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犠牲の逃亡

誰かの声がした。


何度も何度も繰り返されるその声に私の意識は戻りつつあった。懐かしくて、落ち着くような、この声。


 『朱葉っ!!俺だ!光真だ!分からないかもしれないけど俺なんだよ!』


 その瞬間だ。手に鈍い感触が迸る。

 「えっ・・・?」


 意識が戻った時手にはナイフが握られていて赤く染まっていた。


 そして目の前には男の人が倒れていた。

 突如轟音がした。


 雷だ。天気が徐々に崩れてゆき、土砂降りとなっていく。

 雷も激しくなる一方だ。


 なぜ私はこんなところにいるのだろう?

 いや、違う。そんなことはどうでもいい。


 私は何をしていた?そしてもう一度倒れている男性と自分の手を交互に見る。

 「ひっ・・・」


 私は現実を受け止めきれずに動揺し、手に握られていたナイフを落とす。


 ナイフの金属部分が地面に触れ金属音を鳴らす。雨が降っているからかナイフはそのまま滑って海の方へと落ちる。


 なんだこれ。自分が何をしてしまったのかようやく理解が追いついた時、記憶がダブるような感覚に襲われる。

 「私じゃ・・・」

 

 『君は何も心配入らないよ。彼に身を任せるんだ』

 

 「うっ!」

 頭が割れるように痛い。なにこれ、私の記憶のはずなのに別の記憶が混ざってくる。

 

 『コイツの両親がこの車の中にいるんだな?落とすだけで過去改変なんて起きるとは思えんけどね。』

 『まあ、彼女は実験台だ。変わる第一歩だ。』

 『まあ、俺様は殺せれれば別になんでもいいけどよ』

 

 頭の中で知らない会話が流れてくる。

 なにこれ。違う。違う。私じゃない。

 「ちがうっ!!私じゃないっ」


 混乱し、わたしは自分でも発したことのないほどの叫び声を上げた。その音に反応したのかどこからか駆けてくるような音が聞こえてくる。


 「朱葉っ!!」

 「光真!?」


 駆けてきた少年は私より年上で中学生の光真だった。


 ど、どうしよう。光真にこんな所を見られたら、嫌われちゃう。犯罪者にされてしまう。私はやっていないのに。私じゃないのに。


 この時の私は小学生でただひたすらに光真に嫌われたくないと思い続けていた。


 「なんだ、これ・・・」

 案の定の反応に混乱する私を他所に倒れていた男が口を開いた。


 『これじゃあ・・・何も変えられ・・・』

 「え?」


 倒れている男の言葉に反応したのか、光真はひどく動揺し始める。


 「お、俺?なにがどうなって・・・うぐっ」

 「え?え?え?光真!?ど、どうしたの!!」


 光真は突然頭を抱え苦しそうな表情を浮かべ、その場に倒れ込む。


 人の心配をしていると頭がまた疼き始める。

 「うっうぅ」


 刹那ーーー。別の何かに意識が移動するのが分かった。





 

 これは私が最近よく見る夢だ。余りにもリアルに感覚が流れてきてとても夢とは思えなかった。そしてその感覚は日に日に現実に近づいてくるように感じる。そのせいか最近の私を悩ませる種の一つだ。私はお父さんとお母さんを殺した?あの男の人も?


 そんな訳ないのに・・・・・・

 私はなにも・・・

 

 「おばあちゃんと喧嘩でもしたか?」

 「え?」


 考え事をしていると近くに高校の制服を纏う青年がいた。わたしに話しかけてくる年上なんて決まっている。喜多見光真だ。考え事をしているせいか光真の存在に気がついていなかったらしい。


 「なんだ光真か。別に、何でもないわよ。」


 違う。本当は一番この話を聞いてもらいたい。でもわたしは彼に甘えるようなことはしてはいけない。もう何度も救われているのだから。


 心配されたくなくてつい、尖った言い方をしてしまう。

 「ほんとうか?」

 「別にあんたに話すことでもないわよ。」


 話してもらえないのが不服なのか少し不満げな顔をする。

 そして気持ちを切り替えるかのように明るい表情を作りいつもの様に軽口を叩いてくる。


 「気が向いたらでいい、誰かには相談するんだぞ?俺はいつでも聞いてやるからな。」


 そんないつもと変わらない眼差しが何故か胸を強く締め付けた。どうやら今の私は彼への罪悪感でいっぱいなのだろう。


 「うん。ありがとう。」


 気を抜くと涙が出そうだった。だからバレないよう必死に笑顔を作った。この高校生になった光真の姿はまるで最近何度も見る夢の男の人と同じだ。


 もしあれが現実だとしたら私は・・・

 「行こうぜ?遅刻すんぞ。」

 

 しばらく光真とくだらない言い合いをしていると分かれ道にぶつかる。私は中学校だから光真とはここでお別れだ。


 「じゃあな!学校サボんなよ?」

 「サボらないわよ」


 光真と話したおかげか気分が少し良くなった。安堵したせいかわたしは独り言を漏らしてしまう。


 「あれは夢よね。・・・・・・私は誰も殺してない。」


 独り言を言っていたことに気づき慌てて口をふさぐ。

 そして辺りを見回す。

 「誰もいない・・・よね」

 もう光真の姿は見当たらなかった。





 

 しばらく通学路を歩いていると路肩に駐車されていた黒い車から金髪の綺麗で背の高い女の人が出てくる。顔立ちから言ってアメリカあたりの外国人だろう。


 「Excuse me?」

 「え、」


 どうやら私に用があるらしい。道案内だろうか?

 えっとExcuse meって確かすいません!宜しいですかって意味だよね。こういう時しっかり対応できる人にならなくては。


 「お、OK どうしたんで・・・えっと・・・ワットハップン ?」


 どうしたんですかってWhat happenでいいはずよね。


 「oh~Sorryワタシは日本語ダイジョブですよ!」

 にこやかな表情を作り笑い飛ばしてくる。

 なんだ。日本語大丈夫なんですか。


 「お聞きしたいことがあるんですよぉー!」

 とてもハイテンションに片言な日本語を話し始める。


 「・・・吉崎刃蘭って方、知っていますか?」


 その言葉を発した彼女からは物凄い嫌な雰囲気を感じだ。この女の人は危ない。本能が警告しているような気がした。


 「いえ、しらないです」


 でも実際に私はその人を知らない。嘘はついてないが警戒をしてしまい急ぎ足な返答になってしまう。


 「あ、ソデスカ!すいませんね!変なことを聞いてしまって!」


 「じゃあ、もう行きますね」

 「ハァイ!!足をお止めしてスイマセンでした!」


 私は怖くなってその場から逃げるように去る。しかしどうしてもなにか引っかかるものを感じ物陰から様子を伺った。


 女は車の中の男になにかを話している。


 車中の人は日本人なのか女はゆっくりと唇を動かす。


 その唇を読んで見ることにした。


 辛うじて読めた言葉は『ウラギリ』

 私の全身に恐怖が走った。堪らずに私は中学校へと足を急がせた。


 なんだろう。この感じ。前にも感じたことがあるような気がしてならない。とてつもない胸騒ぎがする。これから何かが起きそうな、とても嫌な感じだ。


 私はこの不安にもう耐えられそうにない。

 心の底から私は思った『光真、たすけて』と。

 

