第25話 女龍と雪とそれから私
ランドール王国南部。中レベルモンスターが多数存在する、通称『赤の大草原』。
そこに2万人の兵士が駐屯していた。
そこに揃う顔ぶれは3ヶ月前に二階級特進を果たした、死んだはずの兵士達。
そう、他でもない世界の管理者に恩恵を授かった人間達だ。
そんな駐屯地の中心部。屈強な兵士達が眉間にしわを寄せて話し合っていた。
「念のためもう一度問うが……本当にその情報に間違いはないのかね?」
「ああ、レベル7000の魔道士達が異口同音にそう言ったんだ。もはや疑う余地はないだろう」
彼らが議題にしているのはダンジョンの位置について。通常ダンジョンは魔道士による【魔力検知】でおおよその場所がつかめる。
しかし、問題が2つ。
1つ目はその数。
魔導感知数が大陸内に4つ存在していた。
これではどれが魔王の存在するダンジョンコアか分からない。
二つ目はその場所だ。
暗黒山脈。
毒の湖。
真紅の樹海。
最果ての迷宮。
大陸の東西南北に位置する4つの危険区域。
未だかつて踏破した人間は居ない。
「確かに危険なエリアではあるが、我々の力を持ってすれば踏破は十分に可能だろう」
「だが、確実に行くためにも一つ一つダンジョンを潰す方が良いと思わないかね?」
「待ってください、それでは移動だけでかなりの時間がかかってしまいます」
「確かに。これ以上のダンジョンの拡大を防ぐために早期解決をして起きたいところですな」
勇者たちの結論が出た。
「5000ずつ兵力を分けて速やかにダンジョンを制圧。人智を超えた力を持った我々にとって魔王など敵ではない」
「了解!」
○●
「お、四方向に別れたか」
俺はダンジョンコアから敵の様子を伺う。
ジュリアが少し眉をひそめる。
「この人たちのレベル高すぎるね」
「ああ、人間で4桁とかあり得るのか?」
「ダンゴムシが国を滅ぼすぐらいの奇跡だと思う」
「0ってことだな。やっぱり世界の管理者が一枚噛んでるか」
俺は改めてダンジョンコアに目を向ける。
敵の規模はおよそ2万。そいつら全員のレベルが4桁。
SS級モンスターであるシャーロック達でさえレベルは5000程度だからこちらがかなり不利だ。
「ま、とは言っても世界一強いネズミが世界一強い人間と互角に渡り合えるわけじゃないから、個々の能力ではこちらが有利だけど」
「ああ、それがせめてもの救いだな」
レベルが同じだとしても種族によって純粋な戦闘力には差がある。
レベル100のスライムがレベル10のドラゴンに勝てないように、モンスターの強さは種族にほぼ依存すると言っても過言ではない。
「ただ、恐ろしいのは数だな」
世界一強いネズミが世界一強い人間と渡り合うことは不可能だろう。だが、ネズミが100匹居たら? 戦局は覆るかもしれない。
ダンジョンコアを通して草原地帯を駆け抜ける兵士たちの様子が見える。
「移動スピードが人間離れしてるね。歩兵しかいないくせに移動スピードが馬より早いってどういうことよ」
「ああ、北に向かってる部隊に至っては明日の正午には暗黒山脈に到達しそうだな」
「ふっふっふー。きっと大丈夫だよ! 敵の侵攻に備えて何十回もシュミレーションしたんだし! そんな簡単に踏破されるわけないって!」
「おい、フラグ立てるな」
俺は軽くジュリアを小突いた。
「うふふふ」
ジュリアの照れ臭そうな笑い声がダンジョンに響いた。
○●
同時刻。暗黒山脈【トスベレエ山】山頂
一年のうち360日が猛吹雪にさらされるトスベレエ山山頂。この日も例外ではなく風と雪が容赦なく踊り狂っている。
そんな世界一高い山の頂上に掘られた洞穴。
その奥にヴァンパイアロードのシャーロックが石の椅子に腰掛けていた。
「早速こちらに敵兵が向かってきているようですな。数にしておよそ5000。平均レベルは4000強です。猪突猛進とはこのことですな」
光り輝くダンジョンコアをシャーロックが覗き込む。
「どうやら間も無く開戦のようです。皆様、覚悟はできてますか?」
そう言って周りを見渡すシャーロック。
「トウ……ゼン……ダ」
その声に反応をしたのは大きな雪だるま……ではなく、トスベレエ山に生息していたS級モンスターの【スノーゴーレム】。
オリハルコンゴーレムのギガの説得でダンジョンの一員に加わった。
「ねえ、こいつらを殺せばグラオン様に会えるんだよね。ねぇ、もう殺してきていい? いいよね? いいよね?」
鼻息荒くシャーロックに詰め寄るのは【アイスマジックドラゴン】。恋する乙女である。
「はっはっはっ。もちろんですとも」
「あぁ〜〜! 待っていてくださいグラオン様! 私がすぐに迎えに行きますぅ〜〜」
そう言って大きな体をくねらせるドラゴン。
「さて、そちらも準備はよろしいですかな?」
シャーロックはダンジョンの奥に作られた巨大な大穴に目をやる。
直径10メートルほどの大穴の奥に広がる漆黒の闇で真っ赤な目玉がいくつも光った。




