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決別と再会

 遠のいていた意識が戻り徐々に覚醒してゆく。


長い間硬直していた身体がミシミシと悲鳴を上げ始めている。再び深い眠りにつきそうな感覚を振り払い無理やり上半身を寝かされていたらしいベッドから起きあがらせる。


しばらくの時間が経ち自分が今どうなっているのかを思い出す。


 俺はーーーー朱葉を救えずに父さんの希望を無駄にし助けてくれた刃蘭までも巻き込んでしまったんだ。そして挙げ句の果てには捕まってしまうとはな。我ながら不甲斐ないにもほどがある。すべてを台無しにしてしまったんだ。


 ふと周りを見渡すとどこまでも白い空間が広がっていた。手には枷のようなものがついていたのだろうか?痕が赤く残っている。しかし今の俺にはなにも拘束するようなものはついていない。ただ、頭が痛いということを除けばなに不自由はないように見受けられる。この状況から俺はひとつの疑問に辿り着く。


 俺は一体どうなってしまったんだ?意識が覚醒してきたとはいえやはりまだ記憶の整理ができていない。


 そしてどこまてが現実なのか俺には理解できなかった。


 やがて俺はこの時間を利用して頭の中を少し整理する事にした。一つ一つに自分なりの答えを当てはめゆっくりと仮説を立てていく。


 まず一つ目。父さんが消えたことについてからだ。


 今考えるとあの日飲んだ水には睡眠薬が入っていたのかもしれない。もちろん入れたのは父さんだ。俺が部屋の物音や異変に気付き誤って殺されないためだろう。


父さんは前からこうなることを予測していたんだろう。俺がミスさえしなければ完璧な作戦だったはずだ。


いや違うな。相手が俺や父さんの行動パターンを読んだんだ。だから急遽、刃蘭が助けに入った、そう考えると刃蘭は何者だ?よくよく考えればすべてがわからない。父さんが狙われるのはわかる。とっても魅力的な研究だからな。ならばなぜ俺達は狙われている?


 タイムマシンの実験……。 

 その文字が頭によぎる。

 あの父さんから貰った手紙をしっかり読んでおけば良かったと今更ながら後悔する。


 でもよく考えろ。なんでAIを作っている父さんにタイムマシンが関係するんだ?そもそもタイムマシンは理論を確立したとはいえ完成したなどとは聞いていない。そんな歴史的大技術を公開しない訳がない。


 ダメだ。これ以上は考えがまとまらない。次を考えよう。

 朱葉についてだ。 


 なんであんなことになったんだ?


 どうして朱葉がおばあちゃんを殺すんだ。有り得ない。絶対に有り得ない。だが、朱葉は俺にナイフを突きつけた。


 どうしてだろう。急に胸が苦しくなる。そして朱葉の狂気に満ちたあの表情とおばあちゃんの残酷な死体が頭から離れてくれない。


 本当にあれが朱葉だと認識したくない、というよりできない。


 昔にもこんなことがあった気がした。あの五年前にあったはずだ。俺はその当時悲しみのせいでおかしくなったとばかりおもった。だが違うのかもしれない。あのときと昔の表情が一致する。


 違う。それは違う。正しい記憶ではない。

 「え?」


 俺は呆然とした。自分が今何を考えたのだろうか?まるで別の意識に否定された気がした。これで二度目だ。覚えている記憶を別の違和感が否定し受け入れることをしない。


 どうしても思ってしまう。それは別の記憶だ、と。


 ならば正しい記憶はどこにあるんだ?事故のこともちゃんと思い出せていない。ならば今ある記憶はなんだ?その思考に至った時だ。朱葉の家へ向かう途中に考えていたことを思い出す。誰かに記憶を操作されているのかもしれない。


 だとしたら、朱葉は……記憶を、いや人格を誰かに操作された?そんなことがもしできるのならばーーー


 そこまでで俺の思考は止まる。


 考えたところで無駄か……。もし俺の仮説が正しければ朱葉もきっと捕まっている。俺の知らない朱葉に人格を改造されている。刃蘭も父さんも朱葉も誰も救えなかったんだ。


 俺は考えるのをやめた。何をしても無駄だ。わからないんだ。


 俺は自分の今の立場と無力感を味わいながら再び眠りにつく。




 

 

 視界が不安定な雨の日。こんな大荒れた空の中外にでる人はいないだろう。俺は一人、人気のない道を歩いていた。


 傘もさすことも忘れ俺は無意識と無力感を噛み締めながら、悔やみながら、嘆きながら、ただひたすらに無気力な歩みを続けていた。

 

 どうすれば助けられる?どうすればあの子を苦しみから解放してやれる?俺になにができる?

