の管理者の顔面を殴りつける。
しかし、拳は空を切った。
「蝿が止まりそうですわよ?」
紙一重で世界の管理者は拳を避けていた。
「【ビーム】」
至近距離からの光線。
ゴブリンキングは体を半歩ずらしてその光線を避ける。
光線はゴブリンキングの背後に陣を構えていた数百人の人間を焼き払った。
ビームを放った世界の管理者の一瞬の間。
ゴブリンキングはすかさず左フックを振るう。
世界の管理者は上体だけをずらしてそれを避けた。
続く右ストレート。これも当たらない。
左アッパー。
右ジャブ。
足払い。
左ストレート。
頭突き。
前蹴り。
噛みつき。
右ブロー。
膝蹴り。
目潰し。
ゴブリンキングの技はことごとく空を切る。それどころか世界の管理者はすべての攻撃を紙一重でかわしていた。
格が違う。
ゴブリンキングの中にわずかに残った理性がそう告げた。
世界の管理者にとってゴブリンキング1人を倒すのは赤子の手をひねるより簡単なこと。
確かにそうだろう。
ゴブリンキング1人ならば。
世界の管理者の背後から静かに忍び寄る緑色のツタ。
クレイジービッグツリーの操るツタは世界の管理者の隙を虎視眈々と狙っていた。
世界の管理者は気づいていない。
ゴブリンキングは右ストレートを出すふりをして足払いをかける。
世界の管理者は素早くそれを交わした。
だが、それは次の攻撃へのミスリード。
ゴブリンキングは体を回転させ、回し蹴りを繰り出した。
「おっと」
回し蹴りは世界の管理者には届かなかったが意表はつけた。それだけで十分。
少しバランスを崩した世界の管理者にツタが急速接近する。
勝負の勝ちをキングゴブリンは確信した。
が。
「視線の向きでバレバレですよ?」
世界の管理者の手は背後から接近していたツタを掴んでいた。
「ファイアー」
世界の管理者の手から放たれた火がツタを一瞬で燃やし尽くす。
「があああああああああああああ!!!!」
最後の手段が潰えたゴブリンキングは捨て身で世界の管理者に突撃する。
「はい、お疲れ様でした」
世界の管理者の手刀がゴブリンキングの心臓を貫いた。
「ガ……………………」
ゴブリンキングの巨体が地面にゆっくりと崩れ落ちる。
即死だ。世界の管理者はゴブリンキングを見限る。
世界の管理者は手についた血を払うと、ぐるりと周りを見渡した。
「次はあなた達ですか?」
世界の管理者を囲んでいたのは9匹のモンスター。
『『キシャーーーーーーーーッ』』
ジェネラルアント率いるジャイアントアント達は一斉に吠えた。
「やれやれ、昆虫風情が調子に乗らないでくださいな」
世界の管理者は大げさにため息をついた。
「シャーーーーッ!!」
ジェネラルアントの掛け声とともにジャイアントアント達が一斉に飛びかかる。
さすがにこの猛攻からは一回距離を取らざるおえない。
そう判断した世界の管理者は地面を蹴って大きく回避する。
はずだった。
「!?」
自分の左足が動かない。
世界の管理者は目を見開いた。
自分の左足を掴む、大きな緑色の手。
それは他でもないゴブリンキングの手だった。
顔を上げたゴブリンキングはニヤリと歯をむき出して笑った。
なぜだ、なぜ生きている!?世界の管理者にその答えを知る術も時間もない。
ジャイアントアント達が一気に距離を詰める。
回避を諦めた世界の管理者は両腕を使い、アントを受け流す。
正面から来たアントをしゃがんで避け、背後から来たアントを拳で叩き落とす。
しかし、協調性に優れたアント達は同時に別方向からの攻撃を仕掛ける。
6匹目のアントが世界の管理者によって叩き落とされた次の瞬間。右斜め前、背後、そして左側からの同時攻撃が繰り出された。
右斜め前のアントを弾き飛ばし、左のアントをかわす。
が、背後からのアントへの対処が間に合わなかった。
「ぎゃああああああああああああああ!!!」
世界の管理者の左腕が噛みちぎられた。
地面に叩き付されたアント達はカサカサと世界の管理者から距離をとった。
「貴様ぁぁぁぁぁ!!」
世界の管理者が自分の左肩を抑えながらゴブリンキングを睨みつける。
ゴブリンキングは血反吐を吐きながら笑っていた。
「お前じゃ…俺たちには勝てない」
「【ビーム】!!」
ゴブリンキングはもろにビームを受けて、跡形もなく消え去った。
世界の管理者は周囲のアント達を睨みつける。
「お前達は全員地獄行きだ!!!」
「シャーーーーーーー!!!!」
ジェネラルアントが大きく牙を広げた。




