第七十七話 ジャックポット
三匹に増えた大型デブリを倒すべく、散開した彦乃たち。
上空へと高度を上げていく彦乃を追うようにして、三匹とも高度を上げる。
そうして機首が上へ向き全体が傾いた所でチャンス到来となった。
「よし来た! ちゃんと合わせろよ、桜!」
「…うん、分かった!」
大型デブリの背中に展開していたサソリたちの死角となるよう、桜とヘレンは移動する。
そうすれば、本体以外何も居ない、無防備な状態を晒す事となる。
「ボディががら空きなんだよっ!」
進行ルートに足場となる壁を次々と作り出しては桜と共に飛び跳ねて三匹の内の一匹へ近づいていく。
彦乃の撒き散らすルミナスを拾いながら壁を作っているおかげで、ヘレンの負担は軽い。
軽くなった分の余裕をほんの少しでも威力に乗せ、攻撃力へと変えていく。
「まずは一手!」
脆い箇所へ取り付いたヘレンは早速攻撃へと移る。
眼にも止まらぬ連撃を正確に脆弱なポイントへ一撃、もう一撃と突き刺していく。
一撃ごとの威力は決して高いとは言えない。
大型相手ではそれこそ蚊に刺されたようなものだろう。
「桜ぁ!」
「点を線に…やあっ!!」
ひとしきり打ち込んだ所でヘレンが下がる。
それと交代する形で今度は桜が攻撃し始めた。
ヘレンの突き刺した場所へ剣を突き刺し、他の箇所と繋げるように切り裂く。
こちらもデブリ側からすれば毛を抜かれている程度の物なのかもしれない。
でも、それが何回も続けばどうなるか。
「…これでぇっ!」
一枚、また一枚と装甲を剥がすように切り裂いていく。
最初こそ小さなものだったが、それが何度と繰り返されていく事で変化は起きる。
「っ…いただきっ!」
正確に同じ場所を切り裂き続けていた桜は、最後に目一杯まで剣を突き刺す。
何十何百と切り裂かれ続けたデブリの身体には綻びが生まれ、そこを二振りの剣で貫く。
彦乃を追おうとしていたデブリもこれには怯み、姿勢を元へ戻し狙いをヘレンと桜へと切り替えたようだ。
「彦乃っ! 穴開けたぁ!」
「ありがとう二人ともっ! いっけぇぇぇ!!」
突き刺した剣を一気に引き抜き、デブリから桜は飛び退く。
これで準備は整った。
他の二体を引きつけていた彦乃は一気に加速してヘレン達の攻撃していた個体へ突っ込んでいく。
背中にいるサソリたちの迎撃もあるが、彦乃の直感の前には当てる事すら出来はしない。
そのままデブリへ攻撃…するでもなく彦乃はデブリを通り過ぎて真っ逆さまに突っ込んでいった。
彦乃が突っ込む先に待っていたのはヘレンの作ったルミナスの壁。
「はっ!……たぁりゃぁぁぁ!!」
ルミナスの壁に着地した彦乃は壁を目一杯まで踏み込んで勢いを溜めに溜めて、そうして牛頭と馬頭のブースターを全開まで引き上げる。
全門開放しての超加速は、彦乃をそのまま弾丸のようにするには十分な速度とエネルギー、そして爆発力を生み出した。
打ち出された彦乃はそのまま真っ直ぐ桜が攻撃し続けていた箇所目掛けて突っ込む。
「はぁぁっ!」
デブリを貫く勢いは全く収まらず。そのまま核であるユニットごとブチ抜いて突き破った。
だがそれで止まらないのが彦乃だ。
目と鼻の先に居るのは、彦乃を追いかけてきた他の二体。
勿論背中のサソリ型が迎撃してくるが、今度の彦乃は回避運動など一切しない。
回避すればそれだけ威力が落ちてしまうから。
「ぐっ…」
勿論、回避を一切しないのだから、どうしても当たってしまう箇所は出てくる。
装甲で守られていない腕や足、顔を次から次へと掠めて行く。
けれど勢いを緩めるにはまだまだ足りない。
「まける…」
そのまま二体目の首を貫きトンネルを作るようにして貫通し…
「もんかぁぁ!!」
三体目の頭部に風穴を開けて突っ切って行った。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
三体まとめて貫通し、大きな爆発を背後に感じながらそのままの勢いで離脱する。
身体を翻して急ブレーキをかけて背後を振り返れば、炎に包まれていく三体の大型デブリの姿。
背中のサソリたちも次々と燃え上がって行っている。
「や…やった…うぐっ!」
勝利を確信した所で身体の力が抜けたからか、今までの痛みが一気に彦乃に襲い掛かって来た。
身体のあちこちが痺れだしてだんだんと牛頭を握っているのも辛くなってくる。
こうなればとれる手段はただ一つ。
「よっ……ふあぁぁぁ…」
痺れて身体の自由が効かなくなってくる前に、牛頭へ身体を預けるように倒れ込んで四肢を投げ出す。
リラックスしきった体勢となった彦乃はその場でゆっくり全身の力を抜いていく。
戦闘は終わったのだしもう安心、なんて思っていたのだが。
「彦乃、上だっ!」
「ふぇ…?」
まだなんとか動かせたので首を上へ向けると、大量の小型デブリがその身体を炎に包みながら彦乃めがけて突っ込んできているではないか。
このままでは大量の鋭い翼に彦乃がズタズタにされてしまう。
なんとか回避しようにも身体は痺れて動けそうにない。
牛頭に回避を任せても避け切れる可能性はほとんどない。
桜とヘレンが助けに行こうにも距離がある。
「当たる…っ!」
そう思った彦乃だったが、それとは別にEFへ侵入してくる何かを感知した。
入って来てすぐ、何かを撃ち出したのも感じ取る。
射撃できると言う事は織姫だろうか?