 

 俺の頭の中をそんな悩みが走り抜けていく。


 ーーー刹那。ゴロゴロと大きな雷が鳴った。俺の意識がやっと戻った気がした。我にかえり帰路へと足を急がせる。


 「俺、なにやってんだ……」


 また雷が鳴る、だが、なにか別の音も聞こえる。そんなに遠くはない。


 「ーーーーがうっ!」


 聞き覚えのある声のような気がした。誰かが叫んでいる。幼い女の子の声だ。


 俺は嫌な予感がし、声の場所まで急いだ。


 たどり着いた時の光景は雨のせいかぼやけている。


 「なんだ……これ……?うっ!?」


 だが、そのときの俺には見えていたらしい。

 その光景を認識したときだ。別の何かへと俺の意識は変わった。


 激しい頭痛と共に。

 「これじゃあ……かわらなーーーー」


 意識が変わる際、誰かが何かを言いかけた気がした。さっきの声とは違う。男の、俺に似たような大人っぽい声だった。

 なにがどうなったのかわからないまま、目が開く。





 

 「夢か」


 また白い空間が俺の目の前に広がっていた。俺からすれば現在目にしているこの現実が夢であって欲しかった。


 それにしてもさっきの夢、夢とは思えないとても生々しいものだった。そう感じたのも今の心境と夢の心境が近かったからなのかもしれない。


 あんな恐ろしい体験をしたんだ。精神が癒されるのに時間が掛かるのだろう。こんなに寝ていたのに、ついさっき起きた出来事のように感じる。いやもしかしたら長く感じているだけで実はそんなに経っていないのかもしれない。これが相対性理論ってやつか。


 もしそうだとしても特に俺にする事はない。向こう側からアクションを起こさない限り俺はなにも抵抗ではない。


逃げ出そうなんて思考には至らなかった。俺はもうあきらめていたのかもしれない。それか自分から動かず助けがくるのをひたすらに求めているだけなのかもしれない。今の俺はなんて怠惰で傲慢なのだろうか。

 

 俺は今まで自分の身の回りにしか興味はなかった。いや、違う。自分から動くことを避けて生きてきたんだ。流されるがまま、世界がどんどん進んでいく、変わっていく。いつも、いつも。


 この状態がいつまで続くのだろうか。自分の罪を嘆くばかりで時間が進んでいくのを呆然と見送るだけ。俺はどうすればいい?俺は誰に質問を投げ掛ける訳でもなく、そこに存在しない偽りの希望に問いかけた。

 

 ふと昔の記憶が蘇る。


 『なんで泣いてるの?おばさんはいつも見てるんだよ?これから頑張らないといけないんじゃないの?笑顔でおばさんの分もしっかり生き抜かなきゃいけないんだよ。辛くなったら私がいてあげるから、だから一緒に頑張ろう?』


 それは幼い頃、朱葉が俺を励ますためにかけてくれた優しくて、前を向く勇気をくれた言葉だった。

 

 

 朱葉だけでも助けないといけない。彼女は俺の生きる、生きていく、意味なんだ。あいつがいないとだめなんだ。


 俺はなにをしていたんだ。今できることをしなきゃいけない。救えるものも救えなくなってしまう。

 

 あの日誓ったんだ、今度は、これからは、俺が支えるって。なのにいつも助けてもらってばかりだ。

 

 

 「開けろ、俺をここから出せよ!!」


 俺はベッドから飛び降り扉らしき凹凸のある壁に全力で体当たりする。


 こんなことしたって無駄なのはわかってる、だけど罪を認めて、ただ救いを待つだけじゃダメなんだ。俺がしなきゃいけないのは今できることを本気でやらなきゃいけない。今までの俺の生き方じゃなにも変えられない。抗ってやる。未来を切り開いてやる。

 

 今俺は頑張らなきゃいけないんだ。救える命がそこにあるなら。あいつを助けられるのなら、笑顔で迎えられる未来があるのなら。そばにいてくれる人のために、俺は頑張らなきゃいけない!

