第10話 俺の考えた最強のダンジョン
さて、俺たちが3日間かけて作ったダンジョンを紹介しよう。
数百メートル四方だったダンジョンは一キロメートル四方にまで拡大した。
端から端まで一目では見渡せないほど広い。
しかもそれが3階層ある。
階層の拡大にはDPは不必要だが、階層追加にはDPがかかる。
2階層 2万DP
3階層 3万DP
4階層 4万DP
といった具合だ。
階層追加だけで5万DPもかかったが、固定資産と思えば痛くない。
もちろん居住区は3階層の一番奥に設置してあるので、入り口から直線距離でダンジョンコアまで3キロはある。
人間ではコアに到達するまでに最短でも数十分かかるだろう。
さて、まず1階層について説明しよう。
1階層は巨大な迷路だ。
石造りの高い壁は20メートル近くある。
攻略にはかなりの時間を有するだろう。
この迷路は『迷宮 レベル5』というステージだ。
2万DPもかかったがかなり有用なダンジョンだと思う。
この迷宮のすごいところは1時間ごとに形を変える点にある。
壁を伝って迷路を攻略する力押し技も、マッパーが必死に書き留める地図もこの『迷宮 レベル5』の前では無力なのだ。
試しに俺も挑戦して見たが2時間くらいで諦めた。とてもじゃないが無理だ。
しかもこのダンジョンのすごいところはそこだけじゃない。
何とトラップも付いているのだ。
『落とし穴 30個』
『飛び出す矢 30個』
『転がる岩 3個』
『テレポート 50個』
これだけ付いてお値段そのまま2万DP。
感動すら覚える。
特に『テレポート』がいい。
踏んだら最後、同じ階層内のどこかに転移する。
完全にランダムに飛ばされるため、飛ばされた仲間の後を追うこともできない。
食費の関係で準備できてないが、ここに動きの素早いモンスターを配置したら大概の人間は駆逐できるだろう。
2階層に移ろう。
2階層は入り口から出口まで細長い一本道でできている。
道の幅は20cmほど。片足を置くほどのスペースしかない。
そして道の周りには大きな穴が空いている。深さは200m。
おまけに底には針を敷き詰めておいた。
誤って落ちたら串刺しというわけだ。
道は途中で大きく湾曲したり折れ曲がったりと合計で2kmの長さがある。
壁から矢が出てきたり上から岩が落ちてきたりと妨害にも抜かりはない。
第2階層は1万DPほどで済んだ。
最後に第3階層。
ここにかかったDPは0。
初期設定の『土の壁』『土の床』『土の天井』がむき出しになっている。
この第3階層にはステンノーとウルスが配置される。
第1階層と第2階層を突破してきた強者をここで倒すのだ。
「いやー、えぐいモーな。こんなダンジョン俺でも心くじけるモー」
「第1階層には雑魚モンスターを配置したほうがいいんじゃないかい? 経験値稼ぎの駆け出し冒険者がやってくるかもよ」
「ダンジョンコアは高値で取引されますから、愚かな人間は何もしなくても寄ってきますよ」
皆んなも顔をほころばせていた。
これぞダンジョンメイク!
ダンジョンマスターの醍醐味だ。
残りDPは1万とちょっと。
切り詰めて食事をしたら4日くらいは持つか。
意外に時間がない。このまま飢え死にエンドなんてごめんだぞ。
まあ、最悪外の世界で野生動物を狩るのだろうが。
「あ、半径10kmに人間を感知しました……こちらに向かってますね」
「本当か?グッドタイミングだな」
「えっと、敵の規模は……多いですね。またランドール王国の兵士たちのようです。100…200…300…まだ増えてます」
「そ、そんなに多いのかよ」
「ランドール王国の先鋭40人が消えたんだモー。100や200来ても不思議じゃないモー」
「800…900…1000…」
「さすがに多すぎじゃないかい?」
「うん。いくらS級のウルスとステンノーがいるとは言え、骨が折れるよね」
「1100…1200…ってええ!」
「どうした?」
「南からも兵士が現れました。この鎧は……アビシア帝国軍です!」
「アビシア帝国!大陸南部に位置する社会主義国家だモー!」
「総数1800…2000…2200…まだまだ増えます!」
「何が……何が起こってるんだ!?」
「東部より新たな敵! ウェイボー共和国、エクハッド王国、ティッシャー公国の連合軍です!」
「ウェイボー共和国は文化、経済共に先進国の1つだモー! エクハッド王国は雄大な自然が特色の1つ。一方で第三次産業もかなり盛んな国でもあるモー! ティッシャー公国は……」
「うるさいよ地理オタク!」
「敵兵合計で3万を超えました!」
そして2時間が経った。
「報告します。
ランドール王国軍6万4311人。
アビシア帝国軍3万9056人。
ウェイボー共和国軍4万7419人。
サンピナ連邦軍3万5120人。
その他6カ国から5万2915人。
合計23万8821人。
現在ダンジョン周辺にて、拠点を作成中です」
「いきなり飛ばしすぎだろ!」
「まさか国連軍が動くとは……歴史上例がないモー!」
「さすがにそんな人数防ぎ切らないよ!」
「これが……『世界の管理者』の力……」
俺はなんとかみんなを鼓舞する。
「ま、まだだ。諦めちゃダメだ! 1階層の巨大迷路は人数がいれば解けるもんじゃないし、2階層の通路はむしろ人数がいたほうが不利だ!」
「カケル様……」
「希望を失っちゃダメだ。必ずみんなでこの窮地を乗り切ろう!」
「はい!」
「モー!」
「分かったよ」
「うん!」
総力戦が始まる。
『聞いたかね、今の話を!』
『ああ、しっかり耳に聞こえたぜ! 耳ねえけどな!』
『スライムの耳にも聞こえたよー。耳ないけどー』
『うむ、僕の耳にもはっきり聞こえた。どうやらマスターのピンチのようだ』
『ちょっと待て』
『なんだね、クレイジーフラワー君』
『お前、耳あんのか?』
『あるとも! 失礼な』
『うそーん、見当たらないよー』
『ここだここ!』
『…………もしかしてこの後ろ足にある穴か?』
『そうだとも! 昆虫の耳は足にあるのだ。これは近づいてくる敵の足音をいち早く感知するためだと言われている』
『へー。なんか気色悪い体だねー』
『スライム君、君にだけは言われたくないぞ……』