忘却のシナークロニクル
闇の中で幾つもの世界が交錯し交差していく。並行になっている線たちが混じり合い絡み合い一つの世界に繋がろうとしている。
俺の意識は一本の線へと接続される。
そこは元々目指していた世界。でもそこは同時に俺の罪を表す世界。
救えたかもしれない命を俺は救わなかった世界。
ある少女は言った。
『この出来事が無ければ今の私はいない。』
元々いた世界。正しい世界ではある。
ただ、そこに辿り着くのが本当に正しかったのだろうか。俺は彼女を言い訳にしているのではないか。
俺には自信がなかった。両親の死を回避した先に彼女が自分に好意を抱いてくれるのか。
そんな心の隙間を利用されたのだ。ある男の最後の足掻きとして。
過去改変とは本来許されるものではない。だから歪んだ未来を俺達は変えたのだ。何人もの犠牲者を出してまで皆本来あるべき形にしたのだ。
変えられてしまった過去を直したのだ。それが万物において正しいと思ったからだ。
でもそれで本当によかったのか?
俺は再度自分に問いかける。
そしてーーーー。
目覚まし時計の音が鳴り響く。俺はそれを止めて、目を開く。そこには見知った天井がある。
そうか。戻ってこれたのか。辿り着けたのか。
未改変世界に。
俺は安堵し自分の携帯を手に取り起動させる。
日付は2025年8月2日と表示されている。
俺は携帯の検索機能を利用し、いくつかの疑問を解消するため検索をかける。
『吉崎牙醒羅』
検索結果は二つほどヒットした。一つは彼の大学。そしてもう一つは行方不明になった青年の記事だった。
どうやらこの世界において吉崎牙醒羅は行方不明とされている。
予想通りではある。この世界ではタイムマシンを作ることが出来ないのだから。そして彼はまだ完成していなかったタイムマシンで改変世界を作り出すのだ。
だが、俺の変動上書きが適応されているためこの世界にはまったく影響せず彼は永久に改変世界を繰り返すことになるであろう。その先に、彼のその先になにか起きるかなんて誰にも想像出来ないのだ。
そして牙醒羅が日本で研究をしていないということは刃蘭と出会うこともないのだ。彼は兄である牙醒羅の研究がきっかけで日本に来たのだから。
『クリッタン・ザテラ』
何件かヒットした。
並行世界研究者として名高く知られており研究者の中でもかなりの美貌を持つと評判高い。噂として陰謀論めいた話であるがSTPという組織に関与しているという話が上がっていたが2020年には完全に無かったものとされている。
そしてどことなく大統領の娘に似ているとどこ記事にも書かれていた。その言葉から俺は彼女はもしかしたらカレンさんだったのでは?と思ったがそれはありえない事だ。何故ならSTPに囚われている時カレンさんとサデラは同時に存在していたからだ。並行世界研究者ということから何かしらの関係性はあるにしろ、同一人物ということは無さそうだ。彼女の言うとおり俺には到底理解できない領域なのかもしれない。
『ナラバガス・カレン・ファステリアデューク』
アメリカ大統領の娘として何度か国の会談に参加していると報じられている記事があった。
どこにも並行世界研究者の仕事をしているなどと記されていない。
そういう事なのだ。やはりカレンさんとサデラはどこかで繋がっている。
カレンさんが俺を騙していたと知り、俺はなんだか悲しくなった。彼女は国のためならなんでも平気でやるような人間だったということなのだ。
あの時の謝罪は一体どういった気持ちで行っていたのだろうか。今となっては決して理解することのできない行動である。
暫くして俺は部屋から出て二人の姿を確認したくなった。
「あら?いつもよりはやいじゃない」
「おはよう。光真。」
そこには母さんと父さんがいた。未改変世界において二人は死ぬことはない。
二人の姿を見るとなんだか苦しくなる。俺だけ家族を取り戻したことに。
「今日は出掛ける用事があるからね。」
「休みなのに?」
「ちょっと学校に行く用事あって」
「おうそうか。気をつけてこいよ。」
「朱葉ちゃんの家にも行くのよ。」
「わかってるよ。」
