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終末のレコンキスタ

もうどのくらい経ったのだろうか。


 全身が砕けるような猛烈な痛みに襲われ続けている。


 最初の数時間は痛みで何度も気絶した。次第に感覚が無くなってきて身体を動かすのは困難だ。いや動かせはするものの動かせているのか分からない。


 段々と重力を感じなくなり体がグルグルと回転するかのように浮遊している。


 今度は痛みから気持ち悪さや不快さ、更なる苦痛を感じ始める。さっきまで浴びていた肉体的ダメージの方がよっぽど楽であった。今受けているのは内蔵や体の内部をグチャグチャに掻き回されているかのような感覚だ。身体の内側も外側もダメージを受けて痛みによる板挟みを受けている。


 さらに高度が上がったのか今度は熱を帯びた辛苦の暑さを感じる。かとおもえばスピードが上がり寒さを帯び始める。


それを何度も何度も何時間も一瞬にして長時間にも及ぶ矛盾した時間感覚に襲われる。まるで絵に書いた地獄を体験しているようである。


 そして身体は無重力世界に放たれ精神は輪廻し、時間感覚が失われた。


 刹那ーーーー。俺の脳が思考を取り戻した。

 『俺は過去に・・・2020年の八月七日に行くんだ』

 

 体の感覚は徐々にリアルなものに変換され、急に体が重くなる。気の遠くなるような一瞬の出来事に精神は疲弊し、俺はその場に倒れた。


 ゆっくり目を開くが色彩感覚が戻らない。黒の上に幾つもの線が交差し様々な色を帯びて重なり合ったり広がったりしていく。


 まるで世界の理を垣間見たような感覚に襲われる。


 感覚がリアルになるにつれて内面、側面の痛みが顕になっていき、猛烈な苦しさと気持ち悪さを感じる。


 ゆっくりと深呼吸をし身体の状態を整えていくが、俺にはこのタイムトラベルは相当なダメージがあるらしくまともに頭が働かない。


 このままでは目的も失い廃人と化すような恐怖さえ感じるほど今の俺に何かができるとは思わない。

 

 『あかは・・・あ、かは・・・』

 

 俺はひたすらに誰かの名前を呼んだ。

 

 刹那ーーーー。頭に電撃が迸り、ここ何日かの記憶が再現されていく。


 ほんの何日かだが、俺はなにか大切な使命を持っていたはずだ。

 

 『未来を変えろ。』

 

 それはとても憎いやつからの言葉だった。

 俺というもう一つの存在が放った言葉だ。

 

 取り戻なければならない。俺達の時を。

 

 色んな世界を巻き込んでまで求め、探し続けた、俺達のいるべき居場所を帰るべき場所を取り戻すために。

 

 そう、俺はこの時間に来たのだ。絶望を齎すためじゃない。時間という国土を回復するために最初で最後の時を遡ったのだ。


 さあ、はじめよう。

 「迷惑かけたな。俺」

 

 俺の体はすっかり元の感覚を取り戻していた。

 全てに異常なしだ。

 

 俺は目的地へと決意を改め、足を進めた。片手には考えに考え抜いた改変をとめる術が握られている。


 この時間には二度と来ない。そして訪れもしない。

 なぜなら今日がこの改変世界を観測する最後の日になるからだ。

 

 俺と未来の俺。

 

 二人が存在することで迎えられたこの時間。無駄にはしない。

 

 意識が戻った場所はタイムトラベルした時と同じ場所であるが、時間が違う。


 ここはSTPのタイムマシン研究施設だ。俺達が拘束される五年前。タイムマシンが出来たと報じられる三年前だ。この世界の座標は始まりにして終わりを迎える時間、未改変世界と改変世界の狭間である。この時間の二年前に牙醒羅は訪れ母さんに人工知能移植を行い、父さんを利用したわけだ。その結果本来STPを止める人間が促進する側にまわった事でAI技術の飛躍的な革命が起き、本来辿るべき時間とズレたため改変が起ったのだ。つまり牙醒羅が母さんに行った変動は目に見える改変が起きず、二年間本来と同じように進んでしまうため改変が起きなかったのだ。そして牙醒羅が過去の自分を殺めたのに改変が起きなかったのも本能的に過去の自分と同じ道を辿ったからなのだ。


