第九章 -2
「いやほら、入力文字数、一文字でも短い方が楽だし」
うんうんと大きくうなづいてみる。
「そーゆー事じゃなくて、だな」
「なんで、かな表記なの。お兄ぃ」
なんでって、そりゃ。
「日本人だし」
ぶぶんっ。
『――吾は日本人では無い。というか、そもそも石板であって人では無い。というかだ 』
なるほど、ご高説ご尤も。
面倒なので途中でメール削除。なんかケダモノの映像がぶるぶると震えてる。またバグってますか?。
「だから、そーじゃなくて、だな」
頭を抱える花畑。
あたま痛いのか?。そうだよなー。垂直落下式バックブリーカー、直撃しちゃったものなー、屋外で。いや、あれは悪かった。反省も後悔もしてないが。
はぁ、と呆れたように息を吐く小鳥。クィンが後を受けて説明してくれる。
「ガーディアンズは教育ゲームの建前として、英語学習と称し英文での入出力を行う。記名も英文字表記が標準」
全角文字を受け入れてるから、2バイト文字種を受け付けない事もないんだろうが……とか続ける花畑。
そーいや、この子も小鳥のスマホでの表記はQueenだったっけ。女王様?。確かに英文字しかダメっぽいのか?。
ガーディアンズのゲームとしての最新仕様、マジ知らんのだよな。
ま、いんじゃね?入ったんだし。もう眠いし。
目をやると、なんかケダモノが固まってる。
あ、ケダモノじゃないのか、もう。
ケダモノをケダモノと呼べないのは、何かさみしいな。でも、決まっちゃったものは仕方ないよね?。
「どうした、[べひもす]?」
ぶぶんっ。
『向日比古ッ!、貴様!何を訳の分から 』
面倒くさいので読むのを止めてケータイを閉じる。
途端にメールごと、するっと消え去るべひもす。
……自分で命名しといて何だが、悪く無い名前だよなー“べひもす”。大昔のRPGぽくて。おお、ノスタルジー。
脳裏に流れるBGMはレベルアップミュージック。ちゃららっちゃっちゃっちゃーっ的な。
「そうだ。そーいや、なんでまたメールでしか言葉通じなくなってんだろ、コレ」
「……おう……今さらか」
「お兄ぃ……」
また何かすっごい白い目で見られてるんですけど。やだー。
「……相克の結界内では、契約者と石板の意思は自動的に疎通される」
クィンが解説してくれるらしい。ほんっと良い子だよなー。べひもすと違って。
「全き怠惰――その、べひもすは、徹底して自身の機能を省き怠惰である事に特化している。相克の最中は常時意思疎通が取れるならば、普段は不要と判断し音声出力を省略したと推測される。故に相克の時が終わった平時は、文面のみでの意思疎通機能しか持たないのだろう」
怠慢ここに極まれり、って感じだな。
「そうか、ポリゴン粗いのもその辺の仕様か」
その場にいないべひもすと未だに意識の無いクマモドキ以外が、一斉に納得した。
*
「まぁ、ともかく、だ。表記文字種の問題はもういいとしよう。バグってる様だが、そこまでは仕方ない」
「……ですね。お兄ぃにこれ以上任せてると、夜が明けちゃいそうだし」
「まだ何かあるのか?」
つーか、確かにもうほんっとに良い時間だ。寝るぞ、俺は。
「勢力名。決める必要があるの」
「ボクと小鳥くんはキミに負けて、傘下に入った形になっているんだが……」
「……その所属勢力の名前が、無いの」
ほら、と小鳥が自分のステータス画面をこちらに向ける。確かに勢力名表示欄が空白になっている。
「そりゃガーディアンの名前すら付けてなかったお兄ぃが、勢力の名前なんて決めてるハズないの、分かってるけど」
ギルド名みたいなもんか。また何か面倒な話に……。
「それ、おまいらで勝手に決められないのか?」
「――おう、そーきたか」
「うーんと、あ、入れられそう」
自分のスマホを軽く叩いて確認してる小鳥。したらもう任せてしまおう。
ほれ一応、と、ケータイを花畑に放る。
その勢いでケータイのフリップが開き、べひもすが現れる。
なにやら大きく喚くように顎を開き尻尾を振り回しつつ、ぶんぶんメールを着信させていたべひもすだったが、目前に有るのが俺では無く花畑の顔だと気付くと、一瞬ひくひくと痙攣した様な動きを見せ……そのまま何もかも諦めたようにぐてっと横たわる。
「明日……つか、今日も授業あるんだからな?ほどほどにしとけよ。てか、花畑はちゃんと帰れ?」
小鳥と同じ屋根の下で寝かせるなど絶対に許さない。人として。
「お、おう……そうだ、そういえば寝る前にひとつ。ヒコ、キミは何を望んで参戦したんだ?」
「なんだおまい、自分はナイショ♪とかって、俺には訊くんかぃ」
「……おぅ、済まん。ボクもキミと一緒だ。“言いたくなければ、いい”。ただ、キミの勢力下に入り勢力名まで考えるとなれば、最終目的は確認しておきたかった」
差し支えなければ、と続ける。ふむ……。
「俺が望んだのは……まぁ、無茶やってる小鳥のケツを引っぱたくこと、だな」
「うん、それは分かる」
「ちょっ――お兄ぃ!?」
納得顔の花畑と、真っ赤になって尻を押さえ立ち上がる小鳥。
……要らん誤解を招きそーなので、小鳥もホドホドにな?。
「――だが」
少し考え込むようなそぶりを見せて、花畑が問いかける。
「それだけ、ならば。最初の一戦でその願いは叶ってしまう。まして“全き怠惰”が協力するハズはない。ボクにはとてもじゃないが」
チラと、ふて寝してるべひもすを一瞥する。
「彼を納得させるだけの目的とは思えない」
「そうか?簡単な事なんだが」
「……?」
花畑は怪訝そうな表情を浮かべている。本当に簡単な話なんだけどな。
我、関せずを決め込み、寝こけ続けるべひもすを脇目に俺は続けた。
「俺は、ガーディアン・システムを破壊する。完全に、再現したければ、設計から再構築する必要があるぐらいに、徹底的に、壊す。それを、システムの管理者どもへ“強制”する」
息を呑む小鳥。口をぽかんと開ける花畑。
……だから、そんなご大層なこっちゃ無いだろうに。
「――おう、そう来たか。確かに、それならば“怠惰”は怠惰であるが故に、キミへ協力するだろう」
得心がいったとばかり頷きながら花畑が呟く。
「……そうか、それが、キミの望み、か」
そうだ。そこには、一分の偽りも無い。