 まるで学校の授業が身に入らなかった。受験を控えているというのに。私は何をやっているのだろう。







 

 放課後の帰り道を一人で歩く。いつも隣に光真がいたから気が付かなかったけど、五年前から私には友達と言える人がいない。


 小学校4年の時両親を交通事故で亡くしてからだ。私は急に取っ付きにくくなったと言う。光真が二年近く支えてくれたおかげでここまで立ち直ることが出来た。だとしてもだ、いつの間にかコミュニケーションの取り方が分からなくなっていた。


 何人か気にかけてくれる人はいた。だけど、うまく対応出来なかった。小学の時から私を知っている子も次第に離れていった。


 「あ、の・・・」

 「え?」


 後ろから、か細い少女の声が聞こえた

 振り返ってみるとそこには小学の頃よく遊んだカナちゃんがいた。


 「・・・・・・じゃあね」

 その一言を言った後彼女は走って帰ってしまった。

 一体なんだったのだろう。

 

 暫くして光真と会い、私は夢の話をする決心をした。話し合いの結果親のいない家に男女が二人でいるのは流石に色々不味いということで祖母がいる私の家で話すことになった。

 

 家の二階で光真を待っている時おばあちゃんと光真の話し声が聞こえてきた。


 「本当にあの子はしっかりしてるわ。こんなおばぁちゃんといるのに文句一つ言わないんだから。きっと光真ちゃんのおかげよ。ありがとね」


「そんな、僕はなにも。」


「あの子が両親を亡くしたとき私はなんにもできなかった。あなたが支えてくれたから今のあの子がいるの。本当に感謝しているわ。あのとき崖から落ちたりしなければ……」 


 体に電撃が走るような衝撃のセリフだった。


 『あれは夢じゃなかったんだ・・・私はお父さんとお母さんを殺してしまっている。』


 とても受け入れられることではなかった。でもどうして?交通事故で亡くなったはずなのに。


 なんで同じ日の記憶が二つも存在しているの?わからない。

 やっぱり光真に聞くしかない。もう光真しか信じられない。


 私はそんな淡い期待を抱きながら光真の到着を待っていたーーーーー。





 

 『奈良沢 朱葉』ーーーー。


 「彼女だったんですね。・・・どうしましょうか。大分あなたの世界とは変わってきてますよ。光真。この手紙の内容が変わらないということはどんなにこちらの世界を改変してもそちらの世界には影響しないんですね。もはや別の世界や並行世界という解釈が相応しいのでしょうか。非常に残念でならない。」


 暗い研究室で一人青年は手紙を見つめながら嘆き哀しむ。

 「二人を助けなくては・・・いいえ、こんな実験辞めさせるべきなんだ。」


 青年は決意を改め計画への準備を進めるのであったーーー。




 

 鳥の心地よい鳴き声が朝の到来を告げる。そしてそのさえずりを聞き私の目が覚める。今日は光真に会う約束をした。もちろん昨日の話の続きだ。


 昨日私は両親の死因について光真に訪ねてみたのだ。驚くことに光真は私と同じような状態に陥っていたのだ。私の両親の死因がわからず、崖から落ちた記憶があるもののそうではないと感じるという現象だ。私の状態と類似している。


 そして私は自分の知っている過去を話すと光真は突然苦しみだしてしまった。


 だから話は今日に持ち越し、ということになった。

 だが、自分が両親を殺してないと理解出来てほっとした。

 今、自分達の身に何が起きているのかはわからないけどとりあえず悩みは解消できた。

 

 下に降りるとおばあちゃんが険しい顔をしていた。


 「どうしたの?」と声をかけると、無理な笑顔をつくり、「なんでもないよ」とわかりやすいくらいの嘘をつく。


 これはおばあちゃんがよくやる事なのだ。心配されたくなくて嘘をつくのだ。なんだか、自分を見ているかのようで辛くなる。


 「調子悪いんじゃないの?店なら私がやるよ?」

 「・・・そうかい、じゃあ少し休むね」

 

 残念だけれどもこの感じは光真と会うことは出来なさそうね。


 私は携帯を手に取り、光真に電話をかける。今日会えなくなったと伝えるためだ。

 

 しかし一向に出る気配はない。

 まさか寝ているのかしら。私と会う約束をしたのに?

 私はなんだか苛立ちを覚え光真に連絡をするのをやめた。

 

 店の用意をしているとお店の扉が開かれる。

 「あ、すいません、開店前なんです」

 「お久しぶりです!」

 「え?」


 予想外のお客さんに私は素っ頓狂な声を出す。

 そこにいた人物は昨日の外国人女性であった。


 私はつい、警戒してしまい怪訝そうな喋り方をしてしまう。

 「何か用ですか?」

 「まあーただかわいそうだと思いましてね」

 「かわいそう?」


 いきなりこの人は何を言うんだろう。


 「昨日お話していたカナちゃんでしたか?あの方とは本当はもう友達に戻っていてもおかしくは無かったのに。可哀想ですねえ」


 高圧的で見下すように私を煽ってくる。いや、そうじゃない。注目すべきはそこではない。何故昨日カナちゃんと会ったことをこの人は知っているのだろうか。この人と話したのは登校中だ。そしてカナちゃんと会ったのは放課後だ。


 「どういう意味ですか?」


 だがしかし、私の感情は高ぶっていてそんなことを気にする余裕はなかった。


 「おっと、気に触りましたか?」


 怒りがつい露わになってしまう私を更に挑発的な態度を示す。


 「頼れる、信じれる人間はたった一人の男の子だけ。寂しい人生で」


 その言葉に私の怒りは頂点に達する。胸の奥そこで眠っていた何かが動いたような気がした。


 「くっ・・・!・・・わ、私の、なにが、なにが分かるって言うんですか!!冷やかしなら、帰ってくださいっ!」


 必死に冷静に話そうとするものの感情をうまくコントロール出来ない。なにかがおかしい。私はどうしてしまったのだろう。


 「最高ですねぇ。貴方。アッハハハ!!」


 本気でキレている私を見てなのか、彼女は急に笑い出す。

 私は怒りを制御するので精一杯でうまく身体が動かせずにいた。何かとてつもなく嫌な予感がする。


 「冷やかしって訳では無いですよ?ちゃーんとあなたに用があるんです。こちらです」


 息が荒くなってきてる私を他所に、女はなにやらカバンのようなものを私に見せる。


 そしてそのカバンから携帯端末のような機械を取り出し、私に手渡す。


 機械にヘッドホンを差し込み私に半ば無理やり付けさせる。


 「やめ、やめて!!なにこれ!」


 「こちらはあなたが体験したモノとは別物です。過度に記憶に障害が残っても困りますからね。恨むなら予定変更をさせた吉崎刃蘭を恨むんですねっ」


 「やめてーッ!」


 私の悲痛の叫びも虚しくスイッチはオンにされ、私の脳を激しく揺らし、どこかで聞いたことのあるような不快で不愉快な音楽が流れ出す。


 「ぁあああっ!」


 声にならない声が私の中で発せられる。この感じ、覚えがある。光真に伝えなきゃ、この事を。


 このままだったら誰かを殺してしまうーーーーー。

 私の意識は遮断され、別の意識が目覚める。

 