 つまり結果が変わらなければ改変は起きないということなのだ。ただし改変は起きないが変動は訪れる。多重線世界中の一部から派生し新たなる時間軸が観測圏内に入る。この観測圏内定義はタイムトラベルした者が自分の過去とは能動的に違うと理解した時に変動として処理される。これは改変も同義で時間的要因においてはタイムトラベラーが観測者としての役割を果たすのだ。つまり、俺と牙醒羅が変わったと認識した時観測者と世界の調和が取れなくなり、座標が変わるのだ。改変と変動は別の意味合いで矛盾を起こした時に移動が発生する。そしてこの移動にも改変と変動に違いがある。


 改変は観測されていない世界への移動、変動は観測された世界への移動を意味する。つまり変動を起こせばいい。


 変動は改変を起こさないことが決定条件であるが、改変を起こさなければ牙醒羅が母さんに起こしたように数年が経過してしまうし、そのまま何も起きないのだ。そう、つまり改変を変動に変えることが出来れば未改変世界へ移動することが出来るのだ。このギリギリのラインで行けば未改変世界の法則にも引っ掛かることはない。

 

 今起きている、牙醒羅が起こした改変は自分を殺したこと、母さんに人工知能移植を行ったこと、朱葉に殺人鬼を植え付けたこと、奈良沢夫妻の死の改変である。

 

 ただ、一つ問題がある。牙醒羅の改変は幾つもの変動で成り立っている。そうまだここは未改変世界という扱いになっているのだ。最後の変動を経て全てが連なり意味を有し『改変』に帰するのだ。


 変動が及ぼされた状態を牙醒羅に観測させなければならないということなのだ。俺が見た光景、牙醒羅が体験したこと、起こそうとしている事、実際に俺の世界に至るまでのあいつの改変を否定してはならないのだ。否定するとここにいる俺を否定することになるのだ。全てが矛盾なく繋がることが未改変ということなのだ。


 ここまでが俺達が見つけた理論なのだ。

 

 一つずつ変動に変動を重ねて俺の世界に至るこの始まりの時間を否定せずに元の未改変世界の結果に導くことで『変動』の移動が起き、未改変世界へと収束するのだ。

 

 俺は施設を歩き牙醒羅の研究室に辿り着く。事前に牙醒羅の研究室には俺のいた世界で調査していたためすぐに見つけれることが出来た。


 牙醒羅の部屋にはキーカードロックが掛けられていたがこれも俺のいた世界から持ち込んだもので対処する。

 部屋に入ると正面にパソコンが設置されていた。これが俺の目当てだった。


 俺は自分のカバンから小型の電子機器を取り出しパソコンのuSB端子に接続させる。


 このパソコンには人工知能や記憶データが無数に保存されている。小型の電子機器で形式と座標を読み取り未来に接続させる。


 パソコンを起動させ取得していたパスワードを全て自動入力させデータフォルダを電子機器に読み込ませる。


 ロード画面が表示される。1回に多くのデータ接続を行うため長時間のロードが必要となるというような内容が表示される。


 パソコンの指示に従い『はい』というボタンをクリックする。


 刹那ーーーー。

 脳に軽い痛みが走る。

 どうやら未来から2018年の母さんに情報が送信されたらしい。


 これで誰に邪魔されようと母さんの記憶に見知らぬ記憶データが牙醒羅に上書きされ父さんを利用するという変動に変動を重ねたことになる。


 改変にならないために未来には母さんの記憶データを保持した人工知能にこれまでの経緯をインプットさせてこの時間帯をベースとしたパソコンの記憶データと入れ替えたのだ。


 形式を認識させて未来に送っているので未来から2018年の母さんに上書きされるデータのみ、母さんの学習済み人工知能データに変わる。この時間帯と2018年のパソコンが同じ形式であることの調べはついていたためこのような形になった。長時間送信に時間がかかるとなっているが俺のこの行動だけでもう変動による、変動は確定されたことになる。


 まだロードは途中であるが、俺はパソコンから電子機器を抜き取る。この姿を誰かに見られると確定が否定に変わってしまうためこれでいいのだ。そもそも未来と過去とでは時間の流れが違う。ロードが終わることはそもそも有り得ないのだ。行動確定だけでこの変動は充分なのだ。


 これで母さんのアルツハイマーが悪化することはないのだが、人工知能によって一時的に牙醒羅や父さんに悪化したと認識されるのでこの時間において座標変動は起こらず、結果も変わらない。


