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第23話 仲良く喧嘩しな

「とりゃーーーー!」


ジュリアがリンダに殴りかかる。


「ほっ」

「へぶっ!」


リンダが足払いをかけるとジュリアは顔面から地面に倒れた。


「うぐぐ……」


ジュリアは顔を上げる。右の鼻の穴から血が流れ出ていた。


「ヒール」


俺の隣でシャーロックが右手を突き出しそう言うとジュリアの鼻血はピタリと止まる。


「うがーーー!」


ジュリアはリンダの右足に絡みついた。

その瞬間リンダが翼をはためかせ空中に浮かぶ。


「え、え、え」


リンダは空中で一回転して地面にジュリアを叩きつけた。


「ぐぶっ……」

「ヒール」

「うおおーー!」


俺はジュリアの様子を見ながら居た堪れなくなり改めてシャーロックに尋ねる。


「なあ、本当にジュリアは大丈夫なのか? |PTSD《心的外傷後ストレス障害》とかになったりしないよな」

「はっはっは、マスターは心配性ですな。あ、ヒール。何度でも説明いたしますが、我々モンスターは軟弱な人間と違って痛みにはめっぽう強いのですよ。ヒール」


ジュリアが壁に叩きつけられた。


「『死ぬこと以外はかすり傷』と言っても過言ではないかもしれませんな。ヒール。さすがに致死性の攻撃を受けてはどうしようもありませんが。ヒール」


ジュリアが顎をリンダに蹴り上げられ3メートルほど弾き飛ばされた。


「ヒール。まあ、さすがに疲労は溜まりますのでそろそろ休憩を取った方が良いかもしれません」

「だな。 2人とも! そろそろ休憩にしようか」

「……待ってました!」


ジュリアがテケテケと走ってくる。確かに心配の必要はなさそうだ。


 いじめではない。これはジュリアが鍛錬のために望んでやっていることなのだ。


 魔力はともかく、ジュリアはモンスターの中でもかなり弱い。やはり体がまだ幼児である事が一番の原因だろうが、のびしろはあるのだからそこを伸ばさない手はない。


 てな訳で一緒に腕立て伏せやらランニングやらをしていたらリンダが『生ぬるい!』と言って組手をし出した。俺は反対したんだがシャーロックにモンスターの特性について説明され、素直に引き下がったわけだ。


