第2話 ガチャ依存症
白い蛇がシュルシュルとダンジョン内を動き出す。
見慣れぬ景色に警戒している様だった。
「あ、敵兵到着まであと10分です」
「くそっもう一回だ!もう一回ガチャを引くぞ!」
「なるほど、こういう風に人はギャンブルにはまっていくんですね」
俺はメニューのガチャをタップした。
再び室内に魔法陣が現れる。
「……ん? なんか色違くね!?」
ストーンスネークが出てきたときは、魔方陣は白い光を出していた。今は黄色っぽい光だ。
「これは確定判定です!! レアモンスターが出ますよ!」
「うおおお! やった、こい!!」
俺は興奮気味に叫ぶ。
そして現れたのは。
「モー」
体長1メートルほどの茶色の子牛だった。
「牛……?」
牛は辺りをキョロキョロと見回すと部屋の隅っこに移動し、ゴロリと横になった。
「D級モンスター『トツゲキギュウ』です。気性は穏やかですが、発情期になると稀に人間や他の動物に突進します。3年に1回くらいのペースで死亡事故も起きてますね。食べると美味いので家畜としても飼われています。ダンジョンポイントに換算すると120です。まあ、元は取れてますね」
「微妙だなおい……」
俺はため息をついた。
「あ、そういえば10連ガチャが解禁になりましたよ」
「10連ガチャ?」
「はい、1000ポイント払う事でまとめて10回分のモンスターが出現します。さらにボーナスで1回ガチャが無料で引けるんです!」
「確かにお得だが……10連を引いたら全ポイントを使い切ってしまうな」
「まあ、男は度胸ですよ」
「でもなぁ………」
「あ、あと5分で到着しそうです!」
「よし! 引こう!」
俺は意を決して10連ガチャを回した。
白い魔法陣が地面に広がる。
現れたのは手のひらサイズの赤っぽいトカゲだった。
「これは『アカトカゲ』ですね。ランクF。ダンジョンポイントは2ポイントです。『アカトカゲーは火に強い。アオトカゲーは溺れない……』という童謡でもお馴染みの通り火に強いトカゲです」
「そんな歌お馴染みじゃねーわ」
次も白い魔法陣。
30センチほどのプヨプヨとした液体。
「『グリーンスライム』。草食のF級モンスターです。ダンジョンポイントは1。知能が低いのか、基本的に他生物に攻撃する事はありません。しかし命の危険にさらされたときは体当たりなどをする事があるという報告もあります」
「異世界モノでは欠かせないな」
次に身長50センチほどの緑色の肌をしたモンスターが現れた。ボロボロの服を身にまとっていた。
「『ゴブリン』……オスですね。ランクはE。ダンジョンポイントは80です。低レベルながら知能があり集団で生活をしています。雑魚モンスターの代表格ですね。」
「そんなこと言ってやんなよ……。てか全然元が取れないじゃないかっ!」
俺は悪態を吐く。
しかし10連ガチャは止まらない。
白い魔法陣の後にまたモンスターが現れる。
20センチほどの石の塊。よく見たら人の形の様にも見えた。
「E級モンスター『ストーンゴーレム』ですね。ダンジョンポイントは100ポイントです。人造人間であるため、指令を出せば自分がどうなろうと任務を遂行しようとします。たとえ火の中水の中、行けといえば普通に突っ込んでいきますよ」
「なんか悲しいな」
次に現れたのは先ほど出たゴブリンだった。
「またゴブリンですね。こちらはメスの様です。オスとの交配に成功すれば子供が生まれる可能性も……あ、なんでもないです」
「おい、変な気使うな」
黄色い魔法陣が現れた。
「お!確定判定だよな?」
「はい、D級確定です!」
1メートルほどの黒いコウモリが飛び出した。
「おっ『バッドバット』ですね。ダンジョンポイントは380。D級モンスターですが非常に強力なモンスターです! 知能が高く戦闘力も高いですよ! ただ暗い場所でしか実力を発揮できないという欠点がありますがダンジョン内をではあまり関係ないですね」
「おお! ありがたいぜ!」
次に現れたのは植木鉢に植えられた1メートルほどの赤い花だった。
「『クレイジーフラワー』。E級モンスターです。ダンジョンポイントはは100。食肉植物として有名です。美しい花に擬態して人を襲います。自力で動く事ができないのでE級止まりですがこちらも強力なモンスターですよ」
「調子上がってきたな!」
白い魔法陣が光る。
「ん?モンスターがでないぞ?」
「おかしいですね……あ! よく見てください! アリがいますよ。しかも10匹。あれは『ミニアリ』10匹で……残念ながらF級モンスター。ダンジョンポイントは1ポイントですね。組織力の高いモンスターですが……戦闘力はほぼ皆無です」
「くっ……ダメか」
次に現れたのは魔法陣。赤い魔法陣だった。
「赤い魔法陣? D級の確定とは違うのか?」
