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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第一章 序章
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第五話 スターライト

「エレファント種なんて雑魚も雑魚じゃない!それにこうも苦戦するなんて……情けなさ過ぎるわ!」


「なっ…」


 背後から聞こえてきたのは、少女の声だった。

 三人が一斉に振り返るとそこには二人の少女が道路のど真ん中に立っている。

 普通ならば危ないからやめろと言いたい所だが、周りには自動車やバイクなど一台たりとも走っていない。

 代わりにそこら中に漂っている黒い粉が、彼女たちを避けるように舞っているのも分かる。

 チャイナ服とナース服を着た少女が二人道の真ん中に立っていれば、普通なら騒ぎにもなると言う物だが、幸いにもここにはそういった要因となる人間は一人とていない。

 まぁ、周りの建物の中には潜んでいるのだろうが、巻き込まれるのもアレなので飛び出されても困ってしまう。

 戦においても、「兵は殺すな。その方が裂かれる人員も多い」と言うし、避難の為に動いている隙を突かれる事だってあるかも知れない。


「あなた達!スターライトとしては生まれたばかりの小鹿同然ね!立つのがやっとでマトモに走れもしないで!」


「いやまぁ、実際その通りやしなぁ…」


「え…?」


「私達がこの姿になったの、つい数分前ですし…あと…」


 続けるように言いながら、織姫は銃口を怒鳴る少女へと向ける。

 狼狽する間も与えず、織姫は狙いを完全に見定めた。


「ちょ!あなたなに考えて…」


「後ろががら空きです…」


 一発、二発とトリガーを引き、発射された弾丸は少女の茶髪を掠めて後ろへと飛んでいく。

 その直後には二発分の直撃音と爆発が起こった。

 さっきまで織姫が迎撃していた無数のミサイルの内のいくらかが標的をそこの少女たちに変えていたのだろう。


「…ほーらねー?私の言った通りだったでしょー?」


 茶髪の少女の隣に連れ添うようにして立っていた銀髪の少女が口を開く。

 どうやらまくしたてるような怒声のラッシュに身を竦ませているのではなかったようだ。


「彼女たちも十分戦えるって~」


「うぅん……輝の言うとおりね…さすが私の妹だわ…」


「私も、美波お姉ちゃんは自慢のお姉ちゃんだよ~?」


「輝~!」「お姉ちゃーん!」


 二人のふざけているのかとも思えるやりとりを見つつ、三人とも「なにこれ?」というような顔をする。

 そして操はハッとなって彦乃の方を振り返った。

 居るではないか、すごく身近でもあんな事をする連中が。

 片方はある種の朴念仁かも知れないが、片方は一方的に相手を病的なまでに愛して止まない馬鹿が。


「うわっ!なにこれミミズ?!こんのぉ!」


「五月蠅いハエ……総数15…足りるかな…」


 どうやらそれどころではないようだ。

 彦乃は地面から飛び出してきた細長い触手のような物の対処に追われ、織姫はブンブンと頭上を飛び回る小型の敵に銃口を向けてブツブツ何かを言っている。

 操には何も来ていないのだが、それは逆に先程まで戦っていた大型の敵を見失った事を意味している。


「……っ!お二人さん!そこ退きぃ!」


「はい?土器?」


「違うよお姉ちゃん、退けって言ってるんだよ?」


 輝と呼ばれた妹の方、翻訳機か何かなのだろうか?