 「ククっあの男はもちろん殺すけど・・・まずは」


 「なにやら騒がしいいねぇ。朱葉ちゃんなにかあったのかい?」


 「ガキは寝てるぜ?ばぁさん。」





 

 『ああ、思い出した。殺人鬼人格。私に植え付けられた別の人間の記憶。別の人格。ダメだ。おばぁちゃん、逃げて』

 そして私の意識は完全に彼と入れ替わってしまう。

 

 意識はなくても私の中に嫌な感触だけは伝わってくる。

 狂気に満ちた私の声、恐怖する人の声、叫び声、絶望、鉄臭い臭い。


 いくつもの嫌な感情の果て私の意識は徐々に戻っていった。

 

 「はぁはぁはぁ」


 目を開くと鉄のような臭いが部屋中に充満している。辺りには大量の赤黒い血のようなものが撒き散らされている。


 私はその場に力なく崩れ落ちる。

 また、やってしまった。

 私がやったんだ。やってしまった。

 「・・・」


 叫びだしそうな感情を抑える。

 今、混乱して感情のままに叫べば楽になる。だけどそれは『彼』に身を任せることとなる。


 それはつまり、また自分の手を血に染めるっていうことだ。

 落ち着け。


 ゆっくり息を整えていく、が、当然血の臭いを吸うということで余計に感情が高ぶる。


 私が殺した私が殺した

 ダメだ。落ち着くんだ。


 気を抜くと意識が持っていかれそうになる。

 そして私は一番今の状態でやってはいけないことをしてしまう。


 ゆっくり、ゆっくりと視線を部屋の中にまわす。


 この大量の血は誰のものかわかっていた。だから私はあえて視線をそらしていたのだ。目が覚めた時に絶対に誰かを殺している。その可能はかなり高い。だからこの鉄臭さと大量の赤黒い血の先を見てはいなかったのだ。なのに私は見つけてしまったのだ。見てしまったのだ。


 散りばめられた白い髪の毛とバラバラにされた残酷な死骸。剥き出しになった骨。酷い表情を浮かべる祖母の顔。


 私が殺した。私が殺してしまったんだ。私がこの手で。


 「違う違う違う!!!これはっ・・・これは!私じゃない!!」


 体が恐怖と悲しみのあまり震え出す。涙がボロボロと溢れ出て自分の体ではないように感じ始める。


 「ちがうのっ!わたし、私じゃ・・・」

 「わかってる、わかってるから」

 「こう、ま?」


 一気に体が落ち着くような気がした。だが、

 『殺せ』


 「うっ!?だめ!だめ、だめなの!!」

 「わかってるから、落ち着け。俺はちゃんとわかってるから。」


 「だからちがうのっ!!!」

 彼はわたしに安らぎを与えてくれはしなかった。

 「フフ」

 「朱葉?」

 目覚めてしまった彼はもう誰にも止められないーーー。

 

 



 

 「おい、おい、次はこんな幼い子かよ」


 「なに~?あんた手を出すんじゃ無いわよ?」

 「出さないですよ」


 「え~でもあんた誘拐殺人犯っしょ~?」


 「それは、ちげ、違いますよ?僕達は罪人にされた、あんたがそう言ったんでしょ?てかあんた余裕ありすぎでしょ」


 「どーこー言ったってどーにもならないでしょ?炎さん」


 「はあ、まあそうなんですけどね栗原さん」


 なにやら賑やかだ。私の目は自然と覚め、ゆっくりと起き上がる。辺りを見渡すと鉄格子で覆われた部屋に私と他男女二名、合計して三人が閉じ込められている状態だった。一瞬で状況を理解する。実験施設的な所か。


 「起きたかい?」

 「ん?」


 話しかけてきたのは誘拐殺人犯として名前の上がっていた琴峰炎だったと思う。


 「その人ロリコンだから気を付けな」


 と、言い放ったのはたしか栗原咲良だ。彼女は連続殺人犯だ。札幌市でたて続けに老人を殺しまくったという日本を震撼させた最近のニュースの一部だ。


 「誰がロリコンですか!」

 「私人殺しなんで」

 「なっ!?いや、あれだろ?君も罪を擦り付けられたんだろ?」


 「どうですかね」

 私にはもう何も無いのだ。家族も、愛する人も自分のこの手で殺したんだ。


 「嫌だねー辛気臭い~」

 「・・・」


 「なにやら、訳ありみたいなんだから辞めなよ」

 「ロリコンは黙って」


 「だからちげーっての」


 「皆さんはどんな風に罪を擦り付けられたのですか?」


 「僕は職場で突然だよ」


 「私は父さんの家に行こうと飛行機に乗ったら突然降ろされてねアンタは?」


 「私はーーー」

 私が語ろうとしたその瞬間だ。電気が突然消えた。停電だろうか。


 「あらら、これは逃げるチャンスかもね」

 「バレたら殺されるぞ?」

 「もう殺されてるようなもんでしょ」

 「いや、日本の警察は有能だぜ」


 「はぁ・・・さっきのニュース見てなかったんですものね。」

 「うん?」


 栗原さんの言っている話はおそらく私は知らない。きっと琴峰さんも同じなのだろう。私達は互いに顔を見合わせて疑問符を浮かべる。


 「そっか。この部屋で知ってるのは私だけか」

 はぁというため息の出そうな喋り方で栗原さんは言う。

 

 「おい!!なにコソコソしている!」

 突然の男性の大声に全員体をビクンとさせ、驚きを露わにしている。


 「お前らがこの停電を起こしたんじゃないだろうな!!」

 どうやらここの監視役のような人だろう。だが、なんだろうか。とても動揺しているように見受けられる。なにか、あったのだろうか。


 「そんなこと出来るわけないでしょ。まったく低脳ね。」


 激しく声を荒らげる男に栗原さんは冷静にそして高圧的に言い放つ。


 「このっ!実験台のくせに調子乗りやがって!!」


 さらに怒りのような男の感情は高ぶりを見せた。

 「うるさいんですけど」


 私は鬱陶しくなってつい、挑発的な態度をとってしまう。

 「お、、おい君まで。やめなよ・・・」


 一人だけこの状況に困惑し、焦りを見せる琴峰さんは小声で私に警告をする。


 「お前ら全員痛めつけねーとわかんねーようだな?」

 男の怒りは私の発言により最高潮まで到達したようだ。


 「たぁっ!」


 別の方向から青年の威勢の良い声が放たれる。

 「うぐっ!」


 刹那、ビリッという電気音が発せられ男はその場に倒れる。


 「思ったより監視ゆるゆるだな。実験のためか最小限の電力しか使われてねーし。」


 この声どこかで聞いたことのあるように感じる。青年はスタンガンのようなものを手に握っていた。


 「皆さん、逃げますよ」

 「きみは一体?」


 琴峰さんが唖然とした顔で見つめる。

 暗闇で青年の顔がよく見えない。


 「とりあえずここから脱出しましょ?話はそれからです。」


 言いながら青年は鉄格子扉に鍵を差し込み扉を開ける。


 「そんな事言われても僕達今や世間を騒がす犯罪者ですよ?」


 「何とかします。そのためにも皆さんが逃げる必要があります。」


 どうしてだろう。この声を聞いていると涙が出そうになる。

 そうだ・・・光真に似ているからだ。


 「まあ、従うしかなさそうね。だけど名前くらいは教えてもらわないとね。あなたもよ?お嬢さん」


 「私は奈良沢朱葉」

 「俺は喜多見光真」

 「・・・え?」


 頭が真っ白になった。今なんて言った?