 つまり、一つ目の変動はこれで成功だ。





 

 では、つぎの行動に移ろう。


 俺は牙醒羅の部屋の隅に目をやる。そこにはダンボールがいつもの積み重ねられている。


 『改変』が確定した俺の世界ではこの行動は無意味なのだが、この世界においては歪んだ形でこの場に残っていては困るものあるのだ。


 ダンボールをすべてよけるとそこには下へと続く扉が床に隣接していた。そこを開けると物凄い悪臭が俺の鼻を燻る。

 

 そこにはこの時間においての牙醒羅の死体が置かれていた。

 ミイラ化したそれは酷い顔を浮かべている。


 俺はそれを持ち上げ部屋の中心に置き周りに小型のレーザー生成機を置く。


 俺は床の扉をしめ、ダンボールを積み直しレーザーのスイッチを入れる。


 光化学レーザーが牙醒羅の死体に当てられる。


 そしてそのレーザーの威力は俺の体にまで影響を及ぼし重力を変える。


 「くっそ・・・思ってたより凄いな・・・」

 俺は身体を引きずりながら牙醒羅の部屋を後にした。

 

 刹那ーーーー。脳が潰されるような痛みに襲われる。

 苦痛の声を漏らしながら俺は安堵した。

 どうやら、上手くいったようだ。


 光化学レーザーで重力場を構成し牙醒羅の死体をレーザーごと時間の果てに飛ばしたのだ。


 これは過去のアメリカで行われていた実験だ。


 こんなのではタイムトラベルは出来ないだろうと納得した。

 恐らく牙醒羅の死体は跡形もなく消し飛んだだろう。従来のタイムマシンに乗った人たちは相当な痛みを味わったこと間違いないだろう。俺は首のあたりが痛くなるような感覚に襲われた。


 つくづく思うのだが、タイムマシンほど人体に悪影響な代物は無いのではないかと思い知らされる。

 

 まあだが、これでこの時間において牙醒羅は2018年まで生きた吉崎牙醒羅として認識された。


 だが、これも変動のため牙醒羅に気付かれてしまえばお終いだ。


 つまりこの日以内に全ての変動を行わなければならないということなのだ。


 元よりそのつもりだったのだが、想像以上に肉体の疲労が激しい。それはそうであろう。バレたら全てがオジャンになるという緊張感、やったことも無い作業の数々、責任という肩の重み。

 

 俺の精神が徐々に弱っていくのを感じる。

 

 だが、もうすぐで全ての変動が終わる。ここまで順調だ。

 

 諦めるわけには行かない。





 

 俺は歩みを進めて次の目的地を目指す。


 上の階に上がると何やら研究者たちが集まっている。

 研究室の一角で朱葉の実験が行われているのだ。


 俺は研究者達の死角になるような所に隠れ機会を持つことにした。

 

 「牙醒羅さん。一旦僕と変わりましょう?」

 研究室の窓越しに外国人男性が牙醒羅に提案をする。


 「そうだな・・・マーク、俺達は一旦休憩に入る、その間頼むぞ。」


 集まっていた研究者たちはどうやら休憩に入るらしい。

 隠れている所にマークという男性が近づいてくる。


 俺はスタンガンを起動させタイミングを見計らいマークに解き放つ。


 マークは死角になるように倒れる。


 俺は急いでカバンからタブレット型の端末機でマークの顔を認識させる。


 焦っているせいかうまく操作ができないでいると不審に思った牙醒羅が近づいてくる。


 「どうした、マーク?こけたのか?」

 「あははは、すいません。牙醒羅さん。」


 「気をつけろよ?お前はちょいちょいドジなんだから。」

 「すいません・・・」


 「これ、鍵な。なにかあったら呼んでくれ。」

 

 牙醒羅はその言葉を後にし、その場を大勢の研究者と共に去っていった。


 危ないところであった。


 気を抜くと俺の姿はマークのものから喜多見光真としての姿に戻る。


 これはカレンさんが行っていたものの簡易版で一分近くまでなら認識した人の姿に一時的になれるというものだ。

 

