序
――とてもイヤなイヤな、笑い声。
どこか遠くで、すぐ近くで。
耳元で含むように、こだまのように。
やがて、割れんばかりの大音声が……真後ろから。
――飛び去るように、振り返る。
ほんの少し離れた小さな丘の上で“何か”が呵々として笑っている。
……小さな、丘?。
――ちがう。
あれは、屍の山。
その上に、アレは立っている。
ぬらりと流れ足下を濡らすのは、生暖かい血河。
ほんの一瞬。
足裏に意識を取られ……気付くと、声は止んでいる。
――途端、背筋が凍る。
見られている。
視線が矢のように降り注ぐ。
頭の天辺から足指の爪先まで、身体の全てが射貫かれる。
身体が動かない。
指先はおろか、目の動きすら思うようにならない。
嫌だ嫌だと身体中が叫びながら、視線は丘の上へ吸い寄せられる。
――やがて、いつしか。
“何か”と真っ正面から向き合ってしまう。
逆光に隠れ、影に塗りつぶされた姿。
その中心でいっそうに暗く、呑み込まれそうな闇を放つ、空虚な眼窩。
そこにはたっぷりと、純粋な憎悪が詰めこまれている。
突き詰めた憎しみには、狂気すら混ざる余地はないのだ、と、実感する。
――再び放たれる、無数の害意。
身体の奥へ深くへと、真っ直ぐに突き刺さる。意識が薄く、遠くなる。
*
そして、どこからか。小鳥の囀りが聞こえる。
……空を飛ばない、口うるさく囀る方の、小鳥。