 『喜多見光真』だって?


 光真は私が殺人鬼人格で殺したんじゃ・・・一体どういうこと?


 「よかった、やっぱり朱葉なんだな。また会えて嬉しいよ。」

 「本当に・・・本当に・・・こ、光真なの・・・?」

 「ああ。」


 嬉しさのあまり目に涙が滲む。


 自然と私は光真に抱きついていた。


 「お、おい、なんだよ死人にあったみたいな感動の仕方しやがって」


 光真は照れくさそうに言う。


 「だって!だって!死んだと思ったんだから!」


 私は光真の腕の中でバタバタと暴れる。


 「勝手に殺すなよ。てかいてぇーし、心配したのは俺の方だっつーの。心配させやがって」


 ご、ごほんと琴峰さんが咳払いをする。

 「あの、僕達を忘れてません?」


 あまりの感動に二人を置いて行ってしまっていた。

 「す、いません」

 「じゃあ行きますか!」

 

 私は嬉しさのあまり大事なことを忘れていた。

 それを自覚させるかのように脳の中で不快な声が響き渡る。

 

 『忘れるな・・・俺様がいることをな。お前は両親を殺し、こいつを近い将来殺す。お前の意思でな。そしてお前は自分の手で祖母を殺したんだ。・・・忘れるな。お前に幸せなどありはしない。』

 

 「・・・」

 「どうした?朱葉?」

 「ううん。なんでもないよ」

 

 私に幸せになる資格などはないーーーーーー。






 

 

 しばらく歩いてきたがまったく出口が見当たらない。ここは一体どこなのだろうか。


 とりあえず皆に疲労が出てきたので俺は刃蘭に教えて貰っていた研究室で休むよう皆に伝えた。


 そこには複数の部屋があり、全てにセキュリティロックが掛けられているそうだ。


 そしてその部屋の存在は父さんと刃蘭しか知らない。


 これは刃蘭に直接聞いた話ではないがズボンのポケットの中に父さんの手紙と共に入っていたメモに記されていた。


 銃を突き立てられた時に入れたのだろう。


 スタンガンもこの部屋で見つけた。そして手紙には脱出後ある女性に会うように書かれていた。


 部屋に入ると白い空間が広がる。研究者ってのは白いシンプルな部屋が好きなのだろうか。


 この研究室はどこもかしこも白い部屋ばかりだ。


 白以外の色があったのはさっきの牢屋だけではないだろうか。お陰でどこに行っても同じ景色の連続で方向感覚が無くなってきた。


 「ここならしばらく滞在しても大丈夫だから少し休みましょう」


 「威勢よく逃げるとか言ったは良いけどやっぱり一筋縄では行かないのね」


 「おいおい、栗原さん嫌味臭いぞ」


 「うるさいわ、ロリコン。少しイライラしてるのよ。」

 「だから」


 「まあまあ皆さんは休んでてください。俺の責任で手詰まっているのは事実ですから。責任として俺が警備をします。」


 「ごめんな。若いのに無理させてしまって。少し休んだら僕が変わるからな」


 「いえいえ、このくらい平気です。別室でしばらくの間眠らさせらたので。」


 「そ、そうかい。でもなにか手伝えることがあったら話しておくれ。」


 「はい、お気遣い感謝します。」

 その言葉を聞いて安心したのか琴峰さんは別室に移動した。


 「起きたら、今後の話してもらうわよ。リーダーさん」


 嫌味っぽく捨て吐き栗原さんも別室に移動する。


 「・・・おやすみ」

 なにやら不安げな顔で朱葉は俺のいる部屋をあとにした。


 「刃蘭・・・。俺のやってること間違ってないよな。」

 俺は1人、残された部屋で呟いた。もう会えないであろう友人に。


 「どうしたもんかな」

 こんな拉致されている状況にも関わらず様々な問題が俺を襲ってくる。


 一番気になっているというか俺が少し疲れている原因は朱葉に距離を取られているということだ。単純に気持ち的に辛い部分もあるが、また俺はなにか重要なことを見落としているのではないかと不安になる。


 なぜなら俺の望む目的は朱葉や大切な人の幸せなのだから。


 朱葉生きていた今、このメンバーで脱出し、刃蘭の手紙に記されていたある女性に会うことだ。そして刃蘭をこんなところから助け出す


 この役目は何も罪のない俺にしかできないことだ。

 数多くの罪のない人を巻き込んでしまった俺にしかできない。


 いや、色々な人を巻き込んでしまったという意味では俺にも罪があるのかもな。


 みんなの体力が回復したら今後どうするか話さなくてはならないな。そのためにも俺の中で明確に予定をたてなくてはならない。


 まず最終目的として朱葉達に課せられてしまった偽りの罪を晴らさなければならない。そしてそれはつまりこの機関を潰すあるいは利用せねばみんなの罪を晴らすことは出来ない。


 なんだかんだでまだまだ解決策はある。刃蘭が会いにいけと指示した女性はきっと俺たちを救うなにかを握っているのだろう。


 そのためにはやはり、ここから脱出するのが先決だな。

 いや、違うな。みんなの罪を聞き出さないといけない。とりあえず皆から信頼を得ねばこれから先協力してもらえないだろう。


 なんにしても皆と話し合いたいな。


 「先が思いやられるよ。なにもわかんねーんだから。なにがどーなってのか。ただ分かることはここから逃げなければならないって事だよな」


 それにしてもなんで俺まで捕まったんだろうか。俺にはなにも罪が課せられていない。これではただの拉致だ。秘密を知ってしまったとしても自分たちの身が危なくなることをするだろうか。


 それに俺だけ別室で、扱いも違った。

 ただ巻き込まれただけなのだろうか。


 そんな理由なら別に構わないけど、他に俺にも何かあるのだとすれば逃げる際に俺という存在が足を引っ張る可能性もあるって訳だ。既に朱葉の人生をかけられている時点で相当なリスクを俺は背負ってしまっている。ここからさらに弱みを握られたら困るな。


