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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第二部:年跨ぎスターライト半月戦争
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第七十三話 クリスマス防衛戦 序盤戦

 上空数百mを超高速で飛翔する物体があった。

 傍から見ればやたら速度を出している高速の飛行機にしか見えないだろうが事実は小説なんかよりもずっと奇なものである。

 最大限まで加速して目的地へ向けて飛んでいるのは、飛行機なんかよりももっと小さな一人の少女だ。

 そう、そのシルエットはデブリの落着地点へ向けて高速で移動している彦乃の姿。


「現在京都府の山中を飛翔中の雲類鷲さんへ。聞こえますか?」


「…あ、はい。聞こえてます」


 普通なら喋る事すら辛いだろう速度を出しておきながら、彦乃は表情一つ変える事なくコンペイトウのセレスからの通信に応える。

 それというのも、飛翔する彦乃の前方でクルクル回っている光の帯のおかげだ。


「どうですか、虎姫さんからレクチャーして貰ったルミナスの障壁は?」


「いい感じですよ。何よりどれだけ速度出しても苦しくならないのがいいですね」


「だそうですよ、虎姫さん」


「そいつは何より。これからもしっかり活用してけよな」


 どうやらセレス経由でヘレンや他の皆にも通信が行き渡っているらしく、よくよく耳を澄ませなくても通信の向こう側からガヤガヤとした声が聞こえてくる。

 向こう側とは言ってもヘレンと桜しか居ない筈だが、これはセレスの側に居るであろう朱莉の声も混ざっているのだろうか。


「ヘレンさん、ありがとうございます、教えてくれて」


「あー、そういうのは帰ってからたーっぷり聞いてやるから今は言うなっての。フラグになっちまうだろうがよ」


「フラグ……旗?」


「そういう意味でもありますが、この場合は特定の条件を満たした場合の…」


「セレース。それこそフラグになりかねないから押さえてー。 とにかーく、三人ともしっかりと戻ってくる事。いいね?」


 朱莉の問いに、彦乃、桜、ヘレンの三人は同時に返事を返す。

 おかげで声が混ざって聞こえにくかったりはしたが、その程度朱莉にとっては些末な事である。

 要は自分の注意をちゃんと聞いてくれているかが重要なのだ。


「……こちら彦乃。セレスさん」


「はい、言いたい事は察しましたがどうぞ」


「EFの発生、確認したので先行して戦闘始めます」


「了解です。どうかご無事で」


 そこまで言うと通信がプツリと切れる。

 切断したとは言ってもすぐにまた接続する事は出来るのだし不都合はない。


「とうちゃーっく!!」


 EFの中へ単身突撃し、タイミングを見計らって地面へ着地する。

 半ば墜落とか激突とかそういった方が適切なような感じのド派手な着地ではあったが、大量の土煙こそ上がっては居ても彦乃事態に損傷はないのだし着地は成功したと言っていい。


