第3話 おや……?〇〇の様子が……?
「初めまして!私、魔王のジュリアって言います! これから宜しくお願いします」
「いや、めっちゃ礼儀正しいやん!!」
直径何百メートルもの魔法陣から飛び出してきたモンスターに俺は思わず突っ込んだ。
「おんぎゃぁ!おんぎゃあ!おんぎゃあ!」
突然の出来事に驚いたのか、リリーの腕の中に抱きかかえられていたサキュバスの赤ちゃんが泣き出す。
「あわわ、どうしましょう! よしよし、大丈夫でちゅよー。べろべろバー」
「おんぎゃぁ!おんぎゃあ!」
リリーが変顔をしながら赤ちゃんをあやすが泣き止まない。てか、エルフの変顔って死ぬほど見たくないな。
「ジュリアに任せて!」
骸骨姿のマスクを被ったモンスターは恐ろしげな見た目に反して鈴を転がしたような声でそう言った。
「ぜったいいじょう!」
「おんぎゃぁ!お」
モンスターが叫んだ瞬間、泣き声はピタリとやみ、赤ちゃんは目を閉じた。
「きゃああああ! 死んでる!」
「眠っただけだよ」
「あ、ほんとですね」
赤ん坊は静かに寝息を立てていた。
「凄い技だな」
「でしょ? 今の技は『ぜったいいじょう』と言って敵を状態異常することができるんだよ」
「へえ、他にはどんなことができるんだ?」
「火傷、毒、石化、凍結、麻痺、睡眠、拘束、混乱、呪い、魅了——何か試す?」
「いや、遠慮しておく」
俺は丁寧に断った。
「カケルさん。そういえば大丈夫なんですか?」
眠りについた赤ん坊をホワイトウルフの隣に寝かせるリリー。そっちこそ大丈夫なのか。食べられたりしないのか、それは。
「もうそこまで敵兵が来てますよ」
「忘れてた!」
俺は遥か遠くに離れてしまった出口に目を向ける。
「だ、だ、大丈夫だよな! えっと、ジュリアって言ったか。ジュリア!あいつらを追っ払ってくれ!」
「え、めんどくさい」
「はあ!?」
「ジュリア一応生まれたてだから〜」
「そ、そんなこと言わずに頼むよぉ〜」
「えーでもでもー」
そんな押し問答をしている時、リリーは叫んだ。
「敵の侵入を感知!カケルさん!メニューから敵情報を確認してください!」
「メ、メニュー!」
リリーの声を聞き、俺は新たに追加されていた項目『侵入者情報』を選択する。
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侵入者 ランドール王国軍総司令部直轄第3中隊
隊長 アーサー・サージャ中佐レベル67
副隊長 デラ・オスマン少佐レベル60
第1分隊隊長 ドナルド・スミス大尉レベル53
第2分隊隊長 モッド・メディナ准佐レベル59
第3分隊隊長 ピーター・スティバース大尉レベル51
第4分隊隊長 ヘクター・リクレベル中尉レベル49
ほか36名
計42名 平均レベル47.8
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「ガチ勢じゃねーかよ!」
遠くの方にある入口の方に目を凝らすと動く人影が見える。どうやらあれが敵の姿らしい。
洞窟内はどう言う原理が知らないが微妙に明るい。あちらからも俺たちの姿は見えていることだろう。
「頼む! 俺たちを助けてくれ!」
今俺にできることはジュリアを拝み倒すことだけだ。
「いやだー! ジュリアより先に生まれたモンスターがいるじゃん!」
さっきから子供かこいつは!こんな骸骨の仮面かぶったモンスターが駄々こねても可愛げのかけらもないぞ。
「こいつらはあの敵に勝てるほど強くないんだよ!」
「じゃあ強くすればいいじゃん!」
「どうやって!」
「こうするの!」
モンスターは右手を最初に生まれた『ストーンスネークの方へ、左手をいまだにゴロゴロしている『トツゲキギュウ』に突き出す。
「ちょうちょうちょうしんかーー!」
その瞬間。
「モオオオオ!!」
トツゲキギュウが立ち上がりあたりを駆け回る。
「シャーーーーーッ!」
ストーンスネークが牙を剥きながら転げ回った。
「モオオオ」
「あ、あれ?」
1メートルほどしかなかったトツゲキギュウが4メートルほどの大きさになっていた。
「シュルルル」
白色だったストーンスネークは黒っぽく変色している。おまけに30センチほどだった全長は1メートルほどに伸びていた。まあまあ怖いな。
「こ、こ、これは!」
「どうした、リリー」
「進化しました! 進化していますよ!!」
「進化ぁ?」
「はい、一定レベルまで到達したモンスターは身体的により強力なモンスターへと姿を変えるんです!」
「へぇ、そんなシステムが」
「あっちはB級モンスターの『ハカイギュウ』!こちらはC級モンスターの『アイアンスネーク』!『ツイトツギュウ』を飛ばした二段進化に『ロックスネーク』と『グランドスネーク』を飛ばした三段進化です!」
「す、スゲエェ!」
「ふっふっふー、こんなもんじゃないんだな」
モンスターはさらに腕を突き出す。
