第四章 -4
その後もぼちぼちと尋問は続いた。
ざっくりまとめると、ケダモノはガーディアンズ側の仕組みはついては詳細を知らない、という事だった。
そりゃそうだろう、とも思うし、強制力が弱いことを利用し、俺に対しては伏せている可能性も高そうにも思える。まぁ実際、半々ってトコだろう。
とりあえず、俺はケダモノごとケータイを机に放り投げ、考えをまとめ続けた。
先に結論した通り、俺は別に契約が有ろうと無かろうと困らない。
つか、ゲームとしても実利的な話としても、ガーディアンズは嫌いで関わりたくないんだから、契約なんぞしたくないし、できない方が好都合だ。その意味では、ケダモノが似たもの同士だと指摘するのは正しい。
ムカつく上に、世にも哀しい話だが。
――つーか、またちょっと泣けてきた。……くっそ。
ともあれ、そうなると花畑の動きが気になる。あいつは間違いなく、俺を契約者にしようとしている。それも一方的に強制するような真似までして。
理由は大きく二つ考えられる。
・俺が契約者になると、花畑に圧倒的な利益をもたらす。そのために無理を通している
・俺が契約者になることが、花畑の責任感や倫理観の上で正しいことである
……まぁどっちも有り得る話だ。
普段の花畑の性格や行動パターンから言えば後者だが、世界を歪めてしまうほどの“奇跡的な”利益なら、全てを割り切って前者を選択したとしても不思議では無い。
花畑は、そういった冷徹な側面も持ち合わせている。
……ほんっとリーダー向きだよな、あいつ。トコトンHENTAIなんだけど。
もっとも、ケダモノの話だとそれほど大きなご利益がある訳でも無さそうだ。まぁ、それでも人外の力なんだから、そこそこ有効なんだろうけど。
ただ、どっちにしろ契約が成立しなければ話にならない。――そうか、それを確認しないとな。顔を上げてケダモノに向き直る。
「おい、問うぞ」
『……』
反応が無い。ただの屍のようだ。
「――怠惰?」
『……ンあ?』
こいつ……みょーに静かだと思ったらふて腐れてたんじゃなく、本気で爆睡してやがった。
『……貴様、何を大きく頷いている?』
「いや、そりゃ寝るよなーと思ってな」
惰眠サイコー。ああ、違う違う。そうじゃなくて。
「問うぞ?」
『うむ』
「……口の端っこ。ヨダレ垂れてる」
『むぅ……』
ぐにぐにと太い脚で必死に拭いている。小鳥なら、かわいーとか言いながら突いてコロンコロン転がしてるトコだな。えーっと。
「あーそうそう、契約の話なんだけどな」
『うむ』
寝ぼけてるのか対応が普通だな……今のうちか。
「契約者が居なければ、お前はガーディアンズ内で争っても何の意味もない、そうだな?」
『そうだ。そもそも相克が成立しない』
「ならば、“契約済みの石板と契約者”が、ガーディアンズの“外”で未契約の石板と出会ったとしたら、どうなる?」
『どうにもならん。ただ、すれ違うだけだ』
――?。
おかしい。
「その場で相克とやらが始まるんじゃないのか?。元々契約と無関係に争っていたのなら、契約が無い時にそれが出来ないってのは、矛盾するだろう」
『矛盾しない。吾らは現世には無い。契約者がどこで誰とすれ違おうと、吾らには影響しない。石板という名の示す通り、吾らは叡智そのものだ』
情報生命体、みたいなもんなのか?。
『端末はただの目標に過ぎぬ。吾らはガーディアンズの作る“網”を利用し、そこを目指して己の意識を飛ばし、仮の姿を形作る。ただ、それだけの事だ。……そこには』
ケダモノは、視線と顎とでケータイを示し、続けた。
『その中には、吾ら自身は存在せぬ。仮初めとして、偶然に情報の網の中で直接吾ら石板が相見える事があらば、そこでは相克が始まる。それこそ星と星が出会いぶつかり合うほどの、矮小な確率だろうが、な』
――そうか、判った。情報端末も契約も、その全てが……。
「ただの象徴、なんだな」
『そうだ』
「契約が、そこに実体を結びつける、ということか」
『そうだ』
「だが、それならばガーディアンズが無かった時代はどうなんだ?」
『吾らは文字通りの石板だ。石板同士が相見えれば、相克が起きる』
「有体物としての石板は……ただのアイコンじゃないのか」
『……そうだ』
「お前の石板“本体”はどこにある?」
『……答えると思うのか?』
にいっと嗤う。まぁそりゃそーだ。実体の存在が誰かに知られれば、それは石板自身の身の危険を意味する。強制力はむしろ、返答しない方へ向かうのだろう。
「……もう余程の事がなければ、物理的に石板同士が噛み合う事は無いだろう、って事か」
互いに食い合って数を減らし、争うために人の助けを必要とするほどに。
『そうだ』
「契約者同士だったとしても、契約者以外だったとしても、ガーディアンズの支援が無ければ普段は相克にならん、と」
『無論、契約者同士に面識があるならば、互いに相克を起こし易くも、そこから逃げようとする事も起こるだろうが、な』
ふむ……。
「答えろ。お前は強いのか?」
『吾が強いか、だと?』
ケダモノは、嘲笑うかのように身体を揺する。
『――吾は全き怠惰。最強たる石板の一欠片。対峙する石板が何者であろうとも、決して遅れを取る事は、無い』
「お前が強いのならば、お前との相克を望む者は何を期待している?」
花畑は、戦えば負ける様な相手と……何故戦いたがる?。
『……吾が手に入る。吾は最強たる石板の一欠片。吾に勝てる者があらばこそ、だが』
ああ、そうか。食い合え、ってのは……。
「相克ってのは、食べた相手の力を自分のモノにする、てことか……」
『そうだ』
「だが、お前は強い」
『そうだ』
「答えろ。花畑の石板は覚えてるな?。あの植木鉢がお前に勝てる可能性は、どの程度だ?」
『どれほど策を弄しても不可能だ』
――そうなのか?。
「……勝負は水物だろう?」
『そうだ。だが、それでも不可能だ。相性が吾に有利すぎる』
ケダモノは、ニィ……と、顎をゆがめて笑う。
気圧されそうな程の、凄まじい矜持。己が強さに絶対の自負を持っている。
理屈では無く、分かる。韜晦や欺瞞ではない。心底からの確信だ。これは、本当に、あの植木鉢には勝ち目が無いのだろう。
だが、そうなると、尚のこと分からない。あれだけ無茶をやって、思わせぶりに情報を撒いて、俺をこのケダモノと契約させたとして。
花畑は一体、何を得る?。
何が、目的なんだ?。