 

 何度も体を壁にぶつける。

 体がヒリヒリし始め頭の傷がうずく。 

 

 プツンとなにかがつく音が背後から聞こえてきた。

 気づくとテレビが天井から出現していて、報道番組が放送されている。


 「え、何だ?これって……」


 テレビに映し出されている日時は俺が捕まった日だった。


 「では只今、入ってきたニュースです。またもや誘拐事件です。今日、行方不明になっている方は奈良沢朱葉さん、喜多見光真さん……」


 「は?」


 誘拐?朱葉?どういうことだ?あの事件と俺たちは関連していた?いや違うか?誘拐犯の仕業ってなっているだけなのか。


 「今回は男子生徒ですね。」


 ゲストのコメンテーターが喋り出す。それに乗じて女子アナウンサーが解説を始める。


 「そうなんですよ。北崎さん。しかもこの二人事件直前になにかトラブルにあっていたようなんです。現場の東さーん?」


 画面が切り替わり、モザイクのかかった、ナラサワパン工房によく似た場所が映し出される。 


 「はい、こちら被害にあった女子生徒の住む、一軒家なんですが、一緒に住んでいたと思われる女性の死体が発見されたんです。いま、身元の確認をしております。この住宅から死亡推定時刻に男子生徒の姿が、監視カメラに写っているんです。」

 どうやら朱葉の家だったらしい。


 「なにか事件に巻き込まれた可能性が高いですね。私の見立てだとこの男子生徒は犯人に仕立てあげられたのではないでしょうか?」


 「はい、警察もいま、そちらの線で調べています。」


 「東さん、こちらもやはり連続誘拐犯の仕業なのでしょうか?」


 「いえ、先程調べたところそちらの犯人は捕まっているそうです。」


 「えっ?そうなんですか?」

 「え?原稿送られてないですか?」

 「あ、一旦CM挟みます。」


 空気を読んだかのようにCMが挟まれる。

 なんだこれ?


 俺はたまにニュースをみるがこんな報道をしているのを見たことがない。完全に情報を取得できていない。それにあそこの近辺に監視カメラなどあっただろうか。その他にも、違和感を感じさせるものがあった。


 この報道に疑問を感じながらCMを眺めていると、いつも見ているような報道に変わる。


 さっきのようにバラエティー形式ではなく、ニュースというような媒体に切り替えられた感じだ。


 「先程のニュースの前に連続誘拐事件の容疑者逮捕の情報をお送りします。」

 

 「容疑をかけられているのは、琴峰炎38歳会社員です。琴峰容疑者はひとりで下校中の少女12名を誘拐、監禁した疑いがかけられています。また今回の件についてはまだ取り調べ中だと言うことです。」

 

 プツンと、また音を立てテレビは天井にしまわれる。

 

 どうなってやがる?俺たちはやはりどこかの組織に監禁されているということか?


 逃げ出そうにも一つの問題が出てきた、いや出てきたというより冷静に判断すればわかることだ。朱葉と脱出したところで警察に捕まる。世間ではいまや殺人犯ということにされている。これは奴らからの警告だ。


 逃げれば朱葉に未来はない。というメッセージだ。


 もうだめか。俺にはどうやっても朱葉を助けられないってことなのかよ。


 「ちきしょっ!」

 俺はその場に崩れ落ちた。もう本当にだめだ。ここで生きていくしかない。

 

 

 

 

 