「ちょうちょうちょうしんかーー!」
「モオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「キシャアアアアアッッッ」
アイアンスネークとハカイギュウが雄叫びをあげる。
ハカイギュウはみるみる体を大きくしていき、見上げるほどの高さになった。ダンプカーでも見ているような気分だ。全長は10メートルはくだらないだろう。
アイアンスネークは首が3つに分裂した。それぞれが別々の意思を持っているらしく、違う動きをしている。全長も5メートルほどになり、ハカイギュウに引けを取らない見栄えだ。
「『ジュウリンギュウ』に『ヘッドズスネーク』!! どちらもA級モンスターです!」
「グルゴゴゴゴゴゴ……」
「キシャーーーーーッ」「チチチチチチチチチ」「シュロロロッ」
A級モンスターたちは唸り声を上げる。
「すごい!すごい!すごいぞ!」
俺は思わず骸骨仮面のモンスターの手を取る。やけに小さく柔らかい手だった。
「さすがはSSS級モンスターだ!なんてすごいんだ!お前は俺の救世主だ」
「え、ええっ」
「ありがとう。生まれて来てくれて本当にありがとう!」
「……でへへ。そうかなぁ!」
モンスターは俺の手を振りほどくとさらに2種類のA級モンスターに手を差し向けた。
「もういっちょ!ちょうちょうちょうしんか!」
その瞬間。
「グモオオオオオオオオオ!」
ジュウリンギュウは徐々に小さくなり、二本足で立ち上がった。丸みを帯びた胴体は平たくなり、四肢はみるみる丸太のように太くなっていく。
最終的その場に立っていたのは上半身が牛で下半身が人間の化け物だった。
身長は3メートルほど。何かの動物の毛皮のようなものに身を包んでいた。大きな斧を背後に担いでいる。
「こ、これは……S級モンスター『ミノタウルス』!!最後に目撃されたのは400年前のはずです……!」
「シャアアアアアアアアアアアアア!」
ヘッドズスネークが一斉に悲鳴をあげた。再び頭が1つに戻ったと思うと体が縮み、手足のようなものが生えてくる。爬虫類独特の顔は徐々に変化して、人間のそれに近づいていった。
そして現れたのは髪の毛が蛇の女。身長は俺と同じくらいか。紫や黄色の柄の華奢な布をつなぎ合わせた服を着ている。彫りが深くはっきりした顔立ちだ。が、硬く両目をつぶっていた。
「こ、こ、こ、こっちは『ゴルゴーン』。伝説上のモンスターという見解が支配的だったのに……。間違いなくS級モンスターです!!!」
「す、すげぇ……でもどうして目を閉じているんだ?」
「それはですね……」
「それはあんたを石にしないためだよ。マイマスター」
「うわああっ! しゃべったぁ!!」
俺の疑問に答えたのは目の前にいるゴルゴーンだった。
「私の目を直接見ると生物は皆石化してしまうからね。あんたのことは頭についてる蛇たちを通して見えてるから大丈夫だよ。安心しな」
「モオオオオ」
不意にミノタウルスが唸り声を上げる。
「はいはい。そんなにせっつくんじゃないよ」
「モウ」
「マスター。大体の話はわかってるよ。あの人間どもを殺せばいいんだね?」
「え、いや、殺すってのはちょっとな……追っ払うくらいにしておいてくれ」
「んー……さすがにここまでレベル差があるとそちらの方が骨が折れるよ」
「モウ」
ミノタウルスも同感とばかりに鼻を鳴らした。
「いや、でも同じ人間だしな、さすがに寝覚めが悪いっていうか……」
「マスター、お言葉を返すようで悪いけど、アンタそれは甘すぎるよ」
「え?」
「ご近所トラブルじゃないんだ。殺さなきゃこっちが殺される」
そう言ってゴルゴーンは敵の方を顎でしゃくった。
俺は反射的に敵の方を見つめる。
矢が猛スピードで俺にめがけて飛んで来た。
「ヒイッ」
思わず俺は目を瞑る。
「…………………………」
数秒たっても痛みは感じない。
おっかなびっくり目を開ける。
俺の鼻先で矢は止まっていた。
ゴルゴーンが飛んでくる矢を素手でキャッチしたようだ。
「賢明な判断を頼むよ」
「……あ、ああ。あいつらを殺して来てくれ」
「お安い御用さね。デカイの、あんたもいくよ」
「モウ」
ゴルゴーンは目をつぶったまま正確にミノタウルスに指示を出す。
「じゃあ早速行ってくるさね。どんと構えて待っときな」
「ああ。頑張ってくれ」
「任せときな」
「頑張るだモォー」
「「「喋れるのかよ!!!」」」
ゴルゴーン♀
レベル 2741
ランクS級
ダンジョンポイント874万ポイント
ミノタウルス ♂
レベル2811
ランクS級
ダンジョンポイント883万ポイント
ダンジョン名 未定
ダンジョンマスター カケル
ダンジョン面積 東京ドーム1個分
保有モンスター
F級 11体
E級 6体
D級 1体
C級 0体
B級 0体
A級 1体
S級 2体
SS級 0体
SSS級 1体
モンスター 計 22体
保有ポイント 0