第12話 人間の力
翌日の午前8時30分、ダンジョン内に多数の侵入者が現れた。
リビングに集まった俺たちはメニュー画面を通して1階層の様子を観察する。
『侵入ポイント4090 DPを入手しました』
ダンジョン内には5人の人影。ローブをかぶっていたり、鎧を着ていたりと服装は様々だ。
「本格的な人間達の進軍でしょうか」
「なにが来ても迷宮の攻略は不可能だモー」
俺は侵入者情報を確認する。
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ランドール王国第1魔導大隊隊長
アンドラ・ビラー
レベル71
アビシア帝国 特別魔導中隊隊長
ジョン・クリストフ・ミミラシー
レベル92
サンピナ連邦 名誉魔導顧問
アプリジョアン・ビディアブー
レベル83
ウェイボー共和国 秘密魔法小隊隊長
キャディアッシュ・トア
レベル75
ティッシャー公国 第3連隊直轄魔法大隊 隊長
メキャサス・キャリンディーヨー
レベル88
計5名 平均レベル81.5
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「全員魔法使いだね。しかも所属がバラバラだ」
「高レベルの魔法使いを上から5人集めた感じかな」
5人の魔法使いは杖やら水晶玉やらをかざすと呪文を唱え始める。
明らかに俺が理解できる言葉ではなかった。
「め、迷宮破壊の魔法とかじゃないよな!?」
「そんな魔法はないよ。たぶんこれは……」
ジェシカが耳をすます。
「雨乞い?」
迷宮内に雨が降り始めた。
そこそこ強めの雨はダンジョンの床に水溜りを作っていく。
「なんで雨なんか降らすんだい?むしろ人間の行動には邪魔だろ?」
「うーん?」
俺たちは頭をひねる。
魔法使い5人はすぐにダンジョンを出て行った。
『侵入ポイント730DPを入手しました』
入れ替わりに出て来たのは5人の男達だ。鎧は着ていない。
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ランドール王国 第24中隊 隊員
計5名 平均レベル 14.6
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「ずいぶんよわっちそうなのが来たモーな」
確かにレベルはかなり低いが、かなりガタイのいい男達だった。
男達はダンジョンの入り口から1メートル感覚で一列に並ぶ。
一番入り口に近い男にダンジョンの外からあるものが手渡される。
「ふくろ?」
男はそれを受け取るとすぐ後ろの男に袋を渡した。
そこで俺は気がついた。
「もしかして……土嚢か?」
次から次に袋はダンジョンの中に運び込まれる。
バケツリレーの方式であっという間に土嚢は男達の膝の高さにまで積み上がった。
「そういうことか……!」
迷宮には入り口と出口がある。逆に言えばそれ以外に出る場所がないということだ。
ダンジョン全体を水びだしにすれば水は勝手に入り口や出口に向かって流れていく。
そこで入り口をふさいでしまえば水は出口にしか流れない。
「そして水の流れを読めば最短コースで出口に行ける。おまけに迷宮の形が変わっても対応できるってことか!」
30分足らずで人の脛あたりまで水は溜まった。
予想通り、水が出口に向かって流れていく。
『侵入ポイント1万8500 DPを入手しました』
ダンジョンが定期的な変形を行った瞬間、たくさんの兵士が現れた。
メニュー画面から確認すると50人もいる。
兵士は水の流れを見ると、罠を探ししながら道を進んでいく。
「は、早い……」
「罠発見のプロフェッショナル……と言ったたところでしょうか」
昨日の先行部隊とは比べ物にならない手際の良さだ。
小走りほどのスピードにもかかわらず罠をいとも簡単に見抜いている。
罠を見つけたら1人の兵士がその場に残る。
入り口から出口までの間にある罠は46個。
それらを全て見抜き、兵士たちは20分ほどで出口に到着してしまった。
残った4人の兵士達は2階層に下ることなく元来た道を戻って行った。
途中、罠の目印のため立っていた兵士たちも合流していく。
結局、第1階層の迷宮はわずか30分で事実上の攻略となった。
「まさか、第1階層がこんなに早く攻略されるなんて……」
リリーがぼそりと呟く。
「ま、まだ第二階層もあるんだろう? まだなんとでもなるさね」
「そ、そうだモー! なんなら侵入ボーナスでDPも溜まって来たモー。新たな階層を追加してもいいかもしれないモー!」
たしかに、DPは4万にまで増えていた。
「ジュリアさんの『ちょうちょうちょうしんか』はいつから使えるんでしたっけ?」
「明後日だね」
「S級のモンスターがあと2体でもいればいくら数が多くても押し負けることはないからモーな」
時刻を確認する。
午前9時57分。
残り38時間か。
「DPはまだ残しておきましょう」
「そうだな、階層追加したらDPはほとんどなくなっちまう。今はまだ我慢だ」
時刻は午前10時になった。
1階層の迷宮が形を変える。
その瞬間先ほどの罠解除部隊が走りこんで来た。
『侵入ポイント2万5750DPを入手しました』
侵入ポイントがさっきより多い。
「昨日の先行部隊もいるモー!」
先ほどと同じ勢いで、いや、さっきより早く部隊は罠を解除していく。
「16分40秒……」
たったそれだけの時間で迷宮を踏破する兵士たち。
「第二階層に侵入者が入りました」
『侵入ポイント7250DPを手に入れました』
どうやら二階に来たのは昨日の先行部隊だけらしい。
二階層は細長い床がずーっと続いているだけだ。壁はなく、右も左も崖になっている。
床は幅20センチほどしかなく、誤って転落しようものなら、200メートル下の針山に串刺し。
二度とは戻ってこれないだろう。
「うまく行ってくれよ……」
俺は祈るように言った。
「なあ、ステンノー」
「なんだい、ウルス」
「魔法使いってすごいんだモーな」
「そうだね。まさか室内に雨を降らすとは……想像だにしてなかったよ」
「俺も魔法使ってみたいモーな」
「ああ、アンタは使えないんだったね」
「アンタはって……ステンノーは使えるんだモー!?」
「まあ、一応ね。私の技の1つに『石化解除』ってあるだろう? あれは回復魔法なんだよ」
「なるほどだモー。いいモーね」
「もしもアンタが魔法を使えるとしたら、どんな魔法を使いたいんだい?」
「うーーーーん、黒魔術がいいモーな。かっこいいし」
「似合わないにも程があるよ。むしろアンタが生贄っぽいよ」
「ひどい……」