第九章 -3 (完)
「壊すって……なに?お兄ぃ!。そんなにガーディアンズ嫌いなの!?」
なんだなんだ?。
想定外の方向から、結構な剣幕で食ってかかられた。
いや、ゲームとしてのガーディアンズ自体は、かーなーり、どーでもいいんだけどな。我ながら屈折した想いを翻訳するのに手間取って、言葉に少し詰まる。
クィンの鈴を鳴らすような声が遮る。
「――小鳥。彼は“石板”と“人”との共闘を補佐する、支援系の破壊を目的としている。私たち石板の存在を否定している訳では、無い」
ああ、そういう事か。小鳥は石板そのものを……特にピンポイントで『クィンを否定された』と感じたわけか。クィンに目をやると、大丈夫だとばかりにこちらへ小さく頷く。
「そう、でも。クィンが――」
自分のスマホを指す小鳥。
「ここに居るのは、ガーディアンズがあるから、でしょ。それが無くなっちゃったら逢えなくなるの?。ずっと離れ離れ?そんなの、嫌なんだけど」
ぷぅと頬をふくらませ、、後半は俺を睨みながら続ける。
つーか。俺の願いを叶えるなら、そもそも勝ち続ける事がそもそも出来るのか?って話なんだが。こいつも大概、楽天的だよな。ぶぅん、とケータイが唸る。
『吾ら石板の存在や顕現それ自体と、ガーディアン・システムとの間には直接の因果はない。システムは相克を支援しているに過ぎぬ』
何を思ったのか、怠惰――べひもすが口を挟む。続けて、そんなことより向日比古、貴様、吾が名を何だと云々とか、またしょーもないメールがどんどん積もってきたので一括消去してケータイを閉じる。
「……?」
未だに納得いかない様子で首を傾げる小鳥。ぶんぶんと着信を伝え続けるケータイ。
あー……どう説明したもんかな。うーむ。
「……小鳥。彼が目的を達しても、私たちが消えて無くなる訳では無い。貴方が望んでくれるなら、逢いに来る事は容易い」
そーなのか?と花畑に目で問うと、いや、ボクは知らんと同じく目で返してくる。
植木鉢は未だに復活しておらず、疑問を投げかけるどころではない。
まぁ、石板の“存在”が何に依存してるのか知らんが、大昔はそもそもガーディアン・システムは無かったんだし、互いの場所さえ知れていれば、そんなもの介さずとも人と石板の間で邂逅は可能なのだろう。
「ん。なら、いーや」
約束だよ、と続ける小鳥。
事が終わってから小鳥をヘンに巻き込んでくれるなよ、とは思ったが、まぁ彼女ならその心配は無用だろう。
どっちにしろ皮算用だしな。
「まぁ、ともかく、だ。ボクたちの最終目的については理解した」
雑談はこれまで、と花畑が宣言する。
そうか、それは良かった。
「――ぉぅ、さっそく寝る気か。……まあ良い。後から決まった名前に文句言うなよ?」
いやまぁ、本当に名前なんてどうでもいい。
大切なのは内にあるモノじゃないのか?。そう思うんだけどな。
……思わない奴もたまに居るらしい。胸がチクりと痛む。
それじゃ花畑さん、盟主のガーディアン名が[大地の贄獣]なら、勢力名も旧約聖書由来の名前で検討します?、まぁ特定の出典や神話に拘る必要も無いんだろうが、そうだね……とか、とか。
何やら喧々諤々やっている声が、だんだんと意識から遠くなっていく。
自室に戻るのも面倒い。
ガーゼケットをソファ横から拾い上げ、頭から被って横になる。ぶぅんぶんと未だに唸り続けるケータイは掴んでソファの下に放り込む。
目を上げると、机の上で小鳥のスマホに腰掛け、こっちを眺めてたらしいクィンと視線が(宝冠に隠れて見えないけど、ヒビ割れから覗く感じでは、たぶん)合う。
小さく手を振って互いにおやすみの挨拶をした辺りで、加速度的に意識が拡散する。
*
俺とケダモノ……べひもすの意識は繋がっている。
どこまでバレてんだろうな、とも思うが、ケータイが閉じてりゃ顕現できないんだから、どっちみち王手だ。
眠くてだるくて、今は動くに動けない。
が、朝になったら俺は速攻で、ケータイを電子レンジで焼却するつもりだった。
いかな軍用規格の電子機器でも、至近距離からのキロワット単位のマイクロ波照射に堪えられはしない。
ケータイの中にべひもすが居ないのは確認済みだ。強制力もへったくれもなく、物理的に壊せるだろう。
そしてケータイが壊れて無くなれば、ヤツは顕現するための目標を失うのも判ってる。
相克が石板同士の潰し合いである以上、石板が顕現できなければ争いを始めようがない。
目的を達した以上、もう俺は殺し合いに付き合う意味がない。綺麗さっぱりこの狂宴から逃げ出すところまでが、俺の、本当の覚悟だ。
問題は……俺自身に、どの程度の強制力が働くか、だな。
だが、それもあまり心配していない。
俺はべひもすの、怠惰を突き詰めたが故に『創造者にすら反抗する』様な石板の、契約者だ。似た者同士で、しかも今や完全に繋がっている。
頭痛や吐き気ぐらいは有るのかも知れないが、まぁ何とか抵抗できるだろう。たぶん。
小鳥は――怒るかな。怒るだろうな。
花畑はどうだろう?。まぁ、そっちはどうでもいっか……。
*
「よし、それじゃあ。ボクたちはガーディアンズ自体に敵対する勢力な訳だから、その意味合いを込めて――」
ようやく決まったらしいチーム名だかギルド名だかを、聞くともなしに耳にする前に……俺の意識は薄れて掠れて、ぷつんと落ちる。
*
「……ふぅん。比古が、ね」
『………』
「ま、いいけど」
『―――』
「そうね、私も……。うん、ズルをしてる。ウソもついてるし。自覚してる」
『………』
「ま、いいわよね。ううん、善くはない。でも、それなら愉しみましょ?。悪徳は愉し、よ?」
*
――なにか、とても嫌な予感がした。
了