「はあー、疲れ切った体に染み渡るよーー」


ジュリアは綿あめを食べながらひと息ついた。


「始めの方に比べて動きのキレが良くなってきてます。日進月歩とはこの事ですな」

「えへへ、ありがとう」

「攻撃をするとき視線で打つ方向がバレバレっしょ。目線のフェイントを入れたが良いんじゃね?」

「うん、分かった!」


 ジュリアは来る日も来る日も組手を続け、俺は魔物図鑑や世界地図の他にも様々な資料を買って新たなダンジョンの構想を練り続けた。


●○


一週間が経った。


「ねぇ、カケル聞いてよ! 今日私のパンチがリンダに当たったの!」

「そうか!よく頑張ったな」


俺はジュリアの頭を撫でる。


「ふん、ビギナーズラックっしょ。それに私朝からちょっとお腹痛かったし……」

「はっはっは。負け犬の遠吠えですな」

「あんた四字熟語専門でしょ!」


ふてくされるリンダと笑顔で拍手をするシャーロック。


「なぁ、ジュリア。【鑑定】して見ても良いか?」

「うん、いーよ」


ジュリアの能力の伸びを数値として見ておきたい。


「【鑑定】」


—————————————

名前 ジュリア

レベル7896

ランクSSS級

種族 魔王

体力 2582/2582

魔力4000/4000

知力 1850

筋力 2102

速力 1750

運 2504

—————————————


めっちゃ強くなってる……確か大体のステータスが100にも届かないくらいだったのに。いまは2000前後ってところだ。


「やはり幼くても『魔王』。成長速度は恐ろしいものがありますな。私達が抜かされる日も遠くない」


シャーロックによるとステータスの数値は相対的に示されるものらしい。この世界にいる人間の平均値が100になっているそうだ。


つまりジュリアはわずか一週間で半人前の力から人間20人と同等の力にまで成長した事だ。


「ふ、ふん。人間にも2000程度のやつなんてゴロゴロいるし……」

「ってことはリンダはそのゴロゴロいる人間にもワンパンもらっちゃうわけだな」

「た、体調悪かったって言ってんでしょーが!」


リンダは顔を真っ赤にして怒鳴った。


「さて、話は変わるがジュリア。魔力はもう回復してるよな」

「うん、もう全開だよ!」


ジュリアは小さな胸を張る。


「早速『ちょうちょうちょうしんか』を使って欲しいんだが、頼めるかな」

「もちコース! 誰を進化させるの?」


俺はあらかじめ呼んでおいた2匹を取り出した。


「今回は『ストーンゴーレム』と『アカトカゲ』だ」

「へー、良かったね2人とも」


アカトカゲとロックゴーレムはピクリとも動くかのことなくジュリアを見上げていた。


「そういや、アカトカゲの最終進化は『ファイアードラゴン』だっけ? だからこんなに部屋をでかくしてんのね」


リンダが天井を見上げた。

部屋は30メートル立方の部屋に拡張してある。


「マスター、ちなみにそこにあるのは?」


シャーロックが俺の背中側にあるものを指差す。


「ふっふっふ、気がついてしまったか。さすがはヴァンパイア」

「関係ないと思われますが」

「これは進化素材だ!」


【ミスリル】10万DP

ありとあらゆる魔法を弾き返す希少な鉱物。


【オリハルコン】10万DP

ありとあらゆる魔法と物理攻撃を弾き返す伝説の鉱物。


【魔水(樽)】 30万DP

強い魔力の込められた液体。


「なるほど、単純にレベルを上げるのではなく、意図的に強いモンスターを作り上げると」

「そういうことだ」



例えば順当にレベルを上げると、ストーンゴーレムは【ダイヤモンドゴーレム】で進化が終わる。細かく記すとこんな感じ。


E級【ストーンゴーレム】

D級【ロックゴーレム】

C級【スチールゴーレム】

B級【アイアンゴーレム】

A級【メタルゴーレム】

S級【ダイヤモンドゴーレム】


だが、A級からS級になる直前でミスリルの削りかすを浴びせることでS級の【ミスリルゴーレム】に進化する。


さらにその後オリハルコンの削りかすを浴びせれば……SS級の【オリハルコンゴーレム】へと進化するらしい。


アカトカゲも順調に行けばS級モンスターの【ファイアードラゴン】に進化するが、さらに魔水を全身に浴びさせればSS級モンスター【ファイアーマジックドラゴン】に進化すると書いてあった。

まったく、良い図鑑を手に入れてしまったものだ。どうやって調べたんだろうな?


そんなことを考えながらも俺たちは2匹の弱小モンスターをSS級モンスターへと進化させた。


○●


「うおおおおおおおおお! ついに俺様の時代がやってきたぜ!!ひゃあーーーっはっはっは!」


下品な笑い声をあげるファイアーマジックドラゴン。

30メートルある天井に頭が届くほどでかい体だ。そんな神々しい見た目なのに出る言葉からは小物臭がする。残念ドラゴンだな。


「マスター、2日ほど待ってろ! 俺様が全人類をこんがりときつね色にしてやるからよぉ!」

「こっちから喧嘩売ってどうする。あくまで防衛戦だ」


ドラゴンは俺の言葉を聞いてるのか聞いていないのか、大きな口をこれでもかと開いて笑った。


「…………低脳」


オリハルコンゴーレムが静かに、しかしはっきりと言った。


「おい、石。なんか言ったか?」

「低脳」


繰り返しそう言うゴーレム。

大きなメタリックボディと太く輝く腕。ボディの上にちょこんと乗せられた小さな頭には銀色の目玉が1つ輝いていた。


「ほおほお、人造人間の分際でこの俺様にそんな口をきくのか。今謝れば許してやるぜ?」

「不要。事実」


ゴーレムはドラゴンを一瞥もすることなく淡々と応える。

ドラゴンは低く唸った。触れてないけど逆鱗に触れてるな。


「その勇気だけは認めてやるぜ、焼けろオラァ!」

「無駄」


ファイアードラゴンが口を開いた瞬間。

俺はシャーロックに担ぎ上げられダンジョンの外に飛び出した。横を見るとジュリアもリンダに担がれている。へー目ってあんなに丸くなるもんなのか。


ドシン、と俺は地面に倒れた。

その瞬間、ダンジョンの入り口から真っ赤な、いやそれを通り越して青い炎が飛び出した。


「…………………」


周りを見ると他の弱小モンスターもいる。リンダとシャーロックに抱えられて一緒に脱出したらしい。


「うおっ!」


地面が揺れた。震源地は間違いなくダンジョンの中。ジュリアは軽く悲鳴をあげてホワイトウルフを頭に乗っけてうずくまった。

と、その刹那にはまたダンジョンから炎が。

と思ったら地震。

からの炎。

地震。

炎。

地震。

炎。


……図鑑は焼けちまっただろうか。


「なんなのあいつら!扱いづらっ!」

「確かに、傍若無人とはあの事ですな」

「先輩としてここは一発締めたほうがよくね?」

「そうしたいところですが、彼らは仮にもSS級モンスター。それに私達とは相性の悪い物理攻撃型ですからな」

「欲を操る私と死者を操るあんたじゃ部が悪いってことね」

「まあ、しばらく待ちましょう」

「っち」

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