第26話 白い龍と黒いアリ
特別連合軍 第1大隊は【暗黒山脈】にある【トスベレエ山】の麓に駐屯していた。
昨日、半日かけて暗黒山脈まで移動をしたにもかかわらず兵士たちの指揮は上々だ。
それもそうだろう。自らの仇を自らの手で打てるのだから。
第1大隊の指揮をとるソラーボ中将もそんな兵士の1人だった。元アビシア帝国の軍人の彼は自らの腹に手を当てる。
3ヶ月前、ソラーボ中将はミノタウルスの奮った大斧により腹から真っ二つにされ、即死した。
「事実は小説よりも奇なり……と言ったところか」
そう言ってパイプを咥えるソラーボ中将。パイプは亡き父の形見だ。
「大隊長殿! 兵士たちの準備が整いました」
ソラーボ中将に報告をする若い兵士。装備はティッシャー公国のものだ。
隊では連絡係などをしているものの、レベルは1000をゆうに超えている。恩恵を受けていない人類と比べたら子供と大人、いや、赤ん坊と大人ほどの実力差がある。
「ああ、わかった。すぐに行こう」
ソラーボ中将は最後に深くパイプを吸うと、少し乱暴に火を消した。
●○
トスベレエ山の登山は拍子抜けするほど順調に進んだ。
野生モンスターの警戒も行なっていたが、今の所C級モンスターが2.3匹出るにとどまっている。もちろん、文字通り瞬殺した。
高度が6000メートルを超えたころ、軍全体に休息令が下された。
常人なら高山病や寒さにやられてしまうところだろうが、大隊には弱音を吐くものすらいない。
「損害ゼロ。敵影ゼロ」
そう報告を聞いてソラーボ中将は軽く笑う。と、そこで改めて自戒した。
相手はダンジョンマスター。どんな敵が出てきてもおかしくない。
ソラーボ中将は油断の見せた自身を激しく叱咤すると、全部隊に気を引き締めるよう注意を促す。
1時間ほどの休息を取り、軍は山頂に向かって動き出した。
ソラーボ中将の心配とは裏腹に徐々に天候は良くなり、太陽がチラチラと顔を出していた。
高度が7000メートルを超え、太陽がちょうど真上に差し掛かったころ。
戦況は動いた。
「敵襲ーーーーーー!!!」
「な、なんだぁっ!?」
「2時だ!2時の方向から敵影急速接近!」
「敵は何者だ!?」
「迎撃不可能!! 衝撃に備えろ!」
「ド、ド、ド、ドラゴンだああああ!!!!」
山の陰から突如現れた巨大な影。
その姿は真っ白な鱗の生えた赤い瞳のドラゴン。
200年前に絶滅した【アイスマジックドラゴン】だった。
「グオオオオオオオオオオオオオオ」
大きく口を開き、ドラゴンが兵列へと地面すれすれで突っ込んでくる。
兵士達は五体を地面に投げ出し死に物狂いで回避する。
「うわああああああああ!!」
「ぎゃあっ!」
反応の遅れた兵士がドラゴンが紙切れのように吹き飛ばされる。
「ガアアアアアアアアア!」
ドラゴンが真っ白なガスを吐き出す。
「……!」
「ひっ………」
「………あ」
ガスを受けた兵士が悲鳴もろくにあげることなく凍りつく。
【凍結の息吹】。絶対零度の気体が瞬時に対象を氷付かせてしまう。すでに失われた氷属性最大の魔法だ。
ドラゴンは並列をかき乱すとそのまま上空へと浮き上がる。
「第二波、くるぞ!!」
「迎撃だ!迎撃しろ!」
ドラゴンは大きく旋回してこちらに近づいてくる。
「ファイアーボール!」
「ヘルファイア!」
「レッドシールド!」
魔法使い達が次々と火属性魔法を展開する。
「グルルルル」
自らに向かってくる魔法を避けるためドラゴンは再び上昇した。
ドラゴンは数回空を旋回すると山の向こう側へと消えていった。
「……逃げたのか?」
「ま、まさか——、誇り高いことで知られるドラゴンだぞ……」
兵士たちは四方八方に目を向け戦々恐々と襲撃に備える。
「………………」
「………………」
「………………」
誰もが固唾を飲んで空を見上げる。
そんな中1人の兵士が声をあげた。
「な、何すか、あれ………」
若い兵士の指差す先は、100メートルほど先の山の斜面だった。
地理的に少し上に位置するその場所にあるのは巨大な雪だるま。
そして巨大なアリたちだった。
○●
「いよいよ決戦だな!」
俺はダンジョンコアを覗き込みながら言う。
「ドラゴンが陽動してこっそりと【スノーゴーレム】と【ジャイアントアント】が忍び寄る……作戦通りだね」
「ああ」
S級モンスター。ジャイアントアント。全長2メートルの巨大なアリだ。
元々、ダンジョンにいた【ミニアリ】が【ちょうちょうちょうしんか】で進化したものだ。
硬い外骨格と鋭い牙、そして圧倒的パワー。
昆虫ってすごいなぁ。
再びダンジョンコアに目をやると丁度スノーゴーレムが氷の塊を生み出すところだった。
ジャイアントアント達はスノーゴーレムが生産する氷の塊を持ち上げ、眼下に構える並列に向かって投げ飛ばす。
山の斜面を転がり勢いよく転がる氷の塊は並列の先頭にぶつかると先頭の兵士を吹き飛ばした。
「ぐぶっ!」
「ぎゃあっ!」
直径3メートルほどの氷の塊は十数人を吹き飛ばして止まった。
「第二波、くるぞ!」
「ひいっっ!」
「重装歩兵!前へ!」
「横に避けろ!後ろに下がるな!」
「うわああああ!」
「キィシィューーーー!!」
ジャイアントは大きな牙を開いて吠えた。