 「うわ・・・もう戻っちまった。危ねぇ」


 俺は急いで研究室に入る。そこには幼き日の朱葉がいた。

 カバンからヘッドホンと携帯端末を繋げたものを朱葉に装着させる。


 「ぐ、ああああっ!!」

 「すまない、朱葉・・・すぐ終わるから」

 「・・・」


 これで朱葉がうまく動いてくれれば全ての変動は終わる。

 朱葉にも母さんと同じように人工知能の記憶データを移植させた。


 ちょっと強めの記憶データらしく目覚めるのに少しかかるらしい。


 「おばさん達の未来を変えてこい。朱葉。」

 俺はまだ眠っている朱葉の頭を優しく撫でる。

 そして俺はその場を後にした。






 

 あとは朱葉の頑張りを見届けて過去に戻れば全てが終わる。


 俺は組織から抜け出し奈良沢夫妻の死の改変が行われた崖を目指す。


 その場所に辿り着くとデジャヴのような奇妙な感覚に襲われる。


 なんだか胸騒ぎが収まらない。

 計画通りに変動を起こしているはずのに何故こんなにも不安が立ち上るのだろうか。

 

 俺はそこで朱葉の変動を見送ろうと思ったのだが張り詰めた空気からやっと落ち着ける場所についたせいか眠たさが襲ってくる。


 やれることはやった。あとは朱葉を見送り、帰るだけ。

 俺は崖から少しばかり離れたところに行き少しばかり眠ることにした。

 

 『光真・・・光真・・・』

 

 すっと目が覚めた。

 そうか、俺は寝ていたんだ。

 

 「起きた?」

 ふと、隣から声がする。隣に目を向けると朱葉がそこに居た。

 

 「朱葉?あれ、今何時だ?」


 「今終わったところだよ。助かったよ。私が両親を殺す時はあの人たち来なかったのよ。でも大変だったんだよ。お父さんとお母さんに理解してもらうのに。」


 「おばさん達はどうなったんだ?」


 「死んだように観測させたよ。交通事故と崖から落ちるように観測させた。」


 「どうやってだ?」

 「もちろん、計画通り、光真のお父さんとお母さんが全面協力で、かつ牙醒羅に観測されないように動いてくれたよ。」

 「そ、そうか。じゃああとは帰るだけか。」


 「そうだね。いこっか?牙醒羅に気づかれないうちに」

 「そうだな」

 

 本当にこれで全部終わったんだよな。これでやっと皆救われるんだよな。


 崖から降りると海と道路が見えてくる。

 段々と雲行きが悪くなってきているような気がした。

 

 どうしてだろう。まだなにかやらなくてはならないことがあるような気がしてならない。


 なんだろう。このもどかしさと呆気なさは。こんなに簡単に終わるのか。


 それだけカレンさんと俺の計画が完璧だったのだろう。

 あとは座標変動が起きるまで元の世界で朱葉と共に暮せばいい。

 なのにーーーー。

 

 「なんだか寂しいね・・・上手くいっちゃったじゃん、結局」


 「ああ。」

 「ああって一緒に過ごした私たちがいた世界の記憶は残らないんだよ?」


 「思い出せないだけでちゃんと確かにそこにあった事だよ。大丈夫。また平凡にふざけ合ったり、笑いあったり出来るよ。」


 「・・・・・・」


 刹那ーーーー。何かと何かが衝突する音が聞こえた。

 そしてそれと同時に脳に激しい頭痛が訪れる。


 「な、なんで、このタイミングで!!!うっぐぅ・・・」

 「光真・・・」


 「朱葉・・・おまえ、さっき何をしたんだ!!」


 「私は記憶データ。貴方に与えられた改変のプロセス通りに過去を変動させた。」


 「俺が?なんだって・・・?」

 

 『両親を殺すよう仕向けろ。でなきゃ未改変世界には辿り着けない。』


 頭の中で言った覚えのない言葉が発せられたと俺の記憶が言っている。

 

 「なんだ・・・これ、俺なのか?嘘・・・だろ」


 記憶にない出来事が俺の過去として脳に刻まれていた。


 俺は朱葉の記憶データにどんな改変のプロセスを教えたんだ?というより俺はそんなことをしていない。


 違う。全ては俺がやった事だ。

 いい加減、自分を偽るな。俺はお前でお前は俺なのだ。

 

 『なあお前も望んでいたはずだ。この結末を。』

 

 「黙れ、俺はお前じゃないしお前は俺じゃない。」

 

