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第11話 この迷宮……動くぞ!?

ダンジョン周辺に兵士が集まって早6時間。兵士達は未だにテントやらを建てている。

流石にこの人数を指揮するのはどんな将兵でも難しいらしく、多少の混乱が起きているようだ。


そんな中、ダンジョンに足を踏み入れた者がいた。


「もう敵が来ましたよ」

「早いな。メニュー」


俺はメニュー画面を開き、敵情報を確認する。

————————————

アビシア帝国軍第3連隊特殊先行工作部隊

隊長 マリル・リージー中佐 レベル97

副隊長 アーカム・メルシッシュ少佐 レベル89

ほか8名

計 10名 平均レベル72.5

————————————

『侵入ポイント7250 DPを獲得しました』


メニュー画面にそんな文字が表示された。

が、喜んでいる場合ではない。


「斥候って役回りだろうね」

「レベル97……強いな」

「前回のランドール王国軍の平均レベルは47.8。差は歴然ですね」

「80レベルを越えれば人類では最強クラス。それが3人もいるね。まったく、出来立てのダンジョンに対してオーバーキルにもほどがあるよ」


アビシア帝国の兵士達は訓練された動作で動き出す。

兵士達はしばらく入り口近くを歩き回ると、一度ダンジョンの外に出た。


「あれれ?帰っちゃうのかな?」

「偵察にしては……早すぎますね」


しばらくすると先ほどの兵士達が戻ってくる。


『侵入ポイント7250 DPを獲得しました』


こりゃいいな。

帰ってきた10人のうち2人がロープを担いでいる。

2人はロープの先をそれぞれ別の兵士に渡した。


「アリアドネの糸って奴だモーな」

「なあに?それ」

「ギリシャ神話の話の1つだモー。テーセウスがクレータ島の迷宮から脱出する手助けをしたことで知られるアリドネの話は聞いたことあるモーか?

 ミノタウルスをの生贄としてテーセウスは迷宮の中に閉じ込められてしまったんだモー。でも、テーセウスは見事ミノタウルスを倒すんだモー。

 しかし、迷宮は複雑で脱出すること不可能。そんな時、アリドネからもらった毛糸が役に立つんだモー。実はテーセウスは毛糸を入り口の柱に結んで迷宮の中に入って行ったんだモー。

 テーセウスは毛糸を手繰り寄せて迷宮から脱出するんだモー。そしてテーセウスとアリアドネは結婚するんだモー」

「ごめん、全然聞いてなかった」

「…………」

「要はロープを使って少なくとも入り口には戻れるようにしてるってことだね」

「なるほどな」


兵士はロープ持ちの2人を除き、4人の2チームに別れた。

1人はロープ持ち。

2人は剣を握りしめる。

そして残った1人は慎重に床を調べながら進む。


「罠があるかを調べているんでしょうね」

「分かるもんなのか」

「落とし穴とかは空洞なので一撃でばれてしまうと思いますよ」


片方のチームが足を止める。

先頭に立つ兵士が剣を抜き、前方の床を叩いた。

大きな音を立てて床は口を開ける。

直径は1メートルほど。深さは3メートルほどだが、底は針山のようになっている。

兵士達は顔を見合わせると、一度ダンジョンの外に出て行った。

また、すぐに兵士達は戻ってくる。


『侵入ポイント3150 DPを獲得しました』


兵士達は赤いペンキを担いでいた。

そして、落とし穴の手前と奥、さらに横の壁に『落とし穴注意!!』と描いた。


「大丈夫なのかい?このままじゃ攻略されちまう気がするさね」

「いや、まだまだだ。これからがこの迷宮の腕の見せ所だ」


俺がちょうどそう行った時。

迷宮全体が大きな音を立て始めた。


兵士達が一箇所に集まり、剣を構える。


迷宮の壁が移動し始めたのだ。

今まで進んで来た道が閉じられ、壁だった場所から新たな道が生まれる。

30秒ほどで辺りは一変した。


「おーー!すごーい」


ジュリアが目を丸くする。


兵士たちは互いの無事を確認するとロープをたどって入り口に戻っていく。

しかし、片方のチームはすぐに足を止めた。

ロープが壁と壁の間に挟まっているのだ。

巣穴が埋められたアリのように兵士達は右往左往する。

壁を蹴飛ばしたり剣を突き立てたりする者もいるが壁はピクリとも動かなかった。


もう片方のチームは幸運にも順調にスタートに戻っている。

道もほとんどおんなじルートだ。

目印をつけた落とし穴を避けて戻っていく。

入り口まであと数十メートルとなった時、1つのトラップが作動した。

壁から矢が発射される。

だが、さすがは人類最強クラス。

矢を避け、一命を取り留める。矢は逆側の壁に当たると落下した。


「おしい!」


隣でジュリアが悔しそうな顔をした。


そう、このダンジョンは迷宮の形も変われば罠の位置も変わるのだ。

実を言うと先ほどの落とし穴はもうなくなっている。

迂闊に壁や床に目印を置いたら逆に混乱を招くことになる。

本当によくできているステージだ。


兵士たちは戦々恐々としながらロープをたどって入り口まで戻って行った。


3時間後、3回の迷宮変形をした後、残ったもう1つのグループもようやく入り口へとたどり着いた。

そしてその日は人間達が再びダンジョンを訪れる事はなかった。


「うん、やっぱりこの『迷宮 レベル5』は強いな」

「どんなに頭数揃えても攻略できる代物じゃないモー」

「アタシ等の出番もなさそうだね」

「侵入ポイントで1万5000 DPぐらい手に入れたし、今晩はパーっといくか!」

「やったーーー!」


俺たちは和やかな雰囲気で1日を終えた。


●○


夜。

1人のエルフが自室のベッドに座っていた。

ブロンドの髪が蝋燭の炎に照らされる。

ダンジョンサポーターのリリーだ。


リリーはベッドの下からカードの束を取り出した。

カケルから貰った私物であるタロットカードである。


「……………」


リリーは硬い表情でカードをよく混ぜる。

そしてカードを揃えると一呼吸置いて一番上のカードをベッドに置いた。


「……っ」


そのカードを見て眉をしかめるリリー。


出されたカードは『塔』。


「崩壊、悲劇、破綻……」


リリーは小さく呟く。

さらにリリーは手元から一枚のカードを塔のカードの隣に置いた。


「…………」


置かれたカードは『吊された男』


「修行、忍耐、妥協……いや……」


リリーは天井を見上げた。


「自己犠牲……」

「なあ、ステンノー」

「なんだい、ウルス」

「この間、カケルから1人1個私物をもらったモーな」

「アンタは筋トレ用の岩だったっけ?」

「そうだモー。その時ステンノーは何をもらったんだモーか?」

「アタシは本をもらったさね」

「なんという本だモー?」

「『魔物の生態⑦』って本さ。雑魚モンスターからドラゴンまでいろんな魔物のことが書かれてある」

「モー。なんでそんな本をもらったんだモー? しかも1巻じゃなくて7巻を」

「…………まあ、あれだね。7巻にはバッドバットとホワイトウルフ。それからロックゴーレムについての項目があるから」

「なるほど、つまり他のモンスターと仲良くなりたいからもらったんだモーな。確かに、ステンノーは俺以外のモンスターと話してるところを見ないからモー」

「…………」

「意外と可愛いところあるんだモーな」

「…………」

「みんなに教えてやるモー。おーい、みんな聞いてくれモー。実はステンノーは……」

「石化!」

「モ”ッ……」

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