暫くして俺は用意を終えて学校へと向かった。
カレンダーには夏休み中大学試験模試が行われていていると書かれていた。そして今日はその対策日だ。
いつも通りの道を歩いていると背後がなにやら騒がしい。
「おい、咲良急げ!間に合わなくなるぞ!」
「ま、まって炎さん!!」
「えっ?」
俺は後ろを振り返る。
そこには見知った人影が二つ並んていた。
二人は俺の横を通り抜けて行った。
俺は頬が緩むのを感じた。そこにはかつての世界では迎えることの出来なかった幸せな未来があった。
「・・・次は幸せになってくださいね」
俺は二人の影を見送りそんな言葉を吐いた。
この世界は施設に囚われていた偽りの罪人に幸せが齎されていると感じた。
それだけでも自分の行いがよかったと、言われているような気がして救われたような気になる。
恐らく琴峰さんは栗原さんの事件を何らかの形で止めたのだ。
カレンさんではなく、本当の栗原咲良、本人を救ったのだ。
暫くして学校につき講習を終えた。
まるで高校の勉強が頭に入っていなかった。
これはもう一度勉強し直さなくてはならないと思った。
帰り際玄関で靴を履き替えていると目の前から物凄い勢いで走ってくる青年と衝突する。
「いってえぇっ!!」
「あ、おっと、ゴメンナサイ!!同級生だと思ってハシャイでしまいました!!」
この特徴的な英語と日本語が混ざったような話し方、聞き覚えがある。
ロシア人なのに日本に来るからといって何故か英語の練習をしたというアホ。
高身長で顔立ちが良くて優しい水色の瞳をしていて物凄く綺麗な金髪の青年。
間違えるはずがない。忘れるわけがない。出会うはずもなかった俺の親友がそこにいた。
「ば、刃蘭っ!?」
「え?」
お互い見つめあったまま数秒固まった。俺は嬉しさのあまりつい、その名を呼んでしまった。
ーーーーしまった。この世界じゃまだ俺達は出会ってないんだ。
「ぇええええっ!?日本人はエスパーかなにかなんですかっ!?」
どうやら慌てる必要は無いらしい。こいつがアホで助かったというところだろう。
「あ、いや、ばら、バランスをね。崩したのは俺だから謝んなくていいよ。」
「あ、そそそ、そういうことですか!」
俺は彼と初めて出会った日を思い出しながらゆっくりと質問した。
「君、ハーフかなにか?転校生かな?」
「あ、はい!吉崎刃蘭と申します!あなたは?」
「おれは・・・」
いやまてよ、このまま自己紹介したら・・・
「子馬!子馬!」とかって馬鹿にされるんじゃないのか。
いや流石に初対面でそれはないだろう。
「俺は喜多見光真」
「キタミコウマ?コウマ?子馬さんですか!!」
「俺は光真なっ!?子馬じゃねーよ!」
「あっはははは!間違えましたよ!」
「お前わざとやった訳じゃないよな?」
「いやいーや!そんなことは」
刃蘭はわかりやすく頭の後ろをかく。
俺と刃蘭は不思議と笑みが溢れていた。
期待通りの反応と仕草に愛しさを感じる。
出会う瞬間は違えど彼は吉崎刃蘭なのだ。何一つ変わらない俺の親友になる男なのだ。
「これから、よろしくな。刃蘭!」
「ええ!あなたとは仲良くできそうです!光真!」
俺達は互いに友情を高め合い握手をしてその場をあとにした。
この世界での不安がひとつ解消された。刃蘭とは出会えないのではないか、と踏んでいたが、巡り会うことが出来たのだ。
俺は帰りに朱葉の家に寄ろうと道を歩いていた。
ふと携帯を見ると朱葉からえげつない数の着信が入っていた。
なにかあったのかと不安になりトークアプリを開くと15時半に会う約束をしているではないか。だが、これは元々この世界で生活していた俺だ。俺はこの世界においてこの約束を知らない。
しかしそんなこと朱葉は知らないのだ。時間を見ると時刻は16時を指していた。どうやら刃蘭と話しすぎたのかもしれない。俺は急いで朱葉の家へと向かった。
「おっそぉおおおい!」
「すまん、わす・・・」
「はぁいぃ?今なんて?」
「あ、いえ!なんでもないです!」
「まあいいわ。カナちゃんが遊んでくれたし。」
「お!そうか。よかったな。ついにお前にも友達ができたのか!」
