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第21話 勇者降臨

私はデラ・オスマン。

ランドール王国第3中隊副隊長を務める者だ。

私は先天的な障害として盲目だった。

それが有ってか分からないが、私は孤児院の前に捨てられていたらしい。

幸いにも私は嗅覚や聴覚が並外れており、目が見えなくても何とか日常生活が送れていた。


私が兵士になったのには深い意味はない。

ただ、安定した職業を求めただけだ。

それに私は盲目かつ女でありながらも喧嘩で負けたことがなかった。

私なら兵士としても何とかやっていけると思っていた。


だが、現実は厳しかった。

兵士になった女性は戦う機会すらなかったのだ。

女性兵士は塀に囲まれた王城の中で王妃や王女の身の回りの世話をしているだけだ。

本当に守りを固めているのは王城周辺に設置された男性兵士だけだった。


私は目が見えないこともありひどい苦労を強いられた。

そもそも貴族達は私の鼻が効かなくなるほど強い香水を付けるのだ。これでは誰が誰だか判別がつかない。

私は1ヶ月と経たず城を去った。


その際、王城周辺の男性兵士達に勝負を挑み10戦7勝という成績を収めたが、女性、盲目という私の足枷は取れることはなかった。


だが、その時声をかけてきたのがアーサー隊長。

低いが温かみのある声の隊長からはほんのりと血の匂いがした。

私は第3中隊に所属することになった。


第3中隊にはろくな奴がいなかった。

いきなりお尻を触ってくる奴。

挨拶しても無視する奴。

いきなり決闘を挑んでくる奴。

ひどく口が臭い奴。


だが、私の性別と障害を馬鹿にする奴はいなかった。


以来8年間私はこの中隊に在籍してきた。


我ら第3中隊は兵士の枠組みから外れた奴らの集まりだ。

『第3中隊は異常者の集まり』と言われているのも知っている。

だが、そんなことはどうでも良い。


第3中隊は私の家族なのだから。

私達は隊長に救われたのだから。


○●


「副隊長……副隊長! 起きてください!」


私は目を覚ました。


「…………う……ここは」

「気がつきましたか」


私は体を起こす。

この声は世話焼きのステフォ曹長。さらに周囲に仲間達の気配がした。


「相変わらず早いお目覚めですなぁ」

「くくっ、揶揄(からか)うな」


周りから仲間達の軽口が聞こえる。

だが、その空気は緊迫そのもの。

仲間達は武器を手に取り円形陣を作り上げているようだった。


「デラ。お前も死んだようだな」


隊長の声が聞こえた。


「死んだ……?」


私は思い出した。

ダンジョンでの戦いを。

巨大な牛の化け物に仲間の大半がやられ、生き残りのもう一体のモンスターに全滅させられた。

そう、私は首を飛ばされて……。

そっと自分の首筋に手をやる。

しっかり首と胴体は繋がっていた。


紛れもなく私は生きている。

でもあれは夢じゃない。


「混乱しているようだな。ステフォ、説明してやれ」

「はっ」


私は曹長から我々の身に起こった出来事を聞いた。


私の記憶通り、やはり私達は全滅したらしい。

だが、気がつけばただただ真っ白な地面と真っ白な空が続くこの世界に倒れていたと言う。


『白』という色を私は見たことがないが、聞くところによると雲、雪、上質な羊皮紙、若い女性の肌、月の光がこの色に当たる。

どこか透明で他の色に混じってしまうとすぐに消えて無くなる繊細で清純な色。

一度で良いから見て見たいものだが……。


話を戻す。


仲間達曰く、それがどうにも不気味らしい。

私が目覚める前に何度も周りを捜索したが、蟻の巣1つ空いていない。地平線の彼方まで白一色なのだ。


「くっくっく……もしかして、ここは天国じゃねーのかい?」

「馬鹿者! 縁起でもないことを言うな!」