「こ、こ、これは! A級モンスターの確定判定です!!」
「ほ、本当か!? って、おい!部屋が!?」
俺は部屋の辺りを見渡す。
四畳半ほどの広さだった部屋が5メートル四方にまで広がっていた。
「魔法陣が部屋に入りきらなかったのでしょう。魔法陣に部屋が合わせたのだと思います!」
俺は赤い魔法陣に目をやる。
魔法陣はみるみるうちに小さくなり、そこに50センチほどの人影。二足歩行をしていたゴブリンとは違い四つん這いになっている。
「こ、これはーー」
大きな瞳。
丸い顔。
短い手足に口から溢れるよだれ。
現れたのは赤ちゃんだった。
「………………………………」
「………………………………」
「ばぶぅ」
赤ん坊はクリクリとした目で俺たちを見ていた。
「これは……」
「えっと……情報では『サキュバス』ですね。A級モンスターですが……まだ赤子。戦力にはなりませんね……」
「な、なんてこった……」
俺は思わず倒れこむ。
生き残るための千載一遇のチャンスだったのに……。
「カケルさん。次が10回目です」
リリーは赤子を抱き上げた。
白い魔法陣が光り、モンスターが現れる。
そこにいたのは30センチほどの白い犬だった。
「『ホワイトウルフ』E級モンスターです。強靭な牙を持っていますが体が小さく、あまり戦闘力は高くありませんね」
「終わった……」
10連ガチャで現れたのは小さく弱いモンスター達。人間40人には勝てそうもない。
「あ、待ってください。ボーナスの1回が残っていますよ」
「……そうだったな」
俺は顔を上げた。
もうどうせダメなんだ。
冥土の土産に摩訶不思議な生物をこの目に焼き付けよう。あ、死なせてもらえないんだっけ。
「!?」
その瞬間、部屋の壁がみるみる遠のいていった。
「ど、どうなってるんだ!?」
「わ、わかりません!」
俺たちがパニクってる間にも壁は遠のいて行き、何百メートルも先で止まった。気がつくと天井も遥か彼方にあり、その高さは計り知れない。
「まさか現れる魔法陣にサイズを合わせて……」
「そんなわけありません! S級モンスターでも数十メートル四方で十分なはずです!」
現れた魔法陣は白ではなかった。
黄色でも、ましてや赤でもない。
全貌を想像できないほど巨大な魔法陣は黒い輝きを放っていた。
「黒!? そんな魔法陣は存在しないはずです!」
魔法陣は徐々に縮小を始める。そして最終的に5メートルほどの円になると、モンスターの影が現れた。
「こ、こ、これは……」
「なんじゃこりゃ!!??」
そこには1.3メートルほどの人間が立っていた。
全身を真っ黒なマントで包み、骸骨の仮面を被っている。
「おい、リリー! なんだあいつは!」
「あ…………あ……………」
「リリー!」
リリーは絞り出すように言葉を発した。
「SSS級モンスター……『魔王』………ダンジョンポイント、に、2京。……推定レベルは……7896」
現れたモンスターは俺たちの方に近づいてくる。
あまりの強烈なプレッシャーに俺たちは眼球1つ動かせない。
モンスターは俺たちの1メートル前まで歩いてくると、歩みを止め俺たちを見上げた。
「な、何者なんだお前は……」
俺は声を震わせながら問う。
するとモンスターはぺこりと頭を下げて
「初めまして!私、魔王のジュリアって言います! これから宜しくお願いします」
「いや、めっちゃ礼儀正しいやん!!」
ストーンスネーク♀
レベル3
ランクF級
ダンジョンポイント5
トツゲキギュウ♂
レベル13
ランクD級
ダンジョンポイント120
アカトカゲ♂
レベル4
ランクF級
ダンジョンポイント2
グリーンスライム 性別不明
レベル2
ランクF級
ダンジョンポイント1
ゴブリン♂
レベル5
ランクE級
ダンジョンポイント80
ストーンゴーレム 性別不明
レベル9
ランクE級
ダンジョンポイント100
ゴブリン♀
レベル4
ランクE級
ダンジョンポイント80
バッドバット♂
レベル18
ランクD級
ダンジョンポイント380
クレイジーフラワー 性別不明
レベル11
ランクE級
ダンジョンポイント100
ミニアリ(10体)♂5匹.♀5匹
レベル1
ランクF級
ダンジョンポイント 総計1
サキュバス♀
レベル1
ランクA級
ダンジョンポイント20200
ホワイトウルフ ♀
レベル2
ランクE級
ダンジョンポイント75
魔王 性別不明
レベル7896
ランクSSS級
ダンジョンポイント2京
ダンジョン名 未定
ダンジョンマスター カケル
ダンジョン面積 東京ドーム1個分
保有モンスター
F級 12体
E級 6体
D級 2体
C級 0体
B級 0体
A級 1体
S級 0体
SS級 0体
SSS級 1体
モンスター 計 22体
保有ポイント 0