 だがとりあえず、操の忠告など聞き入れる事も無く美波と輝に呼ばれた少女はそこを全く動こうとしない。


「なるほどね。まぁ必要ないけど……お仲間の方がピンチみたいよ?」


「は?なんであの二人が…」


 操が振り返ってみると…


「んぅぅぅぅ!!なにこれ全然動けなーい!」


「くっ……ふぅぅ……あと…少しぃ…」


 彦乃はといえば、長い物には巻かれたがる習性でもあるかのように四肢を地面から突き出た触手数本に縛られて担ぎ上げられていた。

 もがいているのは見ていてわかるが、効果が全くないどころか服の中にも触手が何本か潜り込んでいるようで彦乃が徐々に喘ぐような声を出しているのが分かる。

 織姫の方はというと、銃が弾切れになったのか補給しようとしてマガジンを取り落としたらしく、自販機の足元に腕を突っ込んでモゾモゾとやっている。

 奥の方に滑り込んで行ったらしく、なかなか取れ無さそうだ。

 そうしている間にもさっきまで撃ち落としていた敵は列をなして織姫の方へ向かう。


「な……何やっとんねんあんたらぁぁ!!!」


「んぅっ…きゃんっ!あ、ありがとう、操ちゃ…ひゃんっ!こ、これまだ動いてるぅ!?」


「はひぃ!な、何するんですか鵠戸先輩?!」


 怒りとも思えるような感情が吹き出し、気が付けば彦乃と織姫をほぼ同時に救出していた。

 そこそこ二人は離れていたはずなのにその差はほとんど無い。

 何故かと言えば…


「んしょ……あれ?操ちゃんが二人…?」


「はぁ?何言っとんねん。なぁ織ひ…めっ?!」


 操が織姫の方に向くと、その原因も全てが理解できる。

 もう一人居るのだ、まったく同じ姿をした誰かが。


「どういう事なの…?」


「私の方から説明しましょうか?」


「喋っとる?!なんか丁寧な感じで喋っとる?!」


 もう片方の操が、なんとも丁寧にお辞儀をして語り出す。

 容姿どころか見た目や声も同じ誰かが目の前で喋っているのだ、操にとっては怪奇現象以外の何物でも無いだろう。

似てない所と言えば、上品な仕草や動作くらいな物だろうか。


「私はデネブ。この姿は操様の力をお借りして生み出した分身です」


「み、操ちゃんとはだいぶ違う…」


 違和感に唖然とする彦乃は袴に手を突っ込んで残った触手の切れ端を取り出す作業中。

 織姫も隙間からやっとマガジンを取り出せたようで銃にセットする所だった。


「効果時間もごく僅かなので手短に…」


 そこから先をデネブが続けることはなかった。

 何故ならすぐ横の場所が爆発するように爆ぜ飛びそれに巻き込まれたからだ。

 爆炎と土煙から飛び出してきたのは先ほどの大型の方だ。

 更には背中に美波も乗っている。


「デネブさぁぁぁん!」


「消えた…んか……?」


 敵が通過していった後には、誰も倒れてなど居なかった。

 デネブは消滅するようにしてその場から姿を消したのだ。


「何してるの!そんな所で突っ立って無いでちょっとは手伝いなさいよ!」


「分かっとるわ!」


「あれ?操ちゃん、メガネ落としたよ?」


「というかメガネしてたんですね?視力悪いわけじゃないのに」


「あのなぁ…これ最初からかけとった…っ!?」


 操はそれ以上言葉を続けることは出来ない。

 喋ろうにも頭痛に襲われて動けないのだ。

 頭を貫かれたんじゃないかと思う程の激痛が操を襲い、彼女はその場に崩れ落ちる。


「はぁっ…はぁっ……な…なんや…コレ…?」


 頭痛に耐えながらもゆっくり瞳を開いた操が見たのは、先程までと全く違う光景だ。

 正確には自分の足元しか見えては居なかったが。


「落書きかいな……?悪趣味やなぁ…っつつ…」


 足元の地面には、まるでマジックか何かで書き殴ったような線が無数に、亀裂のように刻まれていた。

 ガラスの床の上に立っているような感覚がする。

 本当に立っている訳でもない筈なのに、今にも割れて下に落ちてしまいそうな感覚が身体中を駆け巡って頭痛が少し引いたような気がした。


「大丈夫、操ちゃん?!」


「へ、平気やで……それよか彦乃、フランケンみたいな落書き、いつの間にやったんや…?」


「へ?フランケン?落書き?何それ…?何も書いてないよ?」


 そこで初めて操はある事に気が付く。

 その落書きは、自分にしか見えてないのだと。

 同時に、なぜ見えるようになったのかも想像が付く。


「それよか彦乃、メガネは…?」


「あ、これ?はい、どうぞ。レンズとかは割れてないみたいだよ」


「そっか……やっぱりな…」


「へ?やっぱりって?」


 思っていた通りだ。

 メガネをかけると辺り一面の落書きのような黒い線が全く見えなくなった。

 まるで最初から無かったかのように一筋たりとも線なんてどこにも見当たらない。


「何でもないで。それよかアレやな…」


「こん…のぉっ!シリウスの一撃喰らってもピンピンしてるなんてぇぇ!!」


「金太郎かいなアイツ…」


 道路をまるで散歩道か何かのように突っ走る大型種。

 像にも似た、片牙の折れたそれの上に乗っている美波は子供のように地団駄を踏む。

 きっとあれも攻撃の一つなのだろう。

 こう、靴やかかとに武器が仕込まれていてチクチクと刺している、みたいな。

 乗っているのが熊でも無ければ腕を覆う篭手のみで(まさかり)など担いでも居ないが突っ込んではいけない。