「は?友達ぐらいいますけど!」
しまった。友達がいないのは前の世界だ。
「あ、いや!そんなつもりで言ったんじゃ!」
「ふぅん。なんか今日変ね。」
「そ、そうか?」
「遅れたお詫びとしてちょっと散歩しましょ」
「お、おう。」
この世界での朱葉は生意気だがとっても元気で安心した。
暫く歩いていると、朱葉が口を開く。
「ありがとね。」
「ん?なにが?」
「カナちゃんのことよ。」
「ん?」
「あっきれた〜。覚えてないの?」
「なにかしたっけ。」
「カナちゃんに両親が亡くなって間もない頃私が取っ付きにくいって相談されたんでしょ?」
「そんなこともあったな。」
「それで・・・その、ありがとね。時期を見て仲良くして欲しいって頼んでくれたんでしょ」
「ああ。あの時期は不安定だったからな。少し距離をとってやって欲しいって言ったんだよ。絶対元に戻れるからってな。」
「その話今日初めて聞かされたんだから。なんで教えてくれなかったのよ。」
「あ、なんか照れるっていうかさ、恥ずかしいじゃん。」
「まったく。あんた変わらないわね。」
そう結局両親の件がなければ俺と朱葉はーーーー。
俺は『もし両親の件がなければ無くせるのだとしたらお前はどうする?』なんて言えはしなかった。
「私はさ。今までの出来事、消せたらなーなんて思ったりしないよ。だってさ・・・今までの出来事が無ければ今の私はいないじゃない。」
「なんだよ。それ」
「なんとなく、今の光真に言ってあげたくなったのよ。」
「まったく、生意気なやつだな。」
「そんな私のことか大好きなくせにぃ〜」
朱葉は冗談っぽくそう言った。
「ああ。好きだよ」
冗談で言われたのは分かっていたがどうしても今言いたくなってしまったのだ。
「あ、えっ!?いや、えっ!!い、今のはじょ、冗談っていうか!いや、でも嬉しいっていうか・・・」
わかりやすく動揺する朱葉に俺は意地悪な笑みを浮かべ続けた。
「冗談だよ。なにマジになってんだよ。」
俺はなんだかはずかしくなってしまい、またまだ自分に自信が持てずにそんな台詞を吐いた。
これは何時ぞやか朱葉に家に来るよう提案した時に言われた台詞だ。あの時のお返しが出来たかのような感覚に襲われる。
「なっ!?ぐぅぅ」
朱葉は恨めしい顔つきで俺に睨みを効かせる。
「光真の・・・」
「えっ」
「馬鹿!!」
そしてその後、朱葉の拳が俺の腹にクリーンヒットしたことは言うまでもないだろう。
俺にはまだやらなくてはならない事があるし幸せに満ちたこの生活を守らなくてはならない。
牙醒羅が観測したという俺の本当の未来。
カレンさんという人間と接触したことから生まれたこの世界。
サデラとカレンの関係性とサデラが吐いた最後の言葉の意味。
完全になにも起きないとは保証できない。
だからこそ自分が見た光景、罪を忘れずに生きていくことを選択するんだ。
そしてタイムマシンに翻弄されてきた罪人の年代記は新しい光を灯す真実の未来へと収束する。人間は欲が強く弱い生き物だから自分には関係ないなどと思わず周りをよくみて助け合い、戻れない過去を嘆きながら素晴らしい未来を作るために精一杯いきる。それが俺達罪人の答えなのかもしれない。
これから先まだ俺には色々な事が起きるであろう。
だがひとまず、この件にはついては一段落した。
みんなから罪人の年代記が消え去れろうとも俺の中には刻まれ続ける。この先も俺の自信のなさから辿り着いたこの『罪』を象徴する世界と共に。
ーーーーもし、世界を選択できるのなら『元いた世界』か『新たなる世界』
どちらを選択するだろう。
そんな疑問を残し、忘れずに、また俺の今日が始まる。
最後まで読んで頂きありがとうございました。なんだかしっくりこない終わり方だと感じた方もいらっしゃると思います。ですが僕の中ではこの終わり方が一番良かったかなと思っています。初めて書き終えたものですのでどこかで見た設定や展開があったかも知れません。
伝えたかった部分は別の場所にあるのでそれが伝われば幸いです。
ではまた機会があれば僕の作品を見てくれると嬉しいです。