 まあ考えても無駄か。

 俺はそこまで考えて思考を止めた。

 見張りの役目に集中しよう。


 研究所ってだけあってあまり物音はしない。ここは本当にタイムマシンの研究をしているのだろうか。


そんなことを考えていると奥の部屋から朱葉が戻ってきた。

 「どうした?忘れ物か?」


 「持ち物なんてなにも持ってないわよ。」

 「ならどうしたんだ?」


 「私が意識を保っている間に私が知っていることをすべて話しておこうと思って。」

 「どういう意味だ?」


 「このタイムマシンの実験には結構前から利用されているのよ。私がね。」


 なんとなく想像はついていたが朱葉はやはりこの件のなにかをしっているようだ。記憶の齟齬やあの時おばあちゃんを殺したこと。俺も聞かなくてはならない。


 「話してくれ」

 朱葉はゆっくりと語り出した。


 「このタイムマシンの人体実験にはなんの罪のない人が突然拉致されてから始まるのよ」


 「ああ。そうらしいな。そうだ。聞こうと思ったんだ。タイムマシンってのはもしかして結構前から出来ているっていう認識でいいのか?」


 これは刃蘭に聞き損ねた質問だった。タイムマシンの人体実験がアメリカで数年前から行われているということは、タイムマシンが出来ていてもおかしくはない。


 「ええ。結構最近の話よ。アメリカで実験がされている時には不完全な状態だった。」


 「不完全な状態?」


 「タイムマシンに搭乗した人間は消えるのよ」

 「消える!?」


 「物理的エネルギー量に人間が耐えきれないらしいの。」

 「ならエネルギー量を抑えればいいんじゃないのか?」

 「アインシュタインの相対性理論って知ってる?」

 「ああ。光の速さを超えれば時間を超越できる的なやつだろ?」


 「まあ、そんな感じ。それで光の速さを超えるにはエネルギー量を抑えるって事がそもそも出来ないのよ。抑えてしまうと光速にはなれない。人間の今、保有しているエネルギーの限界が光速に至るか至らないかのギリギリのラインなの。つまり、光速にならない場合の方が多いのよ」


 「ってことは、光速になるのですら難しいのにさらに光速を超えてエネルギーを抑えるなんて無理ってことだな?」


 「そういうこと。つまり当時アメリカに存在したのは理論上時間を超越していても観測できていない、なにももたらすことの出来ない光速を超えられるってだけの代物だったのよ。」


 「なら今、ノーペル賞を受賞した2人の科学者はなにを見つけたんだ?」


 「少し強引だけどタイムトラベルに成功しているのよ。」


 「タイムマシンを完成させたってのか」

 「まあでもまだ完成したとは言い切れないからこんな犯罪行為をしているんでしょうね。」


 「犯罪行為ねぇ・・・。さっきニュースみたいのが流れたんだけどよ。イマイチ、ピンとこないんだよ。この組織?が何をやっているのかさ」


 「そのニュースを見ていないからよく分からないけど、この組織は何も罪のない人を拉致して実験したりする、そしてその人物が行方不明になったと近いうちに報じられるわよね。そしてこちらの行為がバレないようにその人物と親しい人物に罪を擦り付ける。これで社会全体は偽りの罪を課せられた人を探す。だが、見つからない、それはこの組織が匿うからよ。そして用が済んだら洗脳とか記憶の改変をして警察に引き渡すのよ。今の私たちはその引きわたされる前の状態ね。まあ私たちの場合は拉致されてるけどね。」


 「なるほどな、さっきのニュースは捕まったと社会が思っているという判断をさせるための罠か。」


 実験に協力すれば匿ってやるという、だが、あのニュースは罠だ。作り物だ。どう見たって作り物だった。


 この組織を信用させるためのつくりものだ。

 俺達の場合は拉致されているが偽りの罪を課せられて逃げている人間もいるということだろう。


 「なら・・・琴峰さんは・・・」

 「え?」

 「いや、何でもない。」


 あのニュースでは俺達の他に琴峰さんが捕まったという報道をしていた。俺に対しての影響は言うまでもなく今逃げても朱葉は犯罪者として扱われる、という再認識。


 琴峰さんがもし仮に逃げているのだとすればあの捕まったという報道を見ればここで実験に協力すれば捕まることは無いという認識に至る。考えたくはないが最悪の場合俺達の敵になるかもしれない。そう考えていくと酷い胸騒ぎに襲われる。

 ダメだ。味方を疑ってどうするんだ。疑っていけば朱葉だって敵になりうるじゃないか。


 冷静になろう。そうなってしまった時はそうなってしまった時だ。もし仮にそうだとしても現状ここから逃げるのもままならないのに他に回す余裕なんてないだろう。


 やっと気持ちが落ち着いてきた気がする。そしてどんどん沈んでいく気がする。

 なんだか眠い・・・。

 

 

 

 




 なんだかふわふわした感覚だ。なにかおかしい

 「それでさ・・・」


 こんな時に俺は何を聞こうとしているんだ。気になってもそれは聞いちゃダメだろう。


 俺は知らず知らずのうちに口を開いていた。

 落ち着くんだ俺。せっかく落ち着いたんだろう。

 一度マイナスに考えてしまったらもう止まらないのだろうか。


 俺の中でグルグルと好奇心と不安と希望と切実な願いと下らない妄想が暴れ回っている。


 「光真はきっと全てを知らなきゃいけない」

 「えっ?」


 自分の中の質問を悟られたような気がした。


 「全部現実に起きていることで光真は私のためにこれから先死んでしまうかもしれない。私は・・・私はそんな未来望んでない。」


 綴るように一言一言を大切に紡いでゆく。


 「光真が思い出す前に、動き出す前に、私が未来を変える」

 「何言ってんだ?朱葉?」


 「私は光真に守られる価値なんてないの。これから先永遠に繰り返してしまう。だから私はあなたに必要とされない人間にならなきゃいけない。」


 「やめろ・・・朱葉!!!」

 くそっ・・・ダメだ。何故かうまく声が出せない。


 「もう何千回も繰り返しているの!貴方のお父さんも、お母さんも、私も!私の両親もおばあちゃんも!みんなみんな本当は死んでるの!!何回も私が・・・私が・・・・・・この手で・・・あなたも、いずれ・・・」

 

 「朱葉!」

 やっと声を発せられた感じがした。




 「おや、お目覚めかい?」

 ふと周りを見やると琴峰さんが目の前にいた。

 「え?」


 俺は研究室の一室でベッドに横になっていた


 「だめだろ?リーダーさん。やっぱ疲れてんじゃないの?」

 「俺ってもしかして寝てましたか?」


 「おうよー。ガールフレンドとお話中に眠ったらしいよ。まだ話したいことあったんじゃないか?不満そうな顔だったよ」


 そんな馬鹿な。あんなリアルな夢ってあるか?どこまでが夢だったのか正直判然としない。


 「すいません」


 「いいって!僕は元々代わってやるつもりだったし、君は背負いすぎだよ。みんなそれぞれに色んなものを背負ってる。君がそんなんじゃ解決できる問題もできないよ。」


 「どういう意味ですか?」

 「栗原って子いるだろ?」


 「はい、栗原さんがどうかしたんですか?」

 「君と同じような感じがするんだよね」

 「へ?」


 この人は何を言い出すんだろう。

 「本当に栗原なんだろうかねぇ」

 「何を言ってるんですか?」


 「いんや、なー。僕あの子と知り合いなんだよ」


 「詳しくお願いします一応皆さんのこと信用してますけど、しっかり全員のことを把握しておきたいので」


 「あの・・・」と朱葉が影からそっと顔を覗かせた。

 「朱葉?」


 「あの人、どこにもいません。何処か行ったみたいです。」

 「なっ!?」


 その瞬間研究室のドアが開いた音がした。

 「行ってみるしかなそうですね」


 「栗原・・・」

 「いきましょう」


 個室を出て研究室に出ると栗原さんがいた。

 「あら?みんなどうしたの?」


 「どこに行ってたんですか?心配しましたよ?」

 「あ、ああ。ごめんなさいね。ちょっと探索かしら」


 「危ないですから全員で行動しましょう。闇雲に歩いても危険なだけです。」


 ふと朱葉が何かに気づいたように指摘をする。


 「あの・・・そのリモコンみたいなの・・・なんですか?」

 全員の視線が栗原さんの手に向けられる。確かに朱葉の言う通りであった。右手になにかリモコンのようなものを栗原さんは握りしめている。


 「いい加減正体現せよ栗原さんよ。」

 「どういう意味かしら?」


 「僕は栗原と前に仕事をした事があったよな。突然大雨が降ってあんたの家にお邪魔したよな。いい両親だなって二人で話しただろ?そしてその一ヶ月後だ。栗原は老人達を安楽死させてやろうって考えたんだ。自分の両親が苦しんで医者に殺されたって嘆いたからだ。次に僕が君を見た時には警察に捕まっていたはずだ。・・・なあお前はだれだ?栗原咲良はもうとっくの昔に捕まってんだよ」


