第19話 新キャラ入りま〜す
俺は拳を握り締める。
こんなはずじゃなかった。
ライトノベルの主人公達は最初から最後まですべてがうまくいっていた。
たとえ負けイベントがあったとしても仲間が死ぬなんて……そんな事……。
「じゃあ……サキュバスとバッドバットを進化させるね」
「ああ……。悪いがちょっと外に出てくる」
ウルスとステンノーのことを思い出してしまうような気がして俺は1人洞窟を出た。
外は腹立たしいほどの快晴だった。
●○
カケルが洞窟を出ていった。
カケルはこの数日、目に見えて憔悴している。
ジュリアは寂しそうにカケルの背中を見送ると、右手をバッドバットに差し出した。
そして叫ぶ。
「ちょうちょうちょうしんか!」
天井にぶら下がっていたバッドバットは体を大きく震わせると、翼をはためかせ、洞窟内を飛び回る。
「キーーーーーーーー」
バッドバットの体が徐々に大きくなる。体長は3メートルを越え、翼を広げると10メートルほどになった。
「ギギギーーーーーー」
さらに体は大きくなる。
狭い洞窟にその巨体を縮こませ、苦しそうに鳴くバッドバット。
リリーがこの場にいればA級モンスターの【ワーストバット】だと興奮気味に解説する事だろう。
ホワイトウルフがサキュバスを背にして数度吠えた。
「ギギギ……グ…ガ……」
今度はバッドバットの体が小さくなっていく。
単純に縮小するのではなく大きな翼は腕となった。
短い足はすらりと伸びていく。
ぎょろりとした目玉は小さく、潰れた鼻は高くなる。
「……………………」
ジュリアは右手を下ろした。
そこに立っていたのはタキシードに身を包んだ壮年の男。
すらりとした体型と清潔感のある白髪の紳士だった。
男は両手にはめられた白いグローブや磨かれた革靴を眺め回していた。
「SS級モンスター【吸血鬼王】だね。よろしく」
男は少し皺のある顔をジュリアに向けると、暫くの沈黙の後に頭に乗ったシルクハットを外し、一礼した。
「よろしくお願いします、ジュリア殿」
男の口元に鋭い歯が光った。
●○
「そうか、ダンジョンは崩落したか」
「はい、しかし戦死者が……」
ランドール王国、王の部屋。
国王とランドール王国第一連隊長のロジャーは眉間にしわを寄せて話し合っていた。
そもそもの事の発端は数日前に遡る。
国王の部屋に現れた『世界の管理者』。彼女は最近新しくできたダンジョンについての情報を渡してきた。
『あのダンジョンには世界を滅ぼすモンスターがいる。今は弱いが放っておけば取り返しのつかないことになる』
実力だけは折り紙つきだった第3中隊が全滅させられたと仮定すれば、その話は間に受けざるおえなかった。
世界の管理者は他国の為政者に対しても同様の干渉を行なったらしく、ついに国際連盟軍が動いた。
ちなみに国連軍が動いたのは、軍国主義のジンカ帝国に対する軍事制裁以来、実に314年ぶり2度目のことである。
ダンジョンへの攻撃は数日で終了した。しかし、その内容はあまりに濃く、あまりに残酷なものだった。
犠牲者は2万人をゆうに越えた。
情報によると【ゴルゴーン】と【ミノタウルス】が立ち塞がったらしい。
どちらも伝説の級のモンスターだ。王都に直接襲撃でもされればひとたまりもなかっただろう。
ランドール王国の兵士も6000人ほどが死んだ。
「優秀な人材を失ったことに加え、死傷者に対する手当金も考えると今回の任務は我が国に、いや世界に対して大きな痛手ですな」
「暫くの間不況になりそうだ。娯楽品への税率を高めるか……。いや、その前に赤字国債を発行するべきか……」
国王は頭を抱えた。
国の働き盛りの男たちが6000人も消えた。
もはや不況の進行や治安の悪化は免れまい。
「しかし……彼らの犠牲でこの世界は救われたのですよね」
「そうだな……。では、今回の戦いを大々的に国民に公表してみるか。国中が祭りムードとなり、経済が回るかもしれない。同時に消費税を導入すれば国庫が潤い、社会保障に回す金が……」
「残念ながらまだ世界は救われていませんよ」
国王の言葉を遮ったのは女の声だった。
「御機嫌よう、国王陛下」
「世界の管理者……」
世界の管理者は髪の毛先をいじりながら出窓に座っていた。国王は椅子から立ち上がり世界の管理者に向き合った。
「救われていない、とはどういうことか教えていただきたい」
「そのままの意味ですわ」
世界の管理者は髪の毛から手を離すと出窓から飛び降りる。
「例のダンジョンのダンジョンマスターは戦いのどさくさに紛れて脱出いたしました。今はおとなしくしていますが、やがて再びダンジョンを作り上げ、世界を脅かす存在になるでしょう」
「まさか、そんなことが……」
連隊長は悔しそうに歯をくいしばる。
「では、弱体化しているダンジョンマスターにとどめをさすべきだな」
