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でもんず  作者:
16/37

第四章 -4

 その後もぼちぼちと尋問は続いた。

 ざっくりまとめると、ケダモノはガーディアンズ側の仕組みはついては詳細を知らない、という事だった。

 そりゃそうだろう、とも思うし、強制力が弱いことを利用し、俺に対しては伏せている可能性も高そうにも思える。まぁ実際、半々ってトコだろう。


 とりあえず、俺はケダモノごとケータイを机に放り投げ、考えをまとめ続けた。

 先に結論した通り、俺は別に契約が有ろうと無かろうと困らない。

 つか、ゲームとしても実利的な話としても、ガーディアンズは嫌いで関わりたくないんだから、契約なんぞしたくないし、できない方が好都合だ。その意味では、ケダモノが似たもの同士だと指摘するのは正しい。

 ムカつく上に、世にも哀しい話だが。


 ――つーか、またちょっと泣けてきた。……くっそ。


 ともあれ、そうなると花畑の動きが気になる。あいつは間違いなく、俺を契約者にしようとしている。それも一方的に強制するような真似までして。

 理由は大きく二つ考えられる。


・俺が契約者になると、花畑に圧倒的な利益をもたらす。そのために無理を通している

・俺が契約者になることが、花畑の責任感や倫理観の上で正しいことである


 ……まぁどっちも有り得る話だ。

 普段の花畑の性格や行動パターンから言えば後者だが、世界を歪めてしまうほどの“奇跡的な”利益なら、全てを割り切って前者を選択したとしても不思議では無い。

 花畑は、そういった冷徹な側面も持ち合わせている。


 ……ほんっとリーダー向きだよな、あいつ。トコトンHENTAIなんだけど。

 もっとも、ケダモノの話だとそれほど大きなご利益がある訳でも無さそうだ。まぁ、それでも人外の力なんだから、そこそこ有効なんだろうけど。

 ただ、どっちにしろ契約が成立しなければ話にならない。――そうか、それを確認しないとな。顔を上げてケダモノに向き直る。


「おい、問うぞ」

『……』


 反応が無い。ただの屍のようだ。


「――怠惰?」

『……ンあ?』


 こいつ……みょーに静かだと思ったらふて腐れてたんじゃなく、本気で爆睡してやがった。


『……貴様、何を大きく頷いている?』

「いや、そりゃ寝るよなーと思ってな」


 惰眠サイコー。ああ、違う違う。そうじゃなくて。


「問うぞ?」

『うむ』

「……口の端っこ。ヨダレ垂れてる」

『むぅ……』


 ぐにぐにと太い脚で必死に拭いている。小鳥なら、かわいーとか言いながら突いてコロンコロン転がしてるトコだな。えーっと。


「あーそうそう、契約の話なんだけどな」

『うむ』


 寝ぼけてるのか対応が普通だな……今のうちか。


「契約者が居なければ、お前はガーディアンズ内で争っても何の意味もない、そうだな?」

『そうだ。そもそも相克が成立しない』


「ならば、“契約済みの石板と契約者”が、ガーディアンズの“外”で未契約の石板と出会ったとしたら、どうなる?」

『どうにもならん。ただ、すれ違うだけだ』


 ――?。

 おかしい。


「その場で相克とやらが始まるんじゃないのか?。元々契約と無関係に争っていたのなら、契約が無い時にそれが出来ないってのは、矛盾するだろう」

『矛盾しない。吾らは現世(うつしよ)には無い。契約者がどこで誰とすれ違おうと、吾らには影響しない。石板という名の示す通り、吾らは叡智そのものだ』


 情報生命体、みたいなもんなのか?。


『端末はただの目標に過ぎぬ。吾らはガーディアンズの作る“網”を利用し、そこを目指して己の意識を飛ばし、仮の姿を形作る。ただ、それだけの事だ。……そこには』


 ケダモノは、視線と顎とでケータイを示し、続けた。


『その中には、吾ら自身は存在せぬ。仮初めとして、偶然に情報の網の中で直接吾ら石板が(あい)(まみ)える事があらば、そこでは相克が始まる。それこそ星と星が出会いぶつかり合うほどの、矮小な確率だろうが、な』


 ――そうか、判った。情報端末(ケータイ)も契約も、その全てが……。


「ただの象徴(アイコン)、なんだな」

『そうだ』


「契約が、そこに実体を結びつける、ということか」

『そうだ』


「だが、それならばガーディアンズが無かった時代はどうなんだ?」

『吾らは文字通りの石板だ。石板同士が相見えれば、相克が起きる』


「有体物としての石板は……ただのアイコンじゃないのか」

『……そうだ』


「お前の石板“本体”はどこにある?」

『……答えると思うのか?』


 にいっと嗤う。まぁそりゃそーだ。実体の存在が誰かに知られれば、それは石板自身の身の危険を意味する。強制力はむしろ、返答しない方へ向かうのだろう。


「……もう余程の事がなければ、物理的に石板同士が噛み合う事は無いだろう、って事か」


 互いに食い合って数を減らし、争うために人の助け(ガーディアンズ)を必要とするほどに。


『そうだ』

「契約者同士だったとしても、契約者以外だったとしても、ガーディアンズの支援が無ければ普段は相克にならん、と」

『無論、契約者同士に面識があるならば、互いに相克を起こし易くも、そこから逃げようとする事も起こるだろうが、な』


 ふむ……。


「答えろ。お前は強いのか?」

『吾が強いか、だと?』


 ケダモノは、嘲笑うかのように身体を揺する。


『――吾は(まった)き怠惰。最強たる石板の一欠片。対峙する石板が何者であろうとも、決して遅れを取る事は、無い』

「お前が強いのならば、お前との相克を望む者は何を期待している?」


 花畑は、戦えば負ける様な相手と……何故戦いたがる?。


『……吾が手に入る。吾は最強たる石板の一欠片。吾に勝てる者があらばこそ、だが』


 ああ、そうか。食い合え、ってのは……。


「相克ってのは、食べた相手の力を自分のモノにする、てことか……」

『そうだ』


「だが、お前は強い」

『そうだ』


「答えろ。花畑の石板は覚えてるな?。あの植木鉢がお前に勝てる可能性は、どの程度だ?」

『どれほど策を弄しても不可能だ』


 ――そうなのか?。


「……勝負は水物だろう?」

『そうだ。だが、それでも不可能だ。相性が吾に有利すぎる』


 ケダモノは、ニィ……と、顎をゆがめて笑う。

 気圧されそうな程の、凄まじい矜持。己が強さに絶対の自負を持っている。

 理屈では無く、分かる。韜晦や欺瞞ではない。心底からの確信だ。これは、本当に、あの植木鉢には勝ち目が無いのだろう。

 だが、そうなると、尚のこと分からない。あれだけ無茶をやって、思わせぶりに情報を撒いて、俺をこのケダモノと契約させたとして。


 花畑は一体、何を得る?。

 何が、目的なんだ?。

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