 その琴峰さんの話に観念したのか栗原と名乗る女性は静かにため息をついた。


 「はあ。まさか知人がいるとはねぇ。まあでもまだ言えません。こっちにもこっちの事情があるので。」


 「ならひとつだけ、私の質問に答えてください。」

 「いいわよ。」


 「・・・あなたは私達の味方ですか?ハッキリと断言してください。裏切らないと誓えますか。」


 珍しく朱葉が前に出て話していると感じた。

 こいつはこいつで成長してるのか。


 なら俺はどうなんだろう。そんなことを考えていると栗原さんは自信に満ちた顔で勢い良く言い放つ。


 「もちろん。裏切るなんてことは絶対にしないわ。むしろ、あなた達の力になるために私はここにいるの。」


 俺は一体何をしていたんだろう。周りの人を疑って、朱葉の為を思うふりをして結局自分のことしか考えていなかったんだ。


 俺はまだまだ変われてないな、とつくづく思い知らされる。

 それと同時にやっぱり俺には朱葉が必要なんだと深く感じた。

 

 「それでは少しの蟠りも消えた所で今後の予定を立てましょう。時間はあまりありません。此処もいつまで居られるか正直微妙な所です。そして、ここはセキュリティが厳重で警備員も大勢います。皆さんの協力、知恵がなによりも必要です。俺と一緒に脱出してくれますか?」


 「私は光真についていくよ。」

 「僕は正直何が何だかわからないけど君にかけることにするよ。リーダー」


 「もともと私はここから出るつもりよ。」

 

 

 「それで・・・光真、宛はあるの?」


 「一応、ある。ある人ならこの危機を解決できるかもしれない。」


 「そいつ本当に宛になるか?なんか胡散臭くないか。」


 琴峰さんは少し疑っているようであった。正直なところ俺も刃蘭から指示されただけで本当に助けになるかはわからない。


 「ど、どうにかできるに決まってるでしょ!」


 栗原さんがなにやら動揺している。その様子を見てなのか琴峰さんが困惑したように言い放つ。


 「ん?どうした?もしかしてなにか知ってるのか」

 「いいや別に」


 「じゃあなにが根拠で信用できるって思ったんだよ。」

 「何でもないわよ!」

 「なんで怒ってんだよ・・・?」

 

 「えっと・・・まあ、ここまで来てその人も黒幕なんて展開したらそれはもう諦めるしかないですね。それでも最後の最後まで助かる可能性があるなら諦めないで皆で頑張りましょう」


 「まあそうだな。そこにかけるしかないよな」

 「いいわね。そういうの。私けっこう好きよ。」

 「私もそれでいいと思う。」


 どうやらみんなが納得してくれたようなので今後脱出した後は問題なそうだ。


 残りの問題は一つだ。


 「さて、どうやってここを切り抜けますかね。」


 朱葉はこの部屋全体を見渡し考えを口にする。


 「この部屋を見る限り警備の人達は武器持ってそうだね」

 言われてみんなも部屋を見渡す。


 「たしかに、この部屋にもいくつか武器があるな。」


 ここの部屋は刃蘭が使っていた部屋だ。なのになぜ武器なんかがあるのだろうか。

 俺は不意に武器を手にとる。


 「壊れてる・・・」


 もしかしてここの部屋は物置かなにかだったのか?それを刃蘭達が改造したのだろうか。


 いいやそんなはずはない。いくら研究者でもここまでの厳重なロックは掛けられるはずがない。


 「よう、光真?そして罪人の諸君」


 背後から背の高い男の人が現れた。男は黒髪で良い顔立ちをしている。まるで刃蘭のような外国人特有の気品さを醸し出しているせいか俺は刃蘭と一瞬間違えてしまう。


 「ば、刃蘭・・・違う、誰だあんた」


 どうやら俺達はワナにはめられたようだ。恐らく刃蘭の手紙は組織にバレていたんだろう。それにしても一体何処から現れたのだろう。ふと男の後ろに目がいく。そこには暗がりで見えなかったが階段のようなものがあった。恐らくあそこから降りてきたのだろう。階段の存在に今の今まで気付かなかった。そしてそのままその階段を見据えていると金髪の女の人が現れる。


 「サデラ、刃蘭の準備とガドスの配置はOKか?」


 「もちろんよ。喜多見さんも監禁状態継続よ。」


 なにやら男と話し合いをしている。その女の人を見てなのか朱葉が体を震わせた。


 「朱葉、大丈夫か?震えているぞ」


 「あ、の人が、私を・・・」


 朱葉は復讐にも似た感情を抱いているようだった。ほかの二人も同じような眼差しで目の前の人物を見据えている。どうやらこの場であの外人二名を知らないのは俺だけのようだ。

そして朱葉は今にも飛び出しそうな感じである。


 「朱葉、今は少し落ち着くんだ。」


 だが、まだ逃げる術はある。二人はそれを分かっているが朱葉の怒りは爆発しそうで俺ですら危険を感じる。

 

 『さっきのばあさんとは違うな』

 

 不意にあの時の朱葉の姿が連想される。


 まだ確証は持てないがタイムマシンの実験によって朱葉の記憶になにかが施されたはずだ。そしてそれは何かをトリガーとして働く。恐らく負の感情が『あれ』を引き起こすんだと思う。ここで少し落ち着いてもらわなければ逃げることは難しい。