 なにか忘れていた。それは未来の俺と過去の俺の相互関係だ。


 俺の脳は改変に反応して観測した世界を保有するようになってしまった。


 それは幾つもの世界において改変と変動、タイムトラベルを行った末に脳に刻まれるようになった記憶の進化だ。


 でもその力は強すぎた。いつしか俺の脳は全ての世界の俺と記憶を共有するようになっていたのだ。


 つまり、それは人格をも共有してしまっているのだ。

 

 俺の脳が改変が起きる度に記憶の齟齬として訴えてきたのではなくそれぞれの俺が望む世界に導こうとした結果なのだ。

 

 そう、この時間において変動に変動を齎すことが出来るのは俺というたった一つの可能性のみである。そしてこの俺に最も影響を及ぼすのが未来の俺なのだ。

 

 「まだ変動をは終わってない。これ以上お前の好き勝手にはさせない。牙醒羅!」

 

 俺は目を瞑り自分の潜在意識に目を向ける。

 意識が脳へと向かい、暗闇に二つの影を呼び寄せる。

 

 「やっと気付いたか」

 「すまない。俺の責任だ。」

 

 「未来の俺は悪くない。俺の心の隙間に牙醒羅が入ってきたんだ。俺の責任だ。」

 

 「さあどうする?もう帰る以外なにもお前にはできないぞ。」


 「悪あがきも大概にしてほしい。お前こそ何をした所でSTPはどの世界においても消える。」


 「相変わらずタイムマシンについて浅はかだな。」

 「なんだと?」


 「過去の俺。よく考えてみろ。何千通りも繰り返してなんでこの世界だけ未改変世界やその先の世界にたどり着けると思う?」


 「他となにかが違うからだろ?」


 「そうだ。お前とカレンが見つけた理論があっててのもあるんだがね。よくよく考えてみろよ。ほかの世界との違いをな。」


 「カレンさんになにかがあるってのか?」


 言われてみればそうだ。確かに記憶の覚醒が起きていなかったからと考えることが出来ても彼女だけは面識が無かった。たとえ出会っていなかったとしても違う世界の俺は会っているはずなのだ。彼女もタイムマシンに関する人間なのだから。


 出会うまでその存在すら知らなかった。圧倒的なまでの組織力に幾度となく助けられた。彼女が用意した知識と道具があったからここまでたどり着けた。

 

 「どの世界の俺も彼女の手を借りることは出来なかった。今回彼女の手を借りれたのは牙醒羅の記憶データを俺が利用した結果だ。」


 「牙醒羅となにか関係があるのか?」


 「ああ。まだ知られていない真実が・・・ある。」


 「傑作だよ。2人の光真!!!真実を知り後悔をし次の世界でも永久に自分を恨め!俺を超える科学者なんてやはり存在しなかったという事だよ。まあ最後にひとつ言うならお前が朱葉に好意を、歪んだ好意を抱いていなければ新世界に辿り着けたのかもしれない。」

 

 「結局、最終的には世界を取り戻せる。でもそれは本当に最初に俺がいた場所。考えが甘かった。そして俺はなんて愚かなんだ。自分の心の影を利用されるなんて。」


 俺は目を開いた。

 「俺様は悪いとは思わんよ。でもそれはお前を永遠に苦しめる呪いとなり消えない、消せない罪となるだろうな。」


 朱葉からは信じられない言葉が発せられた。


 「セオリー通りにやらないというのは新たな発見を見いだせる。でもそれは結局今まで想像もしなかった効果を齎す。」


 「バタフライ効果か。」


 俺はその言葉を聞き理解した。これから俺に起きる出来事を。もうここに朱葉はいない。あるのは殺人鬼と時間通りに設定された過去のみだ。


 刹那ーーー。轟音がした。

 朱葉の手にはナイフが握られていてそのナイフは俺の心臓を突き刺している。

 

 「が、ぐぅ・・・あ、ああ」

 「あ、れ、私、ひっ!!!」


 変えないと、ここのまではなにも変えられない。

 「あか、は・・・お、れだ・・・こ」


 俺はその場に倒れる。

 ダメだ。喋れない。大量の血が溢れ出てかつてない脳の振動を感じる。


 雨が降り始めて、激しさを増していく。

 そうか・・・あのデジャヴはそういうことだったのか。

 

 どうやら俺はもう一つ忘れていたらしい。

 