「是非、我々にお任せを。世界の管理者、ダンジョンマスターは今どこにいるのだ?」
「それはわかりませんわ、連隊長様」
「なにぃ?」
「家の庭に潜むアリがどこを闊歩しているのかわからないように、かのダンジョンマスターがどこをほっつき歩いているかなど分かりませんもの」
「っ! お前は世界の管理者だろう!」
「そう、『管理者』。『監視者』ではありませんわ」
「このっ! お前はどちらの味方なんだ!」
「よせ、ロジャー」
国王が手を上げて興奮する連隊長を止めた。
「この世界は広い。大体の方角でも良いから情報が欲しいのだ。分からないか?」
「分かりませんわ。ただ、あと3ヶ月ほど時間があれば発見できると思いますわよ」
「そうか」
国王は少し間を置くと世界の管理者を見据えた。
「我々ランドール王国はあなたに協力できない」
「あら?どうして?」
「3ヶ月もあればダンジョンは強大なものになる。再び何千という死者を出すわけにはいかないのだ」
「あらそう。でも、世界が滅びますわよ?」
「その時はその時。国が死に急ぐよりマシだ」
それだけ言うと国王は世界の管理者に背を向けた。
「そう、残念ですわ」
世界の管理者は軽くため息をつく。
「まあ、よろしいですわ。こちらとしても、先の戦いで2万の魂が手に入ったのですから。彼らに立ち向かえる優秀な戦士が作り出せますもの。では、またお会いしましょう」
「まさか、貴様!!」
国王は勢いよく振り返ったがすでに世界の管理者は消え失せていた。
●○
「さて、次は……」
ジュリアの目線がサキュバスへと移る。
サキュバスの赤ん坊はホワイトウルフにもたれかかったまま、親指をしゃぶっていた。
「ごめん、ホワイトウルフ。少しどいてもらえる?」
ホワイトウルフは少し迷惑そうにジュリアを睨むと、無理やりサキュバスの体を押しのけ、トコトコと歩いていった。
「ああ〜〜」
サキュバスは悲しそうな声を上げると、ハイハイでホワイトウルフについていく。
が、そのスピードをあまりに遅く、あっという間にホワイトウルフとサキュバスの間に差が開いた。
「ちょうちょうちょうしんか」
ジュリアは左手をサキュバスに突きつけた。
「あ、あ、あんぎゃあああああ」
サキュバスが苦しそうになく。
ホワイトウルフは不安げにサキュバスを見つめた。
「ああっ! あんっ……ああっ……あっ……あんっ」
やけに色っぽい声をあげながらサキュバスの体が徐々に大きくなっていく。
手足が伸び、髪も長くなる。
胸や尻も膨らんでいき、女の体へと進化を遂げていった。
「あっ! あああっ!!」
体の成長が止まったようだ。
そこにいたのはピンク色の髪の毛の美女。
ほぼ下着姿のような露出度の高い服装だった。
彼女は真っ黒の翼や頭から生えた日本の角をひとしきり触ったあと、これまた真っ黒の自分の下着を手でなぞった。
「ちょっと……露出度高すぎない? いくら私がサキュバスとは言えさ〜痴女とは違うのよ、痴女とは」
サキュバスは口を尖らせた。
「SS級モンスター【淫魔女王】ですね。お美しくなられた。容姿端麗とはこのことですな。」
ヴァンパイアがジャケットを脱ぎサキャバスに羽織らせる。
「ヘェ〜紳士的じゃーん」
サキュバスはニヤニヤとからかうように笑うと、ジャケットを肩に羽織った。
「ジュリー、大人にしてくれてあんがとね」
「気にしないで。ジュリーってジュリアのあだ名?」
「そそ。そっちの方が覚えやすくね?」
「あんまり覚えやすさは変わんないけどさ……」
サキュバスは足取り軽くホワイトウルフのもとに駆け寄った。
「ウルちゃん、今まで世話してくれてありがとう」
「ワン」
ホワイトウルフはサキュバスに抱きかかえられた。表情も態度も冷めているが尻尾がものすごい勢いで振られている。
「実は2人に頼みがあるんだけど……」
ジュリアは申し訳なさそうに2人に声をかけた。
「皆まで言わないでくだされ、ジュリア殿。貴方の狙いは分かっております。以心伝心とはこの事ですな」
「あ、ごめん。あたし全然わかんねーわ」
サキュバスはぐるりと目玉を一周させた。
「うん、じゃあ説明するね。私が2人を進化させた理由は——」
「ど〜も〜。改めまして、サキュバスクイーンで〜す」
「私めはヴァンパイアロードでございます。お見知り置きを」
「いや〜、ほんとジュリーの【ちょうちょうちょうしんか】ってすごいね〜」
「そうですな。さすがはSSS級モンスター。一騎当千とはこの事ですな」
「てかさ、ヴァンパイアは四字熟語使いまくりだよね。ちょーウケる」
「左様でございますか。あまり意識はしてなかったのですが。ところで異世界のキャラクターに日本固有の言い回しをさせるのが是か非かという論争があるようですが、私めは感知いたしません」
「そこまで知ってんなら使うなよ!」