 俺は朱葉を少し自分の方に引き寄せ優しく言葉を紡ぐ。


 「落ち着け、今ここで逃げることが出来ればアイツらをボコボコにできるかもしれないんだぜ?」


 「だけどどうやって」


 「あの階段は出口に繋がっているはずだ。さっきあれだけ探して階段の一つも見つからなかったんだ。ここは多分地下なんだ。」


 「でも・・・罠かもしれないよ?」


 「罠上等だ。」


 俺は軽く笑い飛ばす。


 朱葉も呆れたという表情になり、いつも通りの顔つきに戻ったような気がした。


 「あなた、こういう時頼もしいわね。」

 栗原さんが俺と朱葉を見て皮肉そうに言う。


 それに釣られて琴峰さんもニヤつきながら続けた。

 「流石はリーダーってとこだな」


 場の雰囲気が一気に落ち着きを取り戻す。

 「結構無茶な感じになりますけどいいですか」


 「まあここまでダメもとで来てるしな」


 「お話はすんだかな?素直に従えば痛い思いはしないさ。」


 男は俺達の話に割り込んでくる。そして後ろの方にいた女性が顔を覗かせ朱葉の姿を認識する。


 「あら、朱葉ちゃんじゃないの」


 「お久しぶりですね。あなたのせいで散々ですよ」


 朱葉はすかさず嫌味っぽく返す。

 「それは褒め言葉かしら?」


 それをさらに煽るかのように高圧的な態度で返す。

 「出来損ないの弟のせいで君達を危険に晒してしまった。それはすまないと思ってるよ」


 朱葉の話を聞いてなのか男は謝罪に似た行為をする。


 そして『出来損ないの弟』という言葉を聞いて男が刃蘭と似た雰囲気を持っていたことに納得がいく。こいつは刃蘭の兄貴だ。


 「アンタは刃蘭の兄貴か」


 「ああ、そうだよ。俺は吉崎牙醒羅。君の言う通り吉崎刃蘭の兄にあたる。」


 吉崎牙醒羅・・・聞き覚えのある名前だ。


 俺が考え込んでいると続いて女の人も自己紹介をする。


 「私の名前はクリッタン・サデラ」


 クリッタン・サデラ。こちらの名前も聞き覚えのある。

 俺の様子を見てなのか朱葉が耳元で囁く。


 「二人共タイムマシンの理論を確立してノーベル賞を受賞した人よ。」

 

 俺が刃蘭に兄の仕事を聞いた時何故か歯切れが悪かったのにも納得が行く。


 この二人がタイムマシン研究者だと認識した時俺の中で何かが繋がりそうになる。

 

 この二人、俺は会っている。朱葉の様子がおかしかった五年前の世界的に大荒れの天気の日だ。


 朱葉と一緒にコイツらは、いた。

 五年前の断片が脳内で再生されていく。

 

 あと少しだ。なにか・・・なにかを俺は見逃している。

 思い出せ、思い出せ、


 『これ、じゃあ・・・なにも変えられ・・・』


 そうだ、あの大荒れの天気の日、俺に似ている男の人が倒れていたんだ。朱葉が恐らく殺したんだ。


 違う。そうじゃない。

 朱葉はそんなことをしないはずだ。

 

 今までは否定するだけだった俺の記憶の齟齬がまったく違う感覚で俺に襲いかかってくる。まるで真実に導こうとしてるように。

 

 刹那ーーー。銃口が向けられる。


 「最終警告だ。俺らに従え、喜多見光真!」


 「私たちのところにはあなたのお父さんがいるのよ。従わなければ・・・」


 サデラが喋っている途中で牙醒羅が言葉を遮る。


 「やめろっ。今余計な事言ったら計画がパーになるぞ」


 「どういう意味?」

 「いいから、お前も構えろ」

 「教えて頂戴。」

 「サデラ!!」


 ふたりが揉めているのにも関わらず俺の思考はなにかを思い出そうとしている。


 俺は頭の中で質問と返答を繰り返し始める。

 父さんは何故捕まった、捕まっている?

 ーー研究を悪用するためだ。


 研究とはなんだ?

 ーーー人工知能に人間の記憶を移植するもの。


 父さんがそれを使って目指して行おうとしたことはなんだ?

 ーーーーアルツハイマー等の患者さんに記憶データを移植し記憶の欠損を少なくするため。


 そうだ。父さんの実験の目的は人間に記憶データを移植することだ。それはつまり、他者の記憶を移植することだってできるって言うことだ。


 『お前には関係ないことだろ?俺に殺されるんだからな』

 その時また朱葉の狂気に満ちた顔が浮かぶ。

 

 『父さんの研究』『タイムマシン』『STP』が全て繋がった瞬間だった。

 俺にはタイムマシンの知識はない。だが、過去改変がどういうものかは想像できる。

 そして俺の記憶に起きた齟齬。

 答えはもうそこにある。

 

 

 朱葉を過去改変に利用するために父さんの研究材料として、またSTPの速度を高めるため殺人鬼かなにかの記憶を移植され初期段階として両親の死の改変を起こした。父さんも朱葉もSTP組織になにか弱みを握られていたのだろう。

 

 この改変は止められる。いや、俺は過去に行かなくてはならない。あの五年前の改変を止めるということはつまり朱葉の殺人の罪を消せるかもしれない。


 あれは夢でなく現実。拘束されている時に見た夢は現実。


朱葉の話の時に見た夢は別の世界の夢。あの時点で朱葉に何故祖母を殺したのか聞いてしまえばあの世界と同じになるという、俺の記憶が引き起こした現象だ。俺には今、俺の脳がどうなっているのかまったく検討もつかない。だが、この科学者二名の改変の影響を受けているのは間違いない。


 どうやら過去改変というのは改変を及ぼした人間の脳に何らかの影響があるのだろう。朱葉もそうだった。


 記憶の齟齬が起きる原因は改変後と改変前、複数の世界の記憶を脳が保持してしまうためだ。時間は戻れても記憶は蓄積されていくのだ。事象の変化は齎されても記憶は一時的に忘れるだけでちゃんと覚えているんだ。

 

 「行くぞ!」

 俺はそれを合図にそのまま突っ走る

 「無茶言うな・・・」

 琴峰さんは愚痴を零しながら俺についてくる。

 朱葉と栗原さんは左右に別れて進む。

 皆目指す場所は同じ。あの階段だ。

 「くっそ!!サデラ!!やるぞ!」

 「焦りすぎよ」

 サデラも銃口を俺達に向ける。


 刹那ーーー。銃声と苦痛の声が響いた。

 それは俺の後ろからだった。

 「琴峰さんっ!!!」


 「・・・ってぇ、なんとか大丈夫だ!行くぞ!」

 安堵し、みんな前へと進む。


 「くっそくっそ!!!」

 牙醒羅は狂ったように銃を連射する。


 だが、まったく誰にも当たらず、俺達は階段を駆け上がった。


 どうやら銃の腕は大したことないらしい。


 おそらく、琴峰さんに当てたのはサデラだろう。


 階段を上がる際ボタンのようなものがあったので一か八か俺は押してみた。すると上からシャッターの様なものが降りてきて階段は向こうの部屋からは見えないようになった。恐らくはこれのせいで階段を見つけられなかったのだろう。これで牙醒羅やサデラは暫く出れないはずだ。

 

 上に上がると暗い部屋に薄気味悪く緑のエキスのようなものが輝きを放つ大きな試験管があった。

 

 「琴峰さん大丈夫ですか?」

 「いやあ少しやばいかもしれない」

 笑いながら琴峰さんは言いその場に座り込む。


 「一応応急手当はするわね。」

 「どこを撃たれたんですか」

 「膝のあたりだよ」


 「あいつらに背を向けて走ったのになんでそんな所が・・・」


 「壁に当てて跳ね返したんだろ。サデラってやつ、相当な腕だ。的確に僕の膝を狙ってきたんだ。くそ、足曲げらない」


 栗原さんは自分の服を少し破いて膝のあたりに布を巻き付け強めに結ぶ。


 「いってぇ!!!」

 「これで少しは曲げられるでしょ?」

 「もっと優しくできないのかよ。」

 

