第33話 西部防衛ライン異常アリ。
西から攻めてくる5000人の兵士達。
そのスピードは馬のように早く、もはや人間を超越していた。
迎え撃つはゴブリン、アント、スライム、クレイジープラント。
こちらもそれぞれの種族を超越した強さを誇る戦士達だ。
最初の攻撃はダンジョン側から行われた。
攻撃手は【クレイジービッグツリー】だ。
人の腕ほどもある太いツタが最前列にいる兵士たちを薙ぎ払う。兵士たちはいとも簡単に弾き飛ばされた。
だが、さすがは高レベルだけあり、全員うまく着地する。
しかしクレイジービッグツリーも負けてはいない。新たなツタを5本も出し、敵を薙ぎ払う。
敵は迂闊にこちら側に近づけない。
「ファイアーボール!」
兵士のうちの誰かが叫び、火の玉が空中に現れる。
直径1メートルほどの火の玉は勢いよくクレイジービッグツリーに迫ってきた。
どんなに大きく強くなっても所詮は植物。火が弱点なのは変わらない。
「」
ファイアーボールとクレイジービッグツリーの間にゴッドスライムが立ちふさがった。
ジュッっと音を立て火の玉が消える。
スライムは体の大部分が液体だ。そのため火属性攻撃はほとんど効果がない。
「馬鹿なっ!」
ファイアーボールを出した兵士が目を見開いた。
「ニュル」
ゴッドスライムが分裂したからだ。
ゴッドスライムの技の1つ。【分裂】。言わば分身みたいなものだ。
「ニュル」「ニュル」
2匹が4匹に。
「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」
4匹が8匹に。
「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」
8匹が16匹に。
「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」
「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」
16匹が32匹に。
「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」
「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」
「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」「ニュル」
そしてゴッドスライムが64匹にまで増殖した時、やっと分裂は止まった。
ゴッドスライム達はクレイジービッグツリーの周りをふわふわと飛び回る。
これで多方向から炎属性攻撃が来たとしてもクレイジービッグツリーは無事だ。
「うわあああああああああああ!」
「逃げろ!!」
兵士たちの中から悲鳴が聞こえた。
見れば必死に逃げ惑う兵士たちとそれを追い回すアントの群れ。
ジェネラルアントを先頭に、三角形の形を作ったままジャイアントアントが走り回っている。
戦車を連想させるその黒い昆虫達は兵士たちを蹴散らして行く。
ジェネラルアント達はぐるりと敵陣を蹂躙すると再びクレイジービッグツリーの根元に引き返す。
ゴッドスライムとクレイジービッグツリーはまるで要塞。
ジェネラルアントやジャイアントアントはまるで戦車。
ゴブリンキングとゴブリンクイーンは最強の予備戦力だ。
西部防衛ラインは難攻不落だった。
「キング、大分いいペースだね」
「油断するなよクイーン。『あいつ』がいつどこから現れるか分からんぞ」
『あいつ』。その正体は言うまでもなく世界の管理者だ。
世界の管理者との決戦のために2人のゴブリンは待機していた。
「リンダの話を聞く限り、奴は遠距離攻撃を使うそうだ。正直言って俺たちとは相性が悪い」
「でも、裏を返せば近接攻撃に持ち込めれば私達にも勝機はあると」
「どうでしょうかね?」
ゴブリンクイーンの言葉に返事を返したのはゴブリンキングの低い声ではなかった。
やけに丁寧でねっとりとした口調。
「私の戦法に死角はありません。貴方達のような超低レベルモンスターには逆立ちしても遅れは取りませんよ」
ゴブリンキングとゴブリンクイーンの背後に立っていたのは、他でもない世界の管理者だった。
●○
俺はダンジョンコアから西部防衛ラインの様子を見つめていた。
西部防衛ラインの状況は悪くなかった。クレイジービッグツリーとゴッドスライムが守りを固め、ジェネラルアントが攻撃を行う。
「めっちゃ良い調子じゃん!」
「ふむ、しかし世界の管理者の姿が見えませぬ」
「たしかにそうだな。もしかしたら裏をかいて直接こちらを叩きに来てるのかもしれない」
「ああー、あいつなら考えつきそう」
世界の管理者には警戒しつつも俺たちはどこか心の余裕を持ってしまっていた。
敵の人数の10%を削った頃、異変は起きた。
クレイジービッグツリーの根元付近から現れた光線。
光は直線上の地面と兵士を蒸発させた。
「は?」
俺は思わず声を漏らす。
「あ、あれって世界の管理者の!?」
リンダが冷や汗をかく。
あのこの世のものとは思えないオーバーキル。紛れもなく世界の管理者の技の1つ【ビーム】だった。
木の根元にいるのはゴブリン達だったはず。そのことを思い出した俺は慌ててゴブリンキングに連絡をつないだ。
「ゴブリンキング! 大丈夫か!?」
「………………」
応答はない。
「ゴブリンキング!」
「……マスター」
ゴブリンキングの掠れた声が聞こえた。
「よかった無事だったか。今のは世界の管理者か?」
俺は矢継ぎ早にゴブリンキングに質問をぶつける。
「マスター」
ゴブリンキングは言ったって平坦な声で答えた。
「今までありがとうございました」
「え?」
そこでぶつりと通信は途絶えた。
○●
世界の管理者が俺たちの背後に立っていた。
ニヤリと口角を上げる世界の管理者。
そして流れるように右手をさし向ける。
ハッとした時にはもう遅かった。
「【ビーム】」
俺には世界がスローモーションに見えた。
世界の管理者の口が動き、キラリとその右手が光る。徐々にその輝きはこちらに向かって来ていた。
世界はスローモーションなのに俺は動けなかった。
死んだ。
そう思ったその時。
誰かに突き飛ばされた。
地面に尻餅をつく。
顔を上げるとそこにはクイーンがいた。俺を突き飛ばしたのはクイーンだったのだ。
クイーンの横からは世界の管理者のビームが迫って来ていた。
「 !!!!!」
クイーンは少しだけ寂しそうな顔をしていた。
クイーンの上半身がビームに飲み込まれた。
時の流れが元に戻り、周囲の喧騒も耳に聞こえてくる。
「………………ああ……」
ビームがようやく消えた。
クイーンの上半身は消失していた。
数秒間下半身はバランスを保っていたが、やがてグシャリと地面に倒れた。
「あらあら、1匹逃しちゃいましたね。それにしても女性に助けられるって……ダサいですね」
「………………」
世界の管理者の皮肉が俺の耳を横切っていく。
「ゴブリンキング!大丈夫か!?」
「………………」
「ゴブリンキング!」
「……マスター……」
いつの間にか繋がっていた通信になんとか応答する。
「今までありがとうございました」
刺し違えてでもこいつを殺す。
俺は拳を固めて立ち上がった。




