第七章 -1
「ボクの願い、か――」
俺の心中を読んだかのように、ゆっくりと花畑は塀の上で言葉を紡ぎ出す。
「悪いが、しばらく付き合ってもらうぞ?ヒコ」
差し当たってはそれがボクの望みだ、そう付け加えながら花畑は塀から庭へと飛び降りる。
……奇妙な違和感。
小鳥とクィンを手で制し、俺も掃き出し窓からサンダルを突っかけながら庭へ降り、その疑問をぶつける。
「花畑、二つほど訊いていいか?」
「?……どうした?」
「不意打ちのつもり、じゃなかったのか?なんでこっちが気付くまで待ってたんだ?」
まあ、最悪の場合は殺し合いになるドツキ合いを始めようってのに、玄関口から礼儀正しく来訪されても、どう対応したものか、びみょーに困ることは事実なんだが。
それにしたって、わざわざ塀の近くに待機して、こっちが気付くのを待って……てのは解せない。
「ああ、いや。ここで待ってたのは、だな。別に戦術的にどうこうって話じゃあない。単に塀の上でのポージングが……」
うん、と一つ頷いて続ける。
「かっこいいから、だ」
言い放つHENTAIの横で、ぐるんっと植木鉢が回ってポーズをつけている。気付くと花畑も競わんばかりにポージングを始める。
「……」 < 小鳥
「……」 < クィン
『……』 < ケダモノ
俺と花畑たち以外、その場の全員が息を呑んでいる。
HENTAIと植木鉢のシンクロナイズドポージングはますます絶好調だった。
ぶぶんっと、メール。
『吾にもようやく理解出来てきた。――此奴、心底から本気で言ってるな?』
……うん。嫌になるほど本気だ。頭が物理的に痛くなってきた。
花畑の扱いに慣れてない小鳥とクィンなど、未だに点目で呆然自失している。
ま、無理も無い。
「あー……うん、それは判った」
判りたくも無いが。
深く突っ込みたくも無い。
「そうか。それは良かった。それで、もう一つ、ってのは何だ?」
そう、こっちの方が重要だ。
「まだ“相克”が終わってないな。何故だ?。俺は小鳥に勝った、それで終わり、じゃあ無いのか?」
ああ、その件か、と、花畑は続ける。
「ヒコ。判ってると思うが、相克は対戦する石板や契約者が『一対一である』事を前提としない。組み合わせが二対一でも二対二でも、更に多くでも、システム上は一向に構わない」
それは、そうだ。
そもそも俺やケダモノが狙う判定勝ち狙いは、勝った相手を『喰う』代わりに『手駒として利用する』ことを前提とした戦略だ。
つまりガーディアンズには仕様上、最初から複数対複数の戦いが想定されていて、これはガーディアンズを使わない本来の相克でも有り得る事態だろう。
……そうか。
「つまり、相克が始まる時点で同じ結界の中に居れば……」
「そうだ。直接の対戦者である契約者や石板以外でも、乱入扱いで参戦できる。相克は、まだ終わってない。連戦になって悪いが、付き合ってもらうぞ、ヒコ」
――そういう事か。ようやく合点がいった。だが、事前に同盟で組んで示し合わせてればともかく、そうそうタイミング良く乱入できる訳でも無いだろう。
「……仕込んだのはカラオケ屋の時か。大したもんだな」
素直に感心した。OSにまでがっちり食い込んで起動するシステムに、あの短時間で……。
「そうだが、たぶんキミが思っているのとは、違う。ガーディアンズのシステム自体には、どうやっても触れない。それはプロでも無理だろう」
むしろ下手に干渉すれば文字通り命に関わる、花畑は苦笑しながらそう続けた。
まあ、それもそうか。
そうでなかったら、ガーディアン・ズシステムの管理者が相克の結果を操作し放題となる。
その時点で、ガーディアンズそれ自体が、強制力によって排除される対象と見なされかねない。
……確かに、命すら危うい。
「――だが、通信機能それ自体の管理は、端末の通信ドライバに依存する。ガーディアンズが起動した時点で、常にボクとのマッチングを優先させるように設定するのは、そう難しい事じゃ無い」
――花畑との対戦を、優先させる?。てことは……。
「そうか、乱入扱いだったのは……」
「そう。実態はどうあれ、システム的には小鳥くんたちが乱入者の扱いになっている」
ガーディアンシステムから観れば、俺も花畑も互いに本来の対戦相手との対戦が終わって居らず、まだ時間切れにもなっていない。
「……だから、相克も終わらない。そういう事か」
「そうだ」
涼しげに答えやがる。
つーかコイツ、さっきから視線が泳いでると思ったら小鳥と視線を合わせないようにしてやがる。
その小鳥はジト目で思いっきり花畑を睨んでいる。クィンも意味ありげにじっと見ている。
まぁ……そーなるだろーな。色んな意味で。然もありなん。
力強く頷いて続ける。
「だいたい判った。もう一つだけ訊いていいか?」
「ん?構わんが、そろそろ時間が無い。移動しながらでいいか?」
時間?――ああ、そうか。それでも良いか。
てか、移動?……どこへ?。
俺の頭上に疑問符が湧いたのを見て取ったのか、呆れたように声をかけてくる。
「……おい。まさか、ココで遣り合うつもりじゃないだろう?」
「あー……」
一応、相克が始まれば結界内は保護される。そーゆー建前にはなってるハズだが。建前は建前に過ぎないことを、俺たち自身が証明している。
まかり間違っても、我が家が鳥居みたいに壊れてしまっては、とても困る。
「……で?ドコで始めるって?」
「決まってる。キミとボクが決着を付けるなら、あそこしか無い」
……まったく、何時までも昔の事にこだわる。
だが、そうだ。こいつが“決着”を望むなら場所は一つしか無い。
ため息を一つ吐くと花畑に表へ回れと告げ、俺は玄関で靴を履き替えた