 「喜多見くん、一応30分はこれで保てるけど走ったりするとまた傷口が開くわ。」


 「・・・はい。たぶん、もうすぐ出られると思うので。」

 「アタマに入れておいて。」


 「はい」と相槌を打つ。たが、正直厳しいだろう。どうするか、と考えていると朱葉が顔を覗かせる。


 「さっきなにが起きたの?」

 「えっ?何がだ?」

 「光真、暫く静止してた」


 「ああ。なんとなく、今まで分からなかったことが解ったんだよ。」


 「もしかして記憶のこと?」

 「ああ。」


 俺は朱葉の頭に手を置く。

 「少しでも疑ってすまなかったな。」

 「わかっちゃったんだ。」


 「お前、あの時聞いてたら嘘つくつもりだったんだろ?寝ちゃったから聞けなくて助かったよ。あのタイミングで変なこと言われたらどうにかなってたぜ。」


 一人で喋っていると朱葉は目を丸くしていた。

 「そ、そんな事まで!?」

 「あ、いや、なんとなく?」


 改変の影響で別の世界の会話を観測したなんてどう伝えればいいかわからない。なので俺は軽く誤魔化した。


 「お前は誰も殺しなんかいないよ。」

 「でも、私のこの手で確かに・・・」

 「それはお前が好意に、やった事じゃない。大丈夫だ。絶対なんとかなるさ」


 俺は朱葉に言い聞かせるように言った。


 「琴峰さん、そろそろ行きますよ?大丈夫ですか?」

 「ああ。いざとなったら普通に置いていってくれて構わないからな」


 「そんなことしませんよ。さ、あいつらが来る前に行きましょう。」


 刹那ーーー。銃声が鳴り響く。

 「そいつは置いていけ。光真」

 「ば、刃蘭!?」

 暗闇から刃蘭が現れた。


 その瞬間だった。琴峰さんはその場に倒れる。

 「はっ!?琴峰さん!!」


 琴峰さんはどうやら左膝を撃たれたらしい。足を抱えながら、もがき苦しんでいる。栗原がそばに寄り添いなにかを話している。


 「次は右手だ」

 「刃蘭!!!やめろっ!!」

 「ソイツは裏切りますよ?光真」

 「何言ってんだ!!」


 「僕を信じるか、彼を信じるかです。」

 刃蘭は言いながら頭の後ろをかく。これは刃蘭が嘘をつく時のくせだ。


 なにが嘘なんだろうか。なぜ、刃蘭はこんなことをしているのだろうか。

 

 『次に僕にあった時は信用しないでくださいね!』

 

 別れ際刃蘭が吐いた言葉を思い出す。

 「刃蘭、どうやっても癖は抜けないみたいだな。」


 俺は刃蘭に向け話しながら後ろ手にスタンガンを持ち、上下に動かす。


 朱葉に手渡すためだ。

 その俺の動きに気づいたのか朱葉はスタンガンを受け取る。


 「光真がなにをいってるのかわかりません」

 「だろうな。」


 「さあ、答えを聞かせてもらいますよ。僕か琴峰か」


 「確かに俺は可能性として琴峰さんを少し疑っていた。だけどな。あのニュースは作りもんだろ?俺が琴峰さんを疑うための。」


 「根拠は?」


 「あのニュースは琴峰さんもわたしもここに来る前に放送されたものよ。つまり、光真と栗原さんに私と琴峰さんを疑わせるものよ。」


 「ほう。」

 「まだあるぜ。俺は刃蘭なら信じる。でもお前は刃蘭ではない。」


 俺はその一言を後にし一気に刃蘭の銃を掴む。


 「くっそ!バレていたか!」


 「刃蘭はな。嘘をつく時、絶対アタマの後ろを触ったり、かいたりするんだよ!!」


 「このポンコツが!!」

 銃の奪い合いというより揉み合いのようになる。


 「離れろ!!!」

 刃蘭は右足を前に出し俺を突き飛ばす。


 「喰らえ!!光真!」

 「喰らうのはアンタよ!!!」

 「なにっ!?」


 朱葉は、死角から刃蘭の横腹あたりに襲いかかり、スタンガンをつきあてる。


 しかし、放たれた銃の弾は受けた衝撃の反動で標的がずれ琴峰さんの脳天目掛けて飛んでいく


 「琴峰さん!!避けて!!!」

 栗原さんが動かそうとするが成人男性の体は女性には重すぎる。


 琴峰さんは笑顔を作った

 それはまるで『生きて逃げろよ。』と言いたげな顔だった。

 

 「よくも、やってくれたぁな!!全員の殺してやるっ!」


 刃蘭は銃を放り投げ、ポケットからナイフを手に取る。


 「やっぱ、これだな。つまんねーゲームしねぇでこうしときゃ良かった。一回やってみたかったんだよなあ。裏切って皆殺しっていうヤツ?」


 「とことんクズだな。」

 俺は怒りを露わにしながら、刃蘭の仮面を被った男に言う。


 「うるせぇよ。ガキ!!」

 「うぐっ」

 「アッハッハッハッハッ!!!」


 俺の腹部にはナイフが差し込まれていた。

 「光真!!」

 ーーーー刹那。刃蘭はその場に倒れる。


 「タイムアップよ。STPの皆さん」

 栗原さんの手には銃が握れていてそこから3発ほどの弾が撃たれたのだろう。


 「く、り原さん・・・?」

 栗原さんの姿が光り輝き、アメリカ人のような顔つきに変わっていく。


 「そんなの・・・ありかよ」


 栗原さんの正体はアメリカ大統領の娘。ナラバガス・カレン・FDだったのだ。


 どうやらここの組織からは抜けられそうだ。


 刃蘭が逢いにいけと指示した女性はきっと彼女なのだろう。

 「くっそ・・・通りで誰も助けに来ない訳だ。」


 「牙醒羅もサデラもガドスや他の見張り番も全て捕まえたという情報を得たわ。この組織、通称STP日本組織は現時間を持って閉鎖を宣言する!」


 「俺の仕事もここまでかよ。」

 そう言って殺人鬼は血を吐き出し意識を失ったようだ。


 「こ、うま、」

 殺人鬼人格の意識が失われたことで刃蘭の意識が戻ったらしい。


 「もしかして・・・刃蘭か?」

 俺は腹部を抑えながら刃蘭に近づく。


 「兄が・・・すみませ、ん。そして・・・ありがとう。」

 「刃蘭?」


 刃蘭は笑顔で息をひきとった。

 「こんなの・・・酷すぎるだろ」






 

 しばらくして組織からは脱出することは出来たが、あまりにも犠牲が大きすぎた。


 父さんは監禁室で自殺していたという。結局なにも聞けないまま父さんは死んでしまった。何故自殺してしまったのかも俺にはわからない。


 刃蘭もカレンさんの銃で殺され、刃蘭の殺人鬼人格の銃で琴峰さんも亡くなってしまった。


 俺の腹部の怪我は幸い大したことがなく少し痛む程度で済んだ。

 

 このままでは納得がいかない。それに組織を潰すことが出来ても根本的な解決にはまだ至っていない。


 こんな現実あってはならない。あってはならないのだ。

 俺達がいた世界に戻る必要がある。

 

 「栗原さん、いいえカレンさん」

 「わかってるわ。そのために私は日本に来たのだから。」

 

 この組織からの脱出は色んな人の犠牲と勇気で成り立っているのだ。幸せの世界に辿り着くために。


 この犠牲は無駄にはしない。絶対に未来を変えてみせる。

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