 ラボ地下二階記憶実験室Ⅲ


 「わかっているだろうな?次勝手な行動をしてみろ。あの女と同じ道をたどる。殺人鬼として生きていくんだ。俺の操り人形となってな。」


 薄暗い部屋に男は不適な笑みを浮かべ立っている。


 「くっ。なんで……コウマなんだよ!!あいつは俺の友達なんだよ!こんな実験、ただの人殺しだ!なにが未来のためだ!あんたらは世界を自分のモノにしたいだけだろ!」


 その暗闇の中でハーフの顔立ちの良い少年は声を荒げている。彼が激しく動く度にジャラジャラと鎖の金属音が響き渡る。


 「刃蘭、やっぱりお前はだめか。お前はにぃちゃんの考えがわからないか。あの少年には特殊な力があるのは知っているだろう?」


 失望した男は近くに置いてあった注射器を取り出し薬を容器に入れる。


 「わかんねぇよ!!力ってなんの話だ!」


 「まさか知らないで近づいていたとはな。てっきりサデラやガドスに命令されているのかと。まあいい。すこし、落ち着け。」


 男は怪しげな注射器をかざしながら少年にゆっくりと近づく。正気の沙汰ではない。まるで狂気に身を任せているかのように微塵もためらいが見られない。


 「やめろ!」

 少年の顔が恐怖に染まっていく。

 「ただの安定剤だ。」


 「俺が、気づいてないと思ったか?それには記憶を消す作用があるのは知ってるんだよ。」


 強がった喋り方をするものの声や体は正直に反応してしまい、ブルブルと震えている。


 「悪いが、お前には日本に来てからこの2ヶ月間の記憶を消させてもらう。安心しろ、薬はただの安定剤だ。薬は、な。」


 少年の恐怖が頂点に達した瞬間だった。

 「やめろぉおおおおおっ!」

 大きな声で叫ぶが少年の叫び声は誰にも届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下三階特殊監禁室

 

 

 あれからどけだけ時間が経ったのだろうか。俺はベッドに横になったまま、ぼーっと天井を眺めていた。

 不意にガタンという鈍い音が鳴る。


 「なんだ?」


 急に辺りが暗くなる。ブレイカーでも落ちたのだろうか。

 ガチャ、という音がなった気がした。それに人の気配もする。どうやら扉が開けられたらしい。


 「でろ」

 低い男の声だ。暗くて顔は見えない。俺は黙って指示に従う。


 「歩け」

 男は俺の頭に冷たいなにかを押し当てる。

 なんだ、これ


 「聞こえないのか、うつぞ?」

 「もしかして、銃ですか?」

 「三回目だ。歩け。」


 男は冷酷な声で囁く。それなのにどうしてか恐怖を感じない。むしろ違和感を感じる。


 とりあえず黙って前に進む。

 しばらく歩いていると一つの扉が見えてくる。

 「そこで止まれ。そこに入れ。」


 「……」


 扉を開け中に入る。すると男は扉を閉め部屋にロックを掛ける。その瞬間部屋に明かりが灯される。


 電気がついたので男の顔を確認する。すると驚くことにその男は刃蘭であった。


 「刃蘭!?」

 「なんとかぬけれたな。」

 「お前、無事だったのか?」

 「ああ。なんとかな。」


 目の前にいるのは確かに刃蘭だった。しかし雰囲気が違うような気がした。なにかが違う気がする。


 「あの……お前本当に刃蘭?」


 「喋り方は気にするな。そんなテンションになれないだけだ。そんなことより俺と逃げよう。」


 「逃げる?ここから?てかどこだよ。俺にはなにがなんだかわからない。」


 「時間がないから手短に話す。ここはタイムマシンを研究している機関STP日本施設だ。」


 「STP?」

 「犯罪者タイムマシン人体実験計画の略だ。」

 「犯罪者?」


 「タイムマシンはまだ未知の領域だ。様々なテストをし、完全なる、安全を確認する必要があった。当時アメリカには大量の罪人がいた。それらすべてをタイムマシン人体実験に使用した。それからは罪人の数は急激に減ったことから始まった計画だ。そして日本もそれを実装した。国の許可をとらずに、な。他の国はどうかは知らんが国に許可をとってないのにどうやって犯罪者を実験に使用したとおもう?」


 「まさか」


 「そうだ。犯罪者に仕立てあげるんだよ。特定の人間をな。こちらが影で行ったことをなにも知らない普通の人間に罪をなすりつける。お前や朱葉ちゃんみたいな普通の人間をな。」


 「そんな……ならどうやって逃げりゃあいいんだよ。無理だろ。」


 「お前だけは無理じゃない。なにも偽りの罪かないからだ。」


 「だとしても、俺は、朱葉をおいて逃げるなんてできねぇ」


 「お前が逃げればみんな助かるんだよ。だから逃げるんだ」


 「いやだ!さっきからなに言ってるのかわかんねぇよ!」


 「わかれよ!!このまんま二人揃っていいように利用される必要があるのかよ!朱葉ちゃんそれを望むとおもうのか?どっちかが生きていればなにかができるかもしれないだろ!朱葉ちゃんを救えるかもしれないだろーが。お前しかこの事態を変えられる奴はいねぇんだよ!」