「…ごめんね操ちゃん!ちょっと行ってくる!」


「んぁ?彦乃…?」


 完全に不意を突かれる形で声を掛けられた操は自然とそんな、腑抜けた声が出る。

 チラッと見た彦乃は既に槍を投げるべく地面を踏み締め構えていて放り投げる直前だった。

 操が何か言おうとする前に、さっさと槍を放り投げた彦乃は一瞬にしてその投げた槍に追いつく。

 腰に提げてある一対のブースターの加速あっての速度だろう。

 槍を掴んだ瞬間、槍からも炎が噴き上がり彦乃を含めたまま一気に加速していく。

 突っ込む先はもちろん、暴れ回る大型種だ。


「今度こそ決めるよ!アルタイル!」


「やっちゃいなさい!…はっ!」


 暴れ狂う敵の上に乗り捕まる事に必死になっていた美波だったが、急に体の動きを最小限に抑えたように構えたかと思えば一喝して拳をゆっくり打ち付ける。

 見た目だけで言えば威力なんてまるでなさそうだったが、効果は絶大だった。

 像のように太い四肢が、まるでそこだけ何倍もの重力に晒されたかのように地面へめり込む。

 それはそのまま、動きを封じられる事を意味していた。


「…邪魔しないで…」


 突っ込んでくる彦乃を迎撃しようとしてか、像同様に長い鼻のような場所が鞭か何かのように大きくしなり振り回し始める。

 だが、それはすぐに動きを止める。

 離れた位置にいる織姫が、的確な射撃を撃ち込んだのだ。

 それによって弾かれた鞭は、折れずに残っていた方の牙へ弾かれた勢いのままに巻きつく。

 丁度、投げ縄のような要領で絡みついた鞭はきっとそう簡単には解けない事だろう。


「させへん言うとるやろがっ!」


 彦乃を迎撃すべく突っ込んでくるミサイルの数々。

 しかしそれら全てを、操はしっかりとその目で捉えていた。

 彦乃の腰で火を噴いている物と同じか少し大きめのユニットが開き、中から無数の小さな何かが飛び出してミサイルを迎撃していく。

 本来なら射撃に用いる物ではないソレは、これだけ近い距離だとその辺の空中にばら撒いておけばミサイルの側から突っ込んできてくれると言う物だ。

 戦時に使われていた機雷なんかはこれと使い方が似ているかもしれない。


「いっけぇ!ルミナスドライブッ!」


 最大限まで加速した彦乃は、そのまま槍ごと相手へ突っ込んだ。

 その後に起こった轟音と突風は、まるで彦乃が突き進んだ軌跡を教えてくれるかのようにただ一直線に伸びていた。

 大型種は頭部が消し飛び大穴が空き、それがそのまま体を突き破っていた。

 その場に崩れ去ったまま、もう二度と動く事は無い。

 残されたのは、地面に突き刺さったまま身動き一つ起こさない自動車ほどの結晶体だけだ。


「…なんやねん、ルミナスドライブて…」


「彦乃ちゃん…カッコいい…」


 敵を貫き、颯爽と着地まで決めた彦乃。

 槍は大人しくなって火など噴いては居ない。


「……ふぅーっ!やったぁ!」


「ひ……彦乃ちゃーん!」


「わっとと…織姫ちゃん、やったね!」


 織姫と操に見えるようブイサインをする彦乃に、織姫は猛ダッシュで飛び込んでくる。

 こう、サッカーとかでゴールを決めて喜びのあまりその選手にジャンプして抱きついてくる選手とか見かけるがそんな感じだ。

 いきなりの事だったにも関わらず、しっかりと抱き留めている所までそのままである。

 一歩下がった所で操もそんな様子を温かく見守っていたが…


「ふぅ……疲れちゃったわ。輝、後はお願いね…」


「はぁ~い。お姉ちゃんもこれで全快だから落ち込まないでねぇ~?」


「そりゃ落ち込むわよ……あんなデカいだけの雑魚にあそこまで手こずるなんて…」


 喜ぶ彦乃たちから少し離れた所に、美波と輝の二人は居た。

 最初に空から落ちてきた物体は、未だに地面に突き刺さっている。

 踊っているかのように仲良く手を繋いでいた二人だったが、美波の指示を受けて輝が手を離す。


「……よーいしょっと!」


 輝の両手が淡い緑色に輝き始めたかと思うと、両手で目の前のオブジェにそっと触れる。

 するとどうだろう。

 触れた箇所を基点に、妖しく輝いていたオブジェはその輝きを失っていき茶色く錆びはじめる。


「おーしまいっ!」


 最後に軽く、ドアをノックするようにトントンと叩くと、オブジェはその場で朽ちて崩れ去る。

 足元にサラサラと砂のようになって崩壊していき、あっと言う間に姿は消えて失せていく。


「はい、お疲れ様」


「えへへ、ありがとっ」


 優しく輝の頭を撫でてやる美波のずっと頭上、空の暗闇が徐々に晴れて行く。

 気が付けばあっと言う間に空には明るい天気が舞い戻っていた。


「さて、行きましょうか」


「うん。あっ、お姉ちゃん?帰り道に何か買っていかない~?」


「いいわね。でも寄り道はホントはダメなんだから、すぐに終わらせるわよ?」


「はーい!」


 そんな会話をしながら、二人はごく自然な流れで人ごみに混ざって消えて行ってしまった。

 この二人と彦乃たちはすぐにでも再開する事となるが、それはまた次のお話で。 続く。

最近忙しくてなかなか書けませんなぁ……構想自体はしっかり作ってるつもりなので大丈夫ですが

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