 「ち、がう!!わたし、わたしじゃあ!!」


 どこかから足音が聞こえる。

 俺の瞳には不思議と涙が浮かんでいた。笑えてくる。

 

 「こ、れじゃあ・・・なにも・・・られ」

 

 そう、これだ。この光景を過去の俺が見ることで改変世界を否定することはなくなり、未改変世界に辿り着けるのだ。分かっていたはずだ。どうやっても過去を変えることは無謀であると。ここにいる俺がその証明なのだ。


 つまりはじまりとなにも変わることなく俺は未来の俺の姿を見て、朱葉も動揺して『変動』が起きるのだ。つまり俺は過去の俺によって未来の俺として認識され変動を上書きしたのだ。

 

 俺が過去にみた俺自身が俺だったということになるのだ。

 

 これも運命か・・・。俺はそうやって嘆き、抗いを止めた。








 

 もう時間が経ったが、いや、そう感じるだけなのかもしれないが、俺はまだ生きている。

 

 ある記事には死ぬほどの致命傷でも数時間は意識がある状態が続く人がいるというものを見たことがある。


 どうやら俺はその人間らしい。これが幸いなのか不幸なのかもがき苦しむ俺の姿をひと目見て笑ってやろうとした人物がいた。

 

 「ハーイ?お元気ですか?」

 「・・・・・・」


 「あらら〜話せそうには無さそうね。約束通り貴方を未改変世界には送るわ。安心しなさい。貴方が行った全ての上書き変動は成功したわ。ちょっとトラブったようで奈良沢夫妻は亡くなったようだけどね。おっと、気を悪くしないでね。元々は未改変世界にたどり着くのが目的でしょ?それ以外の事は管轄外。あっ、でもこの約束は未来のあなただったかしら。もーしょうがなぁ、一ついいことを教えてあげる。カレンはあなたのために協力したわけじゃない。家のために父親のために世界を救ったのよ。私がSTPに関与していたなんてバレたらアメリカでは大混乱が起きるからね。まあお父さんは気付いていたからこんな回りくどいやり方で、しかもカレンを使ってSTPを止めたんでしょうね。少し喋りすぎたかも?でもアンタには到底理解出来ないわね。間抜けだしね。未来では貴方はすごい研究者になるようだけれど牙醒羅の方がよっぽど純粋で有能だったわ。少なくとも貴方みたいに情に流されるような人間ではないわ。サービスでもう一つ。未改変世界で私に出会わないこと。会ったら大変なことになるわよ?こんなところかしらね。じゃ、おやすみ」

 

 俺の意識は何かに流されるようにブツリと、切れた。

 

 全てに辻褄があい、世界は元の姿を取り戻す。俺が求め続けた世界にやっと辿り着けるのだ。


 だが、これではただのレコンキスタでしかない。『時間という国土を回復する』レコンキスタではない。ただ元の居場所を取り戻しただけなのだ。決して忘れてはならない。俺は世界を救ったわけでも新世界の到来を起こしたわけでもない。

 サデラの言う通り世界を救ったのは情に流された俺ではなくカレンさんで、革命的な発展を齎したのは牙醒羅なのだ。

 

 この過去を変えるという抗いの中で俺は牙醒羅と違う出会い方をしていたかったと願った。

 

 どの世界の俺も潜在的にやってはならなかったカレンという人物との邂逅。


 そして幾つもの世界を旅していくうちに侵食されていった俺の心の影。

 

 もし次、俺に選択を与えられるのならどうか求めた世界への幕開けを望むであろう。

 

 この件については世界は救われたのかもしれない。でもだけれどもまだなにも終わっていないのだ。それにサデラの言っていたこともよく分からない。


 これは終末であるが同時に始まりの意味も持つ。

 

 俺は確信したこの一連の事件の中で唯一罪がないことから選ばれた俺。


 でも本当は一番罪を有した存在であったことを。

 

 

 すべての物事には意味があり、きっと俺は必然的にこの世界に辿り着いたのであろう。俺はまだ諦めてはいけないようだ。


 このタイムマシンを巡る騒動で俺は変わった。

 そう、そのはずだ。


 見つけてみせる。掴み取ってみせる。


 俺は強く決意し変わる座標の中で真実を受け入れ、未改変世界へと足を踏み入れたのであったーーーーーー。

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