第七章 -2
わたしも行く、とゴネて聞かない小鳥を説き伏せる自信があるハズもなく、当人もクィンもかなり回復している様子が見て取れたもので、そのまま花畑達を含め三人と三枚?で白月が照らす夜道をてくてく歩き始める。
花畑も時間が無いと言いつつ、小鳥が騒ぐ間もさして急ぐ様子でもない。
まあ、コイツからしてみれば十年越しの決着になる。
余りあくせくしたくないのかも知れない。小鳥は俺と花畑の空気を読んでいるのか、黙ったまま少し後ろを歩いている。
「おう、そうだ。もう一つ聞きたいってのは、何だ?」
花畑が口火を切る。うん、まぁ余り大した疑問でもないんだが、一応。
「乱入扱いだった、って仕組みは判った。けど、それならお前もあの場にいたハズだ。……ドコで何やってたんだ?」
花畑が、俺と小鳥との対戦を優先させてくれていた事は、判る。そういう男だ。
あの場での、覚悟が全く決まってなかった俺の醜態すら全て観られていたのだろう。頭を抱えたくなるが、その辺はお互いに今更な話だ。
ただ解せないのは……相克である以上、小鳥が俺に勝ちきってしまったら花畑の対戦相手は小鳥になってしまう。
俺とは対戦……即ち、花畑が望む類の決着を付ける事ができなくなる。
なのに、全くの不干渉だった理由が判らない。
何があった?。
「ああ、それか。あの時は……どうやって登場しようか考えていて、な」
「……登場?」
頭が一瞬空白になり、思わずオウム返し。
「――そう。登場シーンは、高い場所からがいい。初めは公園の最上段から声をかけるつもりだったんだが、小鳥君が駆け上がって来るのが見えて、な。邪魔もしたくなかったから、少し離れた」
高い場所から登場って、おまいね……。
「――どこか良い場所がないかと探していて、あの辺で一番高い場所と言えば神社の境内だろう?どう考えても、目立つのは鳥居だ」
鳥居――?。
つぅ……と、額をとても嫌な汗が流れる。
「……そうか、おまい。さては鳥居の上か裏側辺りから、かっこよく飛び出すタイミングを見計らってて……」
「ああ、爆発に巻き込まれた」
どこか遠くを眺める花畑。
漂う哀愁。
実際に花畑の近くを漂ってるのは、マッチョで禿頭な植木鉢なわけだが。
目が合うとニカッと笑い禿頭と白い歯を光らせてポージング。
……殴りたい。
それにしても。
初めから鳥居をぶち壊わすつもりで放たれた、ケダモノが万里を灼くと豪語する、あの大火球を至近距離で……。
「正味、済まんかった」
対戦前から土下座したい気持ちで、一杯々々だった。
「いや、爆発自体はとっさに、彼……ケンタがほとんど防いでくれたんだが」
話を向けられてこちらへ笑顔を向け、ふよふよと浮かびながらポージングしつつ、ニカッと白い光をこぼす植木鉢。
それに合わせて花畑もポージング。こぼれ出す白い歯の光がダブルになる。
……いやもー、それはいいから。
対戦前からグロッキー寸前だった。心理戦か!?。
「――とはいえ、身なりまで万全とは行かなかった。キミだけならともかく、下着もボロボロの格好で、小鳥君の前へ顔を出せ無いから、な」
急いで自宅へ着替えに戻ってとんぼ返りしてみると、既に俺と小鳥の対戦は決着していて、仕方なくウチの近所で様子を見ながら落ち着くまで待っていた、とか続ける。
……ダブルでポージングしつつ。
話題に上がった小鳥は見事に知らん振りでクィンと何やらおしゃべり。チラと視線をやると、がんばってねーと言わんばかりにひらひら手ぇ振ってるし。
ケダモノも、我関せずとアクビしながら耳の裏を脚で掻いてる。
――俺一人が、何だか凄まじくテンションがだだ下がりだった。
「……終わった?」
一段落したと見て取ったのか、とととっと近づいてきた小鳥が口を挟む。
「で、お兄ぃたち。ドコに向かってるの?このまま進むと……」
言葉を濁す、びみょーに険しい声。
ぢとっと見られている視線も、どこか白い目で見られてる気がする。
まぁ、気のせいじゃ無いだろう、な。
何しろ、俺たちが歩いているのはかつて通い慣れた通学路。
当然、その先には学校がある。
ガキの時分に通っていた、学園の初等部。
こっちは敷地も平地にあるんだよなー。通い易くて良かった。
……それはともかく。
つまるところ、俺と花畑は真夜中に、何の決着を付けるんだか初等部の敷地に侵入しようとしてる、ように見える訳である。
――いかん。俺まで変態扱いされかねん。花畑は今更だが。
つーても説明もしづらいな……。
「小鳥くんも察してる通り、ボクらは初等部校舎へ向かっている。正確には初等部の敷地内、校庭で決着を付けるつもりだ」
花畑が間を読んで説明する。
判っていた、とはいえ、それでも胸にもやもやした痛みが甦る。
「ね、だったら、その『決着』とかって……。きっと、昔、お兄ぃだけ引っ越してたのと関係あるんだよね?」
真っ直ぐ切り込んできた小鳥に気圧され、言葉に詰まる。
まったく、相変わらず勘所を掴むのは鋭い。
小鳥の肩に座りわずかに首を傾げるクィンに向かって諭すように、小鳥が言葉を紡ぐ。
「――お兄ぃ、ね。初等部の最後の二年間、おばあちゃんのトコに引っ越してたの。戻ってきたのも中等部の一年が始まってから。それと、関係がある話、なんだよね?」
――後半は俺に向かって詰問する様な口調。
やっぱり相当、根に持ってるな。
まぁ、あの時は小鳥が大泣きして、俺と一緒に引っ越すって聞かなかったんだっけ。
一応、俺の代わりに親父達がその間はずっと一緒だったけど、まぁ小鳥は昔っから俺に懐いてたからな……。
俺の方も寂しかったし心配ではあったけど、事情があって数少ない血縁者であるばぁさんのトコに、てのも実は方便で。
……どっちみち小鳥と一緒ってのは無理だった訳だが。
言いあぐねて口ごもる俺を目で制し、花畑が続ける。
「あれは……ボクの責任だった。ボクはそれを償うために、今ここに居る」
まー、そーなるよな。コイツの場合。
自責の言葉にキリが無さそうなので、そのまま後を引き取る。
ますます不審そうな小鳥。一通り説明しないとダメっぽいか。
――まぁ、いい頃合いかも知れない。
「小鳥。あの頃の葵のこと、覚えてるだろ。勉強も体育も何でもできて、誰も彼も見下して、ずっと一人だった」
「――葵ちゃん?。……うん。でも、それも関係があるの?」




