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でもんず  作者:
36/37

第九章 -2

「いやほら、入力文字数、一文字でも短い方が楽だし」


 うんうんと大きくうなづいてみる。


「そーゆー事じゃなくて、だな」

「なんで、かな表記なの。お兄ぃ」


 なんでって、そりゃ。


「日本人だし」


 ぶぶんっ。

『――吾は日本人では無い。というか、そもそも石板であって人では無い。というかだ  』


 なるほど、ご高説ご尤も。

 面倒なので途中でメール削除。なんかケダモノの映像がぶるぶると震えてる。またバグってますか?。


「だから、そーじゃなくて、だな」


 頭を抱える花畑。

 あたま痛いのか?。そうだよなー。垂直落下式バックブリーカー、直撃しちゃったものなー、屋外で。いや、あれは悪かった。反省も後悔もしてないが。

 はぁ、と呆れたように息を吐く小鳥。クィンが後を受けて説明してくれる。


「ガーディアンズは教育ゲームの建前として、英語学習と称し英文での入出力を行う。記名も英文字表記が標準」


 全角文字を受け入れてるから、2バイト文字種を受け付けない事もないんだろうが……とか続ける花畑。

 そーいや、この子も小鳥のスマホでの表記はQueenだったっけ。女王様?。確かに英文字しかダメっぽいのか?。

 ガーディアンズのゲームとしての最新仕様、マジ知らんのだよな。

 ま、いんじゃね?入ったんだし。もう眠いし。


 目をやると、なんかケダモノが固まってる。

 あ、ケダモノじゃないのか、もう。

 ケダモノをケダモノと呼べないのは、何かさみしいな。でも、決まっちゃったものは仕方ないよね?。


「どうした、[べひもす]?」


 ぶぶんっ。

『向日比古ッ!、貴様!何を訳の分から  』


 面倒くさいので読むのを止めてケータイを閉じる。

 途端にメールごと、するっと消え去るべひもす。


 ……自分で命名しといて何だが、悪く無い名前だよなー“べひもす”。大昔のRPGぽくて。おお、ノスタルジー。

 脳裏に流れるBGMはレベルアップミュージック。ちゃららっちゃっちゃっちゃーっ的な。


「そうだ。そーいや、なんでまたメールでしか言葉通じなくなってんだろ、コレ」

「……おう……今さらか」

「お兄ぃ……」


 また何かすっごい白い目で見られてるんですけど。やだー。


「……相克の結界内では、契約者と石板の意思は自動的に疎通される」


 クィンが解説してくれるらしい。ほんっと良い子だよなー。べひもす(アレ)と違って。


「全き怠惰――その、べひもすは、徹底して自身の機能を省き怠惰である事に特化(・・・・・・・・・)している。相克の最中は常時意思疎通が取れるならば、普段は不要と判断し音声出力を省略したと推測される。故に相克の時が終わった平時は、文面のみでの意思疎通機能しか持たないのだろう」


 怠慢ここに極まれり、って感じだな。


「そうか、ポリゴン粗いのもその辺の仕様か」


 その場にいないべひもすと未だに意識の無いクマモドキ以外が、一斉に納得した。


 *


「まぁ、ともかく、だ。表記文字種の問題はもういいとしよう。バグってる様だが、そこまでは仕方ない」

「……ですね。お兄ぃにこれ以上任せてると、夜が明けちゃいそうだし」

「まだ何かあるのか?」


 つーか、確かにもうほんっとに良い時間だ。寝るぞ、俺は。


勢力(チーム)名。決める必要があるの」

「ボクと小鳥くんはキミに負けて、傘下に入った形になっているんだが……」

「……その所属勢力の名前が、無いの」


 ほら、と小鳥が自分のステータス画面をこちらに向ける。確かに勢力名表示欄が空白になっている。


「そりゃガーディアンの名前すら付けてなかったお兄ぃが、勢力(チーム)の名前なんて決めてるハズないの、分かってるけど」


 ギルド名みたいなもんか。また何か面倒な話に……。


「それ、おまいらで勝手に決められないのか?」

「――おう、そーきたか」

「うーんと、あ、入れられそう」


 自分のスマホを軽く叩いて確認してる小鳥。したらもう任せてしまおう。


 ほれ一応、と、ケータイを花畑に放る。

 その勢いでケータイのフリップが開き、べひもすが現れる。

 なにやら大きく喚くように顎を開き尻尾を振り回しつつ、ぶんぶんメールを着信させていたべひもすだったが、目前に有るのが俺では無く花畑の顔だと気付くと、一瞬ひくひくと痙攣した様な動きを見せ……そのまま何もかも諦めたようにぐてっと横たわる。


「明日……つか、今日も授業あるんだからな?ほどほどにしとけよ。てか、花畑はちゃんと帰れ?」


 小鳥と同じ屋根の下で寝かせるなど絶対に許さない。人として。


「お、おう……そうだ、そういえば寝る前にひとつ。ヒコ、キミは何を望んで参戦したんだ?」

「なんだおまい、自分はナイショ♪とかって、俺には訊くんかぃ」

「……おぅ、済まん。ボクもキミと一緒だ。“言いたくなければ、いい”。ただ、キミの勢力下に入り勢力名まで考えるとなれば、最終目的は確認しておきたかった」


 差し支えなければ、と続ける。ふむ……。


「俺が望んだのは……まぁ、無茶やってる小鳥のケツを引っぱたくこと、だな」

「うん、それは分かる」

「ちょっ――お兄ぃ!?」


 納得顔の花畑と、真っ赤になって尻を押さえ立ち上がる小鳥。

 ……要らん誤解を招きそーなので、小鳥もホドホドにな?。


「――だが」


 少し考え込むようなそぶりを見せて、花畑が問いかける。


「それだけ、ならば。最初の一戦でその願いは叶ってしまう。まして“全き怠惰”が協力するハズはない。ボクにはとてもじゃないが」


 チラと、ふて寝してるべひもすを一瞥する。


「彼を納得させるだけの目的とは思えない」

「そうか?簡単な事なんだが」

「……?」


 花畑は怪訝そうな表情を浮かべている。本当に簡単な話なんだけどな。

 我、関せずを決め込み、寝こけ続けるべひもすを脇目に俺は続けた。


「俺は、ガーディアン・システムを破壊する。完全に、再現したければ、設計から再構築する必要があるぐらいに、徹底的に、壊す。それを、システムの管理者どもへ“強制”する」


 息を呑む小鳥。口をぽかんと開ける花畑。

 ……だから、そんなご大層なこっちゃ無いだろうに。


「――おう、そう来たか。確かに、それならば“怠惰”は怠惰であるが故に、キミへ協力するだろう」


 得心がいったとばかり頷きながら花畑が呟く。


「……そうか、それが、キミの望み、か」


 そうだ。そこには、一分の偽りも無い。

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