第八章 -5
【小僧。ようやく本気か?】
なお笑う怠惰。
眩いほどに光り輝くケンタの全身。自慢の花は、禿頭から既に失われていた。
確かにようやく全力を出し切っているのだろう。
【遊んでやろう、小僧。手も足も尻尾も出ているが、それ以外も出る】
それ以外って……ウホッ?。
とっさに、小鳥たちの植木鉢を遮るよう、身体の位置をズラす。
【向日比古。貴様……何を考えている】
え?そりゃナニだよ、ナニ。
口に出すのも憚られたので、取りあえず上に中指を立てた拳をすぱーんと突き付けてみる。
校庭の向こう端では、しゃがみ込んで頭抱えてる花畑。順調に串無しバーベキューと化しつつあるケダモノ、周囲を見渡す余裕など無さげなケンタ。
……ま、俺と小鳥たちが無事だから、とりあえず後はどーでもいいや。
【貴様……やはり後でじっくりと話合う必要がありそうだな】
「――だが断る。それはそれとして、本格的に焼けてるぞ?いいのか??」
【ぐっ……ええい鬱陶しい!】
もはや自動石板焼き器と化したケンタに向かい、怒気を叩き付ける怠惰。
……いや、まぁ、気持ちは分からんでもないけれど。自分であれだけ煽っておいて、それはさすがに酷いと思うぞ?。
怠惰は、既にボロボロになっている自らの顎を、大きく振るって暴れる。ケンタが握り込んでいた怠惰の顎は燃え砕け、崩れて消える。
抑えていた顎を失ってケンタの腕がバランスを崩す。
顎は半分ほどに焼け削れてしまっているが。
それでも、ケダモノの頭は自由を取り戻していた。
*
――俺も同じ事を考えていた。
限界を超えた火球を自らの口内に蓄え、自分の顎を灼き落とせば、頭は開放される。
怠惰はそれと同じ事を、ケンタを煽ってやらせた訳だ。
それが怠惰故なのか、それほど迄にケンタを揶揄して遊びたかったのか。多分に判断の迷うトコだった。
だが、これほど身体が朽ちていては、頭が自由になったところで……。
【言ったはずだ。それ以外も出る、と】
それ以外?と思う間も無く……。
ぷすっぷすっと。その牙が曲りながら伸びて、ケンタの顔面に突き刺さる。
白い牙、黒い牙。交互に伸びて縮んでを繰り返し、結構な深さで突き刺さっている。
「痛イ!いたイ!」
叫びながらケダモノを放り出して顔面を両手で押さえ、全身を輝かせながらごろんごろんと転がり始めるケンタ。つーか、伸びるのか牙。
「熱イィィィィィッ!」
こんどは別方向にごろごろ転がり始める。
……ひょっとして、自分の顔面を自分の掌で焼いてたのか?。また豪快に身体張ったコントみたいな事を。
けど、こいつの頭も顔もまるっと白熱してたよなー、別に掌が当たったからって……とか思ってよく見ると、身体は白く燃えているが、掌は青く燃えている。案外、結構な温度差があるのかも知れない。
【ふむ……こんなものか】
一方、ケダモノはと言えば、録画の逆再生を思わすえらい勢いで再生していた。
……?。
再生する速度に偏りがある、のか?。
皮膚全体の再生速度は今一つな反面、腹や背中、顎など、身体の構造自体が崩れていた部分は、あっという間に元に戻っていく。
その割にクィンの呪文に貫かれた尻尾の付け根あたりは、まだ治りきっていない。あの呪文に、何か特殊な性質でもあるのかもしれない。
痛い熱い叫んで転がっていたケンタが、ケダモノの目の前まで転がって戻ってくる。
花弁によるブーストの限界が来たのか、もう身体は熱を発していない。
頭からツボミが無くなり、顔や身体のアチコチが焦げているくらいで、どんな案配なのかクマの胴体にはまだ剛毛が残り、それほど大きなダメージを受けているようには見えない。
【喧しい!】
そう叫ぶと怠惰は、ほどほど回復し終えた顎でケンタに噛み付くと、そのままえらい勢いで振り回し始めた。
さすがに哀れなので止めようかとも思ったが、ダメージ計算による勝敗判定の問題を思い出し、とりあえず放置することにする。
えーっと。あとは……。
「――ヒコ」
さっきまで片膝をつき、頭を抱えていた花畑が近づいてくる。足取りは重い。
まぁ、そりゃそうだろう。勝敗的な意味でも、それ以外でも意味でも。
「この勝負……な」
そう切り出す花畑。顔が引きつっている。あー、うん。もうこーなっちゃうとねー。
どーしょーもないよね。
「この勝負、引き分けだな!」
ンな訳あるかぁぁぁぁぁあああっ!。
胸を張ってアホな宣言する花畑のみぞおちへ膝を打ち上げ、同時に体重を載せた肘を鎖骨へ叩き込む。
前のめりになった所で身体ごと肩へ載せ、そのまま高く持ち上げ……。
*
「あー、えーっと。……間違っても殺しちゃわないよーに、な?」
【当然だ。吾とてこんなモノ、喰らいたくはない】
あー、うん。そこまで冷静ならいいや。
とりあえずコイツは好きにさせとこう。
ヒマなので取りあえず小鳥たちを自由にするべぇと持ち上げようにも、微動だにしない植木鉢をどーしたものやらと思いつつ、制限時間終了はまだかいな、と空を見上げる。
今なお月は白い。
変わらず辺りを煌々と照らしている。……こりゃ当分あかんね。
脇へ目をやると、まだ瞋恚が収まらないのか、ぐったりと意識の無いケンタを顎に咥え、ブンブンと宙で振り回し続けてるケダモノ。
更にその脇には、一応、最低限の気を遣って砂場に叩き落としたせいか頭を地面に埋め、垂直落下式バックブリーカーを喰らった直後の姿勢で固まったまま、時々ひくっと痙攣してる花畑。
透明な植木鉢の中で、まーだ呆然としている小鳥とクィン。
……なんだこの阿鼻叫喚。
つーか。
ケダモノが飽きたら手伝わせて鉢をどけるにしても、こりゃ時間切れまで本当にヒマだな。何か無いかな、と懐を漁る。出て来るのはハンカチと財布に自宅の鍵と、ケータイくらい。
……しゃーねーな。なんかアプリゲーでも、やるか。