だが答えは違っていた。
彦乃も、織姫とはまた違う何かを感じ取る。
「……ぃぃぃぃいいいいやっほぉぉぉ!!」
「っ?!」
極大のビームが小型の悉くを呑み込み、焼き切ったその後を一人の少女が突っ切っていった。
空中を滑空こそ出来ても、織姫の装備ではあんなに速度を出す事は出来ないだろう。
そしてその少女に最も強く反応したのはヘレンである。
その少女もまた、助けた彦乃には目も暮れずヘレンへと一直線に突っ込んでいた。
「ヘーーレーーンーーちゃーーー…んっ!!」
「た…ターニャっ?!」
弾丸のように突っ込んできた少女は、そのままヘレンに飛び込んできた。
白銀のドレス姿の少女は、大きなボウガンを携え、ドレスの各部からは彦乃のようにルミナスが溢れだしてそれが推力として空を飛んでいるらしい。
そんな彼女が空中を飛べないヘレンに飛び込めばどうなるかは火を見るより明らかだ。
「えっへっへ~、会いたかったよ、ヘレンちゃーん!」
「やめっ! ターニャ、落ちてる!落ちてるぅ!」
足場から弾き飛ばされたヘレンは、ターニャと呼ぶ少女と一緒に落ちていた。
とは言ってもすぐに足場を作って難を逃れたが。
「っとっと…危ねぇだろうがっ!」
「うぇっへっへ~、ヘレンちゃんふっかふかー…アレ?前よりおっきい…?」
ヘレンの作ったルミナスの床に着地したヘレンとターニャ。
怒鳴るヘレンなどどこへやら、ターニャはヘレンの胸に顔を埋めて堪能しているようだ。
「はぁー…すんすん…んはぁ~…でも匂いはいつも通りだぁ~…」
「やめっ! キメェ…ぐっ…こんちくしょう…」
今度は顔を埋めるだけでなく匂いまで嗅ぎ始める。
振り解こうともがくヘレンだったが、乱暴に引き剥がしたりはしない…というより出来ないようだ。
「ん~~……ヘレンちゃん太った?」
「成長してんだよアホが!」
流石にその発言はヘレンとターニャの関係がどうこう言う以前に女性として看過できなかった。
すぐに右腕だけ引き抜いてターニャの頭を平手で一発叩く。
そうすれば彼女はやっと拘束のような抱擁から解放してくれる。
「あいったたたぁ…酷いよぉ…」
「アホ!誰だって太ったとか言われたら怒るわフツー!」
しかもその発言の前の妙な言葉詰まりからするに、抱き心地とか触り心地が違うなぁとか考えていたのだろう。
「……ただいま、ヘレンちゃん」
「…おっせぇんだよ…アホ…」
少しの間を置いて、頭を上げたターニャは瞳を潤ませながらそう言った。
何年か越しのただいまを、やっと言えた訳だ。
素っ気ない態度を取っているヘレンも、その表情はどこか嬉しそう。
「むー……さっきからアホアホってそればっかりー!」
「っるっせー! アホなもんはアホだろうが!」
「……?」
痴話ゲンカのようにぎゃーぎゃーと騒ぐ二人を眺めていた桜。
そこへ彦乃がゆっくりと降りてきた。
もうすっかり回復しているのか、麻痺はほとんど身体から消えている。
SSモードも解除されていつものスターライトの姿へと戻っていた。
以前のように気絶したりするような事もない。
制御が上手い事行ってくれているのだろう。
「彦乃、お疲れ様!」
「桜ちゃんも、おつかれさま……晩ごはん何がいい?」
「唐揚げ! 彦乃のつくってくれるやつ!」
ついさっきまで戦っていた相手が鳥ばかりだったと言うのに即答してチョイスした注文がそれだ。
単純につい数日前の夕食が彦乃の唐揚げだったからそれを気に入っていただけなのだろうが、そこで鳥がどうのと気にしないあたり桜はある意味で大物なのだろう。
「分かった、それじゃ帰ろうか」
「うん!」
その後すぐに朱莉から通信が入って帰ってくるよう言われたみんなはコンペイトウへと帰る。
ヘレンはターニャに担がれて、桜は彦乃と一緒に牛頭に乗り、雲のずっと上を飛んでコンペイトウへと返ってきた。
帰ってきた時にコンペイトウの一部が壊されているように感じたりしたが、そのあたりの説明は朱莉がやってくれていた訳で。
つまる所、ターニャが目覚めて大慌てで飛び出したので通信設備の一部が壊されていたらしい。
この後ターニャがしっかりと叱られた事は言うまでもない。
そして、何故かその全てのメンバーはヘレンの自宅へ遊びに行く事となったのだった。
つづく