「ユニットは……あった!」


 空を見上げ虚空を睨めば、空の彼方から迫るユニットがしっかりと見て取れる。

 とは言っても普通に肉眼で捉えるのならばまだ赤い輝きが煌めいている程度でしか見えない。

 彦乃だからこその完璧な捕捉と言えるだろう。

 本来ならここで少しでも数を減らすなり軌道を修正するなりの目的で織姫とのコンビネーションで狙撃するべきなのだろうが、生憎ここにその織姫は居ない。


「織姫ちゃんが…いなくたってぇ!」


 地面をしっかりと踏ん張り、槍の切先を空へ向けて構える。


「ルミナス圧縮開始…速攻で行くよ、牛頭!」


「行っちゃダメだよ、それ撃ったらバテバテになっちゃうでしょ?」


「朱莉ちゃん?! でも先手撃っておいた方が」


「そういう時はね、彦乃ちゃん。逆に考えるんだ。落としちゃってもいいさと考えるんだよ」


 どこかで聞いたような説得文句だったが、朱莉の言う事も最もである。

 彦乃がやろうとしている事は、一撃の威力こそ爆発的な物だが彦乃自身への負担が大きい技なのだ。

 そんな技を初手に速攻で使おうとしているのだから、朱莉は当然止めにかかる。


「分かりました…朱莉ちゃんなりの考えがあるんだよね?」


「もっちのろーん! だから功を急ぐ必要なーし!」


「はい!」


 朱莉の提案を受け入れ、彦乃は牛頭の切先を降ろして姿勢を楽にする。

 目の前、遥か彼方の上空からはユニットがこちらへ向けて飛んできているが、それよりも早くヘレンと桜が到着する事だろうと自分の勘が告げていた。

 しかも、回りは都市街だというのに人の気配がまったくしない。

 予め人がどこか別の所へ集中していたのかと考えるとあまりおかしな所は無いのだが、それにしたって人が居なさすぎる。


「…セレスさん」


「はい、なんでしょう」


「このへん、妙に人が少ないんですが…というか全く居ないです」


「師走っても人が全く居ないなんておかしい…っ!彦乃ちゃん、戦闘態勢!」


 朱莉が何かを察したのより早く、彦乃は牛頭を構えてその場から空へと飛びあがる。

 次の瞬間には、彦乃が立っていた場所の地面は砕け大きな穴が出来ていた。


「今確認しました。 大型のイモムシ…ヘビ?」


「デスワームですね。雲類鷲さんも呑まれた事があると伺いましたが」


「…あぁ、あれかぁ……あれあんなにデカかったの?!」


 彦乃がまだスターライトとして覚醒したばかりだった頃、遭遇と同時に飲み込まれたイモムシ型のデブリ。

 呑まれてた側ではあまり大きさを覚えていなくても仕方ないかもしれないが、それにしたってこの個体は群を抜いて大きい。

 コンペイトウのデータベースと照合しても、それがかなりの大型個体であるという答えがすぐに帰ってきていた。


「雲類鷲さんの索敵網に引っ掛からなかった所を見ると、先程まで地中でずっと待機していたのでしょう」


「最後にあのポイントにEF出たのっていつよ。根性ありすぎるでしょ」


 地中から飛び出してきたワームなど、打ち上げられた魚も同じ。

 再び地中に潜られる前に速攻で叩き潰すのが鉄則。

 それはだいたいどの戦闘でも同じ事が言える。

 要約するなら、今がチャンスだ!


「まずは一匹!」


「雲類鷲さん!?まずは敵の分析を」


 セレスが彦乃を止めようとするが、それは無駄という物だった。

 何故なら、彦乃はコイツの倒し方を知っている。

 それが最適解なのかどうかは別として、彦乃はその戦い方を覚えているのだから、やる事は一つ。


「はぁぁぁ!」


「雲類鷲さん、何を?!」


「自分から食われに行く…そんな戦い方もあるのか」


 そんな事を言っている場合かと叫びそうになるセレスだったが、状況がそう悪い物ではない事を指し示しているのに気付いて言葉を呑み込む。

 飲み込まれた彦乃だが、反応が消えた訳ではない。

 探しているのだ、脆い個所を。


「このへんかなぁ…っせいっ!」


 鉄に覆われた外装とはまるで違い生物のような内蔵が続く中、彦乃は槍の切先を適当な箇所に突き刺した。

 そして…


「いっけぇぇぇぇぇ!!」


 槍のブースターを点火し、真上へ跳ね上がるよう一気に最大火力を叩きこむ。

 であればどうなるか。

 魚のモツを処理するかの如く、腹をかっ捌いて寝袋みたいに裂けたワームの中から彦乃が飛び出してくる。


「よっしゃ!」


「雲類鷲さん、よかった…」


「うっひゃぁえげつねー…彦乃ちゃーん、それ多分外側からでも行けたよー?」


 朱莉の指摘に彦乃はその場で一瞬固まってしまう。

 確かに、最初コイツを倒した時はスターライトとしての技量も性能もスペックも未熟だったと言える。

 パワーアップした今の状態だったら、堅そうな外骨格だって簡単に貫いて三枚に卸す事も出来ただろう。


「ホントですか?……だ、だったら早く言ってくださいよぉ!?」


「うーん、織姫ちゃんが見たら大喜びしそうなくらいぐちょぐちょだねー」


「え、彦乃がぐちょぐちょ?! 彦乃、大丈夫?!」


「あー、ここにも居たわ織姫ちゃんみたいなの」


 彦乃と朱莉の通信に、割って入るように桜が入ってきた。

 だが心配ご無用。

 昔の彦乃ならいざ知らず、今の彦乃ならばこの程度。


「大丈夫だよー。 んしょっと。 これでOK」


 一瞬だけ腕に力を込めて牛頭を投げ、すぐに投げた牛頭めがけて高速で移動を行う。

 その勢いで、彦乃を覆っていたなんともいえないぐちょぐちょした液体は全部剥がれてくれたようだ。

 ついでに乾いているようだし、なんとも便利な移動法である。


「よかったー。 もうちょっとで着くから待っててー」


「もう討伐数1取ってるんだよなぁ」


「えーっ?! ヘレン、もっと急いでー!」


「あ、こらっ! 無茶すんな、着地でバラバラんなるぞ、こんにゃろっ…彦乃ぉぉぉ!!?」


 まだ二人は現地へ到着出来ていなかったが、それももう時間の問題だ。

 そしてそれは、ユニットの到達もすぐそこまで迫っていた事も意味している。

 彦乃が感知する限りだと、ヘレンと桜の到着とデブリが到達するのは同時だと出ていた。

 つまり、到着即ち開戦という事を意味する。


「彦乃ちゃーん、準備はばんたーん?」


「もちろんっ!」


 牛頭を持ち直し、いったん着地した彦乃は次の指示を待つ体勢に入る。

 ヘレンたちとユニットの到着までもう秒読みだ。

 そんな時。


「だったらそこk…」


「……? 朱莉ちゃん? 朱莉ちゃーん? 朱莉さーん?」


 唐突に通信が途切れた。

 何度読んでも返事が返ってこない。

 返答を待っていても、時間が止まっている訳ではない。

 そうこうしている内にヘレン達とユニットの双方が、ほぼ同時に到達した。


さあ、決戦のはじまりだ

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