「まあ、実際僕たち死んでますからね」

「むしろそう考える方が自然であろう……天国か地獄かは別にして」


仲間達もかなり混乱しているようだった。


「どうもみなさま。ごきげんよう」


女の声が響いた。

もちろん私のものではない。


「上だ!」


誰かの叫び声がした。

反射的に上を見上げる。

確かに人の気配が頭上にある。


「女!?」

「スカート……」

「浮いてやがる」

「く、黒だ……」

「神々しい」

「もう死んでもいい」

「普通は白じゃないのか……?」

「馬鹿野郎、そのギャップが良いだろう」

「エロい」

「うわぁ」

「黒」


? なんの話だ?


頭上の気配は徐々に下に下り、地面に着地した。


「ああ……」


周りの兵士たちが残念そうにため息をつく。


「失礼、どちら様だろうか」

「私は世界の管理者です」


鈴を転がすような声。バラのような良い香りが鼻をついた。


「世界の管理者?」

「はい、この世界の森羅万象を司るものです」

「頭おかしいのかコイツ」


口の悪いドグリー軍曹が呟く。


「お黙りなさい」

「ぐうっ! があああっ⁉︎ 」


ドグリー軍曹の悲鳴。


「おい、ドグリー!」

「どうした……っ!お前腕が……」

「ひぃぃぃぃ! ぐぎぎぎ……」


ドグリー軍曹が痛みにのたうちまわる。

隊長から少しの汗の匂いがした。


「ぶ、部下が失礼をしました! 許してやってくれませんか?」

「ええ、喜んで」

「ぎぎぎぎぁ………はぁ、はぁ、はあ」


ドグリーの呻き声が聞こえなくなる。どうやら助かったらしい。


「改めまして、私は世界の管理者と申します。貴方方に分かりやすく言うのであれば、『神』ですわ」


世界の管理者は続ける。


「御察しの通り貴方方はすでに死んでおります。本来ならば輪廻転成に基づきあらゆる世界へあらゆる形で生まれ落ちるのですが……私の権限でそれは一時的にやめました」

「ほんとに死んでるのかよ……」

「ええ。貴方達の死因の間接的な原因は『魔王』です」

「魔王?」

「はい、世界の管理者でも管理困難な力を持ったモンスター。貴方達が戦った相手はその側近にすぎません」

「ま、まじかよ。あんな強いモンスターが側近!?」

「このままでは人類は滅びます。と、言うわけであなた方にはもうひと頑張りして欲しいのです」

「は?」

「貴方方はもう一度世界に戻り、魔王を討伐してきてください」

「ま、待ってください。側近達相手にすら虐殺されたんですよ?勝てるわけが……」

「もちろん、貴方方には神の恩恵を授けましょう。レベルは10倍、いや、100倍近く上がるでしょうね」

「ま、まじかよ」

「ええ。では期待しておりますわ。『勇者』たち」


間も無く、何万人と言う兵士が現れた。

彼らも例のダンジョンで死んだ者達らしい。


再び現れた世界の管理者は私達のレベルを本当に100倍にした。

私のレベルは6023となった。

体が異常なほど軽くなった。私の目が光を捉えることはさすがになかったが、他の感覚が研ぎ澄まされ、もはや普通の人たちより()えていた


体感時間にして3ヶ月程。


軍の再編成が終わった。


私達は【ランドール王国軍第3中隊】から【特別連合軍 第2大隊所属 第4中隊】へと名を改めた。ちなみに私は2階級降格して大尉になった。

それほどまでにここにいる兵士たちは強いのだ。平均レベルは5300。大将クラスになるとレベルは9000を超えるらしい。


ただネックとしては当然のことながら参謀兵や衛生兵がいないこと。軍隊としての本格的機能は期待できないだろう。


だが、私達の士気は恐ろしく高い。


『俺たちの仇を』


それが私達の合言葉。


私達は世界に降り立った。

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