 刃蘭の怒声が部屋全体に響き渡り、俺は驚いた表情のまま固まってしまう。刃蘭のこんな怒った姿を見たことがなかったからだ。暫しの沈黙のあと俺は口を開いて返答をする。


 「・・・わかったよ。なんとかできるんだな?」

 「ああ。話は終わりだ。逃げるぞ」

 「おう」


 たしかに刃蘭の言うとおりだった。ここにいてもなにもできはしない。少しでも可能性があるほうにかけるのが得策といえる。





 

 「うっ」

 走っている最中刃蘭は何度か頭を押さえていた。なにか嫌な予感がした。


 「大丈夫か?」

 「きにしなくていい」


 喋り方が以前より尖った感じになっているのは気分のせいだと思っていたがもしかしたら違うのかもしれない。俺は神経を張り詰めた状態で走っていた。なにしろこの組織に隔離されていたのだ。なにをされてもおかしくはない。朱葉のようになってしまうような気がしてならない。しばらく、走っていると牢獄がならんでいた。その一角に俺は視線を向けた。


 牢の中で男に叩かれそうになっている女の子の姿が目に入った。

 「朱葉?」

 俺は足を止めた。


 「どうした?」


 俺はじっとその子の瞳を見つめる。あの日のような狂気の目ではない。俺の知っている朱葉がそこにいた。いや、たとえそうでなくてもその姿を前にしてしまったら逃げることなどできなくなっていた。


 「なにしてる?」


 「悪い。刃蘭、やっぱ無理だわ。でも安心しろ、絶対にここから脱出はするさ。その時は力を貸してくれ。」


 「……やっぱり、だめデスか。わかっていたんデスけどね。」


 やっと俺の知る刃蘭になる。なんだかほっとする。


 「だけど、力は貸せそうにありません。ゴメンナサイ。これ、牢の鍵です。」


 鍵を受け取ると刃蘭は頭を抱えながら言った。


 「次、僕にあっても、絶対に信じないでください。でも忘れないで。僕はアナタの友達デス。では!」


 「え?あ、おい。」


 刃蘭の姿はもうみえなくなっていた。


 刃蘭のおかげでまた立ち直ることができた。そして朱葉のおかげで勇気をもらった。まだ終わった訳ではない。絶対に助ける。刃蘭も朱葉も。俺が絶対に助ける。

 

 

 


 はぁはぁ。息が荒くなってきている。


 「まずいデスね……薬が回ってきてる……」


 はぁはぁ。頭痛もだんだん激しい痛みに変わっていく。

 今は自分の意識を保つのに精一杯だ。


 ドクンドクンと心臓の鼓動がはやくなっていく。


 「くっそ……はぁ、はぁ、コウマと別れて正解だった。うくっ!?」


 手が自分の意志とは関係なく壁を殴る。とてつもない破壊衝動が襲ってくる。理性が保てない。


 「ははっ」

 慌てて口をおさえる。

 落ち着け。

 「……っ」


 抑えられない。とまれ、止まってくれ 

 口角が上がり歪んだ顔になる。


 「あはははははっ!!」

 やめろ。やめろ。自我を保て。

 

 楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい

 壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい

 圧倒的な破壊衝動と高揚感が彼を襲う。

 

 「ぁああああああああっ!!」

 

 ひたすらに壁を殴る。

 辛い。苦しい。楽になりたい。

 でもそれをすれば俺は俺じゃなくなる。自分を保て。これは僕の意識じゃない。僕じゃない。

 

 こんな辛い想いをしていたのか、朱葉ちゃんは。ごめんよ。ごめんよ。

 

 殺したい。みんな、みんな、消したい。

 「おまえ……だれだ。僕から出ていけ。」

 「俺はおまえだろ?俺の記憶あるだろ?」

 「黙れ、記憶データのくせに」

 「記憶データはおまえだろ?俺から消えろよ」

 俺?僕?あれなんだっけ?

 

 消える。消えていく。僕の記憶が上書きされていく。

 

 ごめんよ。コウマ……

 

 俺は知らなかった、今日の刃蘭との再会は一生元には戻ることができない決別を意味していたことを。

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